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74 就職

家に入ってすぐにツバサさんはハルアキさんの寸法測定に入り、俺達はアンドウさんとテーブルで向かい合っている。

どうやら、用があるのは俺達全員のようなので、もしかすると何か依頼でもあるのかもしれない


「まずはこれを見てもらいたい。」


そう言って取り出されたのは学校の教師を募集する内容の書かれた用紙だ。

しかも春からここに居る3人が通う九十九学園の名前がある。

そして内容を見ると驚く事が書かれていた。


「これは本気なのか?」

「そうらしい。しかも政府からの強い要請を受けて九十九側も十分な理解を示している。」


読むと九十九学園はその形態を大きく一新するそうだ。

特別教室と称して小中学校を開設し、一部の特別な子供たちを集めて授業を行う事になっている。

以前まであった高校と大学に関しては新たな選択授業と放課後の特別授業を加え、それらに必要な教師を求めると書いてある。

ただし、その内容が大問題で集められるのは覚醒者の子供たちと一部の有望な希望者たちだ。

その為に更に新たな特別推薦枠を作り生徒の方は再募集を掛けている。

更に外国からの留学生まで認めると言うのだから動きが早く、流石は最先端を突き進むと豪語してしているだけはある。


「でも教師が見つからないだろう。」


ここには選考条件に覚醒者、又はダンジョンの知識がある者と書いてある。

しかし、この日本には覚醒者が不足しているしダンジョンの知識は俺達が独占しているので、いったいどうやって教師を集めるのかが分からない。

それに覚醒者の子供と言っているけど、この国で子供の覚醒者が居るのはここだけだ。

人員不足に頭を悩ませているのにここで引き抜かれたらダンジョンから再び魔物が溢れ出してしまう可能性がある。


「それについては政府も対応を考えている。実はアメリカには覚醒者が多く、こちらに留学生と支援を行いたいそうだ。政府はそれを了承し近日中には第3ダンジョンはアメリカから来た覚醒者が担当する事になった。」


しかし、アンドウさんの顔に一瞬だけ苛立ちを浮かべたのを俺は見逃さなかった。

これは言葉にしていないだけで別の目的があると言う事だろう。


「それで、本当はどんな事になっているんだ?」

「アメリカは自分達の国内に魔物が不足していて上手くレベルを上げれていない。それを解消するために日本のダンジョンを使ってレベルを上げさせるのが目的だ。それと遅れているダンジョン攻略を進める目的もある。」

「遅れてるって言うけど何に対して遅れてるんだ?」


俺は疑問を感じてアンドウさんに確認を行った。

別に氾濫さえ起きなければ良いだろうにとは思うけど大国にはそれ故のプライドがある。

いったい何処の国を追い抜きたいと言うんだ。


中国か?ロシア?それともヨーロッパ諸国の何処か?

するとアンドウさんは頭を抱えると大きな溜息を零して俺を見た。

いったい、その呆れた顔は何に向けられていると言うのだろうか。


「理解が遅れているお前に教えておいてやる。何処の国も未だに10階層を突破した国は無い。」

「マジで?俺達は少し前に20階層を越えたぞ。」


泊まり込みはしなくても俺達は大きくステータスを強化する事に成功ししている。

そのため・・・


16階層 猪

17階層 猪男

18階層 蟻

19階層 蜘蛛

20階層 アラクネ


と言った感じに少しずつ進んでここまで到達し、魔法陣も新たに発見した。

これで次回からは20階から簡単に攻略できて時間の短縮も出来る。

ぶっちゃけ今の俺達は魔物の実力よりも移動で時間が掛かっているのでこれから一気に攻略も加速するだろう。

そう思っていた矢先にこれか。


「それで政府は子供が多く・・・とは言っても3人だが。彼らを世間の批判もあり学校に通わせる事にして残ったメンバーは第2ダンジョンへ移動させる事にした。」

「それで第3をアメリカが使うと?」

「あそこは敵がアンデットが多く苦戦もしていた。最後に沈静化した事もあって対応も遅れてるしな。だからそこをアメリカへと丸投げする形だ。日本の覚醒者も入れるがしばらくは手が出せないだろう。」

