12話 家主なのに立場が弱い
「暑いなー」
「夏だからな」
「でももう夏休みだよな。毎日学校来るのもあと少しだ」
下敷きで扇ぎながらニッと笑う隼人。確かにもう二週間と経たないうちに夏休みだ。この暑い中学校へ行くのは尊もきつかったので正直嬉しい。
「でもその前に期末テストあるけどな」
「それ言うなよ!あー、なんでテストなんかあるかなー」
下敷きでより強く扇ぎながら遠くを仰ぎ見る。目の前にある現実から目を背けようとしているのがありありと伝わってくる。
「たかがテストだろ。正直テストの日って受ければ早く帰れるから俺はそこまで嫌じゃないけど」
「お前みたいな成績いいやつの考えだからなそれ!俺たちみたいな一般生徒にとってはテストなんてただの地獄でしかないんだよ!」
少々大げさだが本当にそう思っているようだ。まあ、勉強自体はそこまで嫌いではないがそんな生徒ごく僅かだろう。ほとんどの生徒は大なり小なり勉強に対して苦手意識を持ってるはずだ。
「早くテスト終わんねえかな」
「まだ始まってもないけどな。お前ちゃんと勉強してるのか?」
「俺だって一応やってるわ。陽菜と一緒にな」
「それ絶対集中してやってないだろ。お前ら絶対遊んでるかしゃべって終わりだろ」
「おお、流石俺の親友!見てたみたいに言い当てるな」
感心したように隼人が言うので、思わずため息を吐きだす。
普段の二人を見てれば簡単に想像ができることだ。いつも周りの目を気にせずイチャイチャしてるのだから二人っきりになって勉強なんてするはずがない。
「そうだ。今日尊の家で勉強しようぜ。陽菜も呼んで」
「なんでそうなる」
「いや、正直勉強苦手同士が集まってもどうしようもないからな。俺がわからんとこは陽菜もわからんし」
「息の合ってることで」
「ははは、当然だろ」
嫌味のつもりで言ったのだが隼人には効果がなかった。むしろ褒められたと思っているかもしれない。
「だからさ。俺たちに教えることができる先生が必要なわけよ」
「なら俺じゃなくてもいいだろ。他を当たれ」
「つれないこと言うなって、俺たちの仲だろ」
「暑苦しい!近づくな!」
肩に腕を回してきたのでわき腹を肘で小突く。
うっ、と咳き込み隼人は離れていく。
「おお、わき腹がー。お前少しは加減をな。ん?ああ陽菜からだ」
わき腹を抑えながらポケットからスマホを取り出し画面を確認する。陽菜からの連絡だったみたいでしばらく画面に目を落とし、
「陽菜も尊の家で勉強会賛成だってさ」
「はっ!?お前いつの間に!?」
スマホをいじっている素振りはなかったのに、こういった根回しは本当にうまい。
「さてこれで二対一。多数決で俺たちの勝ちだな」
「最終的な権限は家主の俺だけどな」
「陽菜を止めれると?」
「………」
陽菜が一度決めたら何としても実行してくる。それはまだ短い付き合いとはいえ尊は痛感していた。
隼人と一緒に大量のお菓子を持って、「今日は騒ぐぞー!」と尊の家に押し寄せてきたのはいい思い出だ。突拍子もなくそんなことを定期的にやってくる。
「で?どうすんだよ?」
少々遠くを見て現実から目を背けていたら隼人から声を掛けられる。最早逃げ場はないか。
「わかったよ。ただちゃんと勉強しろよ。遊びだしたら家から放り出すからな」
「了解了解。じゃあ陽菜に連絡しとくわ」
再びスマホをいじり陽菜にメッセージを送る。数秒と経たずに返信の通知が来て隼人は機嫌よく尊に笑顔を向ける。
その笑顔にイラっとしたのでとりあえず睨んでおくがやはり隼人には効果がない。放課後のことを思うと自然とため息が出てきた。
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