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67 正月 ③

俺達が帰っていると前から護送車がやって来た。


(索敵に反応、危機感知に反応。望遠使用。)


「なに!」

「どうしたんだハルヤ!?」

「いや何でもない。大きな車が来たから少し端に避けておこうか。」

「え、でもここは歩道だし、分離帯もあるぜ。」

「良いから急げ!」

「あ、ああ!」


俺が少し声を荒げると皆急いで道の端へと移動していく。

そして走ってくる車を見ると運転席は血で真っ赤に染まっており、危険なコースで近付いてくる。


「誰だよ。魔物をあんな護送車で運搬してる馬鹿は。最低でもツキミヤさんを護衛に付けろよな。」


そして護送車はそのまま俺達の目の前で分離帯に乗り上げると大きく車体を傾けた。

そしてそのまま横転すると路面の上を滑りながら火花を散らし、しばらく進んだ先で停車する。


「あ、危っぶね~。何なんだよ一体。」

「ユウキ君が何も言わなかったら巻き込まれてたかも。」

「皆は警察に連絡してここから離れろ。」

「え、でも・・・。」

「あれには魔物が乗ってる。扉が開いたからもうじき出てくるぞ。」

「え、そんな!どうして・・・!?」

「良いから離れるんだ。」

「分かったわ。皆行きましょう。ここに居ると彼の邪魔になるわ。」

「それってどういう意味?」

「彼なら魔物を倒せるの。だから私達はここから離れましょ。」


アズサはすぐに皆を説得して押す様にして移動を始めた。

俺の秘密が皆に知れてしまったけどこの状況では仕方ないだろう。

こんな所で複数の魔物が放たれると何処に逃げたか探すのが面倒だ。

オメガが居れば探すのは難しくはないけど、ここにはこれからも多くの参拝者が通行することになる。

神社も近いので、もしそこに行けば多くの犠牲者が出るだけでなく魔物が強く進化してしまうかもしれない。

そうなれば更なる犠牲が出る事に繋がるのでこの場で倒すのが最適だ。


すると、とうとう魔物が開いた扉から這う様にして姿を現した。

やはり車が横転してもダメージは無いみたいで何も無かったかのように立ち上がると周囲を見回して獲物を探し始める。


「ノーマルゴブリンか。そう言えばツキミヤさんが最初の日に数匹捕まえたって言ってたな。もしかしてそれを何処かに輸送している最中だったのか?」


魔物なので刑務所と言う事はないだろう。

恐らくは何処かの研究機関にでも連れて行って研究するつもりだったのかもしれない。

しかし今回は残念だけどそれは諦めてもらう。

研究したいならしっかりとした下準備をしてから覚醒者の護衛を着けてやり直してもらわないといけない。

どのみちノーマル程度なら幾らでも捕まえられるので、どうしても必要ならその時になってから捕まえれば良い。


「仕方ないからちょっとだけ仕事をするか。」


俺は現れた3匹のゴブリンに向かって拳を振るい1撃で頭部を粉砕していく。

やっぱり今となっては武器が無くても倒す事は容易いようだ。

そして呆気なく全ての魔物を葬ると落ちている魔石を拾ってステータスへと吸収させる。

後は中で死んでいる2人だけど一応は連れ出しておく事にする。

死体はズタズタになっているので普通の人では苦労をしそうだ。

俺は曲がったフレームを無理やり引っ張って隙間を作ると彼らを運び出して歩道に寝かせた。

すると周囲で警備をしていた制服警官たちがやって来て俺に銃を向けて来る。


「何をしている!?」

「救出。」


俺もこの辺に居る全ての警察官と面識がある訳ではなく俺の事を知らない人間だって居る。

そういった人間から見れば到着してすぐに仲間の死体に触れている人間は不審人物以外の何者でもないだろう。

しかも俺の服は救出の際に血で汚れて赤く染まっている。

