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20話 隣人はゲームが初めてらしい

「さてと、家に来たはいいが何するか」


 朱莉を部屋に入れたはいいが特に何かやることがあったわけでもない。

 部屋を見てみたいという朱莉の望みももう達成されてしまった。


「普段友達と何してるの?」


「大体はゲームやったりだな。鳴海はゲームとかするのか?」


「ううん、ゲーム自体やったことない。あのピコピコしたやつでしょ」


 ピコピコって、確かに間違ってはいないが。

 今時ゲームをそんな風に呼ぶのはお年寄りか朱莉ぐらいじゃないだろうか。


「まあ、何となくやらないだろうとは思ってたけど、んーどうしたものか」


 ゲームがダメとなると他に思いつく当てがない。

 腕を組み考えるように天を仰ぐ。


「ん?」


 ふと視線を感じ顔を下げると朱莉がその大きな瞳をこちらに向けていた。その瞳からは何か期待しているような、そんな感情が見受けられる、

 いったいどうしたのかと思ったが、すぐに思い当たる節に気づき、


「もしかしてゲームやってみたいのか?」


「え?……どうして」


「なんかやりたそうな、そんな顔してたから」


 そう言うと朱莉は慌てて顔を手で覆う。


「え?嘘?やだ、顔に出てた?いや、そうじゃなくて」


「やっぱりか。別に隠さなくていいだろ。どうせやることもないし鳴海がやりたいならゲームやろうぜ」


「……なら、やる」


 少し頬を赤く染め顔を逸らされる。

 そんな朱莉の反応に尊は苦笑する。


「なんでこういう時だけ気づくかな」


「?何か言ったか?」


「何でもない」


 素っ気なく返す朱莉。


 いったいどうしたのかと思ったが、とりあえずゲームの用意を始めた。至ってどこにでもあるテレビゲームを棚から取り出しテレビに接続していく。


「それがゲーム?」


「ああ、あとはコンセント繋げばできるよ」


 尊の手元を興味深げに覗き込む。


「あとはソフトだけど、鳴海なんかやりたいものあるか?」


「その辺のことは全くわからないから平野君に決めてもらいたいのだけど」


 確かに朱莉に聞いてもわからないか。朱莉みたいなゲーム全くやったことのない人でも楽しめるものとなると。

 しばらく考え尊は一つのソフトを手に取る。


「それは?」


「みんなで遊べるパーティーゲームだよ。すごろくみたいな感じで、止まったマスにちょっとしたゲームが用意されていて、クリアしたポイントとゴールした順位で勝負するんだ」


