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86 出張

蘇生薬を使って生き返った彼らはそのまま勢いよく起き上がり首を擦った。


「生き返っ・・・てる。」

「当然だろう。それで、死ぬ直前の景色はどうだった。」

「最悪に決まってるだろうが!俺達は覚醒者だから一般人と違って首を斬られてもすぐには死ねねーんだよ!あの感じは2度と味わいたくねーよ!」

「それなら必ず生き返れる内に早く次の牙を生やすんだな。。」


コイツ等の上の気が変わって再び無謀な作戦をやらかす可能性は0ではない。

それに既に一度は行われており尚且つ見捨てられている前例がある。

日本に居る間はそういった事は無いけど俺の傍にどれだけ居られるかは分からない。

もしかすると俺が言わなくても、先走った部隊が返らなければ再びダンジョンに投入される事も考えられる。

その最悪に備える為にも少しでも戦えるようにしないといけない。


「それじゃあ第2ラウンドといこうか。」


その後1時間ほどで悲鳴は聞こえなくなり、代わりに力尽きた人間が地面に横たわっている。

ただし死んでいる訳ではなく本当に力尽きているだけで精神と肉体の両方を限界まで酷使させた結果だろう。

しかし、その代わりに終わりの方では生き足掻く良い攻撃をする様になっていた。

これならダンジョンに入っても自分と同程度の魔物までなら勝利を捥ぎ取れるだろう。


「終ったから飯にするか。」

「この光景を見て飯にしようって言えるお前が凄いぞ。」


確かに周辺には彼らの手足がダース単位で散乱している。

何故なら途中から拾って繋げるのが面倒になったので中級蘇生薬で落とした手足ごと再生させていたからだ。


「代わりに予備の手足が沢山出来たと思えば良いんじゃないか。なにせ元々が自分の手足なら繋げ直しても拒否反応は出ないはずだろ。」

「いや、お前もだけどさ。体が成長してるんだから無理じゃないか。繋げても違和感とかが残りそうだぞ。」

「・・・それもそうか。悪用されない様に後で処分してもらってくれ。それよりも飯にするぞ。お前らのせいでカニが食えなかったんだ。その埋め合わせはさせてもらうからな。」

