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49 クリスマスの夜

アズサは帰り道でハルヤの家を確認し、その後は自宅へ帰って久しぶりに母親と過ごしていた。

そして思い出したようにバックから包みを取り出しテーブルに乗せる。

それを見たアイコは首を捻ったが、包装と時期からある程度の予想をつけると口元をニヤつかせた。


「フフ~ン。誰にクリスマスのプレゼントなんて貰ったのよ?」

「ち、違うよ。これはリハビリに付き合ってあげる前金だって言うから仕方なく貰ってあげたの。だからきっとイヤリングとか無難なのが入ってるのに決まってるでしょ。」

「ふ~ん、そうなんだ~。でもその様子だと貰ったのはハルヤみたいね。」


そしてアズサは完全にイヤリングだと決めつけているが少しだけ嬉しそうに箱を開けている。

しかし、その中には予想とは大きく違う物が収められており、アイコと顔を見合わせることになった。


「き、綺麗な指輪ね。」

「そうだね。しかもこれってルビー?あれ?・・・私の選んだのと違うんだけど。それにリングもなんだか凄く色が濃い様な・・・。」

「ち、ちょっと待ちなさいね。確か私20金の指輪持ってるわ。」


そう言ってアイコは自分の指輪を持ってくると二つを見比べる。

すると見た目の差は歴然となり、持っている指にも自然と力が入ってしまっていた


「やっぱりあなたの貰った方が色が濃いわね。もしかしてこれって本気の指輪?そうだとしたら気合が入り過ぎじゃない。」

「ん~、それは今の段階では絶対に無い筈なんだけど・・・。」

「今は・・・ね。」


アイコは少し困った顔の娘に流し目を送って笑みを浮かべる。

そしてアズサはもう一つの指輪を手にするとそれを指へと嵌めて大きさを確認した。


「これって私には大きいよね。」

「当然でしょ。それってペアリングなんだから、もう一つは好きな人にあげないと。」

「す、好きな人って、そんな人居ないよ!」

「まあ、いつか気が付くかもしれないでしょ。それまで大事に取って置きなさい。」

「え?」

「恋も愛も落ちる時は一瞬なのよ。だからそれも必要になる時が来るわ。せっかくのプレゼントなんだから大事にしなさいね。」

「う、うん。それならちょっと収めて来るね。」


アイコは笑みを返すとキッチンへ移動すると部屋を出て行こうとするアズサの背中にもう一度一声かける。


「サイズが合う方は使う様にしなさいよ~。」

「う、うん。」


そして部屋に戻ったアズサは初めて異性から貰ったクリスマス プレゼントを眺めがら頬を緩めながら指輪を手にした。

最初は要らないと思っていたのにも関わらず、今は嬉しくて無意識に心が沸き立っている。


「どの指に嵌めようかな~。」


そう言いながらも指輪は既に右手に持たれており、視線は真っ直ぐに1本の指へと向けられている。

その事に気付くと頬が熱くなり、頭に血が上って来るのを感じてしまい頭を振り乱して別の言い訳を考え出した。


「こ、これは予行演習なんだからね!別にそう言うんじゃないんだから!」


そんな事を言いながらも彼女は左手の薬指に指輪を通しながら表情を崩壊させている。

もちろん、購入時にはその指で合わせているのでするりと入り、第二関節を過ぎて少しするとピタリと止まった。


「ムフフ~。」

「何がムフフ~なの?」

「お、お母さん!入る時はノックくらいしてよ!」


アズサは慌てて左手を後ろに回すとアイコが見えない所で必死に指輪を外そうと試みる。


(どうして外れないのよ。)


当然、トラブルメーカーの称号をハルヤより賜る程の人物が傍に居ればこの程度の事は日常茶飯事だ。

しかし、今回は今までとは規模が違う。

家族だからこそ見られたくない事が存在し、これはそう言った類の恥ずかしい事であった。

そしてアズサの気も知らずアイコは何でも無い様に娘へと声を掛ける。


「扉が開いてたのよ。それと抜けなかったら洗剤を使うと抜けやすいわよ。でも流石にその指に嵌めて学校に行っちゃうと誤解されるから大変でしょ。」


ここで後半部分を言わなければ優しさも伝わっただろうに彼女にはそれが不可能だったようだ。

そしてアイコは優しい笑みを残して部屋から出ると、しっかりと扉を閉めて1階へと去って行った。

その後、アズサは何とか自力で指輪を外そうと奮闘するも一向に外れる気配がなく、アイコのいるキッチンで指輪を外す破目になる。

しかし、何故か水道の前に立つとスルリと指輪は外れ事なきを得たが、その時のアズサは母親の体質は不幸や不運ではなく何かの呪いではないかと頭を過っった。

しかし、それを知る手立てがないままアズサはこれからも頑張って生きて行くのであった。



場所は変わりここは結城家のキッチンである。


俺の後ろでは女性陣がワイワイ言いながら今夜食べるご馳走を作っており、鳥の丸焼きにサラダに御寿司が既に完成した

大きなケーキに蝋燭を立て、部屋の端にはツリーが飾り付けられて電気の光を放っている。


そして、アケミとユウナの服装は何処で買って来てのかミニスカサンタだ。

その見た目はとても眩しく白い素肌がまるで雪のように見える。

そんな期間限定のコスチュームを着ているのだから俺の視線が勝手に吸い寄せられるのは異常ではなく正常な反応だと断言したい。


だって仕方ないじゃないか。

美少女二人のミニスカサンタだぞ。!

