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33話 夏休み最後の追い上げ

 夏休みがあと二日で終わる今日。尊の部屋に隼人に陽菜、そして朱莉が集まった。


「それじゃあ始めるぞ」


 尊が三人を見渡す。


「言っとくが真面目に今日一日集中してやらないと終わらない量だ。しっかりやるように。――特に陽菜」


「はい!頑張ります先生!」


「先生言うな」


 真っ直ぐ右手を挙げて返事をする陽菜。意気込みだけは十分だが果たしていつまで持つのか。尊は不安でしかなかった。


「一応わからない部分は俺と鳴海で教えるからその都度質問するように」


「いやー、まさか鳴海さんまで助けてくれるなんてな。学年でも上位の成績だし心強い」


「そんな褒められると照れるよ。私も精いっぱい手伝うから二人とも頑張ってね」


「うん!あーちゃんがいれば心配ないね!」


 学校モードの朱莉が余所行きの笑顔を作る。これほどまでに完璧に普段の自分と使い分けているのを見ると感心してしまう。


 それに、今回二人の宿題を手伝うにあたり朱莉がいるのは大きい。隼人が言った通り朱莉は学年の上位十位内に必ず入ってくる成績だ。尊一人では手が回らなかっただろう。


「先に言っておくがあまりにも集中できてないようなら追い出すからな」


「うわっ!ひどい!悪魔!」


「そうだ!この暑い中外に追い出すのか!」


「家主は俺だ。異論は認めんし真面目にやってれば問題ないだろ」


「横暴だ!」


「そうだそうだ!」


「……お前ら本当に追い出すぞ」


 調子に乗り始めた二人に目を細める。尊の反応と自分たちの立場を理解し大人しく机の問題集に視線を落とす。


 ため息を一つ吐くと朱莉から声を掛けられる。


「なんだかんだ言ってちゃんと見てあげるんだね」


「一応約束はしたからな。仕方なく」


「うんうん。そういうところいいと思うよ」


 笑顔で頷く朱莉。学校モードの朱莉は未だに慣れない。しかも今日は尊の部屋ということもあり、普段の朱莉を余計意識してしまう。表情に出さないようにあくまで自然体を装う。


「まあ、正直本人たち次第なんだけどな」


「そこは信じて頑張ってもらうしかないね」


 そうこういってるうちに早速陽菜から質問が飛んでくる。


「はーい。ここってどうやって解けばいいの?」


「ん?えーとね。ここは――」


 朱莉が陽菜の隣に座り問題集を覗き込む。その際、前に垂れた髪を耳にかけ直す。その自然な動作が妙に絵になっていたので尊はしばらくその様子を見入っていた。


「ん?んー?なあ尊この問題何だけど――」


「っ!あ、ああ」


 隼人の声に尊が肩を跳ねさせ我に返る。不審がられないように落ち着いて尊は質問に答える。


「あーなるほどな。わかった。ありがとう」


「おう」


 隼人は説明するとすぐに理解して問題を解き始めた。隼人は地頭はいいので教えれば大体はちゃんと理解してくれる。ただ、自分でやろうとはしないのでテストなど目に見えて結果がわかるものは平均以下の場合が多い。

 やればできるのにもったいないと思うが本人のやる気の問題なので仕方ない。


 陽菜の方に目を向けるとそちらも順調に宿題を進めている。


「へー、こうすればいいんだ。流石あーちゃんだね」


「私じゃなくて陽菜さんの理解が早いからだよ」


「えー、そうかなー。へへへ」


 嬉しそうに頭を押さえて照れる陽菜。


(陽菜の扱いがうまくなってる……)


 朱莉の陽菜への対応が上達していることに目を見張る。


 陽菜は褒めるとやる気を出してくれるが調子にも乗りやすいのでコントロールが難しい。

 そこを朱莉がうまい具合に手懐けている。


「じゃあ次もやってみようか」


「はーい」


 陽菜が朱莉を好き過ぎるのもあるのか怖いくらい従順だ。

 普段尊たちと勉強する陽菜の姿からは想像がつかない。


(これなら本当に宿題終わるかもな)


 宿題を開始してまだ数分だが望みが見えてきた。

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