21話 夏休みから生活が一変した
朱莉の家で食事を取ってから夏休みに入り尊の生活は一変した。たまには一緒にご飯を食べようと言ったのだが最近はほぼ毎日である。初めは朱莉の家で食べることが多かったが、作ってもらう上に場所まで提供してもらうのは正直心苦しかったので、今では尊の家で食事を取ることが多い。
朱莉も最初は尊の部屋に入るたびに落ち着きなく周りをキョロキョロしていたが、慣れたのか今は自然と部屋まで上がる様になった。
尊の家のキッチンと調理器具が新品同様な綺麗さを保っていたことにしっかり綺麗にしているのだと朱莉が感心していたが、全く使っていないので当たり前である。
「今日のご飯はどうしようかな」
冷蔵庫内を物色する朱莉。
今日も尊の家で晩御飯を一緒に食べるため食事の準備を始める。
その様子を尊はソファから眺めていた。
尊の部屋で食事を作る様になった当初は尊も何かしら手伝うつもりだったが、包丁の扱いなど危なっかしくてすぐに朱莉にキッチンから追い出された。
その際、こんな調子でなんで一人暮らしをしようと思ったのか、と心底呆れられることになる。
朱莉からのキッチン立ち入り禁止令が出されてからはリビングで大人しくするようになったが、それでも作ってもらっているのに他ごとをする気にもなれず、大体は料理をしている朱莉を見ている。
最初のころは朱莉も恥ずかしそうにしていたが流石に慣れたらしく、今は尊と会話をしながら調理を行っている。
「平野君、今日カレーでいいかな」
「ああ、カレー大好きだ」
「そう、なら今晩はカレーにして、あとはサラダに――」
献立を決めると冷蔵庫から食材を取り出していく。
キッチンに並べた食材を手際よく調理していく。
相変わらずよどみなく進んでいく工程に尊は見入ってしまっていた。
「本当に手際いいよな」
「んー?こんなの慣れだよ。毎日やってれば自然とできるようになるよ」
「毎日やってればか……」
尊も朱莉の料理する姿に触発され、朝と昼は自分で料理をするようになった。
だが、数日続いているが未だに目玉焼きは焦がすは、包丁で指を切るはで上達が見られない。
一体どこに問題があるのか。朱莉の料理風景を見学していてもさっぱりわからない。
「そういえば、平野君宿題はちゃんとやってるの?」
「宿題?ああ、少しずつ進めてるぞ」
夏休みに入ってもまだ七月下旬。焦ってやることもないので本当に少し手を付けた程度だ。
朱莉は少し逡巡すると調理している手元を見たまま口を開く。
「良かったらだけど、宿題一人でやるのも退屈だし一緒にやらない?」
「一緒にって……二人でか?」
「二人でだけど、嫌だった?」
「いやってわけではないけど急だなと思って」
「どうせやらなくちゃいけないんだし、やるなら楽しくやった方がいいでしょ」
「それは確かにそうだけど」
ごく自然と語る朱莉。
会話中も調理の手は止まっていない。
(こいつ楽しくって自然に言ってるがつまり……)
何気なく言っているが、尊と宿題を一緒にやることを楽しいと思ってくれているということだ。
尊も実際一緒にやったことは無いがつまらなくはないだろうと考えてしまう。
尊はしばらく思考し口を開く。
「そうだな。じゃあ一緒に宿題やるか。明日からでいいか?」
「ええ。場所はどっちかの部屋になると思うけどどうしようか」
「ああ……、なら俺の部屋でいいかな」
朱莉の部屋でもよかったのだが、女の子の部屋で集中して勉強ができるとは思えなかった。
朱莉は尊の部屋に来るのにもう慣れたようだが、尊自身はまだ少しドキドキしてしまう。
男子高校生としては正常な反応だろう。
「そう。ならお邪魔させてもらうわ」
「なんのお構いもできないがな」
「場所だけでも提供してくれただけで十分」
予想外に明日の予定ができてしまった。
いや、宿題なんて一日で終わるものでもないし、もしかして夏休み中これからずっとだろうか。
最近毎日会ってるわけで今更かもしれないが。
「はい。できたよ」
朱莉の声で思考を中断する。
気づけば美味しそうなカレーとサラダが完成していた。
明日からのことをいろいろ考えたかったが今はそれよりもご飯だ。
料理の盛られたお皿を運び、二人向かい合い食事を始めた。