「そうなると恐らくこの九十九が行う新体制もアメリカの差し金か?」


するとアンドウさんは何かを思い出した様で頭を抱えてテーブルに肘を突いた。

どうやら俺の予想は良い所を突いていたみたいだ。


「お前は日頃がアレなのに、どうしてこういう時の勘がすこぶる良いんだ!?」

「突っ込むのはそこか。」

「まあ、それは冗談としてだ。お前の言う通りだ。それにこの募集は学園側も条件として納得はしているが期待はしていない。しかし、あちらもバカでは無い様で色々と手段を講じている。」


そう言ってページを捲るとそこには給料について書いてあり、金額も中々に良さそうだ。

それでも蘇生薬やポーションを売ると簡単に追い抜く事の出来る金額でしかない。

まあ手取りで月に100万と言った所だろうか。

これなら俺1人という条件をクリアできれば1時間もかけずに稼ぐことが出来るだろう。

しかし、覚醒者が少ない日本には必要な事だとも思える。

お金だけを考えれば断るべきだけど、それも円を発行する日本があってこそだ。

それに長い目で見ればこうやって早い段階で手を打つのは好ましい。

卒業までには時間が掛かり年単位で見る必要もある。

それに先程から向けられる3人の熱い視線が凄く痛いんだよな。


左右を見るとアズサ、アケミ、ユウナが期待の籠った視線を向けている。

そしてその意味は明らかで俺との学校生活だろう。

しかし、もしこれを受けても俺は授業に出席できる訳じゃあ・・・。


「「「ジ~~~~!」」」


出席できるわけじゃあ・・・。


「「「ジ~~~~!!」」」

「この話はありがたく受けよう。」


どうやら相手はしっかりと俺の事も調べ尽くしてこの計画を実行したみたいだ。

流石と言いたいが俺の個人情報はしっかりと守られているのだろうか?

