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32話 見捨てることもできないので

 夏休みも残り数日で終わる頃、隼人から連絡が来た。


『頼む!宿題手伝ってくれ!』


 何となくそんな気はしていた。尊は夏休み中もよく隼人と遊んでいたがその度に宿題がどこまで終わったか聞いていた。隼人はまだ余裕だと宿題については全く話題に触れようとしていなかった。


 それがつい二日前の話だ。


「やっぱりやってなかったんだなお前」


『やってないって程じゃないぞ。半分くらいは終わってるし』


「でも半分は終わってないんだよな」


『おう』


「明後日で夏休み終わるのに」


『……おう』


 尻すぼみに弱くなる隼人の言葉に尊はため息をつく。いろいろ言いたいこともあるが見捨てる気にもなれない。

 隼人にはこれまでも少しは世話になっている。友達としては助けてはあげたい。


「手伝ってはやるが宿題丸写しは無しだぞ」


『ほんっとうにサンキュー!神様、尊様!』


「うるさい。じゃあ明日でいいな、場所はどうするか」


『あ、場所は尊の家でもいいか』


「ん?別にいいけど」


 特に断る理由もなかったので了承する。暑い中外に出なくていいので尊としてはありがたい。


『それじゃあ明日頼むわ。あと、陽菜と鳴海さんも来るからよろしく』


 最後に何か重要なことを付け足し、隼人は通話を切ってしまう。


「……は?」


 聞き間違えかと尊はぽかんと口を開ける。

 通話の切れたスマホの画面を凝視し、尊はしばらく固まっていた。




「あー、陽菜さんから連絡来たよ。宿題手伝ってって」


 夕食時一緒に食事をする朱莉に尋ねると案の定知っていた。


 ちなみに今日の献立は豚の冷しゃぶだ。シャキシャキの野菜に豚とポン酢が合わさり、この焼けるように暑い夏でも驚くほど箸が進む。


「言っておくけど私も今日知ったからね」


「ああ、いつ知ってたとかはいいんだけど、よく了承したな」


「陽菜さんが全然引かないから仕方なく。それに最初は二人だけだったし」


 疲れたように言葉をこぼす。自分の宿題がかかっているから陽菜が朱莉に必死にお願いしている光景は想像がつく。


「二人だった?」


「そう。でも折角だからって平野君と九条君もって、断ったけど押し切られちゃって」


「陽菜の押しに本当に弱いな」


「あなたは断れるの?」


「無理だろうな」


 考える素振りもなく即答する。あの暴走列車のような人間の制御など誰ができるのか。


「なら、押しに弱いとかとやかく言われる筋合いはない」


「おっしゃる通りで。宿題する場所が俺の家になっちゃったけどそこは良かったのか?」


「あー……、平野君の部屋になったのは半分私のせいというか……」


「え?どういうこと?」


 朱莉が申し訳なさそうに頬を掻く


「ほら、私の家隣だし、陽菜さん呼んだらバレるでしょ?それでも陽菜さんが私の家に行ってみたいって言うし、仕方なく平野君の家ならって条件出して」


「そういうことなら、まあ納得だな」


 確かに陽菜が朱莉の家に行けば尊が隣に住んでいるのが即バレる。だが、朱莉がどこに住んでいるかは知らないので尊の家に集まる分にはバレる心配はない。そういう事情なら仕方がないが――。


「別に俺の家じゃなくても他にもなかったのか」


「もう誤魔化すのに必死でそんな余裕はなかったの。咄嗟に思いつくのが平野君の家くらいで」


「そうか。それは苦労掛けたな」


 陽菜の攻めに必死に対応してくれたのだろう。頑張ってくれた朱莉に労いの言葉を掛ける。


「問題は明日のうちに宿題が終わるかわからないところね。陽菜さん全然やってないみたいだし」


「全然とは具体的に?」


「半分もやってないって言ってた……」


「陽菜が半分もって言うなら四分の一もやってないと見ていいかもな」


 今まで経験から尊は予想をたてる。明日は忙しくなりそうだと尊は終わりの見えない宿題に覚悟しておくことにした。

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