事情を知らなければ俺が犯人にでも見えてしまうだろう。


「手を上げて後ろを向け。」

「俺はこの町の覚醒者だ。確認すれば分かるはずだ。」

「なら証明書を見せろ。覚醒者なら持っているはずだ。」


そう言えばIDカードを貰っているのでこういう時に見せれば身分証にもなるのかもしれない。

説明ではそこまでは言っていなかったが、身分を証明する物と言えばあれと学生証くらいだ。


「分かった。」


俺は財布を取り出すとそこからIDカードを取り出して警官に手渡した。

それを見てようやく警戒が取れた様で銃をホルスターに仕舞う。


「悪かったな。覚醒者とは面識が無くて。」

「気にしなくても良い。俺がアンタでも警戒して対応しただろう。それよりもどうして普通の人間だけで魔物を運んでいるんだ。どう考えても危険だろう。」

「上の考えは俺達にもよく分からない。でも君のおかげで被害は出さずに済んだ。ありがとう。」

「それなら魔物は処分したから大丈夫だけど次回からは気を付ける様にだけ言ってくれ。ノーマルくらいなら何時でも捕獲可能と言っておけばあまり怒られないだろ。」


すると警官は俺の後ろに視線を向けて表情を曇らせた。

そこには車運転していた2人の警官が横になっており、当然だがこの状態で生きている訳がない。


「死者2名、護送車大破。ちょっとじゃ済みそうにないんだけどな。」

「なら、護送車だけにしといてやるよ。」


俺はポケットから下級蘇生薬を2本取り出すとそれを遺体へと振り掛けた。

ボロボロだけど部位欠損も無いのでこれで十分だろう。

そして、少しして蘇生が終わるとそこには服だけがボロボロになった警官が横たわっていた。


「壊れた物は直せないけど死人なら生き返らせられるからな。これで少しは安心だろ。」

「ありがとう。蘇生する所を初めて見たが本当に生き返るんだな。」

「それなら俺は帰るから後の事は任せた。」


俺はそう言って血に染まったシャツを上着を隠すとその場から歩き出した。


「本当にありがとう。」

「気にするな。」


それにしても、これで警官がこの辺に多い理由が分かった。

恐らくは魔物を乗せた護送車が通るから警戒をしていたのだろう。

それにいつもは神社に私服警官がいるのに現れなかったのはこちらで人が足りなくなったからか。

それにしても、こんな馬鹿な事をアンドウさんがするはずがない。

恐らくは前に家に来た役人みたいに、中途半端な事をしでかした奴が居たのだろう。

俺が居たから良かったものの居なければ大惨事だ。


「俺が居たから・・・。アズサが居たから・・・?」


もしかして本当にアイツにもあのトラブル体質が発現したのかもしれない。

そう言えば初詣の時もアイコさんが「とうとう」とか言ってたから、そういう家系である可能性も今なら捨てきれない。


「仕方ないか。せっかくの貴重な協力者だからな。この際だから近くに居る時くらいは守ってやるか。」


俺はそう結論付けるとそのまま家に向かって行った。

皆が何処まで逃げたのかも分からないし、上着の下は返り血で真っ赤に染まっている。

これは二つとも買い直さないといけないだろう。

そして、その夜になってショウゴからメールが届いた。


『まさか、お前が噂の覚醒者だったとはな。』


電話ではないので相手の様子までは分からないけど驚いているのは確かだろう。

報道では今のところヒーロー扱いだからな。


『言い触らすなよ。変な噂を流すと政府から粛清されるぞ。』

『マジで!?』

『いや、冗談だけどな。』


でもアンドウさんなら目に余る相手は社会的に粛清しそうなので注意が必要だ。

あの人の目ってプロの殺し屋っぽいしハジメさん達よりもヤバい気配を纏っている。


『冗談かよ。まあ、皆には面白おかしく上手く言っとくよ。それじゃあまた学校で会おうぜ。』

