69 装備到着
先日アンドウさんが家に来てダンジョンについての報告をしてくれた。
どうやら魔物の発生に関しては俺の予想が当たっており、日に発生する魔物の数は最大で100。
各階層で1日10匹である事が確定した。
そのため、周囲と足並みをそろえるために俺達は適度な間引きを行い後続が成長するのを待っている段階だ。
今のところはそれで問題が起きていないのでダンジョンは安定している。
ただ、10階層の巨大鰐と15階層で倒したエントに関してはいまだに復活していない。
他の魔物よりも強い個体なので時間が掛かるのか、それとも今後は現れないのかが分からないのでこちらの2つは現在保留になっている。
そして、魔物が居なくなった階層の調査に関してはやはり隠し部屋などはなく宝箱の存在も確認できなかったのでそこまで都合良くはいかないという事だろう。
装備の効果だけでも世界の理に組み込んでくれた事に感謝しないといけない。
そして土曜日ということで学校もお休みである。
通常はダンジョンに行く日なんだけど今日は大事なお客が来る事になっているのでこの町の覚醒者は大集合だ。
とは言ってもウチとユウナの所が殆どなので顔ぶれは変わらない。
そして家のチャイムが鳴るとその人物は扉を開けていつもの調子で現れた。
「ツバサ!本日ようやくこの町へ帰って参りました~!」
現れたのは俺達の装備をお願いしたツバサさんだ。
扉を開くと同時に胸を張って見事な敬礼をしている。
その際に胸が上下にタユンと揺れるのは狙っている事なのでスルーさせてもらおう。
気にすると左右から挟み撃ちで攻撃されてしまうので最近のこの家では命を大事にが俺の信条になっている。
そして巧妙に仕掛けられた罠を掻い潜る事に成功しツバサさんを家の中に招き入れた。
「待ってましたよツバサさん。」
「嬉しいですね~。ハルヤ君の口からそんな事が聞けるなんて。」
「待ってましたよ。あなたが運んでくる装備を。」
「ひ、酷~い!わざわざ言い直さなくても良いのに~!」
どちらが酷いのか自分の胸に手を当ててよく考えてもらいたい。
それに一瞬だけど俺のスキルが警音を鳴らしていたのでそろそろ人を代えてもらった方が良いのだろうか。
「それよりも早く装備を見せてください。仕事をしないとアンドウさんに怒られますよ。」
「そうなのよ。マサトって仕事には厳しいのよね・・・あ。」
その瞬間、俺を含めて誰もがその言葉を聞き逃さなかった。
そして同時に周りの口元にニヤリと笑みが浮かぶので、どうやら人員交代の必要は無さそうだ。
「そうですか。あなた方は名前で呼び合う間柄なんですね。」
「ちょ、違うのよ。アイツってかなり奥手だから私がリードしてあげてるだけよ。」
「何のリードかは知りませんけどお正月は仲が良さそうでしたね。」
「み、見てたの!」
「いえ、カマを掛けただけです。そうですか。それは良い事を知りました。」
左右の2人も今では上機嫌にニコニコしている。
どうやら相手の失策によって今日から俺の安全は保障されたようだ。
「それなら二人の時間を増やす為に荷物の運び込みをお手伝いしますよ。ツバサさんも早く帰ってマサトさんをリードしてあげないといけませんからね。」
するとツバサさんは顔を真っ赤にして地団駄を踏み始めてしまったけど大人で巨乳な女性がそれをやると本当によく揺れるな。
・・・おっと、あまり意識してると左右が大変な事になるから知らないフリ・・知らない振り。
「ムッキ~、いつか覚えてなさいよ。」
「結婚式には蘇生薬の詰め合わせでも送りますからね。」
「そういう意味じゃな~い!」
ハハハ、今日ほど負け犬の遠吠えが耳に心地良いと感じた事はない。
最近はアズサの告白相手などとの対戦で何度も聞いているけど、いっその事カメラにでも撮影して残しておけばよかったか。
「ワン!」
するといつもと違い扉の影に潜んでいたリリーが尻尾を振って姿を現した。
