34話 食い意地が張ってると扱いやすくて楽だ
――一三十分後己の考えの甘さに尊はげんなりしていた。
「う~、もう飽きた~」
ぐてーと机に突っ伏す陽菜。力も抜けスライムのように全身ふにゃふにゃだ。
(もう少し集中していけると思ったんだけど見込みが甘かったか)
朱莉がうまい具合に陽菜をコントロールしてくれていたので一時間は持つと思っていたが。
「まあ、普段の陽菜からしたらこれでも続いた方だよな。鳴海さんのおかげだよ」
「そうかな……それなら良かったんだけど……」
朱莉も何とも言えない表情で苦笑している。朱莉としても陽菜の集中力の無さは予想外だっただろう。
「みーくん少し休憩しようよー」
「休憩してもいいが五分な」
「えー、そんなんじゃ頭休まらない。もっと休みたいー」
「ならこのまま続けてもらうぞ」
心を鬼にし甘えは許さない。いつもなら多少は大目に見るが今回は時間がない。少しでも無駄にはできない。
「うーケチ!あーちゃん、みーくんがいじめるー!」
「えーと、陽菜さんわたしももう少しやった方がいいと思うよ」
「あーちゃんまで!?」
頼りの朱莉にまで裏切られ顔を真っ青にする。この世の終わりのようにうな垂れる陽菜。
こうなってしまったら立ち直るまで時間がかかるが、尊も短いながらもそれなりに陽菜と付きあってきた。
事前に対策は準備している。
尊は立ち上がると冷蔵庫へ向かい中から白い箱を取り出す。
「陽菜。これが何かわかるか」
箱を陽菜に見えるように掲げる。
その箱を見た陽菜の目がかっと見開き、上体を起こす。
「それってまさか……駅前のケーキ屋の……」
「ああ、確かお前好きだったよな?ここのプリン」
ニヒルな笑みを作り箱を下ろす。
「ちゃんと集中して宿題を終わらすと約束できるなら全部終わった後でこのプリンをやる」
「そ、それは本当に?」
「ああ、約束だ」
すると陽菜は弾かれたように問題集へと手を動かした。あまりにうまくいき尊は内心苦笑している。
(すごいな。まさかこんなに効果あるとは)
食い意地の張ってる陽菜なので多少の効果は期待していたが想像以上だ。
あとはこの集中力がどこまで持つか。
プリンの入った箱を冷蔵庫に戻し尊は皆の元へ戻る。
すると、何か言いたげにジト目を作る朱莉に迎えられた。
(え?なんでそんな顔してんの……)
まさかのファインプレイに賞賛の声でもかけられるかと思いきや、体感的に冷たくなった空気が尊を包む。
「陽菜さんの扱いやけにうまいね」
「え?そうか?扱いがうまいって言うなら鳴海の方がうまいと思うが」
「ただうまいだけじゃなくてなんか手慣れてるよね」
「手慣れてるって……えーと……鳴海怒ってる?」
「ううん。怒ってないよ」
完璧な笑顔を作る朱莉だが、尊には悪寒が走る。
朱莉が不機嫌になった理由がわからないまま、何とか宿題は全部終わらすことができた。
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