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77 車の免許 ①

ユカリは右から一人一人、分かり易い様に3人を紹介し始めた。


「こっちのゴッツイのは毘沙門天と言ったら分かり易いかの。大黒天と一緒にお前たちのスキルで戦闘に関する物を担当しておる。ちなみに最近の趣味は日本の漫画やふぁんたじい小説とかいうものらしい。」

「紹介してもらった毘沙門天だ。お前らの事は見せてもらっておるからこれからもしっかりと励めよ。それと儂の趣味を勝手にバラすな。この国には個人情報保護法と言うものが出来ておるのを知らんのか。」


なんだか凄い現代人っぽい神様だけど、趣味がそれで良いのか?

でも最初から思っていた事だけど、どうしてスキルとかが俺の良く読むネット小説に似ているのか分かった気がする。

するとユカリは毘沙門天様の言葉を丸っと無視して次の紹介に入った。


「こちらは皆も良く知る七福神で有名な恵比寿じゃ。弁才天と共に魔法と言った異国の体系を取り入れたり、職業や称号も管理しておる。ちなみに、コイツは極度のげいむおたくでな。時々、無駄に細かく設定された職業や、意味のない称号を取り入れて我らも困っておるのじゃ。」

「こら!現世でリアルバレするような事を言うでない。儂の家に誰かが押しかけてきたらどうする!」


確かに普通に現代用語を使いこなしてるな。

しかし、神の領域に普通の人は押しかけて来れないだろう。

それどころか神社としては参拝客が増えて大助かりじゃないのか。

でも母さんが選んだテイマーが無駄に細かい説明がされていたのはそれが原因か。

そして俺に送られた全く意味のない厨二戦士の称号はコイツが犯人と言うことで確定だろう。

ただ、下手に傷を広げたくないので今は何も言わないでおく。


「そして、こちらは平将門じゃな。神では無いが良く働いてくれるので彼らの補佐をしておる。ハッキリ言ってこの3人の中では一番の常識人じゃ。」

「その様な本当の事を言っては御二人に叱られますよ。」


そう言って将門様は首を浮かせて笑い始めたけど、それを聞いて他の2人は立ち上がると首を掴んでドッチボールを始めてしまった。


「お前は補佐のクセに生意気なんじゃよ!」

「主を立てる気概を持たんか!」

「お、お止め下さい!目が回りまする~~~!」


それにしても何とも面白い方々だけどユカリも止めようとはしないのでいつもの事なのだろう。

そして遊び終わった彼らは再び席に戻り盃を手に取った。

ちなみに将門様は完全に目を回してしまい部屋の外でグロッキーになっている。

盛大に滝の様な音がするので見に行かない方が良いだろう。

でも、頭と体が切り離されているのにどうやってリバースしてるのやら

それに新築なのにいきなり汚されてユカリが少し頬を膨らませている。

まあ、神様なら手も触れずに綺麗に出来るだろう。


「それでは今日の儂らは様子を見に来ただけじゃからボチボチで帰らせてもらうわい。」

「そうだな。これからも頑張るのだぞ。」

「応援しておるぞゾゾ~~~!」

「・・・任せるのじゃ。」


そう言ってユカリは3人に手を振ってこの空間から出て行くのを見送った。

それにしても嵐の様な方々だったけど傍に居るだけでその気配に鳥肌が立つ思いだった。

恐らくは邪神とはあれよりもずっと強大な存在だろうから今の俺達では相手にもならないだろう。

そしてその後もパーティーを続け、料理が無くなると終了となった。


「ユカリはどうするんだ?」

「我は・・・ここを片付けてから行くのじゃ。庭を汚した馬鹿もおったのでな。」


すると最近は明るい笑みの多かったユカリの顔が珍しく曇る、と言うか歪む。

やっぱり将門様のアレは、かなり気にしているようだ。


「まあ適当に片付けて出て来いな。」

「分かっておるのじゃ。」


そして俺達は外に出るとそれぞれにやる事を始めた。

俺も学園に雇われた以上はこれからの教育計画を提出しないといけない。

ただ、あの後に九十九理事長から連絡があり、篩にかけるため最初は厳しく命がけの訓練を希望された。

父さんズの3人は別として俺は厳しく指導しなければならない。