「とは言ってもここには碌な食い物はないぞ。それに生鮮食品を持ってるのはそこに寝てる6人だ。起きるまでは水と乾パンくらいしか出せないぞ。」

「何・・・だと。」


そう言えばコイツ等はまだ来たばかりのようでテントが幾つか見えるけどやりかけの所もある。

きっとダンジョンに入って行った部隊の代わりにコイツ等が準備を整えていたんだろうけど、それを俺が邪魔をした形なのでこれは仕方が無さそうだ。


「それなら乾パンをくれ。バターと飲み物はあるからそれで我慢する。」

「ああ、すぐに取って来る。でも、後悔先に立たずって日本のことわざはこういった時に使うんだろうな。」


するとアーロンは溜息をつきながら難しい言葉を残してテントの方へと歩いて行った

もしかしてアイツは俺よりも日本語に詳しいのかもしれない。


そして更に2時間ほど経過して0時を過ぎたあたりで倒れていた6人が目を覚まし始めた。


「ここは・・・わあーーー!!」


すると目を覚ました最初の少年が先程までの訓練を思い出して叫びをあげ、それに驚いた他のメンバーも飛び起きて足元に落ちている武器を構える。


「て、敵は何処!?」

「もう死にたくねえ!」

「あのクレイジー野郎がー!今度こそぶっ殺してやる!」


どうやら俺の教えはしっかりと身に付いている様だ。

しかし敵(俺)が居ないのを確認するとホッと息を吐き出してその場に腰を下ろしている。

するとそんな彼らにアーロンが歩み寄って声を掛けた。


「目が覚めたみたいだな。」

「ア、アーロンさん!あの悪魔はどうしましたか!?」

「悪魔って・・・まあ呼び方はどうでも良いけどよ。アイツからの伝言で飯を食わせろだそうだ。嫌なら訓練を再開するって言ってるぞ。」


すると彼らは勢いよく立ち上がると作りかけの炊事場へと走り出した。

その途中にキャベツなどを取り出して運ぶ姿はまさにプロのラグビー選手を彷彿とさせる。

そして炊事場に到着すると竈や調理台を設置して料理を始め、30分ほどで俺の前にあるテーブルには焼けた肉や炒めた野菜にスープなどが並ぶ。

かなり手慣れていたので彼らが主な仕事で何をしていたのかが分かる。

いくら余っているとは言っても覚醒者の無駄使いも良い所だ。

まあ、それは置いておくとしてやっと乾パン以外も食べる事が出来る。


「それじゃあ有難く頂こうか。」

『『『ゴクリ!』』』


しかし、何故か向かいに座っている彼らからは途轍もない緊張が伝わってくる。

目も血走っているし普通の神経ならこの状況で食事と言うのは遠慮したいだろうけど俺は普通の神経ではないので気にせずに食べさせてもらう。

まずはこの肉汁が溢れている厚切り肉からだな。


適度なサイズにカットされた肉には紫玉ネギでも使ったのか鮮やかな色のソースが掛けられている。

俺はそれを口に入れて即座に感想を口にした。


「これは食材に対する冒涜か?」

「し、仕方ねーだろ。ま、まだ俺達も習いたてなんだよ。」


しかし肉は良いのにソースが不味い。

苦くて辛くて以前にも何処かで口にした事のある様な味だ。

ただ俺も料理が出来るとは言い難いのでソースを避けて食べる事にする。

それに普段からアズサたちの手料理を食べる内に舌が肥えてしまったのかもしれない。


「そういうことなら仕方ないか。」


そして、次に手を伸ばしたのは紫色をした野菜炒めだ。

こちらは紫キャベツや紫芋でも使って作ったのか見方によっては鮮鋭的な料理と呼べない事もない。

なんだか昔見たSF映画でこんな食べ物を異星で振舞われていた気がするけど見た目だけで判断するならとても美味しくなさそうだ。

しかし作らせた以上は食べない訳にもいかないので野菜を口に入れて味わうと再び感想を口にする。


「これは地球の食べ物じゃないだろ。」

「な、何言ってやがる!ちゃんとこの星に存在する食材を使ってるぞ!」

「そうか。」


しかし星とはスケールがデカい返答をしてきたな。

俺に合わせた冗談かもしれないけど、スーパーマーケットとかその辺の言葉が出て来ると思ってたのだけど。

それとも本当はどこか秘境から入手して来た食材なのかもしれない。

そう思うとなんだか貴重に思えて来るから不思議な気分だ。


そして最後はスープへと手を伸ばしたけど、これに関して言える事はまず赤い。

どれくらい赤いかと言うと完熟したトマトの色よりもまだ赤い。

もしかしてこれはさっきの意趣返しだろうか。

まあ、赤いからと言って今までに肉や炒め物を口にしているので、これだけ食べない訳にはいかないだろう。

俺はそう思ってスープを口を近付け一口啜ってホッと息を吐き出すと苦笑を浮かべて感想を告げる。


「最後になってやっと当たりか。これは誰が作ったんだ。」

「わ、私だけど褒めても何も出ないんだからね!」


すると彼らの中では紅一点の金髪少女が声を挙げており、彼女には料理の才能があるようで味で言えば比べるのも失礼だ。

この味なら手料理で男の心を掴む事も容易いだろう。

まあ、あのツンデレ口調を何とか出来ればの話だけど、見た目は雑誌モデルの様に良いので今のままでも需要はありそうだ。。


「何よ!」

「いや、美味しかったと言おうと思って。」

「知らないわよもう!」


そう言って彼女は立ち上がるとテントから逃げる様に出て行ってしまったので、もしかすると褒められ慣れてないのかもしれない。


「お前らも美味しい物を作ってもらった時にはちゃんと感謝してるのか?」

「飯は食えれば良いだろ。」

「そうだぜ。それよりも何か変化は無いのか?」


そう言って男5人は俺の体調を執拗に聞いて来る。

別にさっきまで感じていた胃のムカムカや舌が痺れるような感覚はスープによって洗い流されて綺麗に消え去っている。

もしこれで順番が逆なら問題があったかもしれないが、今は体も温まり目も冴えて眠気も吹き飛んでいるので問題はない。


「特にこれと言って何も無いと思うけどな。」

「体が痺れたりとかしないか?」

「腹が痛いとか気分が悪いとかあるだろ。」


俺は言われて腹を擦ったり体を動かして確認してみる。

しかし、これと言って変化がないので首を横に振った。


「何もないぞ。もしかして毒でも入ってたのか?」

『『『『『ギクッ!』』』』』


すると彼らの視線が明らかに泳いで図星を突かれた事を示し、作った料理に毒を混入したと知らせてくれる。

そうなるとこれは肉や野菜を作った生産者の人達に対する冒涜と受け取っても構わないだろう。

それを償う機会も彼らは自分から用意しているのだけど、もう1人も共犯なのだろうか?