『その辺は苦手だから頼んます。』


俺はショウゴとの雑談を終えるとスマホをベットに放り投げた。

アンドウさんから何か言ってくるかと思ったけど連絡もないので今日はベッドに入っても良さそうだ。


「そろそろ寝るか。」


時間的に寝るには良い時間になっている。

それにしても今日の始まりはあんなに暇だったのに開けてみれば色々あり過ぎる1日だった。

そして寝ようと思った直後にメールの着信が入ったので名前を見るとどうやらアズサからのようだ。

そこには短くこう書かれていた。


『今日は助けてくれてありがと。とても嬉しかった。それじゃあおやすみ。』


一方的なのは既に遅い時間だからだろう。

俺も相手が起きていると言っても話し込む様なメールは送りたくはない。

そのため短く簡単な文を送る事にした。


『傍に居る時なら守ってやるから困った時は俺の所に来い。それじゃあおやすみ。』


こんな感じで良いだろう。

返信しないのも悪い気がするし長々としたメールを送っても読むのが面倒だろうしな。

俺は電気を消して布団に潜り込むとそのまま眠りへと落ちて行った。




その頃、アズサはどうしているかというと。


「な、何これ。あのハルヤ君が守ってくれる!?どうしたんだろ急に。」


アズサはまさかの返信の内容に混乱していた。

ベッドの上で枕を抱え込むと左右へゴロゴロしながら先程のメールを思い出して顔を赤く染める。

しかし突然ピタリと止まると先程の事が頭に浮かんできた。


「でも、あの時のハルヤ君、カッコ良かったから女子の見る目が少し変わってたんだよね。学校で何も無ければ良いけど。」


簡単に言えば吊り橋効果によるところが大きいく、あの時の女子たちは男達から助けられハルヤを少しは意識していた。

そのすぐ後には魔物の脅威からも救われ、それは脆く危険な橋を渡る以上の効果を発揮した事だろう。

すぐに覚めれば問題ないだろうが高校生活も残り3ヶ月程度と少なくなっている。

焦って告白に出る女子が居てもおかしくない。


「まあ、ハルヤ君なら大丈夫かな。なにせハルヤ君だし。」


しかし、ハルヤの状態を知るアズサは心配する事を放棄した。

彼が自分に向ける視線は初期に比べれば和らいだのは確実だが、まだまだ自分を女性と見ているのかさえ怪しい。

もしかすると男女ではなく人間という一括りの種として見ている可能性も否定できなかった。


「良し!このメールをしっかりと保護して保存しておけば何かあった時に助けてくれる証拠になるよね。ハルヤ君もこう言ってるし困った事があったら助けてもらおう。」


アズサは抜け目なく証拠をしっかりと確保するとニコニコしながら布団に潜り込んだ。

そして、その日の夢はアズサの初夢となり、富士山を登っていると鷹に襲われ茄子を持ったハルヤに助けられると言うとても可笑しな夢であった。

それを朝になって母親であるアイコに話したアズサが大笑いされたのは2人だけの秘密である。




そして、数日の時が過ぎて冬休みが終了し、学生は学校へと登校している。

今回はダンジョンの事もあり長い休みではあったが、誰も欠ける事のない始業式では恒例ともいえる校長の長い話が行われた。

そして生活指導からもダンジョンに関する地域的な情報や危険性などが告げられ例年になく長い式となる。

ただ、殆どの者が真剣な顔で聞いているのは近くにある危険を本能が感じ取っているからだろう。

式が終わってもその熱は冷めず、口々にダンジョンの話題で盛り上がっていた。


その中で新年にハルヤの正体を知っている者もいるが、誰もそれに対しては触れようとはしない。

どうやら親友であるショウゴが上手く話をした成果が出ているようだ。

もちろん、いつかは不意に口から零れてしまう事もあるだろうが、今のこの瞬間さえ凌げば情報の拡散は緩やかになる。

