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76 意外な再会 ②

山の奥に進んで行くとそこには幾つかの民家が並んでいた。

そしてハルアキさんは車から降りると一つの家に向かい扉をリズミカルにノックする。

すると家の中から同じようにリズミカルな反応が返され、それが何度か続くと扉が開いた。


「組織の者だな。今日はどういった用件だ?」


そう言えばハルアキさんはこの日本を魔物から護っている組織に所属していると話してくれた事だある。

あちら側で覚えている人は居ないだろうけど接触の方法は知っているはずだ。

なのでここはその組織と繋がりのある場所と言う事になる。


「すまないが仕事を直接依頼したい。」

「分かった。話は中で聞こう。言っとくが俺の仕事は安くねえぞ。」

「知ってるよ。」


ハルアキさんは苦笑を浮かべると俺達を連れて家に入って行った。

そして扉を閉めると男を追いかけて奥へと進んで行く。

すると家の中は工房となっている様で木から放たれる独特の匂いが充満していた。

見るとそこには見覚えのある物も有り俺はそれに向かって鑑定を使用してみる。


「やっぱり依頼した長杖だな。エントの素材が使われてるし試作で作ったのか?」

「それは売りもんじゃねえから触るんじゃねえぞ!」


すると俺の行動に気付いた男が怒鳴り声をあげて注意をしてくるけど、渡した材料を使って横流しでもしてるんじゃないだろうか。

俺は魔眼を発動して男の動きを縛ると傍まで行ってその瞳を覗き込んだ。


「これは俺が渡した素材だよな。いったい誰に渡すつもりだ?」

「な!足が動かねえ。それに素材ってもしかしてお前があの木材を手に入れた覚醒者か!?」

「その通りだ。言えば怒らないから素直に話せ。」

「許してくれ!ちょっとした出来心なんだ!最近じゃあそんな立派な素材は手に入んねえから御守りで工房に飾っておこうと思っただけだ。」


どうやら売るのが目的ではなさそうだな。

その程度なら目くじらを立ててまで怒る必要はないだろう。

貴重な素材ではあるけどいざとなればここに予備が保管されていると思えば良い。


「そうか。ならもう一度この素材を加工して作って貰いたい物がある。」

「な、何でも言ってくれ!」


ちょっと脅し過ぎたのか男の目に涙が浮かんでいる。

それに後ろでハルアキさんも呆れてるし魔眼は解除してやろう。

すると途端に男は足から力が抜けてその場に尻餅をついた。


「金はちゃんと支払う。そして、依頼は神棚の作製だ。」


そう言って以前に武器などの荷解きをした時に一緒に入っていた残りのエント素材を取り出して渡した。

まだ半分ほど残っているのでこれだけあれば十分に足りるだろう。


「これで神棚を・・・まさか神を祀るのか!?」

「そうだ。ユカリも姿を見せてやってくれ。」


今のユカリは姿を消していているので人には見る事が出来ない。

しかし傍には居るはずなので声を掛けるとまるで蜃気楼が実体化するように姿を現した。


「我の住む家を頼めるか?」


すると先程まで怯えていた顔が驚きと輝きに包まれ、その場に座り直すと地面にぶつける勢いで頭を下げた。


「お任せください!俺の出来る最高の物を作らせていただきます。」


どうやらこの男は神を敬う心を持っていたらしく俺達に対する態度とは明らかに違いまるで別人の様に見える。

そんな男にユカリは優しく微笑むとその肩にそっと触れて姿を隠した。

すると男の目からは滝の様に涙が流れ出して力強く立ち上がりると拳を握りしめる。


「お任せくださいユカリ様!この身と命に懸けて最高の物を御贈り致します!」


そう言って男は奥に向かうと一つの神棚を手にして現れ、それを俺に突き出して来る。

先程のセリフからこれが完成品という事は有り得ないのでしばらくはこれを使えという事だろう。


「これを仮の宿にでも使って頂いてくれ。数日中には完成品を持って行くからよ。」


どうやら取りに来なくても届けてくれるみたいだ。

俺達もしばらく忙しくなりそうなのでこの気遣いはとても有り難い。


「分かった。それじゃあ完成したらこの住所まで頼む。」

「任せておきな。」


やる気が出たのは良い事なのでこの調子なら良い物が期待できるだろう。

それに神に捧げる物は気持ちが大事だと聞いた事がある。

俺達は提示された料金を全額前払いすると契約を済ませて家へと帰って行った。

そして家に到着するとユカリは再び姿を現して皆の待つリビングへと案内されていく。

するとそこでは女性陣が俺達の就職祝いとユカリの歓迎会の為に待ち構えていた。


「合格おめでとう。そしてユカリちゃん歓迎するわよ~。」


