52 装備品
俺は昨日訪れたばかりの装飾品店の前で足を止めた。
「この店ってそのまんま暁って店だったんだな。」
「あれ、お兄ちゃん知らなかったの?」
「そう言えば昨日は真っ直ぐ入って行きましたよね。」
昨日は場所だけで店に入ったから名前を気にしていなかった。
まあ、そのままアカツキさんのお店で通じるから良いだろう。
「もしかしてさっきのお店も名前見てないの?」
「・・・。」
「ふふ、あそこはブギーってお店なんですよ。やっぱり見てなかったんですね。」
痛い所を突かれて2人に笑われてしまった。
他のメンバーはなんだか呆れた顔をしているのでこれからはなるべく店名も見る様にしする。
ただし次に来る時までその名前を覚えられるかは別の話だけど。
そして扉を開けて店に入ると俺の顔を見た店員が奥へと飛んで行った。
そんな上客になるほど買ってないのになんだか大げさな気がする。
すると少しして店長のアカツキさんが姿を現し、笑顔でこちらにやって来た。
「あらあら、まさかこんなに早く来てくれるなんてこれまでの最高記録ね。」
どうやら商人としての勘か何かで俺達が再びここ訪れると予見していたようだ。
それで、さっきの定員の反応だったのかと思えば昨日の時点で分かっていたのだろう。
するとアカツキさんは俺達が指輪を嵌めて居る所を見てパッと笑顔を咲かせて手を叩いた。
「なんだか婚約指輪みたいんね。それに送られた方も満足してもらえたようで良かったわ。」
「ありがとうございます。」
「昨日はありがとうございました。」
アケミとユウナはとても嬉しそうにお礼を言って頭を下げている。
そんな中でアカツキさんがチラリと視線を動かしてアズサの後ろに居るお客さんを見たような気がするけど何か気になった事でもあったのだろう。。
ただ、そちらは他のスタッフが対応してくれているのでさっそく確認を取らせてもらう事にした。
「それでちょっと聞きたい事があるんですけど。」
「なあに?」
「この指輪が作られた時期を教えてもらえますか。」
「それなら私の昔馴染みが最近作って入荷してくれた物だから良く覚えているわ。特に今月はダンジョンの影響で流通が一部停まったでしょ。その影響で作るのが遅れて先週になってようやく届いたの。だから完成したのは今月の中頃になるわね。でも、おかげでその子達も行くべき所に行けて喜んでるわ。」
やっぱり時期としては予想の範囲内に収まっている。
そう言えば普通の人が強化のあるアクセサリーを着けたらどうなるのだろうか?
俺は丁度近くに居るアズサに顔を向けると手招きをして声を掛けた。
「ちょい来てくれないか。」
「何かあったの?」
「悪いけど実験台になってくれ。」
俺はそう言って袋から力の値を上昇させる腕輪や指輪を嵌めていく。
その時に俺がプレゼントした指輪が指に嵌っている事に気が付いた。
「あ、使ってるんだな。」
「あ、ある物は使わないと勿体無いでしょ!」
別に攻めている訳ではないので視線を逸らしながら言わなくても良いと思う。
でも義理やお土産レベルの感覚であげたプレゼントなので左手の薬指に嵌めてると普通の奴なら勘違いしてしまう。
まあ、その指が一番座りが良いなら俺からは何も言うまい。
「それで、なんか変わった感じは無いか?」
「え、あ、う~ん。特に何も感じないかな。」
数値的に見れば3割は力が上昇してるはずなのに変化が無いのは流石におかしい。
どうやらアクセサリーで影響があるのは覚醒者だけ限定されているみたいだ。
「効果があるのは俺達だけか。」
そう言って今度は逆に1つずつ外していって袋に収めていく。
「そんな名残惜しそうな顔をしてもやらないからな。」
「そんな顔してないもん。」
をると今度は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
それでも時々視線をこちらに向けているのは顔を見なくても分かる。
「よし。回収終わり。」
「手首に一個残ってるけど?」
「今回の協力料としてお前にやるよ。どうせ1000円の安物だからな。」
そして俺の顔を自分の手首を交互に見て表情をヘニャリと崩すと、小声で「ありがとう」とお礼の言葉が返って来る。
本当に女性はコロコロ表情が変わるけどコイツのこんな顔を見たのは初めてな気がする。
それにしても、どうしてさっきから背中に寒気を感じるのだろう。
もしかすると強力な魔物がこの近くに潜んでいて俺達を狙っているのかもしれない
しかし、そんな気配は感じないので気のせいだと思うが、隠密性に長けた魔物である可能性もある。
俺はそう結論付けて警戒を強めると今もニコニコ笑っているアカツキさんの許へと戻って行った。
「お待たせしました。」
「甘酸っぱいわね~。」
「ん?」
「フフフ、何でも無いわ。」
