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14話 友人がいるのに訪問されるのは流石に焦る

 休憩を入れつつ少しづつだが勉強は進んだ。陽菜の集中力が三十分ほどで尽きてしまうので勉強もそのたびに中断することになったが、尊も頭を抱えながらも懇切丁寧に重要な点を説明し、五教科全てに手が回らなかったものの数教科は赤点回避レベルまでには持ってきた。


「やった!これで今回のテストは大丈夫だね!」


「まだ大丈夫じゃないけどな。はあ、ここまでやってまだ赤点のギリギリラインか」


「ちょっとそこため息つかない!私も頑張ってるんだから」


「まあ、確かに今日の陽菜は頑張ったんじゃないか?いつもなら一時間も勉強しないで終わるのに」


「そうだよねー。やっぱりはーくんわかってる!そういうとこが好きー」


 そして再びイチャつきだす二人。本当に放り出してやろうかと頬を引きつり考える尊。

 大体隼人が甘やかすから陽菜が付け上がるのではないだろうか。自分の彼女なのだから甘やかす気持ちもわかるが。


『ピンポーン』


 そこで来客を知らせるチャイムが鳴った。


「ッ!」


 咄嗟に尊は時間を確認する。時刻は午後六時いつもなら朱莉がお裾分けを持って来てくれる時間だ。


(やば……)


 今は隼人に陽菜がいる。尊と朱莉の関係は学校では内緒にしている。当然この二人も知らないのでなんとかして誤魔化さなくてはならない。


「ん?尊、出ないのか?」


「あ、ああ。出るよ。ちょっと待っててくれ」


 平常心を保ちつつ尊は立ち上がり、玄関の方に向かう。

 隼人が訝し気な視線を向けてきたが玄関に続くリビングの扉を閉めたのでこちらの様子は見えないだろう。


 急いで尊は玄関の扉を開け外に飛び出す。


「わぁ!?」


 勢いよく飛び出してきた尊に驚き朱莉は後ずさる。


「え?何?どうしたの」


「ああ、悪い今友達来ててさ」


 後ろ手に扉を閉め息を落ち着かせる。


 ああ、なるほど、と朱莉も尊の慌てように納得する。


「ごめんね。遊んでたところ邪魔しちゃって」


「別にいいよ。テスト勉強で集まってただけだし、それにもう終わったところだから」


「ちゃんと勉強してるのね」


「ある程度の成績を残すのも一人暮らしの条件だからな。まあ、勉強は嫌いじゃないし」


「ちゃんと自分で勉強できるのは偉いわ。じゃあ友達もいるならここで長話してるわけにもいかないわね」


 持っていたタッパーを手早く尊に渡す。

 折角持って来てくれたのにこっちの都合で追い払うような感じになりとても申し訳ない。


「悪いな。なんか急かしちゃって」


「気にしないで友達いるならしょうがないし。じゃあまた」


 小さく手を振り自室へと戻っていく。それを見送り尊も部屋に戻る。気にしなくていいとは言ってたがタッパーの暖かさを感じるとどうしても心が痛い。


 リビングの扉を開けるなり隼人と目が合った。


「遅かったな。誰だったんだ?」


「お隣さんだよ。なんか作りすぎたみたいで料理のお裾分けだってさ」


 隼人は尊が手に持つタッパーに視線を向け、へー。と口にする。


 別に嘘は何一つ言ってないので尊としても自然に振る舞えている。

 さきほど同様訝し気な視線を向けてくるが何かに納得したみたいで隼人が口を開く。


「ああ、だから最近顔色いいのかお前。料理ができない尊が急にまともなもの食べるようになったって言ったから不思議だったんだよ」


「まあ、そういうことだ」


「へー、みーくんお隣さんと仲いいんだね。そういったご近所付き合いって面倒臭がると思ってたのに」


「俺が学生で一人暮らしだから向こうが何かと気にかけてくれてるんだよ」


「なるほどねー」


 特に疑う様子もなく納得した二人に尊は胸をなでおろす。この関係がバレて変な噂でも広がればいろいろとまずい。あらぬ誤解を生み親切心で世話を焼いてくれている朱莉に迷惑もかかる。

 尊にも男女問わず多方向から質問や批判が飛び交うだろう。


 まあ、二人はこのことを秘密にしてほしいと頼めば他言することはないことはわかっているが、別にこちらから言う必要もあるまい。


「んじゃ、そろそろ帰るか」


「そうだね。お腹も減ってきちゃったし、はーくんどっかで食べてく?」


「おお、いいね。何喰うかな」


「お前らそれで家帰って飯食えるのか?」


「大丈夫大丈夫!余裕だよ!」


 陽菜はお腹を撫でつつ元気に宣言する。実際陽菜は女子にしてはよく食べる方だと思う。細身の身体のどこに収まるのか疑問だ。


「それじゃあ今日はサンキューな」


「ありがとうみーくん。また教えてね」


「気が向いたらな」


 玄関まで見送り二人と別れる。先ほどまで騒がしかった部屋の中が嘘のように静かだ。

 急に静かになってしまうと心なしか寂しいと感じてしまっている自分がいる。今までこんなことは無かったと思うがなぜだろうか。


 いくら考えたところで原因はわからなかったので、とりあえずお腹もすいてきた尊は食事を取ることにした。


 朱莉からもらった料理をレンジで温めなおし机に運ぶ。美味しそうな匂いに更に食欲が湧いてきて料理を口にすると寂しさが少し和らいだような気がした。


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