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95 入学式 ①

リリーたちが神使となった日から数日が経過していた。

そして彼らはまずダンジョンのあるこの町で活動を始めている。

なんでもユカリが仕入れて来た情報によるとダンジョンから漏れ出そうとする邪気を抑えているのはその近くに祀られている神々だけらしい。

そのため、まずはこの周辺の神を安全で住み良い所へと一時的に移ってもらう事となった。

ただ、そんな所が簡単にあるはずは無く、現在は我が家にあるユカリの家がその避難所になっている。

別にそこから出てくる訳ではなく、ダンジョンも近いので効率よく邪気を抑えられているそうだ。


それにリリーに力を与えた老いた神の話によると・・・。


「お前達は誰も気付いておらん様じゃが、お前たちの体からは常に余剰な気が周囲に拡散しておる。それが我ら神にとっては栄養剤の様な働きをしておるのじゃ。それにそこの嬢ちゃんたちが定期的にこの場を浄化してくれておるので、ここはある意味では儂らが力を使いやすい神域とも言える場所へとなっておる。」


そういえば来た時よりも彼らの顔色が良くなっていると感じていたのは勘違いではなかったようだ。

傷が瞬時に癒える程ではないにしろ状態が上向いているようで目で見える範囲でも傷が回復してるのが分かる。

それにしても、ここが神様から見てのパワースポットになっているとは思わなかった。


「それならここでしばらく静養しておいてくれ。ダンジョンから邪気が漏れなければ問題ないからな。」

「うむ。長い戦いで疲弊したこの身には有難い申し出じゃ。その言葉に甘えてしばらく世話になるぞ。」


そう言って老いた神は神棚へと戻って行った。

実のところ、あの姿も力を使い果たしているのが原因で本当はもっと若く逞しい見た目なのだそうだ。

いつか傷が癒えて完全回復すれば見られるそうなのでその時を楽しみにしておこうと思う。


ちなみに他の第二と第三ダンジョンでも同じようにしてその地域の神様を匿っている。

第三はアーロン達なのでどうしようかと思っていると、アイツ等は10部屋ほどあるアパートを貸し切りにして住んでいるそうだ。

当然、防音は万全らしく壁を殴っても音が隣に響かない素敵仕様だ。

絶対に自分達で改造してるだろうとつまらないツッコミは無しにして、恋人同士は相部屋で住んでいるそうだ。

簡単に言えば結婚前の楽しい同棲生活を楽しんでいるという訳だが、独り身のフーバの歯軋りがここまで聞こえて来そうだ・・・。


何はともあれ、これでダンジョンの邪気についての問題は一時的にとはいえ解決した。

後は社の再建や維持に関してだけどそれは俺達がどうこう出来る話ではない。

そこは纏めて国のお偉いさんに丸投げである。


そして、とうとう4月となりアケミ、ユウナ、アズサの入学式の日がやって来た。

ちなみに会場は野球場を1つ貸し切りにして行われるそうで新入生だけでも数千人になり、家族も含めれば毎年2万人近く集まるそうだ。

多くの人が子供の入学式を理由に旅行も兼ねてやって来るのでこれだけの人数となっているらしい。


その会場自体も新幹線が乗り降りできる駅から徒歩10分程度の距離にあるのも理由の一つだろう。

しかも参加者にはもれなく2000円の商品券が配られる。

これはこの周辺の店舗なら何処でも使えるらしく、年に一度このイベントで学園は地域を潤す事に貢献している。

ただ、この近辺は野球観戦後のファンが食べ歩く好立地でもあるのでそれに比べれば少ないだろうけど。

それでも総額2千万円をポンと出すことで一般の人にはそれなりに効果があるようだ。


