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98 生徒たち

集合場所に到着するとそれなりの人数が既に集まっていた。


「思ったよりもたくさん居るみたいですね。」

「そうだね。それに意外と子供が多いみたいだよ。」


見ると小学生以下が意外と多く、その割合は日本人よりも外国人の方が大きな割合を占めているようだ。


「きっとオーストラリアから来た疎開の子供たちじゃないか。」

「そんな事をアンドウさんが言ってたね。そのおかげでそれなりの人数の子供が集まったって。」


あの国はまだまだ油断できない状況で、あの時に一緒に戦った兵士たちの家族が日本へと避難して来ている。

ただ、その中で覚醒者となった子供たちがこの学園へと特待生として通う事となった。

元々はガラガラだった初等部に人数が増えたので理事長も喜んでいるそうだ。

そして学費に関しては完全免除・・・なんて事は無い。

年間の支払いは120万ほどあるらしいけど覚醒者である彼らなら余裕だろう。

下級ポーションなら1本5万、中級なら15万。

下級蘇生薬なら1本20万、中級なら50万


現在は国が買い取って余分になっている物に関してはそれの倍額で他国が買い取ってくれているので値段は落ちる事は無い。

特に俺達の貢献度が高いので政府としてはウハウハだろう。

治療費の支払いで四苦八苦していた税金を他に回せる上に別の収入源もある。

アメリカへはダンジョンを提供して貸を作ったし、中国などにもポーションを優先的に売って表向きの関係は良好だ。

特にこの二つの国は生産性も高く食料、工業共に日本としては依存度も高い。

そのおかげで今の日本経済もなんとか正常の範囲を保っていると言えるだろう。


だから政府も彼らには住む場所も生活も保障しているし、働くための許可も出している。

それだけしても見返りはそれ以上に大きく金額的に取り戻すのも容易だからだ。


そして、そんな中で数人の見知った顔を発見したので、その内の一人に俺は歩み寄って声を掛けた。


「リアムもやっぱりここに来たんだな。」

「うん。この国の人達は親切だよ。住む所も教えてくれたし、お父さんに仕事もくれたの。」

「そうか。それで、あれからダンジョンには入ったのか?」


俺達が別れてから4ヶ月以上の時が経過している。

その間に何もしていないのなら早めにダンジョンへ行って勘を取り戻してもらわないといけない。


「ちょっと前までは第二ダンジョン?って所で魔物を倒してたよ。他の人達が弱くて奥までは行ってないけどお金が沢山貰えてお母さんも安心してる。」


それなら父親のオリバーさんは子供に稼ぎで負けてたら面目が立たないだろうから仕事を頑張っているころだろう。

ただし、それはポーションなどの希少性を考えれば仕方のない事かもしれない。

これからはリアムもダンジョンばかりという訳にはいかないのでその分お頑張ってくれることだろう。


「それなら安心だな。お前の教師はあそこにいるハルアキさんだけどしっかりと言う事を聞いて強くなれよ。」

「うん!」


そしてリアムをハルアキさんに紹介して次の顔見知りの所へと向かって行った。


「ようドロシー。無事に来れたみたいだな。」

「あ、先生こんにちは!」


俺の顔を見るとドロシーは嬉しそうにこちらへと駆けて来る。

周りに他の5人も揃っているので全員が入学できたみたいだ。


「あれからダンジョンは大丈夫か?」

「はい。先生のおかげで今ではみんな仲良く探索しています。私達もあれからはダンジョンに潜って鍛錬をしてきました。」

「そうか。それなら訓練を楽しみにしてるからな。」


そう言って後ろの5人に視線を向けるとドロシーとは逆に顔を青くして震え出した。

どうやら、あの時の訓練がトラウマになっているみたいだけど、ここではあそこまでの厳しい訓練はしない予定なので怠けない限りは心配ない。


「お前らも頑張れよ。」

「「「「「はい!」」」」」

「うん。良い返事だな。」


俺はドロシーの頭を軽く撫でるとそのまま次の顔見知りの許へと向かって行った。


「どうしてお前が居るんだ?」

「知るかよボケ。俺は就職するつもりだったのにこんな訳の分からねえ所に無理やり入学させやがって。」


そこに居たのはアケミとユウナの卒業式の最後に無謀な告白をしていたリーダーの男だ。

何処から話を聞きつけたのか、あの時のタフさが評価された様でここに無理やり入学させられてしまったらしい。

手元にあるタブレットを見ると名前は坂本サカモト マコトで何でも親も親戚も居ない孤児みたいだ。

こんな性格や態度でも成績は悪くはなく就職するのも孤児院に負担を懸けさせない為らしい。

それとコイツには唯一の肉親である幼い妹が居るようだが、その子が大学まで行けるように学費を稼ぐ為にここへの入学を受け入れたとなっている。

何処かで聞いた様な話だけど思っていたよりは良い奴のようで、あの時は取り巻きに煽られて引けなくなっただけのようだ。


「お前は特に可愛がってやるから覚悟しとけよ。」

「テメー!あの時の事をまだ怒ってやがるのか!?」

「そう思うならそう思ってろ。感謝も要らないし後で殺しに来ようと構わない。ただし、お前がそこまで頑張れればの話だけどな。」


俺はそれだけ言って次の奴の許へと向かって行った。

ハッキリ言えば何でお前がここに居るのかと一番に聞きに行きたかった程だ。


「アーロン。どうしてお前がここに居るんだ。学生をしていても良い身分じゃないだろう。」

「ようハルヤ。元気だったか?」


そこに居るのは俺を戦友と呼び、先日のダンジョンで覆面監査官をしていたアーロンだ。

コイツはしばらく日本に滞在すると言っていたけど俺の手元の資料には載っていない。

と言う事は明らかな部外者ということで間違いないだろう。

しかしアーロンはとても爽やかな笑みを浮かべると俺の言葉に軽く手を振って挨拶を返して来た。

もしかして国の力を背景にここへ調査に来たとは思えないけど、本当に何をしに来たのだろうか?


「まあ元気だけどな。病気の覚醒者が居れば教えて欲しいくらいだ。」

「ハハハ、冗談が上手いな。」

「それでどうしたんだ。アイツ等の様子見とか保護者で来た訳じゃないんだろ。」


コイツにも仕事があるのであそこよりも安全?で平和?なここに来たりはしないだろう。


「いや~実はな。ここに留学する奴の中に俺のいも・・・。」

「お兄ちゃんがどうしてここに居るのかな!?」


すると俺の背後から聞き覚えの無い声が聞こえてくる。

気配から言って俺に向かって来ているのは分かるけど俺をそう呼ぶのはアケミくらいだ。

そして疑問を感じながら振り向くと鈍い俺でも今のが誰に向けられた言葉なのかを理解した。


「もしかしてお前の妹か?」

「まあ、そんな所だな。血は繋がってねーけど俺の可愛い妹だ。なんだか最近は反抗期気味であんな感じなんだけど根は優しくて良い奴なんだぜ。」


しかしアーロンはこう言っているけど俺には一目で相手の本質を見抜く力はない。

今の俺の目に映るのはヒステリックに喚き散らし顔を耳まで真っ赤に染めた少女の姿だ。

資料によれば成績は優秀で言語も英語、日本語、中国語が普通に喋る事が出来るらしい。

そして最後の行には『極度のブラコンである』と赤字で書いてあった。


(まさか、これってアーロンが描いたわけじゃないよな。)


