38話 無遠慮な視線たち
登校するといつもと空気が違っていた。
生徒達が何やら騒がしくいつもは感じることがない視線をちょくちょく意識することができる。
(なるほどな。確かに少し注目されてるみたいだな)
昨日疑念に思っていたことは大方間違ってなかったようだ。
朱莉に廊下で名前を呼ばれたとき決して少なくない数の生徒がいた。
そこから話が広まっているならそれ以上の生徒が知っているだろう。
名前を呼ばれただけでこの騒ぎようとは尊は肩を竦める。
教室に入ると顕著なもので、皆一斉に尊の方に視線を向けた。
(おぉ……)
息が詰まりそうになるが向けられる視線を気にしないようにし尊は席へと座る。
それと同時に数人の男子生徒が尊の方へ近づいてきたが、その道は阻むように割り込む影が現れる。
「うっす尊。来て早々悪いんだけど宿題写させてくれ」
隼人がノートを持って頼み込む。
普段と変わらぬやり取りだが、その意図はすぐに理解できた。さり気なくフォローを入れてくる友人に尊は心から感謝する。
「仕方ないな。ほら」
「おお、流石尊!サンキュー!」
そのまま尊の前の椅子を借り、宿題を写し始めた。
尊に近づいて来てた男子生徒も迷うそぶりを見せたがやむなく引き返していった。
横目に見届け尊は息を吐く。
「ふー、すまん。助かった」
「別にこれくらいはな。でもずっとこうはいかないぞ」
「ああ、わかってるよ」
再び息を吐き思考する。尊が思っていたより大事になっている。おそらく朱莉の耳にも入っているだろう。
(また気にするだろうな)
この場にいない朱莉の心配をする。自分が原因で迷惑を掛けたと、また自分を責めるだろう。それだけは止めてほしいが朱莉の性格では無理だと思う。
考えを巡らせているとスマホが振動し中断させられた。
何気なく画面を見ると朱莉の名前が表示されていた。
「っ!」
驚きでスマホを落としかけるがなんとか握り直す。学校で連絡がくるのは初めてだ。一応周囲に人がいないことを確認しメッセージを確認する。
『昼休み体育館裏に来て』