俺が首を傾げるとアカツキさんは笑って答えをはぐらかしまい何が言いたいのかは教えてもらえなかった。
ただ今日は用事があって来たのでそちらを済ませてしまおうと思う。
「それじゃあ、最近入荷した物を見せてもらっても良いですか。」
「良いわよ。でも、クリスマスの恋人様に入荷した物が主になるから売れ残り感があるかもしれないわね。」
「構いませんよ。用途も装飾品というよりも装備品ですから。」
そしてアカツキさんは他の店員に指示を出して注文した商品を集め始めた。
俺も店内を見て回りつつ漏れが無いかを確認していく。
どうやら効果は似たような物が多いけど上昇率が高い。
指輪に限ればどれも10パーセントを超えていて複数の効果がある。
中には俺のと一緒でオールステータス上昇もあるけど20パーセントも上がる物はない。
でもあれが偶然と言う事はないので、そこには必ず何らかの仕組みが存在するはずだ。
例えば指輪の詳細にあった愛の強さによる条件が上げられるだろう。
もしかすると用途によって条件が変わるのかもしれないので、これらに関しては今後の調査が必要になる。
そして持って来てもらった物を確認し、50の内の30が対象商品だった。
その内の10がクリスマスで売れ残ったペアリングで、それ以外は単品となる。
するとそれらを見てアカツキさんが気付いた事をファイルを捲りながら教えてくれる。
「どうやらアナタが選んだ物は熟練と言われる人が作った物が多いわ。ちなみにこれはアナタが買った指輪と同じ製作者の品ね。」
言われて手渡された指輪を確認をしてみると、これも全てのステータスを上昇させてくれる。
ただし上昇数値は高くなくて10パーセントだけなので俺の物に比べれば見劣りしてしまう。
それでも各ステータスが上がるのは大きいので候補として頭に入れておくことにした。
そして選ぶのは父さんと母さんなのでここにある10組の指輪を候補にして好きな物を選べば良いだろう。
その他にもネックレスやブレスレットもあり、ネックレスは数が少ないけど耐性系が付いているので値段が手頃な物は購入する事にした。
ブレスレットは力か魔力を強化してくれるみたいだけど指輪よりも効果が高く、こちらもアケミとユウナの強化のために購入しておく。
魔法使いは力が弱いので今の二人だと鍛えられた大人には負けてしまう可能性が高く、安全の為にもこれは必要な買い物だ。
別にプレゼントしたいからとか、二人の視線が厳しいとかそう言った理由ではない。
それにこの二つに関しては効果が偏っているのでそれぞれに特色があるのかもしれない。
こちらに関してはデータが少ないのでもう少し長い目で見た方が良さそうだ。
そして、ネックレスとブレスレットの合計金額を聞くと見事に2000万円を超えてしまった。
そして指輪も合わせれば3000万円以上になるけど俺が先に会計だけ済ませておけば今日にでも持って帰れる。
寸法が合わなければ調整などもしてくれるそうなので既に購入は確約済みだ。
それにスキルに付与があったけど誰か習得してくれないかと考えた結果、後でオメガに聞いてみる事にした。
それにしても最近は犬と意思疎通するのが普通になって来たので他の犬に同じ事をしないように気を付けなければならない。
そしてカードでは買えないので振り込みという事になり、近くの銀行へと向かう事となった。
「君のおかげで今年は最後の最後に大繁盛ね。」
「俺もまさかこんなに買い物をするとは思いませんでした。」
なんだかゲームを始めてすぐなのに強力なアイテムを爆買いしている気分だ。
でも、普通の人が作ってこれならスキルで作るともっと効果が上がるかもしれない?
それともただ簡単に作れるようになるだけかもしれないが今は確認が取れていない。
材料でも効果が変わるみたいだし調べる事がまた増えてしまった。
それに後で銀製品についての効果だけはアンドウさんへ早めに伝えておいた方が良いだろう。
アンデットに対して攻撃力が上がるので良い助けになる筈だ。
「でもな~・・・せっかく頑張って稼いだのにな~。」
貧乏性なのかお金を使うとどうしても無駄遣いではないかと考えてしまう。
これがアケミとユウナへのプレゼントなら何も感じないのに、心がこんなになっても染みついた性格だけは簡単に変わらないと言うことか。
「お金は使わないと社会が停滞してしまうわよ。どんどん稼いでどんどん使わないと。」
「まあ・・・頑張ります。」
するとセレブっぽいアカツキさんが愚痴の様に零した俺の本音に対して助言をくれた。
さすが高額商品を扱う店の店長は言う事がデカいな。
でも今日買った物でもあそこに置いてある物の一部なのでこの人も資産とか凄く持っていそうだ。
1000万や2000万円程度で稼いだ気になっていちゃあまだまだ駄目ということだ。
これはもう1億円突破を目指すしかない!
