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68 学校生活

学校が始まって2週間が経過している。

俺はアズサのおかげで問題を起こす事なく無事に学校での生活を送っていた。

ただし最近では俺が大人しくしていても向こうから問題がやって来るようになっている。

何故かと言うと正月に皆で初詣に行ったことが最大の原因だ。


別に誰かが俺が覚醒者だと話したとかではなく、その逆であの時の皆は秘密を護って俺が覚醒者である事を誰にも話していないようだ。

そして問題があるのは俺では無くてアズサの方にある。

あの日の事で皆はアズサのどんな人物なのか内面を知り、それが学校内で拡散した。

そうなると容姿端麗・学業優秀なうえに性格美人なんてものが加われば無視できる男は少ない。

そのため、もうじき卒業を控えたアズサに対して積極的なアプローチが急増した訳だ。

分かり易く言えば古典的な手段としてラブレターが急増する結果となっり告白大会が始まった。


例えば今までに関りが何も無かった前生徒会長の場合・・・。


「君の様な美しくて聡明な人があんな社会の落ちこぼれ確定の人間と付き合うのは今後の日本にとっての損失だ。どうだろうか彼と別れと僕と付き合わないかい。」

「彼は成績は悪いですが日本だけではなく世界の為になる人です。すみませんがあなたは彼を誤解しています。」


そう言って呼び出した相手に断りを入れていた。


学園2位の成績を誇る男子生徒の場合・・・。


「君と僕は互いに高め合える存在だ。あんな馬鹿は止めて僕と付き合わないか。」

「彼にはそういったものは乏しいですが人を思いやる心があります。私もそれで救ってもらいましたのであなたは人を見る目が無いようですね。」


そう言ってアズサは背中を向けて立ち去った。


とあるスポーツクラブの男子生徒の場合・・・。


「あの時の話は聞いた。俺ならもっと上手く君を護って見せる。どうだろう、あんな奴とは別れて俺と付き合わないか。」

「確かに私を優先すればもっと上手く助けられたかもしれません。しかし、あの時に救いを求めていたのは私以外にも何人も居ました。でも私にはあなたが全員を救えるとは思えません。」


そう言ってアズサは怒った顔で踵を返した。


ちなみに何でこんなに詳しく知っているかというと、呼び出す場所が俺の教室の真下だからだ。

しかも周りに聞こえる様に言っているのか男側の声も大きく、気を向けなくても聞こえてくる。

それに今では見せ物の一つと捉えられていて殆どの生徒が窓辺で観戦している状況だ。


「それにしても猛者が多いね~。今頃告白しても無駄なのに。」

「そうなのか?みんな俺よりも良い男だろ。きっと相性が悪いだけじゃないのか?」

「お前それ本気で言ってるのか?」

「ああ、本気だけど。」


すると俺の前に座るショウゴから大きなため息が零れた。

そして今日も1人の猛者を斬り捨てたアズサは不機嫌そうな顔で俺の横の席に座る。

そこはこのクラスの女子の席だけど持ち主はこの事を分かっているので既に避難済みだ。

誰だってとばっちりは食らいたくはないのだろうけど、そこで今日もアズサの愚痴が始まった。


「どうしてみんなハルヤ君の事を悪く言うのかな!」

「言ってる事は正しいと思うぞ。俺は馬鹿で乱暴で人でなしだ。」

「違うもん。ハルヤ君は馬鹿だけど乱暴者でも人でなしでもないもん。」


アズサはなんだか駄々をこねる子供の様に頬を膨らませて顔を逸らす。


(馬鹿な所は否定してくれないんだな・・・。)


