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71 巨大百足

俺が歩き始めると再び地震が襲って来た。

しかも今度のものは先程よりも大きく感じる。

俺はアンドウさんに確認を取って今の地震についての情報を求めた。


「また起きたのか。・・・ああ、こちらでも確認した。大きさは先程と大差ない。」

「それが分かれば良い。それじゃあ、引き続き警戒を頼む。」


俺は先程までは2階にいて震度2に感じていた。

しかし今は地面の上なのに先程よりも大きく感じている。

そして、この短時間で変化したものと言えば俺自身しかないだろう。

さっきの男の言葉に今のところ騙している様なセリフは無いし、俺の中での変化と言えばあの少女への思いくらいか。

ただ何故か次第に大事な者であったような気がしてくる。


「とにかく、今は先に進むか。」


そして進んでいると再び光に包まれ俺の前に記憶にない光景が飛び込んでくる。

見えるのは中学生の制服を着て下校している俺だ。

そして今回も4人で居て俺の右手はアケミと繋がれ左手はユウナと繋がれている。

更にアケミの反対の手は中学生まで成長した少女が握っていた。

その顔は明らかに俺の知る人物の面影があるけど、俺がアイツと出会うのはもっと先のはずだ。

だからこんなに早く出会っているはずはないのに心だけはそう言ってはいない。


「そうかな。君はまた一つの大きな事を見落としている。」

「現れたか。それで俺が何を見落としているんだ。」

「その娘と君の家はどれくらい離れていてどの小中学校のエリアに入っているのかな。」


その瞬間、俺の中で以前に目にしたアイツのデータの一部がフラッシュバックする。

普通なら過去に読んだ内容なんて忘れていそうなのに恐らくは目の前の男の仕業だろう。

そして、それによればアイツは一度も引っ越しをした事がない。

今の家も生まれた時から使われている物だ。


「じゃあ、なんで俺にはこの記憶がない!」

「それはね。・・・神様がそう決めたからさ。」

「何のために!」

「公正に選ばせるために。」

「何を選ばせるって言うんだ!」

「自らを救うべき存在を。それ以上は教えられない。」

「何故だ!誰を選ぶのか教えろ!」

「焦らなくても君は既に選ばれているんだよ。それじゃあ、また会おうね。」


そう言って男は周囲の光と共に消えて行き、それと同時に俺は決定された目的地へと走る。

しかし、すぐに光に呑み込まれて俺の行く手を阻んでくる。


「せいぜい前後半で綺麗に区切って見せてくれ。中途半端に終わるアニメを見てるみたいでイライラする。」

「フフ、君もあの子の事でイライラ出来る様になってきたんだね。」


するとこちらの様子を見て男は笑い、俺も同時に驚きを感じている。

確かに今ではアイツにも感情が作用するようになっているからだ。


「でもこれもあと2回さ。その程度なら我慢が出来るだろ。」


そして映し出された先では少し大人びた少女が何処かの部屋で俺とアケミとユウナを交えて勉強会を行っていた。

ただ、勉強会と言ってもアイツは常に教師役だ。

アケミとユウナはすぐに意味を理解しているけど、俺の方は気が遠くなりそうな程に何度も教えている。

それなのにいつも笑顔で一切怒る様子もなく、週末はお菓子を作り俺達を持て成してくれる。

でもそんな事で自分の勉強が捗るはずはない。

アイツは俺が寝ている間にも遅くまで勉強して成績を維持しており、こうして短時間で見れば顔に疲れが蓄積されていってるのが分かる。

それでも同じ高校に俺を進学させたくて勉強を教え続けてくれた。

そして受験の日にアイツはこう言った。


「次は大学だからね。一緒に九十九に行こうねハルヤ!」


そう、アイツなら最初から九十九に入学できた。

俺を見捨ててさえいればそれで良かったんだ。

アケミもユウナも俺と一緒に学校生活を送りたくて九十九を目指していた。

そして現状で約束を果たせなかったのは俺ただ一人。

忘れていたとは言っても最終的に誰との約束も守れなかった。

それが胸に突き刺さり目からは自然と涙が溢れている。


するとそこで映像は終わり俺は暗い夜へと1人で放り出され、その途端に今まで感じた事の無いほどの孤独感が俺の胸を締め付けてくる。

痛み、苦しみ、嘔吐感が体を支配し俺はその場で膝を付いた。


そして、しばらくその場で動けないでいると俺の背中を何者かが突いた。

そちらに視線を向けるとそこにはリリーと10を越える犬たちが俺を囲んでいる。

すると俺を見てリリーは「ワン!」と力強く吠えた。


「リリー?」

『ガチン!ガチン!』


すると俺に向かって歯を打ち鳴らし立たないと問答無用で噛みつくと示してきた。

俺は痛みを堪えて立ち上がると大型の犬たちが俺の背後から背中や腰を押して来る。

どうやら今度は歩けと言う事らしい。

俺は仕方なくトボトボと歩くと再び光に包まれた。

そこでは試験の合格を共に喜びあう俺とアズサが映し出されている。

しかし、アケミとユウナも合流して一緒に帰宅しているといつもの平穏な日常に乱入者が現れた。


「ギャアアアーーー。」

「な、魔物が何で出てくるんだ!?」


その姿は巨大ムカデと言えば分かり易いだろうけど俺が巨大と言うだけあって大きさは15メートルはある。

するといつの間にか現れていた男がある真実を教えてくれる


「アイツは邪神の先兵だよ。神々の戦いがたった一晩で終わるはずないだろ。本当はずっと以前からこういった奴は現れていたんだ。そして、邪神を封印したのも実はあの夜じゃない。」