そう言って母さんが音頭を取って一斉にクラッカーが鳴らされる。

そしてユカリは飛んで来たリボンを全身に浴びて目を白黒させて驚きの表情を浮かべた。


「我は歓迎されておるのか?」

「当然でしょ。あなたは皆の命の恩人なのよ。」

「だからみんな感謝してるの。」

「俺達がこうして居られるのはアナタのおかげだからな。」

「自分の家と思って寛いでもらえると良いんだが。」


みんな口々にお礼を告げては笑顔を向けていく。

今までは直接伝える事が出来なかった思いが、こうして目の前に言うべき相手が居る事で

自然と溢れて来る。

俺も彼女に対しては感謝しかないので住んでもらう位は大した事ではないと考えている。

すると皆の感謝の気持ちを受け取ったユカリの姿が以前の様に汚れ一つない綺麗なものに変わっていった。


「皆の想いは確かに受け取ったのじゃ。おかげで以前の様に、いやそれ以上に力が湧いてくる。最初は不安じゃったがここに来て本当に良かった。」


そう言ってユカリも笑みを浮かべて返してくた。

昼間に見た無理やり作った笑みと違いまるで太陽を反射している様な輝きを宿した顔だ。

やっぱり無理やりにでもウチに連れてきたのは正解だった。


そして、その後は皆で楽しく食事をし、神棚を設置して終了となった。

するとユカリは神棚に手を合わせると光りとなって吸い込まれる様に消えていく。

仮の家なので他の物は揃えていないけど、それに関してはあちらで揃えてくれるそうだ。

なんでもあの辺にある家は全員が組織との繋がりがあり、祭壇などを作ることが多いらしい。

その関係で神具類もすべて揃えてくれるそうだ。

もしかすると数人で配達するかもしれないと言っていたので確実に複数人でやって来るだろう。

変なのは混ざってないと思うけどいったい何人で来る事やら。


ちなみにこの家の周りも少し前よりも様変わりしている。

幾つもの家が空き家になり、それらは国が買い取って駐車場にしたりアンドウさん達の拠点として活用されている。

何やら少し前に引っ越した横の家もゴソゴソやってる様だけど最近は忙しくてあまり気にしていない。


そんな事もあって数日が過ぎると、とうとうユカリの神棚が到着した。

ただし持って来た人は30人を超え、家に入ると方角を確認したり部屋の位置を確認し始める。

そして全員で会議を始めて最善の場所を決めると瞬く間に作業を完了させてしまう。

どうやら方角や間取りも関係ある様で、神棚は北を背にして取り付けられた。

更に酒、コメ、塩なども設置され、終了すると同時に全員が一斉に手を合わせて祈りをささげている。

その一糸乱れぬ動きにはまさに信仰を感じずにはいられず、それに答える様にユカリも姿を現すと彼らへと声を掛ける。


「この度の事、感謝するのじゃ。」

「喜んでいただけたのなら我らは他に求める事はございません。」


なら金を取るなと言いたいけど、それを言うとせっかくの良い雰囲気がぶち壊しになる。

それに金を要求させたのは俺なのでここで言うと藪蛇になりそうだ。

それに材料は持ち込んでおり全てを合わせても100万円も掛かっていないので大した金額ではない。


その後、ユカリは全員に手を差し伸べて相手の手を優しく包み込むと1人ずつに感謝の言葉を掛けていく。

それだけで感動に涙を流す者が続出し嵐の様に去って行った。


「これでユカリの住む所も問題なさそうだな。」

「そうじゃな。ならばまずは皆で新しく出来た我の住処を確認しに行くか。」

「俺達も中に入れるのか?」

「うむ。あの時の様に入り口を広げれば大丈夫じゃ。」

「それなら新築祝いに皆を呼んでパーティーをしましょ。」


母さんは嬉しそうに周りに告げると手際よく電話をかけ始めた。

まずは料理を担当するメンバーを集めて後はアンドウさんやツキミヤさん。

更にはオオサワさんにも電話を掛けている。

呼んでいるのはダンジョンに深く関わる者だけなので問題はないだろう。

そして昼の前には準備が終わり全員が集合していた。

人によっては酒や食べ物を持参し、ツキミヤさんは子供用にジュースやお菓子を買って来ている。

オオサワさんは大人用に高そうなお酒やお寿司を持ち込みリリー達には高級和牛を準備して来た。

アンドウさんとツバサさんは連絡の段階で揚げ物関係を担当して買って来ている。

きっと白い髭の生えた白服オジサンがトレードマークの店では店員がかなり苦労しただろう。

お金はこちらで持つとは言っておいたのだけど、2人で抱える程の量を購入して来た。

これだけあればクラタ家の2人も満足するだろう。

そして準備を終えると俺達はユカリに続いて中へと入って行く。

するとそこには以前とは比べ物にならない規模の空間が広がっていた。