会場に到着してから周りから聞こえてくる声からもそれは伝わってくる。

どうやら既に店を予約していたり目当ての店舗もあるようだ。

人によっては旅行に出て色々な人にお菓子などをお土産に買って帰るのを楽しみにしている人も居るので今から何を買おうかと考えている人もいる。

俺達はそんな人たちの間を通り抜けると指定された場所へと向かって行った。


「この扉みたいだな。」


俺達は人込みを抜けると通路を進んでその先にある番号の書かれた扉の前にやって来た。

当然いつものメンバーは全員が同じ場所を指定されているので一応はノックをして中へと入って行く。

するとそこは何やらVIP専用のような雰囲気を醸し出しており、横にはバーが併設され、そこではバーテンダーが控えている。

どうやら部屋を間違えてしまったらしく軽く頭を下げて扉を閉める事にした。


「すみません。間違えました。」

「間違えではありませんよ。ユウキ家の方々、シンドウ家の方々、クラタ家の方々ですね。どうぞ入られてご自由にお寛ぎください。飲み物も自由に頼まれても構いません。」


俺はそう言って出ようとするとそこに居たバーテンダーから声が掛かった。

どうやらこの部屋で間違いはないみたいだけどツクモ老に指定された場所がこんなにも豪華だとは思わなかった。

バーの他にも窓辺はガラス張りでその手前には俺達が座れるだけのソファーが準備されている。

そこに座ればグラウンドの中央に設置されているステージを見る事が出来るので確実に特等席と言えるだろう。


しかも、その周りには報道陣が取り囲んでおり撮影の準備を行っているようだ。

そういえば、この学園は今年からダンジョンに関する活動を取り入れると言う事でテレビや新聞ではそれなりに騒がれている。

その中ではもちろん、賛成派、中立派、反対派と幅広く存在し、お昼などのニューストークでは激しい論争が繰り広げられていた。

ただ、日々の中で報道されている世界情勢や、年末に起きた魔物の被害で反対派はかなり少ない。

殆どが今の状況に危機感を抱いている賛成派か、日和見の中立派が占めている。

まあ、この国では被害が殆ど出ていないのでそう言った人たちが現れるのも仕方ないだろう。

彼らが本物の魔物を前にして何処まで反対を貫けるのかが見てみたいものだ。


そんな事を考えながら部屋に入った俺達は入学式の開始までしばらく寛ぐ事にした。

そして、さっきのバーテンダーの言葉に甘えて飲み物を注文する事にする。


「俺はコーラで。」

「私はメロンソーダを下さい。」

「なら私はジンジャーエール。」

「それなら私はリンゴジュースをお願いします。」


それ以外だとお酒を飲んで良いメンバーはアルコール入りのカクテルを注文し、父さん達はソフトドリンクを注文する。

お酒を飲まない人は親族というよりも学校関係者としてこれに参加するからだ。


そして、しばらくすると部屋がノックされ、8人の人物が部屋に現れた。

しかし、その内の5人は顔見知りであるので恐らくは護衛にでも付いているのだろう。

何て言ったか3人ともテレビで見た記憶があるんだ話せば教えてくれるだろう。


「こんにちはアンドウさんツバサさん。それとハジメさんにシンジさんにヒフミさん。今日はお仕事ですか?」

「そんな所だ。それとお前の為に紹介をしておくが、こちらの方は右から総理大臣の上村カミムラさんだ。忘れない様にしておけよ。」

「なるべく気を付ける。それにしても総理大臣が何しに来たんだ?」

「ハハハ、聞いていた通り動じない子だね~。まあ、顔合わせと言った所だよ。君たちのおかげで今の日本があるからね。それよりもアンドウ君。こちらの御2人のご紹介を先にお願いするよ。」