いつもなら真っ先に現れて腹を向けているのに珍しい事もある。
しかし、よく見るとその首には何かの黒い塊が取り付けられており、リリーはしきりにそこを前足で示している。
「何だこれ?」
「そ、それは高性能監視カメラ!」
「解説どうも。」
「しまった!」
もしかすると今日は彼女の厄日なのかもしれない。
わざわざ言わなくても良い事まで教えてくれるなんて、こちらとしては好都合だ。
まあ、少し調べれば分かる事なので時間の問題ではあっただろうけど。
俺はリリーからカメラを取り外すと録画を停止して再生をしてみる。
するとそこには先程のやり取りが見事なアングルで克明に記録されており、流石は俺の相棒だけあって思いは以心伝心のようだ。
それともこれを予知していたリリーが天才なのかもしれない。
どちらでも良いけどこれはしっかりと複製して各所に保管し残しておかねば。
「これはUSBからそのまま落とせる仕組みか。パソコンがあれば大丈夫そうだな。」
「や、止めて~~~!うちの部署は恋愛が禁止なんです~!上にバレたらどちらかがこの件から外されちゃいます~!」
「そうかそれは残念だな。」
どうやらここまで焦るという事はどちらもかなり本気の恋愛なようだ。
仕方ないのでこの事は俺達の胸の中だけに仕舞っておくことにしよう。
「分かった。外部リンクに接続できないスタンドアローンのパソコンに入れとくから。」
「ガッデ~ム!アナタに人の心は無いのですか!?」
「残念ながらいまだにリハビリ中です。なので諦めて弱みを握られろ。」
「鬼~、悪魔~、ヒトデやろ~。」
何やらよく分からない罵倒を言っているけど俺は2階に上がるとパソコンを立ち上げてカメラを接続する。
「これで奴らの弱みは俺達の手の中に・・・。」
『パリーン、バキ。パリーン、バキ。』
しかし、さあデータを移そうかと思った瞬間に窓が破壊され高速の何かが机の上にあるカメラを粉砕した。
恐らくは狙撃だろうけどこれを行った奴は凄い腕前をしている。
なにせ1撃目は置いてあったので狙撃は可能だろうけど、2撃目は衝撃で飛んで行った先をされに打ち抜いている。
俺は即座に窓に駆け寄ると周囲を見回して300メートルほど離れた建物の上に居る人物に気が付いた。
そして、そいつが手元でスマホを操作するとその直後に俺のスマホにメールが届く。
「何処のどいつだ?」
『家の修理費はこちらで負担するから気にするな。お前の所なら経費で簡単に落ちるからな。アンドウより。』
やっぱりアイツか。
最初からタダ者じゃないと思ってたけどやっぱり実戦も出来る凄い奴だったみたいだ。
カメラのデータは欲しかったけどあの人の実力が見れただけでも良しとするべきだろう。
「ん?まだ続きがあるのか。」
俺は続きがある事に気が付き、メールの空白をスライドさせていく。
するとそこには中々に刺激的な事が書かれていた。
『お前に水難の相が出ないと良いがな。』
これは下手な事をすればどんな事をしても殺すという事で、恋が絡むとこの人も周りが見えなくなるタイプのようだ。
まあ普通に考えれば今日みたいなことは滅多に起きないだろう。
俺はストーカーではないので他人を付け回したりはしない。
そう言うのは探偵にでも依頼して仕事として請け負ってもらおう・・・。
イヤ・・・なんだかその探偵が行方不明になりそうだから止めておいた方が良さそうだな。
それに無駄な犠牲を出すよりも現実的な話をした方が建設的だ。
「仕方ない。了承のエールを撃ち返しておくか。」
『了解。家でならイチャイチャしても良いからな』
そして、それを送信するとすぐに返事が返って来た。
『パリーン、パリーン、パリーン、パリーン。』
どうやら大賛成のゆなのでそんなに遠くない内に我が家に顔を出すだろ。
その時はカーテンを閉めてしっかりと歓待してやる事にしよう。
彼女いない歴18年の俺でもそれくらいの気は使えるからな。