そして銀行に到着すると整理券を取って席に着いた。
流石に年末だけあって人も多く、それなりに時間が掛かりそうだ。
そんな中でアカツキさんは何やら笑顔で浮かべ、店内に向かって手を振った。
すると中に居た男性がそれに気が付いてダンスのステップを踏むようにやって来る。
そして、アカツキさんの前に膝を付くとまるで騎士の様に頭を垂れた。
「良くお越しくださいましたアカツキ様。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「フフフ、いつも面白い人ね。」
これを面白い人で終わらせるあなたも面白い人だと思います。
ハッキリ言って周りの視線を集めているので流石の俺も今のが普通の行動でない事が分かる。
「今日は私のお店の商品を沢山買ってくれた子が居るから振り込みに来たの。でも人が多くて待たせてもらってるのよ。」
「お任せください。すぐに個室へご案内いたします。どうぞこちらにお越しくださいませ。」
そう言って男は立ち上がると俺達を連れて奥へと歩き出した。
周りから何か言われるかなと思ったけど、こんな人に誰も関わりたくないのか今ではあからさまに視線を逸らしている。
やっぱりあまり関わってはいけない人のようだ。
それでも関わってしまったものは仕方がない。
俺は案内された部屋に入ると備え付けのソファーへと腰を下ろした。
するとすぐに別の店員が現れて振込用紙やお茶に御菓子を置いて逃げる様に消えていく。
俺は迅速かつ滞りなくこの場を去る為に判子や身分証などを出して準備を終わらせておいた。
今回は高額になる可能性を考えてしっかりと準備済みだ。
そして用紙を書き終えて先程の男が退室したタイミングでアカツキさんに声を掛けた。
「あの変わった人は何者ですか?」
「あの人はここの店長さんなの。母の時代からお付き合いがあって色々と利用してるから覚えが良いのよ。」
どう見ても覚えが良いレベルではないんだけど、そこは突っ込まないでおこう。
きっと俺では想像も出来ない様な金額を投資しているに違いない。
そして、少しすると問題の店長が戻って・・・いや、踊りながらやって来た。
「お待たせしましたユウキ様。」
そう言って上機嫌で現れたのは良いけど、何でこんなにさっきと態度が違うんだ。
俺は見るからに気持ち悪い動きの店長について付き合いの長そうなアカツキさんに小声で問いかけた。
「ちょっと気持ち悪くないですか?」
「そんなストレートに言わないの。この人はお金を沢山持っている人が好きなだけだから。」
「気持ち悪い事は否定しないんですね。」
「ふふ、本人には内緒よ。」
やっぱり思う事はみんな一緒のようだ。
そして支払いが終わり店長はニコニコとしながら支払い証明書と封筒を差し出して来た。
何かと思い中を見るとどうやら口座の残金が記載されているようだ。
今朝確認した時は先日のオーストラリアでの依頼達成金が入っていたので6千万円に届かない金額が入っていた。
ちゃんとオメガと半々で分けてくれたみたいなのであちらにもアカツキさんが色々手配してくれているだろう。
普通に考えて犬が口座を持つなんて出来ないからどんな手を使っているのかは知らないけど。
そして俺の口座には今回の出費で残りが2千万前後となっているはずだった。
でも確認すると何故かゼロが1つ多いだけでなく一番大きな数字の所に4と書いてある。
俺は宝くじを当てた記憶は無いのでこれはいったいどういう事だろうか?
そう思い犯人、もとい、実行犯であろう人物へと連絡を入れてみることにした。
『どうしたハルヤ。何か問題でも起きたのか?』
「俺の口座に変な金が入ってるんだけど何か知ってるよな。」
『ああ、それか。実はお前の今回の仕事が意外に各国から好評でな。それぞれに物件とか株とか持って来たからこちらで対応しておいた。』
「何をしたんだ?」
『「感謝をするなら金をくれ」と言っただけだ。物で渡されても困るだろ。それに物件なんてお前を自分達の所に取り込もうとしてる考えが丸分かりだ。丁寧に断って後腐れなく金で終わらせておいた。』
なるほど、それで理解できた。
アメリカはミサイル1発だったけど他はそうやって手を回して来たのか。
一緒に戦っていた奴らもかなりレベルが上がったし、魔石やアイテムもかなり譲ったからだろう。
それにどの国も力を持っている覚醒者の獲得に力を入れてるってが分かる。
そう考えれば一応は俺達の必要性だけは理解していると考えても良さそうだ。
「でもなんだか事務所のマネージャーみたいだな。」
『みたいじゃなくマネージャーでもあるんだよ。これから俺達がフィルターになってやるからお前はお前の仕事を頑張るんだな。』
「それなら海外はしばらく遠慮したいな。」
そしてついでなので先程分かった事を追加で伝えておいて連絡を終えた。
これで政府がお金を払って制作者を雇用するか、物品を購入するかして対応してくれるだろう。
「お待たせしました。残金で不明な点があったのでちょっと確認をしてみたんですけど問題なさそうです。」
「そうなのね。お金がたくさん入って良かったわね。」
それはまた早く買いに来いと言う催促だろうか・・・。
まあ、今の所は邪推は止めて素直に喜んでくれていると思っておこう
そして俺達は立ち上がるとそのまま銀行から立ち去って行った。




