42話 隣人から友達へ
学校は朝から一つの噂で持ち切りとなっていた。学年問わず登校してきた生徒の耳に入り噂はさらに広がっていく。
その噂の中心となっているのが――。
「平野、君……」
「ああ、おはよう。鳴海」
少し羞恥の表情を作り尊は笑った。
教室そして廊下からも生徒たちの視線を感じるが気にしないように朱莉へと意識を向ける。
「昨日はごめんな。あの後連絡もしないで」
「あの後って……あ、いや、それはいいんだけど」
以前として驚きを隠せない朱莉は口をぱくぱくさせ尊の顔を凝視する。
「なんでそんな格好して……」
「ん?変だったかな」
尊は確かめるように前髪を軽く触る。正直初めての髪型なので似合っているのか自分ではよくわからない。まあ、隼人たちからは好評だったので心配ないとは思うが。
「変じゃないよ……その、よく似合ってる」
「そうか?ありがとう」
朱莉にも褒めてもらい尊は自身の髪型に自信を持つ。お世辞でもなさそうなので少なくともおかしいところはないだろう。
そんな尊と朱莉が会話している最中も周囲からは好奇の目を向けられる。
無理もないことだ。今まで朱莉とここまで普通に会話していた男子生徒はいないのだから。
だが、これが尊の狙いだ。流れた噂を消すことは難しい。なら、その噂を超える噂で上書きする。
そのために必要な最低限の準備はしてきた。
「いやー、ワックス何て普段使わないから結構苦労したわ。このために朝早く起きたしな」
自然にただ友達と会話する。それだけを意識して尊は話を振っていく。
「そういえば鳴海のクラス三限が数学だよな。俺のとこ一限なんだけど教科書忘れちゃったから貸してくれないか」
「え?ええ、いいけど」
教室で友達同士が話すありきたりな会話。友達同士が学校でやりそうなやり取り。
「ありがとう助かるよ。授業終わったらすぐ返しに来るから」
「ええ……」
それじゃ、と片手をあげ尊は教室を出ていく。
朱莉に教室中の生徒は去っていく尊の背中を見て固まっている。まるで嵐が通り過ぎていったような静かさが広まっていた。
そこまで時間があれば朱莉も徐々に冷静さを取り戻す。
(え?……え?……え?……ええぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!?)
内心で絶叫を上げた。