誰が視線を逸らせるって言うんだ!!

可愛いお尻がリズミカルに揺れてるし、この二人のサンタの為なら何処まででもソリを引いて行ける自信がある!!!


そんなバカな妄想をしていると料理は完成し俺達は席に着いてケーキの蝋燭に火を点ける。

それにしてもユウナの両親と同じテーブルで食事をするのにも完全に違和感が無くなってしまった。

そんな中でアケミとユウナが蝋燭を消して食事が開始される

話す内容は今日の出来事がメインになり色々なお店を周った時の話や強盗の一味を捕まえた時の話だ。

所々でアズサの話が飛ばされていたのはよくある事だろう。


その後、食事を終えて夜も遅くなると俺は布団から起き出して灯りをつけた。

そして傍に準備しておいたクリスマス・プレゼントを手に持ち、そのまま部屋を出るとアケミの部屋の前に行きノックもせずに中へと入っていく。

なんだかいつも来ている部屋のはずなのに心臓が高鳴り凄く緊張してしまいイケない事をしている気持になる。

きっと俺には一生を費やしても夜這いは不可能なのでその手のイベントが発生してもスルーする事になるだろう。

それにあれは鋼の心臓を持った奴がする事で俺の様に豆腐の様な心臓では出来るはずはない。

そして、なんで俺は今日の為に隠密系のスキルを取らなかったのかと自分を呪った。

それがあればもっと安全に部屋への侵入してプレゼントが置けたのに、過去に行ければ自分を殴り飛ばしたい気持ちでいっぱいだ。


そしてベッドの前に行くと2人は向かい合う様にして穏やかな寝息を立てていた。

俺はその顔を見て心臓が破裂しそうな程に高鳴り、金縛りに遭ったかのようにしばらく動けなくなる。

不動の魔眼のように下半身だけが動けなくなるようなチャチな物ではなく、全身の筋肉、眼球、心臓、呼吸まで止まってしまいそうだ。

それでも何とか一歩ずつゆっくりと近づくと二人の傍に指輪を置いてから急いで部屋から出て行った。

あの甘い寝息をこれ以上聞いていると俺の精神がどうにかなってしまいそうだ。


そして部屋に帰った俺は布団に入り直すと先程の事が頭から離れず寝付けない時間を過ごしていた。

すると扉が開き2つの気配が部屋に入ってくる。

でもこれはアケミとユウナの気配なので俺は眠ったふりで目を瞑ると何かが二つ、枕元の棚に置かれる音が聞こえる。

そして鼻腔に甘い匂いが届いたと思うとサラサラとした髪の感触が顔に掛かり唇に柔らかいモノが押し付けられる。

俺はそれを黙って受け入れていると最後に甘い吐息が吹きつけられた。


すると次は別の甘い匂いが鼻を擽り長くシルクの様な感触が頬を撫でる。

そして震えた感触が俺の唇を覆い、柔らかい舌の感触が唇を押し開けてくる。

それが終わると二人の気配は足早に部屋から出て行ったが、しばらく微動だに出来ない程のショックで体が硬直していた。


そしてしばらくして目を開けると先程の感触を思い出しながら唇を撫でる。

まさか二人に襲われるとは思わなかったけど皆が生き返った時と比較しても比べる事も出来ない程の幸せな気持ちが胸に込み上げてくる。


そして電気を着けて棚を見るとそこには二つの指輪が置かれており、それは明らかに俺が渡したペアリングの片割れだ。

どうやら、これと先程の口づけが二人からのクリスマス プレゼントだったのだと気付くと限界を超えて胸が暑くなるのを感じる。

そして同じデザインでどちらか分からないなと思っていると指輪の裏に二人のイニシャルが書かれているのに気が付いた。

それに鑑定するとそこにもちゃんと情報が乗っているのでもし消えたとしても見分けがつく。

ただその内容が少しだけ意外なものだった。


アケミより愛をこめて送られたペアリング。

互いの愛が強い程ステータスが強化される。

効果1~20パーセント


ユウナより愛をこめて送られたペアリング。

互いの愛が強い程ステータスが強化される。

効果1~20パーセント


これって相手との愛って書いてあるけど大丈夫だろうか。

もし1パーセントとかなら俺の心のダメージが計り知れなことになりそうだ。

まあ、愛と書いてあるけど家族愛とか友愛とかそんな感じだろう。


そう考えた俺は指輪を装備してステータスを確認してみる事にした。


ハルヤ

レベル30

力 115(161)