すると父さん達も紙を見ながら唸り声をあげた。


「私でも受けられますか?現在は無職な物で。」

「俺も今の仕事よりも給料や保証が良いな?」

「俺の所もだ。それに最近は色々あって仕事も当てにされてないしな。」


まあ、2人は会社で働く社会人だからその辺のところはシビアなんだろう。

覚醒してからは会社への愛着とかも薄れてるだろうし条件が良いなら躊躇なく移る事が出来る。

それにこちらの方が時間的にも楽でお金が稼げるとなれば転職を考えても仕方ない。

それに小学校から大学までとなるとそれなりに人数が必要になるはずだ。


「それなら面接は4人と言う事で良いですね?」

「「「「異議なし。」」」」


そして、俺達の声は重なり互いに拳をぶつけ合って健闘を祈り合う。

しかしアンドウさんは何故か俺にだけ条件を突きつけて来た。


「それとハルヤだけは高校と大学を担当するように指示が来ている。何でも留学生の面倒を見て欲しいそうだ。」

「なんで俺だけなんだ?」

「自分の胸に手を当てて聞いてみろ。オーストラリアで何か覚えがあるんじゃないか?」


しかし胸に手を当てて考えても何も浮かんでこない。

あの時はアメリカの覚醒者を回収しアイツ等がゴネたので少しお仕置をしてやっただけだ。

そのため首を傾げて俺は素直な思いを口にした。


「覚えが無いな。」

「は~~~・・・。向こうはお前と会えるのを身を震わせて待っているそうだぞ。いったい何をしたらそんな事になるんだ?」

「さあ?」


アンドウさんは今までで最大の溜息を零すと更に最大のポーズで頭を抱えて俯いた。

しかしストレスを溜めるのは体に悪いと聞くし、溜息は幸せを逃すと聞いた事がある。

今の俺にはあまり円の無いことだけど、いざとなったらポーションを進呈しておこう。


「あんまり悩むと胃に穴が開くぞ。まあ、開いたら治せば良いんだけどな。」

「誰のせいだと思っているんだ!」


心配してやったのに逆に怒られてしまったけど覚えがないのは仕方がない事だろう。

それにしても、面接に受かれば俺も教師だけど教員免許がないので部活なんかの雇われコーチみたいなものだろう

馬鹿な俺でも勤まるのかが心配だけど面接だけなら大丈夫だと思いたい。

募集条件にも学歴不問、18歳以上とも書かれてたし条件には当て嵌まっている。


俺は軽い気持ちでそれを請け負い、アメリカの思惑を粉砕するためにその後はダンジョンへと集中する時間を増やした。

父さんズの2人もそれまでに会社を退職して今ではダンジョン一筋だ。

ハッキリ言ってこちらの方だと月換算で1人1000万は行くのだけどダンジョンだけだと閉鎖的になり、人間性をさらに失ってしまうかもしれない。

それを危惧しての再就職でもあるので俺達は本気で試験に挑むつもりだ。


そしてアンドウさんの話から1ヶ月後の今日はその面接の日になる。

もうじき卒業式も控えているので就職活動としてはかなり際どい所だろう。

もしこれで合格すれば入学式や新学期までは残り1ヶ月余り。

その期間に必要な物を手配して教育方法や計画などを作成し学校に提出する必要もある。

俺にはかなり厳しいスケジュールだけど、まずは採用を捥ぎ取らなければならない。


そして俺は少しでも面接官の心象を良くするために新品のスーツを着てネクタイを首に巻いた。

ただネクタイを巻くのは初めてなのでネットの情報を見ながらやっても綺麗に出来ない。

仕方なくなんとか形になった所で一階に降りるとアズサたち3人に取り囲まれてしまった。


「こんな巻き方じゃダメだよ。」

「ほらボタンの止め方間違ってる。」

「髪に寝癖が残ってますよ。」


そして俺はアズサにネクタイを巻き直され、アケミにボタンを直してもらい、ユウナに暖かい濡れタオルを頭に乗せられた。

ここまでされると自分が如何に駄目であるかを再確認させられてしまう。

するといつもは来ないリリーまでやって来て俺の足に体を擦り付け、ニヤリと笑うと去って行った。

しかも近くに父さんがいるのに、こちらはいつもの様にすり寄って行かない。

きっと俺の様にならない様に気を使っているのだろう。

リリーが触れた所は見事に毛が付いているのであの顔と行動は絶対にワザとだ。


しかし俺の身形を整え終えた3人は背後から粘着テープ式のコロコロを取り出すと俺の全身を綺麗にしてくれた。


「足だけで良くなかったか?」

「「「ハハハ~。」」」


何ともこちらもワザとらしいけど可愛いので許そう。

俺は3人に笑い返すと彼女達は揃ってリリーの所へ行って頭を撫でたりオヤツをあげたりしている。

どうやらあの3人と1匹は仲の良い共犯者だったみたいだ。

まあ、みんな楽しそうに笑っているので俺が汚されて綺麗にされるくらいは大した事じゃないだろう。

すると俺の準備が整ったのを見て父さん達も立ち上がった。


「それじゃあ行くか!」

「「「おう!」」」


俺達は互いに円陣を組むと気合を入れて出発して行った。

向かう先は中国地方でも最大級と言える学園だ。

車での通勤も許可されているので俺達は一台に纏めて乗り込むと試験会場という戦場へと向かって行く。

そして案内に従って駐車場に止まると、そこには何十台という車が既に停車していた。

たしかここは今日の為に準備された外来用のスペースだと聞いているけど、こんなに誰が来てるのだろうか?

