18話 時間を潰すのは結構大変
買い物を終え朱莉の家に帰宅する。
朱莉に買い物袋を渡すと食材を冷蔵庫の中にしまっていく。
尊はその間エアコンの効いた部屋で休むことにした。真夏の空の下を歩いていたので流石に疲れてしまった。
エアコンの前に陣取り風を全てその身に受ける。暑くなった体を急激に冷やしてくれる。
「はー、生き返るわー」
「ちょっと、体壊すよ。もっと離れて」
そんな尊の行動に呆れたような視線を向け注意する朱莉。
確かに少し肌寒くなってきたので素直に離れる。
すると、朱莉はお茶の入ったコップを手に尊に近づく。
「はい。喉渇いたでしょ」
「ん、ありがとう。喉カラカラだったんだよ」
手渡されたお茶を一気に仰ぎ呑む。炎天下の中歩き、汗をかいた身体にお茶が染み渡る。
一瞬で飲み干してしまった尊を見て朱莉はおかしそうに小さく笑う。
「おかわりいる?」
「うん、貰うよ」
空になったコップを受け取るとキッチンの方に向かい再びお茶を入れて持ってくる。
ありがとう、と言って受け取りまた一気に飲み干した。
「ふー、やっぱり夏は麦茶だよな。何杯でもいけそう」
「でも、飲み過ぎてもよくないからこの辺で止めてね。さてと、まだ夕飯まで大分あるしどうしようか」
どうしようか、と言うことはこのまま夕飯まで一緒に時間をつぶすつもりなのか。
尊としても特に予定はないからいいが正直驚いてしまう。
時計を確認すると針は午後二時を指している。夕飯までには確かにまだ時間がある。
何気なく朱莉の部屋を見渡し何かないかと探してしまう。
「そういえば普段鳴海は休みに何してるんだ?」
「休みは買い物するか部屋の掃除するかぐらいよ。あとは勉強したり本読んだりかな。平野君は?」
「俺も勉強するか。テレビ見るかぐらいだな。たまにゲームもするけど」
こう考えてみると本当に趣味とかないなと実感する。この夏休み中に何か始めてみようかと本気で考える。
「いっそのことどっかに出かけるというのも……いや、ダメか」
やることがないなら外に出かけるというのは普通の考えなのだろうが、尊と朱莉が二人で出かけるというのは流石にまずい。
どこで誰に見られるかもわからないのだから、もし見られでもしたら学校でどんな噂が立ってしますか。
尊は兎も角朱莉に迷惑はかけられない。
「ならちょっといいかな」
そこでしばらく黙っていた朱莉が口を開く。
「何かやりたいことあったか?」
「やりたいことと言うより行きたいところがあって」
「行きたいところ?でも二人で出かけるわけにもいかないだろ。誰に見られるかもわからないし」
「でもそこは見られる心配はないというか……」
朱莉には珍しく少し口籠る。
「見られる心配がないって、どこ行く気だよ」
「えーと、できればでいいんだけど……」
どうしてこんなに勿体ぶるのか。朱莉が言ってる場所の見当が全くつかないので、こっちとしては気になって仕方がない。
朱莉は自分を落ち着かせるように一度息を吐き、意を決し次の言葉を吐き出す。
「よかったら平野君の部屋見てみたいなって」
顔を赤く染めそんなことを口にする朱莉。
流石に尊もまさかの提案に驚き目を見開く。
「え?俺の家か?……別にいいけど」
「い、いいの?本当に?」
「ああ、別に困るようなこともないし」
結構ぐいぐいとくる朱莉に少し後ずさる尊。
一応部屋は綺麗にしているし、これといって見られて困るようなものもない。
「でもなんでまた俺の部屋なんだ?見て面白い物なんてないぞ」
「面白いかどうかじゃなくてただの興味本位というか」
そんな朱莉を見て尊はあることを思い出した。
「あー、そういえばお裾分けって言ってタッパー持って来てくれた最初のころ俺の部屋を興味深げに覗き見てたな」
「の、覗き見てたとか言わないでよ!私が変なことしてたみたいじゃない!」
「そう言うが、あれはどう見ても不審者だったぞ。玄関の隙間から顔覗かしてキョロキョロ周り見てたし」
今でもよく覚えている。あんな不審者の見本のような行動をするやつは初めて見た。
知り合いじゃなかったら通報してただろう。
「た、確かにそうだったかもしれないけど、いいでしょもう昔のことなんだから」
「昔のことだからっていいわけじゃないぞ。それにそんな前でもないし」
「男がそんな細かいこと気にしないほら行くよ」
少し開き直った朱莉が玄関に向かう。話を変えるためにも早速尊に部屋へ行くようだ。
「ほら、何してるの早く」
「はいはい」
動こうとしなかった尊を急かす。
しかし、何をそんなに部屋が見たいのか。特に面白い物もないので期待され過ぎるのも困るのだが。
最初はびしょ濡れの朱莉をほっとけず部屋に入れようとしたが警戒して入ろうともしなかったのに。まあ、一応信頼されてきたってことなのだろう。
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