「今度は広過ぎないか。」

「確かに自分でもビックリじゃが、ここを一人で使うには少し寂しそうじゃな。」


ハッキリ言って以前に行った事のある出雲大社よりも広い。

周囲の境界を白壁が覆い、巨大な平屋の屋敷の様な社が敷地内を走り回っている。

これだと案内板か地図があっても道に迷いそうだ。

それにいたる所に桜や梅の木々が満開の花を咲かせ、不浄を払うという桃の木が瑞々しい実をその枝に垂れ下げている。

更に空を見れば太陽は無いけど青い空に雲が流れ、まるで外にいるようで閉塞感を感じない。

それにしても材料がエントだからか、それともあの男の腕が良いのか知らないけどえらい違いだ。


「どうしてこんなに違うんだ?」

「それは元となる祭壇があるからじゃな。あの時はただ空間を作って住めるようにしただけじゃから。」

「まあ、大は小を兼ねるって言うしな。花も咲いてるし適当に花の見える部屋の襖を開けて宴会を始めるか。」

「そうじゃな。」


どうやらユカリ自身も予想外の結果に驚いている様だ。

しかし、そろそろ後ろのフードファイターを来しそうなので早く設置を終えて始めないと暴れ出しそうだ。

ただし一応は言っておくけど2人とも味見と称してそれなりに食べている。

それでも彼女たちにとっては一般人の一口程度なのか余計に腹を空かせてしまったらしい。

今にも何処かの人型決戦兵器の様に肉へ嚙り付きたいような目をしているので急いだほうが良さそうだ。


そして素早く準備を終えると酒が飲める者は酒を、未成年はジュースを手にして食事を始めた。

すると食事を始めて少しすると皆も落ち着いて来たので主役であるユカリが立ち上がったので何か言葉を述べるようだ。

彼女もここ数日でアズサとアイコさんの事を理解しているようで言葉よりも先に食事を先に優先してくれたらしい。

それでも食べながら、飲みながらでも皆は話に耳を傾けていた。


「今回は色々な者に助けられて感謝でいっぱいじゃ。我からは大した持成しは出来んが楽しんで行ってほしい。」


そして再度の乾杯の後に宴会は本格的に開始した。

俺もお腹が空いているので遠慮なく並んでいる料理へと箸を伸ばし、届かないとオウカが取って来てくれたりするのでとても有り難い。

それにこうしてみんなで集まるのは初めての事なので普段とは違う内容の話に花を咲かせ、それぞれに今の時間を満喫する。


しかし出入り口の方向から声が聞こえ、来るはずのない来客を知らせて来る。

俺達は瞬時に警戒態勢へと移行すると武器のある者は構えて戦闘の準備に入った。


俺のパーティメンバーは今では誰もがアイテムボックスを所持しているので全員が武器を構えている。

しかし、そんな緊迫した中でユカリが慌てて立ち上がって手を振ると待ったを掛けた。


「ちょっと待て。あ奴らは敵ではないのじゃ。」


彼女はそう言って立ち上がると俺達の前に割って入ってくる。

そして声が近づくと次第に言葉が鮮明になって来客の目的がハッキリして来た。


「お~い。引っ越し祝いに来てやったぞ~。」

「よく来てくれたのじゃ。」


そう言って現れた3人に向かってユカリは手を振りながら声を掛ける。

どうやらちゃんと友達もいたみたいでとても嬉しそうな笑みを浮かべている。


そして現れたのは黒い鎧を身に纏い、太い眉毛がトレードマークの筋肉質な男性が1人。

ゆったりとした服を着ており、お腹が出ていて大きな魚籠と竿を持った男性が1人。

最後が平安時代の朝廷に仕えている人の様な単衣を纏い、ちょっと首が浮いている変わった男性が1人。


まあ、神であるユカリの知り合いならば人間でないのは当然だろう。

そして彼らは手を振り朗らかに返すと部屋へと入り腰を下ろした。


「それにしても以前とは比べられない程に良くなったな。」

「フッフッフ!驚くのも当然じゃな。我も驚いておる所じゃ。」

「ワーハハ!そうか、そうか!最初は心配しておったが安心したぞ。」

「そうじゃな。お前が焼き出された時はどうなるかと思ったがな。」


すると彼らの言葉に耳を傾けていた周囲の反応が急激に変化していく。

そして即座に3人の者が立ち上がると笑みを浮かべながらユカリへと声を掛けた。。


「仕事があるからそろそろ戻らせてもらうよ。」

「俺もそろそろ戻らないとな。」

「私も仕事が残っているので。」


そう言ってツキミヤさん、アンドウさん、ツバサさんはこの空間から去って行ったけど休日なのに仕事とは忙しい事だ。

きっと今から放火の調査にでも出かけるのだろう。

そして、ユカリは来客の許に向かって横に並ぶと俺達に向かい3人を紹介し始めた。

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