そこまで言われえてようやく理解できた。

コイツの言う事は最もで神がどんな存在かは詳しくは知らないけど神々の戦いを人間に当てはめて考えるのは間違いだ。

何十何百年と戦っていてもおかしくはなく、その影響がゼロである事もまたあり得ない。


「・・・そう言う事か。こいつはその戦いではぐれて現れた魔物の1匹か!」

「そうだよ。最近になって神々の結界に綻びが生まれ始めた。今の世の中だと経済の低迷は時に信仰の低下をもたらすからね。神に祈ってダメなら信じない様になるのさ。」


そして映像では現れた魔物に向かって行く一人の男がいる。

それが今、俺の横で話をしているこの男で、すなわちアイコさんの夫でアズサの父親だ。

確か名前は・・・そこまでは思い出せないな。


「本当にアズサの努力には感服するよ。ちなみに僕は晴明ハルアキだよ。もうじき力尽きて死んでしまうけど名前くらいは覚えていて欲しいな。」


そして映像のハルアキさんは満身創痍に追い込まれ、敵の能力なのか体は石化していく。

その後ろでは気を失って倒れる俺達がいて、それを庇う様に彼は最期の力を振り絞ると何らかの力を使い魔物も一緒に石化させていく。

そして、その姿を町の地中へと沈めて消えて行った。

しかし、今回はそれでは終わらなかった。

気が付いた俺達はそのままアズサを置き去りにして自宅へと帰り、それ以降はアイツの記憶を完全に失っていた。


そして少し前なら何も思わなかったことが今ではこれだけで心を抉られているように感じる。

いっそのことナイフで刺し貫いた方が幾分か楽かもしれない。


そしてアズサは高校入学式直前まで意識が戻らず、それ以前の友達や同級生の記憶をも全て失っていた。

しかも、それは周りも同様でアズサについて知るのは名簿で知っている教師のみだ。

これがきっとハルアキさんが言っていた神の所業なのだろう。

この時点でアイツになんで友達が居なかったのか。

今までどうして友達を作ろうとしなかったのかが分かった。

アイツはまた記憶を失い友達を全て失うのが怖かったのだろう。

それでもダンジョンという地獄を見て死に、生き返ってからもう一度立ち上がったんだ。

それだけでも凄い奴だと今なら思える。

それにこれを思い出した以上は俺がこの程度の事で膝を折る訳にはいかない。


「それで、俺にこれを見せてアナタは何がしたかったんだ?」

「君に僕の家族を護って欲しい。もうじきコイツを封印しきれなくなる。そうなれば真っ先に餌食になるのは僕の家族だ。」


恐らくは何で真っ先に襲われるのかは言えない内容に含まれていたのだろう。

ただ、今となっては例え国が敵に回ったとしても必ず助けて見せる。


「ハルアキさんの願いは俺が受け取った。だから少しだけのんびり見ててくれ。」

「分かったよ。君に全て託す。僕の家族を助けてくれ。」

「ああ。今なら全身全霊を掛けてその期待に応えられる!」


そして再び夜の町へと帰って来ると時間は夜の0時ジャストそ示していた。

これならアズサへ電話を掛けても問題ない時間帯だ。

そう考えたのも束の間の事であちらの方から電話が掛かって来た。

俺はすぐにそれに出ると電話の向こうからとても怯えているアズサの声が聞こえてくる。


「お願いハルヤ君助けて!何だか分からないけど凄く怖いの。馬鹿だと思うかもしれないけどお願い早く来て!」

「大丈夫だアズサ。」

「へ?」

「俺はもう家の前に居るし、お前にはデカすぎる恩がある。それに全てを思い出したんだ。俺は幼馴染を他人に殺させたりは絶対にしない。」

「え、ハ、ハルヤ君?」

「すぐに終わらせるからちょっと待ってろ。お前の恐怖は俺が全て取り除いてやるからな。」

「あ・・うん・・ヒック・・・ありがと・・・。」

「昔から強いくせに泣き虫だな。」

「う~知らないよ~。」


俺は電話を切るとそこから少し歩いてその場を離れて行った。

そして記憶にある場所に到着すると付いて来ていたリリーに声を掛ける。


「巻き添えをくらうなよ。」

「ワン!ワン!」


何やら舐めるなと言われた気がする。

いつも色々な意味で舐めてるのはコイツなのに凄い理不尽だ。

すると俺が剣を構えた瞬間に地震が発生し、地面の下から魔物が攀じ登ってくるのを感じる。

そして、アスファルトの地面を突き破るとそこには30メートルを優に超える巨大百足の化物が現れた。


「封印されている間に力でも蓄えてやがったのか。それとも邪神の力から生まれたダンジョンの影響でも受けて巨大化したのか。どちらにしてもやる事は変わらない。リリー、援護と犬達の指揮は任せたからな!」