そして名前はリアリスというらしく、アーロンがワイルド系の美男子とするならリアリスはスポーツ系の美少女と言った感じだ。

一部を除いて無駄な脂肪は無く、足は長くてスラリと引き締まった体をしている。

髪の色はアーロンよりも濃い金髪で、長い髪を後ろで縛ってポニーテールにしているようだ。

自身で言うのも悔しい気もするけどアーロンは美男子なんだけど、リアリスと比べると似ているパーツが無いので確かに血の繋がりを感じない。

まあ、俺はあちらの顔の判別があまり出来ないので自信は無いけど、リアリスは俺達の前まで来ると鋭い視線を向けて来た。


「もしかしてアナタがハルヤなの?」

「そうだけど何かあるのか?」

「当然でしょ!オーストラリアから帰って来たお兄ちゃんがアナタの話ばかりするもの!今まではどんな所に行ってもそんな事は無かったのに!」

「そうなのか?」

「そうよ!お兄ちゃんわはね!お・・お兄ちゃんは・・・私のなんだからね~~~!!」


そう言ってリアリスは背中を向けると逃げ出して行ってしまった。

どうやらこの資料に書いてある事に間違いは無さそうで、あれは誰がどう見てもブラコンと言えるだろう。

ただ資料の所に『ツンデレである』と追記しておこう。


「アーロン。」

「何だ戦友よ?」

「後で俺の相談に乗ってくれるか。」

「・・・珍しい事もあるが分かった。」


俺は意外な所で相談相手を見つけると後で落ち合う約束をしてから分かれて行った。

そして今日は広いグラウンドを使ったマラソンで基本的な体力を見させてもらうだけで終わる。

とは言っても基本的な体力があるかの確認だけだ。

もちろん覚醒者に基準を下回る者は誰も居らず、ここに呼ばれる事が有るだけに全員が完走を果たしている。

そして今日は脱落者が出る事なくそこで解散となった。


「それじゃあ俺は少し出かけて来るから皆は先に帰っていてくれ。」

「もしかして朝の事を気にしてる?」


すると心配そうにアズサが俺に問いかけて来た。

確かに気にしていないと言えば嘘になるけど、それくらいの事で限りある一緒の登下校を無駄にしたりはしない。


「そうじゃなくて旅行の時に行った第三ダンジョンにアメリカの知り合いが来てて今もここに来てるんだ。だから、少し話をしてから帰るだけだよ。」

「それなら良いけど・・・早く帰って来てね。」

「ああ、話が終わったら夕飯までには帰るよ。」


そう言って俺は学園から出るとアーロンと待ち合わせをしている場所へと向かって行く。

そして到着すると俺はその建物を見上げて小さな溜息を零した。


「まさか待ち合わせ場所にアニ〇イトを指定されるとはな。」


俺は周りを見回してツバサさんが居ない事を確認しておく。

ここでアイツに会うと話がややこしくなるので細心の注意を払いながら建物に入り、待ち合わせ場所へと向かって行った

するとそこには何故か人集りが出来ていて周囲を見回せば誰もがカメラやスマホを手にしてシャッターを押し続けている。

どうやら今日はここの1階でコスプレイベントと撮影会をしているようだ。

きっと有名なコスプレイヤーでも来ていて、冬のイベントは中止になったそうなのでこういった所でファンなどの要望に応えているのかもしれない。


そう考えてすぐ横にあるエスカレーターに乗って待ち合わせの階へと登っていると視点が上に移動し、撮影されている人の姿が確認できた。

しかし、その直後には俺は手で目の前を覆って頭を抱えるしか出来なくなっていた。


「どうしてお前らは仲良く撮影されてるんだよ。」


そこにはある有名格闘ゲームのコスプレをした2人が構えを取っていた。

もちろんその内の一人はアーロンでまさにキャラも完全に被っている。

そして、もう一人は頭の左右をお団子に纏めた髪形で茶色いタイツにチャイナドレスを着ている。