防御 82(114)

魔力 30(42)


そして、スマホを取り出して軽く計算するとステータスが40パーセントも上昇しているようだ。

どうやら指輪の効果が重複していても関係なく上昇するらしい。

ただし、それよりも互いの愛が最大値である事の方が何だか嬉しく感じ、こんなに気分が良いのは生まれて初めてかもしれない。

今なら素の状態でもゲイザーの魔眼をレジストして一刀両断できそうだ。


それにしても、なんだか最近ステータスの上昇が著しいのでこれはこれで訓練が必要かもしれない。

まずは俺のステータスで何処まで下層へ行けるか確認する必要がある。

もしかすると数日はダンジョンに籠らないといけないかもしれないので明日の朝にでも皆に相談してみようと思う。


そして俺は心臓が落ち着くのを待ってから眠りに着いた。




朝が来ると俺は誰かに顔を突かれる感触で目を覚ました。

目を開けてみるとそこには包みを咥えたリリーの姿があり、父さん達からのプレゼントを開けてもらいたいみたいだ。


「分かった、分かった。」

「ワン!ワン!!ワン!!!」


リリーの機嫌は最高潮で今にも尻尾から巻き起こる風で空を飛びそうだ。

絶対に誰がくれたのか知っているので父さん大好きなコイツからすれば今朝は犬生最高の時だっただろう。

俺はリリーに急かされながら受け取った包みに手を掛ける。


「ウ~~~!」

「え、破るなって事か?」

「ワン!」


どうやら丁寧に開けるために俺の所へと持って来たみたいだ。

これはなかなか難しい注文だが、リリーの耳を見るとまるで僅かな音も聞き逃さないと言う様に俺を完全にロックオンして一瞬たりとも動かさない。

ここで『ピリッ』と音がしようものならこの部屋ごと吹き飛ばされてしまいそうだ。

俺は極限まで集中すると張られているシールを少しずつ剥がしていく。

それに有難いことに包装自体は表面加工された丈夫な物なので取り外しは簡単な作業だった。

そして開けてみるとそこには可愛らしいリボンのついた赤い首輪が入っている。


「出せたぞ。」

「ワン!」


するとリリーは一声吠えると俺の渡した包装に鼻先で触れて消し去ってしまう。

これには見覚えがあり、オメガと同じスキルを使ったのだろう。


「リリーはアイテムボックスを取得したんだな。」

「ワン。」


俺の言葉にリリーは頷くと首輪を咥えて行ってしまった。

どうやらこれから新しい首輪を使ってのお散歩に出かけるつもりのようだ。

最近は1匹で勝手に出かける事もあるみたいだけどあいつなら大丈夫だろう。

それにリリーなら車に轢かれて死んでしまう心配もなく、逆にそんな場面があれば車の方を心配するべきだ。


ちなみに、先程の首輪にもステータス強化の効果が何故か付いていた。


絆の証

各ステータス強化10パーセント


もしかすると制限がないので上昇数値が低いのかもしれない。

それかスキルで裁縫や鍛冶などがあるけど強化率はあちらの方が高い可能性がある。

そうなると最大の問題は人の少なさにあり、アメリカは人を使い捨てに出来る程に人材が居ると先日の事で知る事が出来た。

オーストラリアもステータスを持つ者は100人を超えているので、それだけ居れば誰かが生産に手を出してもおかしくない。

逆に日本は人の確保に2回も失敗しているので3回目が無いとは言い切れない。

もう少し、危機感を持って他人任せにしない事を願うばかりだ。


俺は服を着替えて下に降りると、そこには既にアケミとユウナの二人が朝食の準備をしていた。

その手には互いに指輪が光り時々視線を向けて笑っているので今日はいつもよりもご飯の準備に時間が掛かりそうだ。

それにしても何で左の薬指なのだろうか。

俺は手元のスマホで確認してみると、どうやらあの指には絆を深めるや願いを叶えると言った意味があるようなので、きっとそちらの意味であの指に付けているのだろう。

俺は適当に人差し指に嵌めていたのだけどこれなら薬指でも良さそうだ。

俺は指輪を付け替えるとそれを見ていた2人からとても眩しい笑顔を向けられてしまった。

その表情はとても美しく、今まで見た事が無いほど大人びて見える。

いつの間にこんなに成長してしまったのだろうかと思いながら、これだと高校に入る頃には俺はお払い箱かもしれないと寂しさを感じる。


そんな事を考えながら指輪を嵌めた手を強く握るとテレビの前に移動していった。

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