56 久しぶりのダンジョン ④
とうとうリリーが職業を取得可能となった。
レベルは現在25で俺の時よりも1つ多い。
そして、見せてもらうとリリーには4つの選択肢がある
・魔導士
魔力が強化される。
防御と魔力に成長補正(小)。
・テイマー
力が強化される。
力と防御に成長補正(小)。
魔物を従える事が出来る。
・獣の統率者
力と防御と魔力に成長補正(小)
群れのリーダーである時、全ての仲間に強化(小)
群れの数が増えると自身の能力も強化される
一部のスキルが覚えやすくなる。
・オルトロス
力と防御に強化大。
力と防御に成長補正(小)。
一部のスキルが覚えやすくなる。
怒りによって暴走の恐れあり。
魔導士は今のリリーにとってはそのままの進化系だ。
いまだに強化がどれくらいかは分からないけど俺の剣士と似たようなものだろう。
テイマーは魔物を従えられるのは魅力だけど、自分よりも弱い魔物しか駄目とか制約があると怖い。
育てるのも一苦労だし成長補正が力と防御だ。
出来ればリリーは今のスタイルを崩さない方が得策だろう。
そして一つ飛ばしてオルトロスは俺のバーサーカーと同じ類のスキルで間違いない。
これはテイマーと同じでスタイルの面から選びたくないしリリーは俺達の中で一番感情が豊かな面がある。
今でもお客が来れば甘えるし、嫌いな奴が居れば吠える。
まさに爆弾に火薬を足す様な物・・・イタタタタ。
「どうしたんだリリー?」
「ウ~~~。」
急に噛みつかれた上に唸られてしまった。
どうやら要らない事に思考を割くなと言いたいらしい。
「ワン!」
「はいはい分かりました。」
コイツは人の心が読めるのか。
時々心配になるんだけどやっぱりこいつは犬ではない別の種族なのでは・・・イタタタタ。
余計な考えは今はよそう。
リリーの牙が本当の意味で唸りを上げない内に。
そして最後の一つは獣の統率者だ。
これに関しては力と防御と魔力に成長補正(小)が付いているので長期的に見れば良い職業だと思う。
なんたってリリーのレベルはまだ25だ。
これから成長していくのでレベルごとにステータスが強化されるなら一時的な強化よりも大きい筈だ。
それに群れのリーダーである時に全ての仲間に強化(小)。
すなわちリリーがリーダーの群れを作らせれば良いって事だ。
更に群れが大きくなればリリー自身も強化されるので今後に大きな期待が出来る
既にオメガを育てた実績があるので、もしかするとリリーならやってくれるかもしれない。
その時はリリー特殊部隊とでも呼ぶことにしよう。
それに一部のスキルが覚えやすくなると言う事だけど、俺はこれに何度も助けられたような気がする。
それにスキルを取得可能なのは5レベル毎に1回だ。
スキルは強力な武器や盾になるので1つでも多く使える様になっておきたい。
そう考えるとこの獣の統率者が一番良いスキルだと思う。
「リリーはどれが良いと思うんだ。」
「ワンワン。」
「え、もしかしてオルトロスか!?」
「ワン!」
「だから止めとけってそれは爆弾にガソリンを・・イタタタタ。父さんどうにかしてよ。」
すると父さんはリリーを抱き上げると頭を撫でながら優しく諭す事10秒足らず。
それだけでリリーは瞬時に意見を変えた。
「ワオ~ン。」
「なんでこんなに扱いが違うんだ。」
俺は噛まれた所をアケミに回復してもらいながらリリーを睨みつけた。
「ワウ~ン。」
しかしリリーは変な声を出してそっぽを向くと父さんに言われた通り、獣の統率者を選び取った。
何はともあれこれで我が家の平和・・・特に俺の平和が守られた。
今後リリーがどんな成長をするかが楽しみだ。
もしかすると俺よりも強くなる可能性があるけどこちらも簡単に負けるつもりは無い。
上から4番目である俺のヒエラルキーの座は渡さないからな。
その後、俺達は下りの階段に向かい、そこの近くで今日は休む事になった。
今後に備えての練習も兼ねているけど俺達は3時間も寝れば精神をリセットできる。
わざわざダンジョンの外に出て家に帰るまでもないだろう。
それに通常時だと何故か階段には魔物がやって来ないので休むならここが最適だ。
そして5時間ほどの休息の後に食事をとって階段を下りて行くと少し進んだ所でこの階層の魔物を発見した。
顔が猿だったのでまた狒々かと思ったけど首から下が全く違った。
首から上は猿なのに体が虎で尻尾が蛇になっている。
その見た目はキメラかと思ったけどそう言えばと思い直す。
「あれは鵺かな?」
「そうかもね。雷獣としても有名だから電気攻撃と麻痺に気を付けた方が良いかもしれないわ。流石に呪いまでは無いと思うんだけど。」
鵺の鳴き声を聞き続けた人が病に罹ったという伝承があるので完全には否定が出来ない。
今できる事と言えばアクセサリーやブギーで購入した水晶が嵌ったネックレスを首から下げるくらいだ。
水晶には邪気を払う効果があるようで一定の呪いから護ってくれると鑑定で分かっている。
ただどれくらいが一定なのか分からないのでこれに関しても調査が必要になる。
「アケミとユウナはこれを着けるんだぞ。みんなも着けてるからな。」
「お兄さんは着けないのですか?」
「例によって俺は体を張って調査だな。」
「漢探知って奴ね。」
「母さんはこういうネタが好きだよね。でも変なフラグ立てると変なスキルを覚えそうなんだよな~。」
そう言って俺は状況を確認するためにステータスを確認する。
もし呪いを受ければ一目で分かるはずだ。
そして、しばらく待っていると嫌は方向で予想が的中した。