確かに覚醒者以外も募集はしてたけど疑問が残る所だ。


そして待機場となっている校舎に到着すると俺達はアンドウさんに渡されていた身分証。

まあ、簡単に言えばダンジョンに入るための許可証を受付に見せる。

すると多くの人が向かっている方向とは逆方向を指定され、そちらへと向かう事になった。

そして少し進むと通路に白い看板が有り、そこには試験者待機部屋と書かれている。

俺達はその横にある扉を開いて中に入るとそこには既に一人の男性が俺達を待ち構えていた。


「お待ちしていました。それではお掛け下さい。」


そう言って会議室の様に対面式になっている席を俺達に勧めてくる。

てっきり俺達にテーブルは準備されていない光景を想像していたけど何だか様子が普通と違うようだ。


それにテーブルには既に何らかの書類が置かれ、朱肉やペンまで準備してある。

そして、その男性というのが火事になっていたマンションから俺が助け出し、次の日に再開して名刺をくれた人だ。

確か名前は・・・、ダメだな。

俺の頭では思い出せない。

そのため、胸にある名札に視線を向けて読み取ると、そこには兵頭ヒョウドウ ツカサと書いてある。

俺はさも思い出しましたと言った感じな表情を浮かべるとヒョウドウさんに声を掛けた。


「お久しぶりですねヒョウドウさん。」

「覚えてくれていたのだね。今回は君が来ると資料で見て説明の担当に立候補したのです。」

「説明ですか?」


でも、俺達は面接に来たはずだけど、その前に何か話でもあるのだろうか。

俺達は揃って顔を見合わせ疑問符を頭に浮かべると勧められて席へと着席した。


「それでは不安を取り払うために先にこの言葉を贈ろうか。合格おめでとうございます。これで来月から皆さんはこの学園の特別教師となりました。」


その瞬間、俺達の中である人物の顔がニヤリと笑ったのを一斉に浮かべた。


「「「「アンドウの野郎ハメやがったな!」」」」


すると今度は俺達の言葉にヒョウドウさんが首を傾げた。

どうやらこの人も詳しくは知らないようで、共犯者という訳ではなさそうだ。


「おかしいですね。皆さんには事前に手紙も送ってボカシながらも説明はしておいたのですが。」


どうやらそれについてもアイツが握り潰していたみたいなので俺達の家はどれだけ監視されてるのかろうか。

これは後で小言でも言ってやるべきだろう。


「まあ、気が付かれなかったのなら仕方ありませんが、まずは話を続けましょう。」


そして、俺達は苦労せずに・・・、まあ、面接の練習とかで凄く苦労させられたけど。

しかし、それを気にしなければ無事に合格となって家に帰れる。

家で待っている3人の笑顔を思い浮かべながら始まった説明に耳を傾けた。家に入ってすぐにツバサさんはハルアキさんの寸法測定に入り、俺達はアンドウさんとテーブルで向かい合っている。

どうやら、用があるのは俺達全員のようだ。

もしかして、また何か依頼でもあるのだろうか?


「まずはこれを見てもらいたい。」


そう言って取り出されたのは学校の教師を募集する内容の書かれた用紙だ。

しかも、春からここに居る3人が通う九十九学園の名前がある。

そして、内容を見ると驚く事が書かれていた。


「これは本気なのか?」

「そうらしい。しかも政府からの強い要請を受けて九十九側も十分な理解を示している。」


読むと九十九学園はその形態を大きく一新するそうだ。

特別教室と称して小中学校を開設し、一部の特別な子供たちを集めて授業を行う。

以前まであった高校と大学に関しては新たな選択授業と放課後の特別授業を加え、それらに必要な教師を求めると書いてある。

ただ、その内容が大問題で集められるのは覚醒者の子供たちと一部の有望な希望者たち。

その為に更に新たな特別推薦枠を作り生徒の方は再募集を掛けているそうだ。

更に外国からの留学生まで認めると言うのだから動きが早さすぎる。

しかし流石は最先端を突き進むと豪語してしているだけはあるな。


「でも教師が見つからないだろう。」


ここには選考条件に覚醒者、又はダンジョンの知識がある者と書いてある。

しかし、この日本には覚醒者が不足しているし、ダンジョンの知識は俺達が独占している。

いったいどうやって教師を集めるんだ。

それに覚醒者の子供って、またダンジョンの魔物を溢れさせるつもりか。

それでなくても魔物がダンジョンから溢れる条件も分かっていないというのに。


「それについては政府も対応を考えている。実はアメリカには覚醒者が多く、こちらに留学生と覚醒者の支援を行いたいそうだ。奴らはそれを了承し近日中には第3ダンジョンはアメリカから来た覚醒者が担当する事になった。」