すると、さっき出て行った少女がテントへと戻って来てその光景に首を傾げる。

どうやら仕掛けたのはそこの5人だけのようで、あちらは関知していないようだ。


「アナタ達は何をやってるの?」

「助けてくれ!毒殺される!」

「何で足が動かねーんだ!」

「逃げられねー!」


俺は料理に付いての説明を彼女にすると微妙な顔を彼らへと向ける。

なんだか呆れている様なちょっと怒っている様なそんな表情をしており、彼女も心を鬼にして俺が思っているのと同じ事を口にした。


「責任を持って全部食べなさいね。5人も居るのだから1人分を完食するなんて簡単でしょ。」

「裏切り者ーーー!」

「1人だけ助かりやがってーーー!」


すると彼女はそんな罵倒をスルーして俺の手元に視線を向けて来る。

そう言えばスープだけは既に完食しているんだった。


「御代わりもあるわよ。」

「ん~なら貰おうか。アーロンも食べたらどうだ。赤いのを気にしなかったらかなり美味いぞ。」

「そうか。それなら俺も飲んでみるか。お前が絶賛する味がどんな物か興味があるからな。」

「なら私のも含めて3つ持ってくるわね。それと温め直すから少し待ってて。」


そう言って彼女は俺のカップを受け取り嬉しそうにテントから出て行った。

しかし俺には彼女が戻って来る前にやるべき事がある。

まずはテーブルに置かれたフォークを手にすると肉を先端へと突き刺して彼らへと迫りニヤリと笑みを浮かべた。


「それじゃあ夜食の時間だ。」

「や、やめろーーー!!!」

「ヘルプ ミーーー!」


俺は彼らの口に毒入り料理を無理やり押し込むと飲み込むまで口を塞いだ。

するとほどなくして動かなくなり、不動の魔眼を解くとその場に倒れて痙攣を始めた。


「まあ、これで料理は片付いたな。」

「スープ持って来たわよ。」


そう言ってカップを3つ持った少女がテントへと戻って来る。

その視線は一瞬だけ倒れている少年たちへと向けられたけど、すぐに外され俺とアーロンを捉える。


「ハルヤが美味いって言うスープを頂くか。」

「味は保証するぞ。」


そして一連の事を見なかった事にしたアーロンはカップに口を付けてスープを飲み始めた。

すると1秒もしない内にその顔は驚愕に彩られ、口を押えて外へと駆け出して行く。


「辛~~~~~!!」


その叫びは周囲へと木霊し少し離れた所にある民家では驚いた人が起き出したようで灯りが点き始めている。

どうやらこのスープは色に違わず激辛スープだったみたいだけど、少女を見ると美味しそうに飲んでいるので別に俺への仕返しの為に辛くした訳ではなさそうだ。

そう言えば舌に辛味を感じる味覚は無いと以前に漫画で読んだ事があり、あれは味ではなく痛覚を通して受けている痛みなのだそうだ。

俺は痛みへの耐性が高いのでいつの間にか激辛料理も平気で食べれる様になっていたのだろう。

以前は辛い物が苦手で殆ど手を出さなかったけど、機会があれば激辛ラーメンにでも挑戦してみても良いかもしれない。

帰ったらアズサたちにも味のバリエーションが広がった事を伝えて料理に取り入れてもらおうと思う。


「そう言えば、まだ名前も知らなかったな。」

「今更ね。私達はみんな知ってるのに。」

「そうなのか。俺は覚醒している事を除けば何処にでもいる並以下の一般人だぞ。」

「フフ。アナタが自分で思っているよりも周りから見られてるのよ。それと私の名前はドロシーだからこれからよろしくね。セ・ン・セ。」


するとドロシーと名乗った少女は柔らかな笑みを浮かべて俺に先生と言って来る。

正確には違うんだけど呼び方なんてどうでも良いだろう。

そして俺は彼女の先生となった事で1つの課題を取り出した。