まあ既に俺の担当する者に関しては死亡しても本人の責任であるという誓約書と直筆の念書(遺書)を書いているそうなので問題は無いらしい。

それにどれだけ残るかはその人たち次第だろう。


なにせ日本だけで言えば、助けた者の中で覚醒者となる事を選んだのは俺達を除けば1パーセント程しかいない。

なので、もし100人集まったとしても1割残るかどうかだと俺は思っている。

それなら最初に厳しさを知って脱落する者を選別した方が良いという考えだろう。

まずは希望者を集めてダンジョンにでも放り込むか。


そして俺はノートパソコンでそれを打ち込むと何故かアズサからストップがかかった。


「ちょっと待って!それは少し厳しくない?」

「いや、一度死んで心が折れるなら要らないだろ。倒せるようにはお膳立てするけどそれで倒せないなら後になって苦労するだけだ。」


俺の知る後天的な覚醒者の殆どは大きな覚悟を持って魔物との戦闘に参加していた。

遊び半分や思い付きだけで来られると後で足を引っ張るかもしれない。

それに一般人から後天的に覚醒した者の例が少なすぎる。

もしかすると覚醒出来ない者だって居るかもしれないので、その辺を説明すると何とか引き下がってくれた。

ただ、最初は厳しくと言う事なのでアズサの意見は却下したけど、後の訓練などに関しては大事な良心として取り入れておく。


「ちょっと驚いたけど後は普通にするんだね。」

「定期的にダンジョンへは入るけどな。そうしないとレベルを上げて強くなれない。外での訓練はあくまで体の性能確認と追加の肉体強化訓練くらいだよ。」


そして、それを理事長に送信するとすぐに承認の許可が下りた。


「この学校に入学して私大丈夫かな?」

「まあ、俺も居るしアケミとユウナも居るから大丈夫だろ。」


そして父さん達は幼い子供にも教育を行うため、そこそこ苦労している。

遊びを取り入れた訓練やトレーニング。

日を跨いでジムの人にも相談して内容を考えている。

あちらをもし担当していたら俺は途中で挫折していただろう。


そして更にその数日後、俺にとっては一つのイベントがやって来た。

俺が居るのは家から少し離れた車の教習所で、ここで今日は最終試験が行われる。

その試験にパスすれば晴れて実技を終了し、後は免許センターでペーパーテストを受けるだけだ。

ただし問題があるとすれば今日の試験官がこの教習所では人気の最も無い人物である事だろう。

名を坂口サカグチと言って、見た目は白髪で顔は人よりもゴリラに近い。

今どきでは珍しく情熱と熱血を持って指導に当たっていて、俺と同じ年代は付いていけない程だ。

しかし指導が厳しいと言っても車を常識的に動かせば合格となって判子をくれる。

なので俺にとっては普段から好んで指名する教官の1人でもある。


問題があるのは俺ではなく班を組んでいる2人の男の受験生だ。

ここの最終試験は3人で班を作って行われ、コースを事前に自分達で決定して行う。

幾つかの事前の取り決めはあるけど交通マナーを守り、出発点からゴールまでを無事に乗り切れば終了となる。

しかも普段の練習走行で使う街中ではなく、近くの工場地帯で行われる事になている。

ここは小さな工場が区画整理された状態で立ち並び、碁盤の様に綺麗に道路が並んでいるのでとても走りやすい。

ただし道路標識などが多いため、見落としてしまうと減点され、一時停止や一方通行を守らなければ即失格もあり得る恐ろしいコースとも言える。

ある意味で言えば教習所にあるコースをそのまま巨大化させたような所なので基礎の確認には打って付けだ。

そして俺達は互いに集まってどういったコースで走るかを話し合った。


「まずは俺から走るよ。」


まずは俺が最初に走ると手を上げた。

最初の運転手は車を工場地帯まで運ばなければならず、もしそこでミスをしても失格にはならなくても大目玉を喰らうのは確実だ。

心象も悪くなるので他の2人は快く譲ってくれた。


「なら2番手は俺だな。この辺にスタートを持って来てくれないか。」


決められているルールは右左折と1500メートル以上の走行距離を出す事だ。

