31話 プレゼント
日が落ちてきたころに尊たちは解散した。
帰宅時尊と朱莉は同じマンションなので帰り道も同じになるが、どこで誰に見られるかもわからないので、尊が少し遠回りをし違う道で帰った。
買い物で疲れてるだろうと夕飯は遠慮したが自分の分を作るのだから一緒だというので、お言葉に甘えた。
今は夕飯も食べ終え尊の部屋でのんびりとしている。
「大変な買い物だった」
「本当にね。陽菜さん元気すぎる」
朱莉は遠い目をして虚空を見つめていた。
あの後も朱莉は陽菜にあちこち連れまわされていた。
どこに行くにも朱莉にべったりで最終的には彼氏である隼人の存在も忘れていたのではないかと思う。
「まさか陽菜があんなに鳴海のこと気に入るなんてな。正直びっくりだ」
「そうなの?陽菜さんってどんな人にもフレンドリーな気がしてたけど」
「確かにそうなんだけど、鳴海にするほどのスキンシップはそうそうしないよ。というか初めて見たな」
「私もあそこまで好意を向けられるのは初めてかも」
今日一日の陽菜の姿を思い浮かべ苦笑する。
「鳴海でも初めてなんだな」
「当たり前でしょ。陽菜さんみたいな人がそこら中にいると思う」
「いたら大変だろうな」
想像すると少しゾッとする。あんなエネルギーの塊みたいのが他にもいたらこっちの身が持たない。
「にしても今日の鳴海は少しおかしくなかったか?」
「おかしいって何が?」
「なんというか、妙に積極的っというか、やけに絡んできたなと」
「学校での私はあんな感じだからそんなにおかしくは無かったと思うけど」
「え?学校だとあんななの?」
学校で朱莉と絡んだことがないため思わず聞き返す。思えばショッピングモールでの会話でも朱莉に違和感を感じていた。家での朱莉しか知らないのでギャップが大きかったのだろう。
「私も学校では友達とふざけたりするし、平野君を揶揄ったりしたのもそれと同じ」
「へー、学校での鳴海は遠目で見かけるくらいだったからなんか新鮮だった」
「平野君も家とは少し違うよね。なんか冷めた感じだったかな」
ショッピングモールでのことを思い出しているのか朱莉の目線が右上に逸れる。
朱莉の指摘に尊も自覚はあるので苦笑する。
「確かに冷たい感じかもな。愛想はないわな」
「冷たいと言えばそうかもだけど、別に突き放すような感じじゃなかったし、どっちかと言えば親しい仲だから出せる自分の素の部分が出てるって感じ?」
「あー、なるほどな。親しい仲か。確かにそうかも」
朱莉の言葉に尊は納得する。流石に尊も初対面の相手に今日のような態度で話したりはしない。家族や隼人に陽菜、そして朱莉くらいだろうか。知らないうちに素の部分を出せる友人ができていたことに気づく。
「そう思うと隼人たちはよく俺と仲良くしてくれるな。こんな不愛想なやつに」
「私は九条君たちが平野君と仲良くしてる理由何となくわかるけど」
「え?わかるの?」
「さっきも言ったけど別に嫌な感じは無いの。愛想がなくても行動の一つ一つに相手を思いやってることがわかるから。ちょっとしたことにも気づいたりしてくれるし、そういうの相手からしたら結構嬉しいんだよ」
「……そうなのか」
朱莉が妙に褒めて尊を持ち上げるのでむず痒い。自分も気づいてない一面に朱莉が気づいてくれていると思うと素直に嬉しいと思う。
「私自身今日は楽しいって思ったし、多分間違っては無いと思う」
「楽しいって思ってくれてたんだな」
今日一日、偶然一緒に行動することになり買い物中も朱莉がどう思ってるのか気になっていたが、どうやら楽しんでくれていたらしい。
言葉にした後に気づいたのか、朱莉は慌てて口元を手で隠すがもう遅い。
はっきりと尊の耳に届いている。
「た、楽しいって言ってもみんなもいたし、別に……平野君といたからとかじゃなくて!」
「え?あ、うん。俺もみんなと遊んで楽しかったって意味だったんだけど」
次第に朱莉の頬が染まっていく。
勝手に墓穴を掘りわなわなと口を震わせる。
「だったら最初にそう言ってよ!勘違いしちゃったじゃない!」
恥ずかしそうに意味もなく自分の指を握ったり離したりしている。
不機嫌になってしまった朱莉をどうしたものかと考えてるとあることは思い出した。
「あ、忘れてた」
椅子から立ち上がり尊は今日雑貨屋で買い物した時の袋を手に取る。
そして、中から紙袋を一つ取り出し朱莉に差し出す。
「えーと、鳴海。これあげる」
投げやり言う尊を一瞥し、朱莉は紙袋受け取る。
開けてもいいのかともう一度尊を見てきたので、どうぞと促す。
紙が破れないように丁寧にテープをはがすと――。
「……ガラスの……うさぎ?」
朱莉はそっと掌に載せるとガラスで作られたうさぎの置物に視線を落とす。
「え?なんでいきなり」
訝しげに眉根を寄せ贈られたプレゼントに対して朱莉は疑問を口にする。
尊もこの反応を予想してはいたが、異性にプレゼントを渡すなど初めてのことで、恥ずかし気に頭を掻き目線が合わないように逸らせながら答える。
「なんていうか……いつも美味しいご飯食べさせてもらってるし、ちょうど今日行った店に鳴海が好きそうなものがあったから……つい」
「好きそうなって……まあ、好きなんだけどよくわかったね」
「前鳴海の部屋入ったときこんなの飾ってたからな」
あー、なるほど、と朱莉は納得する。
そして再びガラスのうさぎを凝視し無言の時間が流れる。
時間にして数秒のことだが朱莉が今何を考えているのか不安で耐え切れなくなり尊は口を開く。
「いきなりで悪かったな。もしいらないって言うならほかってくれてもいいから」
「そんなことしない!」
身を乗り出し語気を強くして否定する朱莉。
驚いて尊は咄嗟に身体を引いてしまう。
「そ、そうか。なら良かった」
「うん。そんなことしない。……ありがとう」
最後の方は優しい笑顔を作りガラスのうさぎを見つめていた。薄っすら頬も朱がかかっていて心から喜んでくれているのがわかる。
尊も気に入ってもらえるか不安だったが朱莉はお気に召してくれたらしい。
喜んでもらえたとわかると尊は安心し胸を撫でおろす。
「さっそく今日から飾るよ」
にこにこと笑顔を作って喜ぶ朱莉。
本当に最近は尊の前でもよく笑うようになった。
最初の頃のつんけんしてた朱莉が懐かしく思う。
その笑顔を見ていると尊も自然と笑顔になった。
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