もしこの熱狂した状態で情報が洩れれば1日で噂は広がってしまうだろう。

そうすればハルヤの残りの学校生活は大変な事になってしまう。

ただし彼には別の意味で大変な事が待ち構えているのだが・・・。


「よし、今日はこれで終わりだな。」

「昼に終わるって良いよな。毎日これなら楽なのに。」


しかし帰る準備をしているとクラスの女子からお呼びが掛った。


「ユウキくん。お客さんだよ~。」

「分かった。すぐに行く。」


俺はそう言って鞄を持って立ち上がると出口へと向かって行った。

そして外に出るとそこには見覚えのある顔が俺を待ち構えている。


「ハルヤ君、一緒に帰ろ。」


すると教室内から大きなどよめきが聞こえてくる。

俺は首を傾げながらもいつもの通りに言葉を返した。


「呼んだのはアズサか。まあ、俺も帰る所だから一緒に帰るか。まっすぐ帰れば良いのか?」

「今日はお買い物しないといけないから途中でスーパーに寄ってくよ。」


それならコイツの食べる量から言ってかなり重い荷物になりそうだ。

男手が無いのも大変そうだから少しくらいなら手伝ってやっても良いだろう。


「なら荷物ぐらい持ってやるから俺も着いていくか。」

「ありがとう。実は私だけだといつも大変なんだよね。」

「アイコさんはどうしたんだ?」


先日、家に行った時は家族2人で使うには大きすぎる程のワンボックスカーがあったのでアイコさんは免許を持っているのだろう。

大人が居れば車が使えるのでかなり楽が出来るはずだ。

するとアズサは困った顔で眉根を寄せると苦笑いを浮かべた。


「お母さんは何か用事があるって出かけてる。帰るのは明日だって。」


それなら仕方ないけど、それだと一人での料理も大変だろう。

そう言えばアケミとユウナがまた連れて来て欲しいって言ってたのでこの機会に確認を取る事にした。。


「それなら家に飯でも食いに来るか。アケミ達も料理の練習が出来るって喜んでたぞ。」

「う~ん、それならお邪魔しようかな。ハルヤ君の御家ごはんって美味しいもんね。」


するとアズサは少し悩んだ後に笑みを浮かべて首を縦に振った。

やっぱり1人よりかは大勢で食べた方が良いと思ったのだろう。


「それじゃあ連絡するから少し待っててくれ。」


俺は家に連絡を入れ了承を貰うと外していた視線をアズサに戻した。

しかし急に後ろから手が伸びて俺の肩を誰かが掴んでくる。


「何だショウゴか。俺の後ろを取るなんてお前もやるな。」

「やるなじゃねえよ!前も聞いたけどお前ら本当に付き合ってねえのか?」

「俺も前に言ったけどちょっとしたご近所さんだ。」

「いや、普通のご近所さんはそんな簡単に女子を家の飯に誘わねえよ!」


そうだったのか。

最近はユウナの家族も加わって皆で飯を食ってるから忘れてたけど、やっぱり一人で飯を食うのは味気ない。

オメガが居ると言ってもアイツは犬だから話し相手にならないし、でも迷惑なら今後は誘わないようにするか。


「もしかして迷惑だったか?」

「え、そんな事ないよ。ハルヤ君のお家ならお母さんも簡単に許してくれるし。」

「なら問題ないな。それじゃあ買い物を済ませて帰るか。」

「うん。」


俺達は何故か唖然としている教室の面々を放置してそのまま歩き始めた。

そして、フと思い出してショウゴに声を掛ける。


「ショウゴは一緒に帰らないのか?」

「そんな新婚みたいなお前らに付いていけるほど俺は猛者じゃねえよ。」

「そうか。それじゃあ、また明日な。」


俺達は2人で並んで歩き出すと校門を出て帰路についた。

きっとアズサが何も言わないと言う事はこれが普通の事なのだろ。

常識から外れていれば以前の様に注意してくれるはずだ。

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