そして、2番手の男が言った場所は丁度それくらいで、交代した後にでもすぐに課題がクリアーできる地点だ。

後は距離を走って駐停車禁止でない区間に移動し運転を変わるだけだ。


「なら、お前の停車位置はここで頼む。」


そう言って指定したのは多目的グランドの横にある道路脇の駐車スペースだ。

ここなら片側1車線の長い直進なので問題はないだろう。

週末はグランドを使用している人の車が多いけど、今日は平日なので大丈夫なはずだ。


「よし、後はここをゴールにすればお終いだな。」


俺達は計画を決めるとサカグチさんにそれを見てもらって確認をしてもらう。

そして、ゴーサインを貰うと揃って車へと乗り込んだ。


「良ーし!それじゃあ出発するぞテメー等!」

「「「おーーー!」」」


テンションを合わせるのが大変だけど、この人の出発はいつもこんな感じだ。

大抵の人が一度は一緒に走っているため返事に戸惑いはない。

ここで落ちれば再び高いお金を払って受け直さないといけないとなれば気合も普段とは違うものになってくる。


そして俺達は無事に目的のエリアに入りエンジン停止の状態から試験を開始した。


「ユウキ!今日が最後と思って気を抜くなよ!」

「はい!」


俺は強く掛け声を返してハンドルを握るとエンジンをスタートさせた。

そしてミラーや後方を目視確認してから車を走らせ始める。

順調な走り出しと交通量の少なさが幸いして無事に課題をクリアーし、車を停車させてから周囲を確認して車を降りる。

ここで気を抜くとこの人は容赦なく減点するので注意が必要だ。


「よし、お前は合格だ!次の奴、運転してみろ!」

「へい教官!」


そう言って慎重に周囲を確認して車から降りると俺と入れ替わって運転席へと座る。

ちなみにこの辺の行動も周囲確認として見られているので気を付けなければならない。

それでも俺が先に見せているので同じようにすれば良いだけだ。


そして、走り出して少しするとトラックの交通量が増え始めた。

恐らくはここのエリアにはゴミ収拾施設が幾つかあるため、ゴミを積んだトラックなどが戻って来たのだろう。

彼らの多くは仕事で急いでいるためマナーが悪く、煽り、きわどい信号での交差点の侵入などをしてくる。

しかし、それに耐えきった男はなんとか目的地へと到着した。


「ふ~何とかなったな。」

「気を抜くなよ。交代するまでが試験だからな!」

「は、はい!」


周囲をしっかり見て扉を開けないと後ろから来たトラックに扉をぶつけるかもしれない。

そうなれば試験どころか命も危ないので注意が必要だ。

それに交通量も多いので俺の時よりも難易度は若干高くなっている。


そして、車から無事に下りて移動した所で試験官から声が上がった。


「よし、お前も合格だな!これからも気を付けて運転しろよ!」

「はい!」


まだ最後の関門のペーパーテストが残っているけど教習所はこれで卒業だ。

無事に終わった男は胸を撫で下ろしてから後部座席に乗り込む。

しかし、最後の受験生の男はここに来て少し困った事態へとなっていた。

ここは長い直線なので車がかなりの速度を出しており、乗り込むチャンスがなかなか得られない。

時間を掛けても原点にはならないが、試験を受けているという思いが自然と心に焦りを蓄積させていく。


「サカグチさん、どうしますか?」


そして、このままでは無理をしてでも乗り込もうとしそうな男に助け舟を出す為に試験官へと判断を仰ぐ。

するとサカグチさんは助手席から降りると男へと声を掛けた。


「ここは危ないから乗り込む位置を移動させる。お前は助手席に乗ってろ。」

「は、はい!」


そう言ってサカグチさんは助手席から運転席に乗り込むとエンジンを掛けた。

そしてタイミングを見計らってアクセルを踏み込むと少し離れた場所へと車を移動させる。

恐らくはツキミヤさんならここで更に後ろタイヤを滑らせて反対車線へとドリフトターンを決めただろう。

しかし、サカグチさんはそんな事はせずに交通量の少ない所へと車を移動させた。


「ここから始めるぞ。」

「ありがとうございます!」


その後3人目も無事に合格となり、俺達は教習所から実技免除の証書を受け取った。

