41話 希望
翌日、朱莉の気持ちはどん底まで沈んでいた。
周りに悟らせまいと振る舞ってはいるが気持ちがもう砕けかけていた。
その原因は朱莉と尊を取り巻く今の状況だ。
(一日待ったけど何も変わってない)
尊に言われ一日待ってみたが現状に変化はなかった。
むしろ噂は広まり悪化の一途をたどっている。
少なからず期待はしていた。もしかしたら尊なら何とかしてくれるのではないかと。でもそんな夢みたいなことは起きなかった。
そこまで考えて朱莉は内心で苦笑する。
(なにがっかりしてるんだろう。……そもそも私が原因なのに)
自分の身勝手な考えに嫌気が差しながら朱莉は膝の上の両手を強く握る。
(私が何とかしないと)
震える身体を気力で押さえつける。ここまで何かをするのが怖いと思ったことは今までなかった。
唇を噛み朱莉は覚悟を固めたとき教室の扉が開いた。
何気なく扉の方に視線を向けた朱莉だが一瞬でその目は釘付けとなる。
そこには短く切りそろえた髪をワックスでセットした男子生徒がいた。
中性的な顔で力強い瞳が目を引く。
教室に入ってきた男子生徒は静かな足取りで真っ直ぐ朱莉の方へ向かう。
その一挙手一投足に教室中の生徒が釘付けになる。
(え?嘘。そんなはず)
朱莉は驚愕した表情を隠そうともしない。そんな余裕もないしそもそも今朱莉を意識している人間はここにはいない。全員が突然現れた男子生徒へ意識を奪われていた。
そして、男子生徒は朱莉の席の目の前で止まる。
朱莉は男子生徒の顔をまじまじと見つめる。
(やっぱり間違いない)
ここまで近くで見れば間違えようがない。
ここ数か月もっとも朱莉とともに過ごしてきた人間を。
朱莉が困っているときに絶対に手を差し伸ばしてくれる人間を。
朱莉は震える口でその人物の名前を呼ぶ。
「平野、君……」
「ああ、おはよう。鳴海」
少し羞恥の表情を作り尊は笑った。