「呪いを受けたみたい。」
「おめでとう。スキルは覚えた?」
どうして息子が呪われたと言うのに母さんはこんなに嬉しそうなんだ。
でも、皆からの報告が無いと言う事は受けたのは俺だけという事になる。
一応は水晶付きのネックレスは効果があるみたいなので一安心できそうだ。
「呪いの効果はステータスの低下みたいだね。力と防御が1割くらい減ってるよ。」
「それくらいなら誤差の範囲ね。」
「それじゃあ呪いの解き方を検証しないといけないな。回復魔法を試してくれ。」
俺が言うとアケミとユウナが同時に回復魔法を使用してくれる。
しかし、効果は無い様で呪いは消えない。
先程の様子から呪いが効果を発揮するまでにはある程度の時間経過が必要なのは分かっている。
もし、回復魔法に効果があるなら一度は呪いの表示が消えるはずだ。
それでも効果が無いと言う事は回復魔法に呪いを解く効果は無いのだろう。
または職業によっての何らかの補正が必要なのかもしれないので、これに関しては2人の成長を待つしかなさそうだ。
そして次に呪いを受けた後に水晶のネックレスを装着する。
「こっちも効果が無いな。呪いの表示は付いたままだ。」
「でも、もしかするとしばらく付けてると消えるかもしれないわよ。」
「そうだね。少しこれで待ってみようか。」
そして、しばらく待つと呪いの表示が消えステータスも元に戻った。
「後で付けても効果はあるけど呪いの解除に時間が掛かるみたいだね。」
俺はネックレスを外して再び呪いの状態になると最後の確認へと向かう。
「後は呪いの元を倒すとどうなるかだね。」
「恨みで強力になった呪いが襲って来るかもよ。」
「それだったら元々討伐が出来ないよ。」
それは流石に漫画の読み過ぎかもしれないけど一応は警戒しておこうと思う。
防ぐ方法は水晶のネックレスしかないけど倒したらすぐに下がれば間に合うだろう。
「それじゃあ、行って来るよ。」
俺は鵺に向かって走り出した。
そして奴も気が付いて動き出すと、こちらを翻弄するようにジグザグに飛び跳ねながら向かって来る。
9階層の虎男と比べれば遥かに機敏な動きで魔法を当てるのは難しそうだ。
しかし俺にとっては子供がケン・ケン・パをしているくらいに見えるので動きに合わせて剣を振り切り前足の1本を斬り飛ばした。
「ギヤ~~~。」
そして先程までのヒューヒュー鳴いていた声が止まり、悲鳴に変わった瞬間に呪いが消えて解除された。
どうやら、あの奇妙な鳴き声で相手に呪いを掛けていたみたいだ。
もしかするとあの声を聞かなければ呪いを防げるのかもしれない。
ただ、そこまでの道具は無いので素早く倒して次へ向かう事にする。
「これで終わりだ。」
俺は鵺の首を斬り落とし、それと同時に後ろへと下がる。
どうやら消える時に上がる霞が襲ってくる気配もなく、追加で呪いを受ける事もなさそうだ。
ステータスの低下だけで他は問題なさそうなので、その事を皆へと伝えてこの階層は無事に通過できた。
もしかするとアクセサリーによる強化が無ければ少し苦戦していたかもしれない。
それともう一つの懸念であった雷による攻撃はしてこなかったので杞憂に終わって良かった。
でも今後で強化された鵺が出て来る可能性もあるのでその時はまた注意しなければならない。
それに状態異常が出始めたと言う事は、この辺からは耐性が必要になると言う事だ。
ステータス上でも毒や呪いの他に麻痺、眠り、魅了、石化、幻惑など多種多様にあり、俺の持つ魔眼もある。
ただ、魔眼に関しては俺が持っているので皆には頑張って習得してもらおう。
それにしても、今回で呪い耐性を習得できなかったのが少し痛い。
これに関しては苦しいということは無いのでこの機会に覚えておきたい。
帰る時にでももう少し粘って習得を試みた方が良さそうだ。
出来ればアイテムとスキルの両方で対策を取り耐性を強化しておきたい。
それにこうなると個人の荷物が増えるのでアイテムボックスの重要性が増して来た事になる。
ゲームだと間に合わせでアイテム袋やポーチかバックがあるけど、未だにドロップするのは武器を除けはポーション類だけだ。
それに宝箱も発見できていないのでそろそろ諦め時かもしれない。
「もし今回の探索でアイテムボックスに代わる物が無かったらスキルでアイテムボックスを取るよ。」
「そうね。こんなに相手の能力が多彩になって来るとその時々で装備を変える必要があるわ。リリーに頼りっきりだと分断された時が危険ね。」
「それもあるよね。今のところはこのダンジョンで頭の良い魔物は居ないけど、オーストラリアでは指揮を執っていた魔物もいたから、これから知能も上がっていくかもしれない。その時に剥き出しのポーションは危険だよね。」
相手が賢ければ俺達がポーションで回復している事にも気付くだろう。
そこを狙われると厄介なので他の安全な所へストックしておきたい。
それにさっきみたいに素材のドロップもこれから増えるかもしれないとなれば必ず必要になってくるスキルだ。
今まで要らなかったのは単に相手が脳筋で力押しだけで倒せていたからに過ぎない。
「皆は余裕があったらで良いよ。今回はリリーが居るし装備自体も個人で持ちきれないって程じゃないからね。」
「それもそうね。それならまずは職業の取得を目指しましょ。」
俺達は一度相談し合ってまずは職業を取る事を優先させる事にした。
そのため魔石は俺とリリー以外に使ってもらってなるべく早く条件を満たしてもらう。
しかし次の階層に到着するとそこには驚くべき人物が待ち構えていた。