「それじゃあ、ドロシーも耐性訓練に入るか。これは俺とアーロンもした訓練だがコイツ等の様子から見ると毒耐性と麻痺耐性は持ってないだろ。上手くやれば30分程度で習得出来るから頑張ろうな。」

「・・・はい。」


そしてドロシーは観念すると俺に手を差し出してきた。

道具は準備済みなので自分でも出来ると思うのだけど、最初だから勇気が出ないのだろうか?


「どうしたんだ?」

「自分でするのは怖くて。だから手伝ってほしいの。」


頬を染めて恥ずかしそうなので子供みたいな事を言っている自覚はあるのだろう。

俺は仕方なくドロシーを椅子に座らせえるとナイフを手にして2つの毒を塗り付けた。


「そんなに少量で良いの?」

「沢山塗ってもそいつ等みたいになるだけだぞ。」


今も足元では毒と麻痺によって動けずにピクピクしている少年たちを見てドロシーは納得して頷きを返す。

毒の量による耐性習得の速度は測った事は無いけど今回のケースは良いデータになるだろう。

これで時間があまり変わらない様なら毒を受けた時間で耐性を獲得していると言う事になる。

後は強化のために定期的に毒を体内に取り込んいけば良いだけだ。


「行くぞ。」

「う、うん。優しくしてね。・・・あ・・もう少し下で。」

「この辺か?」

「そう、そこよ。そこに刺して。」

「行くぞ。」

「・・・イタ!」

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。そのまま続けて。」


そして真面目に先生らしいことをしていると外からアーロンが血相を変えて戻って来た。

もしかしてダンジョンで何か問題が発生したのかもしれないので俺とドロシーは揃ってアーロンへと視線を向けた。


「お前らこんな所で何やってるんだ!」


何をと言われても少し早い課外授業だ。

これを見て他を連想するなら手相占だろうか。

ただ、占いで相手の手を取る事はあってもナイフを握る事は無いだろう。

すると俺達の姿を見てアーロンは呆然と立ち尽くし、理解が出来たのか頬を掻いて背中を向けた。


「な、なんだ。毒の耐性を習得してたのか。」

「お前もあっちでやったろ。他に何だと思ってたんだ?」

「ハハ、何でもねーよ。」


そう言って置いてある椅子に座ると大きな溜息を吐いた。

よく見るとその唇は赤く腫れている様に見えるので、一口であれならあのスープはそれだけ辛かったと言う事だ。

これは後日に食べる激辛料理に期待が持てそうなので、ネットでも近隣の店を確認しておこう。


その後は暇な時間を使ってアーロンとドロシーから足元に倒れている5人の事を教えてもらいながら時間を潰した。

どうやら俺に一番突っ掛かり、コボルトのボスと戦った少年はカーベルと言うらしい。

そして唯一の魔法使いがワウル。

二刀流のナイフ使いがキール。

ドロシーは剣を使い、ケリルとルクスという2人の少年と一緒に前衛を務めているそうだ。

まあ、実際に蟻との戦いを見ていたしその前にも映像は見させてもらっている。

技術が高そうなのはナイフ使いのキールで蟻の頭を切り落とした時の動きは見事だった。

それ以外のメンバーは似たり寄ったりなので俺とあまり変わらない感じだ。

職業を得ればかなり変わるだろうけど恐らくはレベルも15程だろうからまだまだ先の話になる。


そして腹も少しは膨らみ、スープのおかげで体も温まって来たのでそろそろ行動を起こす事にした。


「アーロンそろそろ良いか?」

「俺はいつでも行けるぜ。」

「ドロシーはコイツ等の面倒を頼む。耐性を獲得たら今日は休んで良いからな。」

「分かりました。私に任せてください。」


俺とアーロンは椅子から立ち上がると最後に装備を確認してからダンジョンへと向かって行った。

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