その後、俺は背中を銃弾で押されながら部屋を後にした。
ちなみに窓ガラスはその日の内に修理屋さんが交換してくれたので冬の夜風に晒されることは無かった。
机も小学生の時から使っていたのでそろそろ新しい物と交換しようと思っていた所だ。
被害で問題がありそうなのはカメラに向かって放たれた2発目の弾痕だけになる。
あれだけは出口の扉にめり込んでいるので修理が必要かもしれない。
それともアンドウさんと初めて本心での会話をしたと言う事で記念にでも残しておくべきか。
その他の弾丸は全て俺にヒットして足元に落ちているからあれは後で記念か、鑑定の結果によっては装備品にでも加工してもらえば良いだろう。
もしかすると作られた時期によっては何かの効果があるかもしれない。
例えば命中補正とか、必中とか。
それは後の楽しみにしてまずは壊れたカメラを持って装備の確認に向かう事にした。
「は~、アンドウさんは手が早いな。」
俺は1階に下りて皆の集まる部屋に入ると、壊れたカメラをテーブルに置いて溜息を零した。
それを見てツバサさんはホッと胸を撫で下ろし周りは一様に苦笑を浮かべる。
しかし、それが続いたのは僅かな時間で、彼女は他の女性陣から包囲されると容赦ない口撃に晒され始めた。
「ね~ね~あの人の何処が良いの?」
「え、えっと。不器用だけど優しい所かな。」
「あの人って笑う事があるんですか?」
「私と2人きりだとよく笑うわよ。」
「お正月に密会してたってホントなの?」
「ノ、ノーコメントで。」
「その後何してたのよ。」
「それは禁則事項です!」
どうやらあの後は人に言えない所で人に言えない事をしていたようだ。
でも真っ赤な顔から何をしていたのかは中学生でも分かる事なので、皆は「キャーキャー」言いながらも楽しそうに話をしている。
その間に男性陣は何をしていたかと言えば武器防具の梱包を解いていく作業を行っていた。
見たところ注文通りの武器は揃えてくれているようで色ボケしてても仕事はキッチリとこなしてくれるようだ。
父さんが使う大太刀。
母さんが使う槍。
リクさんが使う大剣。
ナギさんが使うレイピア。
アケミとユウナが使う短杖と長杖。
俺が使う太刀と小太刀。
ただリリーには装備できる武器が無いのでツバサさんが体の各所のサイズを測定してエント製の首輪や足環を作ってくれている。
あの材料が何に使えるのか分からないのでこれも一つの試みと言えるだろう。
もし杖でなくても効果が上がるとすれば今後はエントから木材がドロップした時には活用の幅が大きく広がる事になる。
しかし、これだけ作ってもらっておいてなんだけど、まずは効果が引き継がれているかの確認が必要だ。
それに引き継がれていても数値が低下しているのか上昇しているのかも重要になってくる。
以前に回収した壊れた槍は攻撃力300が50まで低下していたので手を加えた事で同じように低下している可能性もある。
そして、まずは鑑定を行い数値からの確認を行っていった。
大太刀 攻撃力 600。
槍 攻撃力 500 貫通力強化。
大剣 攻撃力 700。
レイピア 攻撃力 400 貫通力強化。
短杖 攻撃力 30 魔力強化 20パーセントUP。
長杖 攻撃力 100 魔力強化 50パーセントUP。
太刀 攻撃力 400。
小太刀 攻撃力 300。
これは想像を超える成果だな。
元々、俺が使っていた効果付きの剣よりも父さんが使っていた太刀の方が切れ味が鋭い事は分かっていた。
恐らく、これが数値として現れた結果なのだろうけど数値の基準が分からないので威力は感覚的な物になるだろう。
なにせ現実はゲームと違ってヒットポイントなんてないし上手く不意を突けば自分よりも強い相手に勝つ事だって出来る。
それでも杖については良い感じだと思う。
それにリリーの為の装備に関しても魔力強化だけは付いている。