「ワウ!」


今の俺は


レベル30→34

力 115→127

防御 82→94

魔力 30→34


更に今までの魔石ポイントも加算して防御は105まで上昇している。

そして、各種装備品での強化にスキルと称号が俺の力を何倍にも底上げしてくれる。

本当に装備を新調した後に来てくれて良かった。

悪いが俺は急いでいるので素早く死んでもらう。


俺はゾーンに入ると同時に大ムカデへと駆け出した。

成長の甲斐があり今の状態ならゾーンに入っていてもかなりの速度で動き回れる。

そして接近と同時に両手の刀を上に振り上げ、体の中腹部から頭部付近までを駆け上がりながら足を全て斬り飛ばす。

しかし次の瞬間には魔物の口が開きそこから黒い液体が吐き出されて襲い掛かって来る。

それは予想を超える速度で飛来し俺の足先を掠めた。

するとそこは煙を上げながら石へと変わり始めているので、こいつは溶解液ならぬ石化液を吐き出すみたいだ。


「ギャギャギャギャ。」


奴は俺の姿に歯を打ち鳴らして笑う様な声を上げ、最早終わりの様に体をくねらせてダンスを踊っている。

更に先程切り落とした足が新たに生えて再生すると俺に追撃を仕掛けてきた。


「確かに以前の・・・そう、お前が初めて俺の前に現れた時ならそれでも良かっただろう。でもなあ、お前が地の底で封印されている間に地上も大きく変わったんだよ!」


俺は既に石化が止まっている足に力を入れると空中を足場にして敵を迎え撃った。


「まず、あの頃にはこんな耐性付きのアクセサリーは無かったろ。」


俺は純金のネックレスを首から下げている。

成金野郎みたいで常につけたいとは思わないけど買っててよかった耐性アイテム。

これはアカツキさんの所で買った物なので値段も200万と高額ではあったけど早速役に立ってくれた。


「それにお前の敵は俺だけじゃないぞ。」


奴の後ろではリリーが魔法を発動待機状態にして隙を狙っている。

そして完全に俺へと意識が向いた瞬間に太く長い石槍が何本も巨大百足を支える下半身へと向かい殺到する。

するとその攻撃は奴の甲殻を容易く貫きその場に磔にした。


「キシャーーー!」


すると自身が動けなくなった事に気付いたらしく奴は体を捻ったり伸ばしたりしてなんとか脱出しようと暴れ回る。

しかし先程の魔法で体力の殆どを消費したのか既にリリーはフラフラだ。

するとその近くに居たオメガが駆け寄りポーションを差し出している。

それを飲んだリリーは再び元気満タンになって力強く地面を踏みしめた

そういえば丁度良いのでオメガには別の仕事を任せよう。


「リリー、オメガにアズサの父親を捜してもらってくれ。その辺に埋まってるはずだ。」

「ワン!」


こうして先に通さないと勝手に指示を出した事を後で怒りそうだからな。

間接的だとしても急いでいる訳ではないので掘り当ててくれるだけでも十分だ。