まあ、女の方はツバサさんなのだけどいつもと気配がまるで違う。

まるで普段のフザケたオタク女性ではなく本物のオタク格闘家のようだ。

俺は頭痛を堪えながら一階に戻ると、ちょっと空歩で浮かび上がって人垣の先を確認した。


すると見事な旋風脚やサマーソルトキックを2人が披露し、互いに距離を空けると横に控えているスタッフが駆け寄って行く。

そしてツバサさんの周りをリングの付いた黒いカーテンで覆うと上から服が飛び出し中で何やらゴソゴソし始めた。

しかし服が飛び出した時点で中では着替えをしているのだろう事が分かる。

こんな所であんな事をするとは思っていた通り強者の心を持った女だったみたいだ。

そして周囲からカウントダウンが始まり中から完了の声が聞こえないままにカーテンが落とされた。

するとそこには胸元を強調し、スリットが際どい所まで入っている赤い衣装に着替えたツバサさんが現れた。

どうやら今のが目当てで客が次々と集まっているようだ。

しかし、こんなイベントを日が高い内からしていて店側は大丈夫なのだろうか。

ハッキリ言って彼女の胸はゲームに出て来るキャラより遥かに大きい。

見様によってはアウトの様な気もするんだけど、もしかすると地方のイベントだから大丈夫・・・。


「こら~~~!通報を聞いて来てみれば何をやってるんだ!?」


するとここでコスプレ警官が乱入してきた。

周りの人には本物と見分けが付かないだろうけどあれはアンドウさんで間違いないだろう。

どうやらツバサさんの事を聞きつけて回収に現れたみたいだ。

彼女も彼氏が出来たんだからもう少し大人しい服装をすれば良いだろうに、あの人もこれから色々と苦労する事になるだろう。


するとカメラを構えていた客たちは右往左往しながら逃げ出し、その場にはアーロンとツバサさんだけが残された。

そしてアンドウさんはツバサさんの傍まで行くと手に持っていた大きなタオルを掛けてやり、肩を抱いてその場を立ち去って行く。

ツバサさんの方はイベントを壊されて怒るかと思ってたけど意外と嬉しそうにしている。

なんだかアンドウさんが少し男らしく見えるのでツバサさんも同じように思っているのかもしれない。

ただ2人がこの後に何処へ向かって行ったのかを知る術は今の俺には無いのでそっとしておこう。


そして俺は唯一その場に取り残されていたアーロンへと声を掛ける。


「そろそろ行くぞ。」

「そうだな、少し待っててくれ。」


ようやく再起動したアーロンは上の階にあるトイレを更衣室代わりにして服を着替えて姿を現した。

するとやっぱり美形であるからか周囲を行き交う女性の視線を集めている。

ただしその中に「受け」や「攻め」とか言ってる腐れた連中も混ざっているようだ。

最低限、俺はノーマルだと言うのにいったい何を考えているのやら。

するとアーロンは先程の事を思い出しているのか少し不機嫌そうな表情を受かべた。


「それにしてもいきなりの乱入は反則だぜ。」

「まあそう言うな。お前だって妹があんな格好してたらどうするんだ。」

「そりゃあヘリのガトリングガンで全員をハチの巣にしてカメラは全部没収だな。」

「破壊しない所がお前の業を感じるな。この兄にしてあの妹ありか。」


今の言葉がブーメランになって俺に帰って来なければ良いけどな・・・。

そして、しばらく他愛無い話をしながら歩いているとアーロンの昔馴染みである元海兵隊員が経営しているバーへと到着した。

ちなみにアーロンはオタクとは言わなくてもそれなりに日本のアニメが好きだったらしい。

コイツがこの国に滞在している間に真のオタクに染まりツバサさんの同類にならないことを願うばかりだ。

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