足環が魔力10パーセントUP。
首輪になると魔力が30パーセントUPになる。
これだけでも普通の装備が不可能なリリーにはありがたい。
それ以外に出て来たのはジーンズやジャケットなどがある。
ジャケットは鰐皮なので少し派手な気がするけど男性用は黒1色だ。
女性用だけ赤、紫、青、緑などカラフルな色が揃えてある。
どちらも注文通りポケットが多く、男物は外へ、女物は極力内側に隠してある。
どうやらこれを作った人は服のデザインにも気を使ってくれたみたいだ。
ただ俺なんて身に着ける服一式が1万円でも高いと思う性格なのでこんな事でもなければ一生着る事が無かっただろう。
ちなみに、性能はジーパンが防御力100でジャケットが防御力300。
ジャケットに関しては素材の時から数値は見ていたので変化が無いのが分かる。
そして、オマケとして手甲や脚甲の他にも鉄板で補強した登山靴が入っていた。
ただ、靴には効果は無いけど、手甲と脚甲に関しては防御力が400もある。
もしかするとこれも職人の手によるものなのかもしれない。
「ツバサさん、この手甲と脚甲は?」
「それは武器を依頼した鍛冶屋さんが残った材料で試しに作ってくれた物です。打って形を整えただけらしいですけど、どんな感じですか。」
「いい感じだな。でもどうやってこんなに正確なサイズを伝えたんだ。」
「それは私が測った寸法と写真をもとにコンピューターで計算して、3Dプリンターでチョチョイのチョイです。あ、行っときますけど手足だけですよ。流石に胴体までする程、私も命知らずではないですからね。」
「そうか。この刀による最初の犠牲者がお前にならなくて良さそうだ。」
俺は置いてある太刀を手にすると鞘から少し引き出して視線を煌めく刀身に向ける。
そして、そのまま視線をツバサさんに向けて太刀を鞘へと戻した。
「ハハハ、そう言う事を真顔で言うのは止めてくださいよ。・・・ねえ、冗談ですよね?」
「・・・。」
すると俺の反応の無さに焦りを感じたツバサさんは次第に涙目になっていく。
そのため俺は優しくニコリと微笑み返し今は無害であると示した・・・つもりだ。
しかし、今度は体まで震えだしてけたたましい悲鳴が上がった。
「ギャーー!殺されるーーー!助けてマサトーーー!!」
すると何故か逆効果となり、ツバサさんが半狂乱になって暴れ出してしまった。
安心させるために笑ったというのにどうしてこうなるのだろうか?
もしかすると笑い方を間違えたかもしれにので、表情をもう少し崩してみる事にした。
口角を吊り上げ目尻を下げてっと。
良し、これで完璧のはずだ。
そう思ってもう一度顔を向けると・・・。
「ぎゃ~~~!!!」
するとツバサさんは無駄のない華麗な動きで家から飛び出すと脱兎のごとく逃げ出してしまった。
やはりあの人も唯者ではなかったようで一般人ではあり得ないような身体能力を披露してくれた。
それにしても、これ程の反応を見せるという事は逆に怪しく感じるので今度しっかりと確認は取っておこうと思う。
アケミとユウナのスリーサイズを利用されて変な物でも作られたら俺の堪忍袋の緒が切れるのは間違いない。
その後はそれぞれに装備を身に着けて確認すると使わない余った装備はアケミとユウナが新しく取得したアイテムボックスに保管する事になった。
それ以外は別行動を考慮して今のところはそれぞれで管理する事にする。
誰かのアイテムボックスに纏めて入れているといざという時に困る事になり、時によっては大きな戦力ダウンとなってしまう。
そしてツバサさん達のおかげで装備も少しは充実してきた。
それにダンジョンの材料はスキルが無くても実力のある職人なら他の武器や防具に作り変える事が可能であると分かったのでこれからは敵の装備は積極的に持ち帰ろうと思う。
そして結局この日は装備品の確認だけで1日を費やしてしまい1日を終えた。