これが無ければ免許センターで再び実技試験を受けなければならない。

そして、それを受け取った俺達は互いに拳をぶつけて合格を祝い合った。


「それにしても、サカグチさんって意外に良い人だったんだな。」

「そうだな。俺は前回の実技中に判子を貰えなかったけど誤解してたみたいだ。考えてみればあの時の指導のおかげでクラッチ操作が上手くなったんだよな。」


厳しくされると誤解を招く事も多いけど、あの人は公道で俺達が1人で運転しても事故を起こさない様に真剣に指導してくれているだけだ。

それは何度もサカグチさんの教えを受ければ分かるけど、大半の人が誤解をしたままで指導を受けたがらない。

俺は精神の関係でそういう事が客観的に理解できるようになっているので問題ないけど、普通の人のウケは良くないだろう。


そして、俺達は試験を頑張ろうと励まし合ってから家へと帰って行った。

明日はとうとう俺の最も苦手とするペーパーテストになる。

ただ記入はマークシートなので俺でもなんとかなる・・・はずだ。

サカグチさんのおかげでその辺の事は運転しながらみっちり叩き込まれたから教科書を開いて覚えるよりもよっぽど覚えやすかった。


そして俺は家に帰ると必要書類を確認してベッドに入り込んだ。

しかし、すぐに叩き起こされてしまい目を開けるとそこにはリリーの顔がある。

何だと思って起き上がるとテーブルの上には一冊の本が置いてあった。

そして、それはどうやら問題集の様で正しい答えをチェックするタイプだと表紙に書いてある。


「もしかして一夜漬けをしろと?」

「ワン!」


どうやココにも鬼教官が居たみたいで机に飛び乗ったリリーは尻尾を鞭の様にして本をペシペシと叩く。

俺は仕方なく最近は使う事の無かった椅子へと座り本を捲ると1ページ目に紙が挟んであった。

それを見るとアズサ、アケミ、ユウナの連名で「頑張ってね。」と書いてある。

こうされては落ちる訳にはいかないので俺はやる気を出して栄養ドリンクの様に下級ポーションを口へと流し込んだ。


「やるか。」

「ワン!」


そして問題集を開き、厳しい戦いへと挑む事となった。


「ワウ!」

「イテ!」


間違える度にリリーの尻尾が俺の腕を打ってくる。

何気に魔法を纏っている尻尾は俺に十分な痛みを与えていた。


「お前本当に分かってるのか?」

「ワン!」


俺の問いに一声吠えたリリーは本棚から交通ルールが書いてある教本を取り出し、穴掘りの様にページを捲る。

そして、目的のページを開くとそこの文章を尻尾でバシバシと叩いて見せた。

どうやら俺の言葉はリリーのプライドを傷つけたみたいだ。

しかし、ページの示されているページを読むと、問題の答えとなる説明が書き記されていた。


どうやらリリーは俺が知らない間にこの教本を丸暗記しているようだ。

しかもページまで覚えているなんて凄い記憶力だと感服する。

俺には絶対に真似できないけど、この時をもって俺がリリーに知恵で負けている事が立証されてしまった。

最早リリーを犬と思うのは間違いなのかもしれない。


「ワン!」

「ハイハイ、分かりましたよ。リリー先生。」

「ワウ~~~。」


何でそこで胸を張りながら誇らしげに吠えるんだ。

もしかしてこれで俺に勝ったつもりなんじゃないだろうな・・・とは思いながらも口には出さずに夜通しで勉強を行った。

それで分かった事はこれをしなければ俺は明日の試験に確実に落ちていたという事だろ。

俺は問題集を準備してくれた3人に感謝を送り、勉強を見てくれたリリーには後日の肉を約束して無事に朝を迎えた。


「それじゃあ行って来るよ。」

「「「行ってらっしゃ~い。」」」

「ワ、ワウ~~・・・。『バタッ!』」

「「「リリーーー!」」」


どうやら日頃の疲れが出たのか、リリーは俺を見送ると同時に玄関で倒れてしまった。

昨夜はあんなに元気だったのに季節の変わり目とは恐ろしいものだ。

俺はリリーをみんなに任せて免許センターへと行くために駅へと向かって行った。

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