 簡単にゲーム内容を説明すると朱莉はうんうんと首を振り理解したようだ。


「これでいいか?」


「うん。やってみよう」


「よし」


 ソフトをセットしゲームを起動する。

 テレビにゲーム画面が表示される。


 朱莉にコントローラーを手渡し、ソファに腰を下ろす。

 手渡されたコントローラーのボタンを意味もなくポチポチと押す朱莉。その横顔はなんだか楽し気である。


「えーと、これどうすればいいの?」


「まずはここでキャラクターを選ぶんだ。ゲームの中で使うキャラクターだから好きなの選んでいいよ」


「好きなの……なら、これで」


 朱莉が選んだのはハムスターのぬいぐるみのようなキャラクターだ。朱莉らしいと言えばらしい、可愛らしい見た目のキャラクターを選んだ。


 ちなみに尊は緑色の亀のキャラクターだ。


「最初は鳴海からか。そのボタン押したらサイコロ振れるから」


「こ、これ?」


「そうそう」


 尊が指差したボタンを押してゲームが始まる。


 朱莉のキャラクターがサイコロを振るい五の数字が画面に現れると、数字の分だけキャラクターがマスを動く。すると、止まったマスが光画面が変わる。


「え、な、何?」


「ああ、これがさっき言ったちょっとしたゲームだな。これをクリアするとポイントが入るんだ」


「どうすればいいのこれ?」


「えーとな。これは上からボールみたいのが落ちてくるからキャラクターが持ってる籠で拾うゲームだな。左手の十字のボタンだけ使えばいいよ」


 わかった、と言うと朱莉は画面をじっと見てゲームに集中する。朱莉の操作に合わせてキャラクターが動き出す。


「んっ、ちょっ、んっ」


 キャラクターの動きに合わせて朱莉も右へ左へと揺れる。その姿はとても可愛らしく見てて飽きない。


 ゲームの結果としては満点中の半分ほどの点数を獲得することができた。


「……全然拾えなかった」


「最初はこんなもんだろ。初めてゲームやったんだったら出来た方じゃないか」


「そうかな。だったらいいんだけど」


「ああ、そんな気にすることもないぞ――おっ、俺もゲームだ」


 朱莉と話しつつゲームを操作していると、尊のキャラクターが止まったマスが光画面が変わる。


「あ、対戦型のゲームだな」


「対戦型?」


「俺と鳴海で対戦して勝負するんだよ。勝ったらポイントが貰えるぞ」


 簡単な説明とゲーム画面でルールを確認する。


「うん。わかった。やってみようよ」


「よし、じゃあ始めるぞ」


 開始のボタンを押しゲームを始める。


 さっきと同じようにキャラクターの動きに合わせて揺れ動く朱莉。


 尊も流石に本気でやるわけにもいかず、少々手加減をしてゲームをしているが、ゲームが全くの初心者である朱莉には、それでも実力的に大きな差があり、結果は尊の勝利に終わった。


「……負けた」


「まあ、初心者なんだししょうがないって」


 肩を落とし見るからに落ち込む朱莉。尊も流石に慰めに入る。


「平野君ゲーム上手なんだね」


「多分普通だと思うぞ。これくらいなら少しやってれば出来るくらいだと思うし」


「そんなものなの?」


「そんなものだよ。だから鳴海が今日しばらくやってればこれくらい――あっ」


 朱莉の番となりキャラクターがサイコロの出た目を進むと、また対戦型のゲームが始まった。


「よし。今度は負けない」


 コントローラーを握り直し気合を入れる朱莉。今日知ったことだが、朱莉は結構負けず嫌いのようだ。先ほどよりも真剣にゲームの画面を見ている。


「俺も負けないからな。次も勝たせてもらうぞ」


 そんな朱莉の姿に苦笑しつつ尊もコントローラーを握り直す。


 普段隼人たちとやるゲームとは違い、のんびりと純粋にゲームを楽しめている気がする。

 横にいる朱莉も活き活きとしており、楽しんでいるみたいだ。


 また新たな朱莉の一面を見ることができ、少し優越感に浸りつつ、二人でゲームを楽しんだ。




 楽しい時間は早く、もう時刻は十八時。そろそろ夕飯の時間である。


「んー、そろそろご飯にしようか」


 数時間ゲームをしていた身体をほぐす様に伸びをして立ち上がる朱莉。


 初めてやるゲームは相当楽しかったのか、最後の方は尊も含め二人して夢中になって遊んでいた。


「もうこんな時間か。結構あっという間だったな」


「そうね。全く時間気にしてなかったわ」


「楽しかったか?初めてのゲームは」


 ゲーム機を片付けつつ何気なく質問する。

 朱莉は一瞬考えるような仕草を見せたが、


「ええ。すごく楽しかったわ。たまにはこういうのもいいわね」


 笑顔でそう言うとソファから立ち上がる。よっぽど楽しかったのか、その笑顔はいつも以上に輝いている。


「楽しんでもらえたならよかった。俺の家じゃ他にやることなんてないからな」


「それでも私の家にいるよりはよかったわ。私の家こそ何もないもの。二人してぼーとしてることになるだろうし」


「それはそれで俺は気にしないけどな。いつもテレビ観ながらぼーとしてるからな。普段とかわらん」


「あなたの一日の過ごし方それでいいの……」


 呆れたような視線を飛ばす。

 尊は素知らぬ顔でゲーム機の片付けを続けた。

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