しかし、そう言ったアンドウさんの顔に一瞬だけ苛立ちを浮かべたのを俺は見逃さなかった。

これは言葉にしていない真の目的があると言う事だろう。


「それで、本当はどんな事になっているんだ?」

「アメリカは自分達の国内に魔物が不足していて上手くレベルを上げれていない。それを解消するために日本のダンジョンを使ってレベルを上げさせるのが目的だ。それと遅れているダンジョン攻略を進める目的もある。」

「遅れてるって言うけど何に対して遅れてるんだ?」


俺は疑問を感じてアンドウさんに確認を行った。

別に氾濫さえ起きなければ良いだろうにとは思うけど大国にはそれ故のプライドがある。

いったい何処の国を追い抜きたいと言うんだ。


中国か?ロシア?それともヨーロッパ諸国の何処か?

するとアンドウさんは頭を抱えると大きな溜息を零して俺を見た。

いったい、その呆れた顔は何だって言うんだろうか。


「理解が遅れているお前に教えておいてやる。何処の国も未だに10階層を突破した国は無い。」

「え!マジで?俺達は少し前に20階層を越えたぞ。」


泊まり込みはしなくても俺達は大きくステータスを強化する事に成功ししている。

そのため・・・


16階層 猪

17階層 猪男

18階層 蟻

19階層 蜘蛛

20階層 アラクネ


と言った感じに少しずつ進んでここまで到達し、魔法陣も新たに発見した。

これで次回からは21階から簡単に攻略でき、時間も短縮できる。

ぶっちゃけ、今の俺達は魔物の実力よりも移動で時間が掛かっているのでこれから一気に攻略も加速するだろう。

そう思っていた矢先にこれか!


「それで政府は子供が多く・・・とは言っても3人だが。彼らを世間の批判もあり学校に通わせる事にして残ったメンバーは第2ダンジョンへ移動させる事にした。」

「それで第3をアメリカが使うと?」

「あそこは敵がアンデットが多く苦戦もしていた。最後に沈静化した事もあって対応も遅れてるしな。だからそこをアメリカへと丸投げする形だ。一応、日本の覚醒者も入れるがしばらくは手が出せないだろう。」

「そうなると恐らくこの九十九が行う新体制もアメリカの差し金か。」


するとアンドウさんは何かを思い出した様で頭を抱えてテーブルに肘を突いた。

どうやら俺の予想は良い所を突いていたみたいだ。


「お前は日頃がアレなのに、どうしてこう言う時の勘がすこぶる良いんだ!?」

「突っ込むのはそこか。」

「まあ、それは冗談としてだ。お前の言う通りだ。それにこの募集は学園側も条件として納得はしているが期待はしていない。しかし、あちらもバカでは無い様で色々と手段を講じている。」


そう言ってページを捲るとそこには給料について書いてあり、金額も中々に良さそうだ。

それでも蘇生薬やポーションを売ると簡単に追い抜く事の出来る金額でしかない。

まあ、手取りで月に100万と言った所だろうか。

これなら1時間もかけずに稼ぐことができるだろう。

しかし、覚醒者が少ない日本には必要な事だとも思える。

お金だけを考えれば断るべきだけどそれも円を発行する日本があってこそだ。

それに長い目で見ればこうやって早い段階で手を打つのは好ましい。

卒業までには時間が掛かり年単位で見る必要もある。

それに先程から向けられる3人の熱い視線が凄く痛いんだよな。


左右を見るとアズサ、アケミ、ユウナが期待の籠った視線を向けている。

そしてその意味は明らかで俺との学校生活だろう。

しかし、もしこれを受けても俺は授業に出席できるわけじゃあ・・・。


「「「ジ~~~~!」」」


出席できるわけじゃあ・・・。


「「「ジ~~~~!!」」」

「この話はありがたく受けよう。」


どうやら相手はしっかりと俺の事も調べ尽くしてこの計画を実行したみたいだ。

流石と言いたいが俺の個人情報はしっかりと守られているのだろうか?


