27話 隣人はこんな状況も楽しむらしい
目を丸くし驚いたようにこちらを見ている。
しばらく無言でお互い見つめ合っていると、いきなり止まった尊に不審に思った隼人が近づいてきた。
「どうした尊。急に立ち止まって」
「あ、いや」
幸い隼人は朱莉に気づいていないようだった。
このまま誤魔化せると思い先を急がせる。
「何でもない。ほら陽菜において――」
「あれ?鳴海さんだ」
後から来た陽菜が朱莉に気づいた。
「一人?鳴海さんも買い物?」
「……ええ、友達と来るつもりだったのだけど急に来れなくなったみたいで」
そのまま近寄り会話を始める。
陽菜と朱莉が学校で話しているところを見たことは無いが少なからず交流はあるようで普通に会話を続けていた。
「なんだ尊、鳴海さんに気づいて足を止めたのか」
「ん……まあ、そうだな」
「へー、女子に興味ないって感じだったのに鳴海さんのことちゃんとわかったんだな」
「学校じゃ有名だからな」
確かになあ、と尊の反応に隼人は不振に思っていないようだ。
(あっぶねえ、焦った)
冷や汗をかきながらホッとする。
思いもよらない人物の登場に尊は少しテンパっていた。
なんとか感情を表に出さないようにするので精いっぱいである。
「鳴海さん一人なら一緒に買い物しようよ」
尊の内心も知らず、陽菜が無邪気にそんな提案を出す。
(やめろ!余計なことするな陽菜!)
これ以上は尊も誤魔化しきれる自信がない。ちょっとしたきっかけで鳴海との関係がバレる可能性がある。
そっと朱莉に視線を向ける。
陽菜からの提案に考えるようなそぶりを見せている。
だが朱莉もわかっているはずだ。尊との関係はあまり外に漏らすのはお互いにデメリットしかない。
朱莉と目が合い祈る様に念じる。
(頼む!うまく断ってくれ!)
一瞬朱莉が微笑んだように見えた。尊の祈りが届いたのかと内心でガッツポーズを作る。
「そうね。折角だし一緒に買い物しようか」
完璧な笑顔だった。そこには家とは違う学校で見る鳴海朱莉がいた。
まさかの朱莉の返答に尊の頬が引きつる。
全く祈りは届いてなかった。むしろわかった上での返答だったような気もしてくる。
「やったー!じゃあ服見に行こうよ。鳴海さんと服選ぶの楽しみ」
「私も吉沢さんと遊ぶの初めてだから嬉しい」
女子二人で盛り上がっている。
「女子同士が仲良くしてるのって見てて飽きないな」
「わかるけどあんまりにやにやするな。こっちまで不審者と間違われる」
「不審者じゃねえよ!」
朱莉たちを見て顔が緩み切っていた隼人を注意する。
心外だと腕を組み隼人は力説する。
「尊よく考えてみろ。学校一美人と言われてる鳴海さんと陽菜が絡み合ってるんだぞ。こんなの見るなという方が無理だ」
「同意はしてやるから顔に出すな。俺はまだ捕まりたくない」
「え?そんなにひどい顔してるの俺」
尊が真剣に言うので不安になってきたのか隼人が右手で顔を隠す。
正直言うほどひどくはなかったが近くで見てる尊からはその変化がよく分かった。
「ほらー。二人共行くよー」
右手を大きく上げ尊たちに手を振る陽菜。
隣で朱莉は微笑んでいる。
「ああ、すぐ行くよ」
言うと隼人は駆け足で陽菜の隣に並び、遅れてきた尊は自然と朱莉の隣になった。
「この状況どうするの?」
隼人と陽菜に聞こえないよう小声で朱莉に話しかける。
「どうするのって、普通にみんなで楽しめばいいんじゃないの」
「いや、楽しむのはいいんだけど俺たちの関係がバレるのはまずいんじゃないかって」
「その辺はうまいことやればいいでしょ。それに――」
一度言葉を切った朱莉が悪戯っぽい笑顔を向けてくる。
「私はバレても構わないよ」
「なっ……」
あまりに可愛い笑顔とその言葉に尊は面食らう。
「ふふふ、バレたくなければ頑張ってね平野君」
揶揄うように言うと朱莉は表情を戻した。
(こいつ、この状況を楽しんでるな)
最近ずっと一緒にいた隣人の思考パターンはなんとなくわかってきた。
学校の朱莉は完璧でつけ入る隙もないといった感じだが、家では尊に学校では見せない姿を見せている。
毒舌で思ったことを素直に言ったり、結構遊び心があったり、負けず嫌いだったりとおそらくそんな朱莉を知っているのは尊だけだろう。
だからこそわかる。朱莉が今何を考えているのか。
(そっちがその気ならこっちだってとことん付き合ってやる)
手を握りしめ決意を固める。
買い物はお互いの探り合いの心理戦へと変わった。
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