「分かりました。」


そう言ってカミムラさんはその場から離れると俺達の前には中年の男女が残された。

ただ、もう少しで思い出せそうなんだけど、アンドウさんも俺が思い出すのを諦めたのか溜息と共に紹介を始めた。


「こちらが現天皇陛下と皇后陛下の御2人だ。パレードの時に全国一斉放送をされていただろ。」


そう言えば数年前にそんな事もあったなと記憶の片隅に浮かんで来た。

あの時はどのチャンネルに変えてもパレードの事ばかりを放送していたので困ったような気がする。

それに興味が無かったのでそのまま取り溜めしておいたアニメに変更していたので一瞬しかその顔を見ていない。

何処となく覚えていたのはその後のニュースなどで時々見ていたからだけど、これに関しては言わない方が良いだろう。

ただ、恐らくだけど知らないのは俺だけか、ハルアキさんも時期的には言って微妙な所だ。

それに失礼に当たろうと俺は彼らに対する礼儀作法なんて知らないのでいつもの調子で話す事にした。。


「こんにちは。俺がユウキ ハルヤです。」


すると周りはそれに続くようにして自己紹介をしていく。

ただ言葉の前には必ず一礼していたのであれが最低限のマナーなのかもしれない。

そして自己紹介が後半になりリリーの番がやって来るとアイツは犬の姿で2人の前に行き顔を見上げて口を開く


「リリーよ。」


その直後には天皇夫妻だけでなく少し離れた所に立っている総理のカミムラさんも驚きの表情を浮かべている。

もしかするとまだあそこまで報告が来ていなかったのかもしれない。

そしてリリーはそんな彼らの顔を見上げながら言葉を続ける。


「そんなに驚かなくても噛みついたりしないわよ。特別に撫でさせてあげるから触ってみなさい。」


そう言っていつもの様にゴロンとお腹を見せると誘う様に前足をクイクイと動かす。

それにしてもやけに上から目線だけど神使だから見様によっては人間よりも上なのだろうか?