すると父さん達も紙を見ながら唸り声をあげた。


「私でも受けられますか?現在は無職な物で。」

「俺も今の仕事よりも給料も保証も良いな?」

「俺の所もだ。それに最近は色々あって仕事も当てにされてないしな。」


まあ、2人は会社で働く社会人だからその辺のところはシビアなんだろう。

覚醒してからは会社への愛着とかも薄れてるだろうし条件が良いなら躊躇なく移る事が出来る。

それにこちらの方が時間的にも楽でお金が稼げるとなれば転職を考えても仕方ない。

それに小学校から大学までとなるとそれなりに人数が必要になるはずだ。


「それなら面接は4人と言う事で良いですね?」

「「「「異議なし。」」」」


そして、俺達の声は重なり互いに拳をぶつけ合って健闘を祈り合う。

しかしアンドウさんは何故か俺にだけ条件を突きつけて来た。


「それとハルヤだけは高校と大学を担当するように指示が来ている。何でも留学生の面倒を見て欲しいそうだ。」

「なんで俺だけなんだ?」

「自分の胸に手を当てて聞いてみろ。オーストラリアで何か覚えがあるんじゃないか?」


しかし、胸に手を当てて考えても何も浮かんでこない。

あの時はアメリカの覚醒者を回収し、アイツ等がゴネたので少しお仕置をしてやっただけだ。

そのため首を傾げて俺は素直に思いを口にする。


「覚えが無いな。」

「は~~~・・・。向こうはお前と会えるのを身を震わせて待っているそうだぞ。いったい何をしたらそんな事になるんだ?」


アンドウさんは今までで最大の溜息を零すと、更に最大のポーズで頭を抱えて俯いた。


「あんまり悩むと胃に穴が開くぞ。まあ、開いたら治せばいいんだけどな。」

「誰のせいだと思っているんだ!」


心配してやったのに逆に怒られてしまった。

しかし、覚えがないのは仕方ない事だろう。

それにしても、面接に受かれば俺も教師か。

まあ、教員免許がないので部活なんかの雇われコーチみたいなもんだろうな

馬鹿な俺でも勤まるのかが心配だけど面接だけなら大丈夫だろう。

募集条件にも学歴不問、18歳以上とも書かれてたしな。


俺は軽い気持ちでそれを請け負い、アメリカの思惑を粉砕するためにその後はダンジョンへと集中する時間を増やした。

父さんズの2人もそれまでに会社を退職し、今ではダンジョン一筋だ。

ハッキリ言ってこちらの方だと月換算で1人1000万は行くのだけどダンジョンだけだと閉鎖的になり、人間性をさらに失ってしまうかもしれない。

それを危惧しての再就職でもあるので俺達は本気で試験に挑むつもりだ。


そして、アンドウさんの話から1ヶ月後の今日はその面接の日になる。

もうじき卒業式も控えているので就職活動としてはかなり際どい所だろう。

もしこれで合格すれば入学式や新学期までは残り1ヶ月余り。

その期間に必要な物を手配し、教育方法や計画などを作成して学校に提出する必要もある。

俺にはかなり厳しいスケジュールだけど、まずは採用を捥ぎ取らなければならない。


そして、俺は少しでも面接官の心象を良くするために新品のスーツを着てネクタイを首に巻く。

ただネクタイを巻くのは初めてなのでネットの情報を見ながらやっても綺麗に出来ない。

仕方なくなんとか形になった所で一階に降りるとアズサたち3人に取り囲まれてしまった。


「こんな巻き方じゃダメだよ。」

「ほらボタンの止め方間違ってる。」

「髪に寝癖が残ってますよ。」


そして、俺はアズサにネクタイを巻き直され、アケミにボタンを直してもらい、ユウナに暖かい濡れタオルを頭に乗せられる。

ここまでされると自分が如何に駄目であるかを再確認させられてしまう。

するといつもは来ないリリーまでやって来て俺の足に体を擦り付け、ニヤリと笑うと去って行った。

しかも近くに父さんがいるのに、こちらはいつもの様にすり寄って行かない。

きっと俺の様にならない様に気を使っているのだろう。