それにもうじきコイツも完全に動けなくなるはずで足が多いコイツがどんな反応を起こすのかが楽しみだ。


「ギギ!?」


不動の魔眼は地面への接触部分が基準じゃなく全ての足に有効なようで、百足の動きが完全に止まった。

これで今の段階で動かせるのは頭部だけで、この魔眼は足の多い魔物と相性が良いみたいだ。

それに今は称号のベルセルクが最大に機能している。

あれの能力はステータスだけではなく全ての能力強化だ。

この魔眼さえも強化してくれているのでこんなに早く相手を行動不能にできた。


「それじゃあ終わりだな。」

「ギ・・ギギ。」


俺は上に飛び上ると頭部から尻尾に向かって容赦なく百足を解体していった。

以前のゲイザーの時の様に復活なんて絶対にさせない。

それでなくてもこいつは斬られた足を瞬時に生え揃えさせている。

恐らく高い再生能力を備えていると見て間違いは無いだろう。


「リリーは落ちた肉片は遠慮なく焼き尽くせ!相手が消えて無くなるまで油断するな!」

「ワン!」


俺の言った意味を理解したようでリリーは足元をまるで炎の池の様に変えて見せた。

すると百足の尻からも牙が突き出し新たな頭に姿をかえる。


「ギギーーー!」

「やっぱり簡単に死なない為の手段を持ってやがったな!」


それにしても俺も落ちたらヤバいかもしれないくらいの高温がここまで昇ってくる。

その証拠に張付けにされている尾は燃え始め表面は既に灰へと変わっている。

そして切り続けていると1分ほどで胴体の半分付近まで解体は進み、ようやく巨大百足は黒い霞となって消えて行った。


「やっぱり油断できなかったな。」


上の頭部は5秒もあれば完全に消失している。

そして、リリーが尻尾に出来た頭を完全に燃え尽きた時にようやく倒す事が出来た。

恐らくはコイツの頭部は最初から2つあり、一方の頭がやられたらもう片方が戦い、その間にもう片方の頭が回復するような戦い方をしていたのだろう。

ある意味ではあのタイミングで上と下から同時攻撃出来てよかったと言う事だ。


すると今回も俺の脳内にゲイザーの時と同じアナウンスが流れた。


『特殊個体である巨大百足を撃破しました。相手の能力の一部をアナタに移植されます。ただし、主だった2名で分けられるので能力が低下します。・・・一方の対象者が移植を拒否しました。そのためあなたに全てが移植されます。』

「あれ?俺に拒否権がないんだけど。」

『拒否した場合、同じ敵がダンジョンで1ヶ月以内に復活します。』

「有難く受け取ります。」


すなわちアイツはボスに近い扱いという事だろう。

それならあの巨大鰐やエントも1月経つと復活するかもしれない。

まあ、これに関しては後日の楽しみにしておいて、俺は魔石とドロップアイテムを拾うとそれを持ってオメガの許へと向かって行った。

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