それにしても、ここ最近では今までと違い仏頂面ではなく、こうした表情も良く見るようになってきた。

人とも良く話すらしく、それに関しては一緒に初詣に行った女子たちが関わっているそうだ。

何はともあれ話をするようになればさらに人の目に引き、頻繁に笑う様になれば心を奪われる男子も増える。

そういった理由から元々高かったアズサの人気は更に爆上がり中だ。


普通なら女子から虐められそうな状況だけど、何故か俺と付き合っているという変な噂が広がり男子だけが評判を落としている。

しかもアズサも否定しないので誤解が誤解を生んで今では確定となっていた。

まあ困っていれば助けると言ったので虫除けくらいにはなってやるけど、時々困った奴が現れる様にもなり、そういった輩が今日も俺の靴箱に手紙を入れている。

本人に断られたなら素直に諦めろと言いたい。


そしてアズサは俺が取り出した手紙を見てこちらへと視線を戻した。

別にこれは他の女子からの好意を伝える手紙ではなく、まさにその正反対で男子からの敵意ある手紙だ。

所謂『果たし状』と言う物で今日は先日告白をして断られた空手部の部員からだ。


「ごめんね、色々巻きこんじゃって。」

「気にするな。10件を超えた時点で諦めてる。」


こうして果たし状を出す奴はまだ骨がある方だ。

中には文系の奴が格闘系の部活の生徒に頼んだり、金を渡して俺を襲わせる輩まで居る。

少し前までの平和な日常が嘘の様なバイオレンスな状況に苦笑が浮かぶほどだ。


「それでも気になるなら、またアケミたちにお菓子の作り方でも教えてやってくれ。あの時のクッキーは美味しかったからな。」

「うん。それならまた作って持って行くね。」

「だからアケミたちに教えてやってくれって言ってるだろ。」


どうやら少し落ち込んでいたようだけどなんとか持ち直したみたいだ。

そして俺の相手も時間通りに登場して来たみたいでショウゴが声を掛けて呼んでくれる。


「ユウキー。乳繰り合ってないで相手が到着したぞー。」

「乳繰り合ってねーよ。まあ、それじゃあ行って来る。」

「行ってらっしゃい。」


そう言ってアズサは笑顔で手を振って俺を見送ってくれる。

するとその様子を見ていたショウゴは砂糖でも吐きそうな顔を手で覆うと天井を仰いだ。


「カ~~、先日までは恋人同士で今では新婚かよ!」

「違うって言ってるだろ。」


恐らくショウゴのこういったツッコミが変な噂になって拡散しているのだろう。

学生と言っても今のこの時期になると受験勉強の息抜きとして娯楽を求めている奴も多い。

こんな何でもない言葉でもアプリなどであっと言う間に拡散してしまう。

まあ、発信源はコイツ自身である事が多いんだけど実名の記載されていない投稿者を突き止めるなんて不可能だ。

そして窓に足を掛けるとそのまま裏庭へと飛び降りていく。


「「「お~~~!!!」」」


それを見た生徒たちから場を盛り上げるような歓声が上がる。

そして前を見ると体の引き締まった男子生徒が拳を構えて待ち受けていた。


「お待たせ。」

「何がお待たせだ!おまえを倒してクラタさんに俺こそがその身を護るに相応しいと認めてもらうのだ!くらえ、鬼の正拳突きーーー!!」


俺が現ると言うだけ言って開始の合図も無く殴りかかって来た。

しかし、それに対して俺は掌で受け止めるだけで殴り返す事はしない。

こうやって俺が手を出さないから教師も見逃し、決闘なんて馬鹿げた事が成立している。

それに部活によっては良い経験だと思っている節すらあり、顧問の先生も止めたりはしない。

俺は覚醒者で相手は一般人なので言っては悪いけど相手から見ると俺は絶対強者の立場になる。

格闘をしているなら高く巨大な壁に本気で挑むのは良い経験になるとでも考えているんだろ。

ただ平和な学園生活を送りたい俺からすると迷惑な話でしかない。


そして相手は拳や蹴りと本気の攻撃を放ってくる。

俺はその攻撃をなるべく相手が傷付かない様にクッションを効かせてやんわりと受け止め続ける。