リリーが触れた所は見事に毛が付いているのであの顔と行動は絶対にワザとだ。


しかし、俺の身形を整え終えた3人は背後から粘着テープ式のコロコロを取り出すと俺の全身を綺麗にしてくれた。


「足だけで良くなかったか?」

「「「ハハハ~。」」」


何ともこちらもワザとらしいけど可愛いので許そう。

俺は3人に笑い返すと彼女達は揃ってリリーの所へ行って頭を撫でたりオヤツをあげたりしている。

どうやらあの3人と1匹は共犯者だったみたいだ。

まあ、みんな楽しそうに笑っているので俺が汚されて綺麗にされるくらいは大した事じゃないだろう。

すると俺の準備が整ったのを見て父さん達も立ち上がった。


「それじゃあ行くか!」

「「「おう!」」」


俺達は互いに円陣を組むと気合を入れて出発して行った。

向かう先は中国地方でも最大級と言える学園だ。

車での通勤も許可されているので俺達は一台に纏めて乗り込み、試験会場という戦場へと向かって行く。

そして、案内に従って駐車場に止まるとそこには何十台という車が既に停車していた。

たしかここは今日の為に準備された外来用のスペースだと聞いている。

いったい誰がこんなに来てるんだ?

確かに覚醒者以外も募集はしてたけど疑問が残る所だ。


そして、待機場となっている校舎に到着すると俺達はアンドウさんに渡されていた身分証。

まあ、簡単に言えばダンジョンに入るための許可証を受付に見せる。

すると多くの人が向かっている方向とは逆方向を指定されそちらへと向かって行った。

そして少し進むと通路に白い看板が有り、そこには試験者待機部屋と書かれている。

俺達はの横にある扉を開いて中に入るとそこには既に一人の男性が俺達を待ち構えていた。


「お待ちしていました。それではお掛け下さい。」


そう言って会議室の様に対面式になっている席を俺達に勧めてくる。

てっきり俺達にテーブルは準備されていない光景を想像していたけど何だか様子が普通と違うようだ。


それにテーブルには既に何らかの書類が置かれ、朱肉やペンまで準備してある。

そして、その男性というのが火事になっていたマンションから俺が助け出し、次の日に名刺をくれた人だ。

確か名前は・・・、ダメだな。

俺の頭では思い出せない。

そのため、胸にある名札に視線を向けて読み取るとそこには兵頭ヒョウドウ ツカサと書いてある。

俺はさも思い出しましたと言った感じな表情を浮かべるとヒョウドウさんに声を掛けた。


「お久しぶりですねヒョウドウさん。」

「覚えてくれていたんだね。今回は君が来ると資料で見て説明の担当に立候補したんだよ。」

「説明ですか?」


でも、俺達は面接に来たはずだけどその前に何か話でもあるのだろうか。

俺達は揃って顔を見合わせ疑問符を頭に浮かべると勧められていた席へと着席した。


「それでは不安を取り払うために先にこの言葉を贈ろうか。合格おめでとうございます。これで来月から皆さんはこの学園の特別教師となりました。」


その瞬間、俺達の中である人物の顔がニヤリと笑ったのを一斉に浮かび上がった。


「「「「アンドウの野郎ハメやがったな!」」」」


すると今度は俺達の言葉にヒョウドウさんが首を傾げた。


「おかしいですね。皆さんには事前に手紙も送ってボカシながらも説明はしておいたのですが。」


どうやらそれについてもアイツが握りつぶしていたみたいだ。

俺達の家はどれだけ監視されてるんだよ。

後で小言でも言ってやろう。


「まあ、気にしないでください。話を続けましょう。」


そして、俺達は苦労せずに・・・、まあ、面接の練習とかで凄く苦労させられたけど。

しかし、それを気にしなければ無事に合格となって家に帰れる。

俺は家で待っている3人の笑顔を思い浮かべると始まった説明に耳を傾けた。

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