でも天皇の一族って神様の子孫とか言われてるけど良いのだろうかとここで聞いてみたい。


そして皇后さまが誘われる様に膝を折ってしゃがむとリリーのお腹ら優しく撫で始めた。


「とても滑らかね。」

「いつもパパさんが綺麗にしてくれてるからよ。それにアナタの撫で方も上手だわ。」


なんだかこう見ていると近所のおばちゃんとそんなに変わらない。

何処か御国の女王陛下とも仲が良いようだし、きっと犬の扱いにも慣れているのだろう。


「フフ、家にも犬の家族が居るもの。あの子は我儘だからこんなに撫でさせてくれないけど。」

「それなら私が今度ガツンと言ってあげるわよ。いつでもウチに連れて来なさい。」

「それなら本当にお願いしちゃおうかしらね。」


そう言って緊張が解けたあたりでリリーは立ち上がり、今度は人の姿に変身する。

その様子に再び驚きながらも今度は軽く笑うに留めているので中々に肝の太い方々の様だ。

そして、リリーがそのまま下がると最後にユカリが前に出て来た。


「我は神の一柱。今はユカリと名乗っておるのじゃ。」


すると今度は天皇陛下が前に出てきて対峙し自身も名を名乗る。


「私は健仁カツヒトといいます。こちらは妻の優子ユウコです。お目に掛かれて光栄に思います。」

「そんなに畏まらなかくても良いのじゃ。我は小さな神じゃから大した存在ではない。頭の片隅にでも覚えてくれていれば良いじゃろう。」

「いえ、アナタのおかげで日本は大きく救われたと聞いております。ですから皆を代表して感謝の意を捧げさせていただきます。」

「分かったのじゃ。それならありがたく受け取る事にしよう。それと知っておると思うが我らは人の世に干渉できるだけの余裕がない。これからもこちらの事は任せたのじゃ。」

「お任せください。微力ながら尽力いたします。」


するとそこで丁度良く放送が掛かり、もうじき入学式が始まる事を知らせてくれた。

俺達は揃って窓辺に移動するとグラウンドに設置されているステージへと視線を向ける。

それにどうやらここは彼ら3人の部屋でもある様なので、どうしてこんな所を指定されたのかが分かった。

恐らく今回は俺達との交流が目的だったのだろう。

家に来ようにもあそこはすぐ傍にダンジョンがあり、危険なのでお偉いさんが来るには不都合がある。

今日は皆揃ってあそこから離れてここに集合しているので丁度良かったという訳だ。

それなら最初から言ってくれていれば良いのにサプライズにするにしても相手を考えてもらいたい。


すると俺のスマホが音を鳴らしたので、その場を離れて外へと出た。

ちなみにマナーモードにしていないのは緊急時にちゃんと気付けるようにするためだ。

だからあの部屋でマナーモードにしているのは戦いに関わらないアズサとアイコさんくらいだろう。

今日に合わせてかなりの魔物を狩り尽くしているとはいえ、不測の事態は十分に考えられる。

そしてスマホを取り出して表示されている名前を確認すると、どうやらツクモ老からコールが掛かているようだ。

俺は画面を操作して通話にするとこのタイミングで何の用だろうと思いながら耳に当てた。


「何か御用ですか?」

『うむ。もう挨拶は済ませておるな。』

「そちらは滞りなく終わらせています。」

『ならば今日のデモンストレーションに付き合え。儂が恒例の出し物を済ませたタイミングで合図を送るのでステージに出て来い。』

「それは良いですけど何をさせるんですか?」

「来てからのお楽しみじゃ。それでは待っておるぞ。」


そう言って時間がない為に一方的な感じで通話が切れたけど、サプライズは今も継続中のようだ。

俺は首を傾げながらスマホを仕舞うと部屋に戻ってステージへと視線を向ける。


「誰からの電話だったの?」

「ツクモ老から。デモンストレーションをしたいから出し物の後で来てくれってさ。」

「そうなんだね。あ、そう言えば毎年瓦割を出し物にしてるそうだからその後なんじゃないかな。」

「瓦割?」


あの歳で元気な爺さんだと思うけど、俺の骨を素手で圧し折った人だから20や30くらいなら余裕で粉砕しそうだ。

でも、今年はいったい何を破壊するつもりなのか予想も出来ない。

いまのレベルは知らないけど明らかに強くなってるはずだから瓦どころか石板でも壊せるはずだ。

そう思っているとツクモ老が姿を現し、高さ2メートル程のステージへと軽く飛び乗ってマイクを構える。

それだけで会場からは軽いドヨメキが生まれていいるけどスピーチが始まると全員が口を閉じて周囲は静けさを取り戻した。


「全員、我が学園に良くぞ合格した。儂はお前達を歓迎しよう。」


そして、しばらくは普通の話が続くとようやくダンジョンの話題に移っていく。

それには周りも興味があるらしく、囁きが漏れ始めると瞬く間に会場全体が騒めきに包まれた。

しかし何らかのスキルか技術を使っているのか、ツクモ老の言葉は耳に届き意識へと浸透してくる。


「皆も知っておると思うが今年からダンジョンに関する活動を開始した。一部の者に限定されておるが興味があれば見学は可能じゃ。ただし、命の保証は出来んから覚悟して行動するように。」


父さん達はともかく俺は実戦的な訓練をする事になっているので巻き込まれたら命はないだろう。

別に死んだら生き返らせれば良いだけなんだけど死ぬほどの傷なら着ている服はボロボロになるのでそれだけは覚悟して来てもらいたい。


「それに皆も覚醒者については色々な情報が飛び交い、正確な事を知る者は少ないじゃろう。だから儂が少しだけその片鱗を見せてやろう。」


ツクモ老が合図を送ると周りからスタッフが集まりステージに掛かっている大きなカーテンを取り外した。

するとその下からはメートル四方のコンクリート塊が姿を現し、しかもそれが2列で8つ並べられている。

周りからはどうするんだという疑問の声と共に色々な憶測が聞こえてくるけど、おそらくその中に正解が存在するだろう。

毎年恒例で瓦割なんてしているのだから予想だけなら立て易いはずだ。


「それでは今年のデモンストレーションを始める。いくつか見せるので楽しんでくれ。」


そして今年のツクモ老による度肝を抜くデモンストレーションが開始された。

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