ちなみに俺がこんな茶番に付き合っているのもアズサの為だけじゃない。

こうして格闘家と戦う事でその動きを学び、自分の戦闘に役立てるためだ。

確かにスキルがあればある程度の事は自然と分かる。

でもそれは知識ではなく感覚的な事で明確には意識が出来ない。

それを補うためにこうして果たし合いを受けている訳だ。


今のところ俺に向かって来ているのは柔道、空手、レスリング、剣道、ボクシングだ。

剣道はあまり参考にならなかったけど一人だけ道場で剣術を習っている奴がいた。

そいつに関してはそれなりの参考になったのでまた挑んできて欲しいと思っている。

ボクシングに関してはこの学校には部活が無いので外のジムにでも通っているのだろう。

パンチだけでは勿体ないので次はムエタイでも習って来てくれないだろうか。

・・・おっと、思考が逸れている間に相手がそろそろ限界のようだ。


「クッソー!なんでヒットしない!どうしていなされるんだ!」

「喋ってると疲れるのが早くなるだけだぞ。」

「黙れーーー!」


人の体は動き続けると乳酸の蓄積と疲労で次第に動きが鈍くなる。

それが進むと筋肉の収縮が出来なくなり最後には立つ事さえ困難になる事もある。

目の前の生徒がそんな感じで急激な運動を続けたせいで足の筋肉さえも動かせなくなり、まるで糸の切れた人形の様にガクリと倒れて地面に膝を付いている。

感情に任せてペースも考えずに動いた結果がこれで、こうなった所で更にいつもの茶番が発生する。


「コラー、お前ら何をやっている!」


現れたのは体育教師の1人で生活指導もしている遠藤エンドウ先生だ。

決闘の時刻は常にリークしてあるので彼はこの近くの部屋で様子を窺い、頃合いを見て現れる様にしている。

学校側としても体裁を整えるために注意しない訳にもいかず、俺達はお叱りを受けるという名目で連行されていく訳だ。

ただ、連れて行かれる場所は互いに違い、相手は保健室へ向かい俺は生活指導室だ。

あちらは部活の顧問の先生や他の生活指導の先生が担当し、俺は常にこのエンドウ先生に連れて行かれる。

そしてあちらは軽い注意を受けて俺は大声で外にも聞こえる様に叱られると言う訳だ。

まあ、二人ともお茶を飲みながらなので完全に演技なんだけど。

そして、いつもの演技が終わるとエンドウ先生は笑みを浮かべた。


「まさか、このご時世にこんなスポコン漫画みたいな流れが発生するとは思わなかった。」

「俺としては平和な学校生活を希望してるんですけどね。」

「ハハハ、それは不可能だ。まあ、諦めるまでマメに相手をしてやってくれ。」

「分かりました。どうせ俺の方は進学はしないので何かに響くと言う訳ではないですし。」

「相手も無傷だからな。軽い注意程度で済ませられて助かってるよ。あれならジャレ合いで片付けられるしな。」


今の世の中だとジャレ合いで大怪我に発展するケースも少なくない。

喧嘩をした経験のある者も少なくなり、どれほどの事をすると怪我に繋がるか分かっていないからだ。

それに対して俺は絶対に怪我をしないので教師としては安心して見ていられるだろう。


「それじゃあ、そろそろ戻りますね。」

「また明日な。遅刻はするなよ。」

「はい。」


既に明日の果たし状も貰っているのでその事を言っているのだろう。

出来れば毎日ここには来たくないのだけど、この先生には進路に関して親身になってもらった借りがある。

残り少ない学校生活の間はこの茶番に付き合っても良いだろう。


そして午後からの授業にも出席して放課後までのんびり過ごした。

別に俺は頭が良くないだけで授業態度は普通だ。

ただ問題が解けないのと聞かれても分からないだけだ。

12月までは無遅刻無欠席だったのでその辺の不良よりかは真面目だと自負している。


そして、今日の放課後もアズサは告白の相手をバッサリと斬り捨てて俺達は校門から出て家路についた。

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