47 買い物 ③
先程の食事中にアズサがこんな提案をして来た。
「アナタ達だけだとまた目立った事をしそうだから私が保護者として付いていきます。」
「「え~!」」
(目立ってたか?)
ここで声をあげたのはアケミとユウナだが、俺は疑問に首を傾げている。
それに2人にとっては俺を挟んだデートと言う考えなのでアズサは邪魔者でしかならないのだろう。
しかし彼女は少し冷めた目で相手に見えない様に背後を指差した。
「あの人たち、ずっとあなた達を見てるわよ。それに最初のピヨピヨからかなり目立ってるし。」
(お前もそこから見てたのか。)
それにしても他人からこうやって指摘されるとなんか恥ずかしい気持ちになってくる。
それとアズサが指さした方に居る男達の声を拾うとすぐにその視線の意味が分かった。
「くっそー、リア充め~!」
「爆発しやがれ!」
「美少女を!人も侍らしやがって~!」
「「「シネ!シネ!シネ!」」」
どうやら彼らはクリスマスまでに彼女を作れなかった者で集まった集団のようだ。
しかもおかしなことに俺もあちら側なはずなのに今は違う気がする。
俺はそう思って3人に視線を向け関係を確認してみることにした。
「妹、妹の友達、他人。やっぱりアイツ等の言ってる事は違うな。」
「なんだか私だけ酷い言われようだけどそれはアナタの視点であって傍から見れば男一人に女の子二人のラブラブカップルなのよ。まずはそこから直さないといけないわね。」
そう言われてしまうと反論の余地がない。
それとアケミとユウナは何故かアズサの言葉に体をクネクネさせて凄く嬉しそうだ。
まあこの事でも分かるように客観的に見てくれる相手も必要なのは間違いない。
「そう言われたら仕方ないな。2人とも良いか?」
すると2人は互いに肩を突き合わせるとコショコショと内緒話を始めた。
「どうするユウナちゃん。」
「お兄さんの隣は私達で定員一杯です。」
「ならここは私達の事を見せつけてやれば良いよね。」
「そうですね。私達との間に入り込む余地の無い事を教えてあげましょう。」
そして少しすると二人は顔を上げてコクリと強気な表情で頷いた。
なんでそんなに喧嘩腰なのか分からないけど、これからの事を考えると少しは良好な関係になってもらいたい。
「分かりました。そちらの提案を吞みましょう」
「昼からは4人で回れば良いよね。」
そういった話の流れから俺達はホテルを出るとショッピングモールへと戻って行った。
そして2人にサンタとしてプレゼントする為にアクセサリーを探して最初の店へと入っていく。
最初は誕生石が置いてあるお店でネックレスや指輪などが飾られている。
幾つか鑑定するとどれも鉄や銀が台座として使われていて見た目は微妙だ。
その代わりどれも5000円以下と安く手ごろな値段ではある。
「アケミの誕生日は4月だよな。」
「うん、4月24日だよ。そしてそれを過ぎれば結婚も出来るよ。」
(いや、そこまでは聞いてないんだけどな。)
それともそんなに早く結婚して家を出たいのだろうか。
いや、高校生で結婚は良くないだろう。
もしも相手が結婚したいと言い出したらちょっとオ・ハ・ナ・シが必要そうだ。
「ユウナはいつが誕生日なんだ?」
「私は5月1日です。アケミちゃんよりは少し遅いですけどお兄さんは待ってくれますよね。」
当然、誕生日が遅くても問題ない。
誕生日会なら別々にすれば良いんだからな。
「ああ、待ってるからな。」
「はい!」
(そんなに誕生日会が楽しみなのかな。)
そして、なんでアズサは頭を抱えてるのだろうか?
気付いた事で言いたい事があるならハッキリと言ってもらいたい。
黙ってたらリハビリにならないだろう。
でもやっぱり良い物が見当たらず、2人も楽しそうに見ているけど様子見と言ったところだ。
「次に行こうか。」
今の所ここは1軒目に過ぎないのでこれから何件か周って希望に即した物を探す予定だ。
俺は次に近くにあるジュエリー店へと入ると店員がすぐにやって来て声を掛けて来た。
「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」
「はい。クリスマスのプレゼントを探しに来ました。」
「え?あ、必礼しました。お二人の婚約指輪かと。」
そう言って俺とアズサに視線を向けているのでアケミとユウナはスルーされた様だ。
まあ、可愛いと言ってもまだ子供っぽさは抜けていないから仕方が無いだろう。
でも2人がヘソを曲げてしまったのでここは適当に見た後に店を出た。
出る際に中を見ると先程の店員が他の人から怒られているのが見える。
先入観で対応したためにお客を逃がしたからだろう。
このお店はなかなか良い物が置いてあったので二人がヘソを曲げなければここで買っていたかもしれない。
でも、この店のおかげで買う物の目途は付いたので機会があれば一度は利用させてもらおうと思う。
「それじゃあ、次に行こうか。」
「ねえ。なんだかお店のグレード上がって行ってない?」
「そうか?順番に回ってるんだけどな。」
このショッピングモールは上に行くほどグレードが上がり、次がここでは一番高い店になる。
でも、ここはそんなに都会ではないので売っていても何百万もするような物はそんなに置いていない。
それに値段の幅もそれなりに広く設定してあるので人気の店だと書いてあった。
そして店に到着するとショーケースに並ぶ煌びやかな指輪やネックレスを見て周る。
すると中年の女性が現れこちらにニコリと微笑んだ。
「いらっしゃいませ。綺麗なお嬢さんがお揃いですね。」
「ええ、今日はクリスマスのプレゼントを選びに来たんです。何か良い物は有りますか?出来れば誕生石が嵌っている物が良いのですけど。」
「分かりました。それではこちらにお越しください。」
そう言って数人の店員が此方へとやって来てアケミとユウナ、そしてついでのアズサも一緒に連れて行った。
「あ、あの。私は付き添いで。」
「まあまあ、見るだけならタダですので。一度ご覧ください。」
店員はそう言って有無を言わせない流れでアズサも連れて行った。
彼女にはこれから世話になるので何か欲しい物があれば適当に買ってやっても良いとは思っている。
この時期にこんな所でフードファイターをしているくらいだから彼氏もいないだろうし俺が何を渡しても怒る者は居ないだろう。
まあ、居るならそいつへのプレゼントにでもしてもらえば良い。
すると先ほどの女性がやって来て店内にある席を進めて来た。
そこには既にコーヒーも準備してあり俺の拒否権は無さそうなので席に座るとミルクと砂糖を入れて一口啜る。
「子供相手でも丁寧に対応してくれてありがとうございます。」
「ふふ、実はさきほど母からこんな写真が届いたの。」
そう言って脈略の無い話が始まり彼女はスマホの画面を見せてくれる。
するとそこには今朝の電車で会ったお婆さんと一緒にアケミとユウナが元気な笑顔で映っていた。
そう言えば3人で記念の写真を撮っていたのでその内の1つだろう。
「そして、その後のもう1枚写真が来てるのよ。」
そう言って彼女は画面をスライドさせて次の写真を見せてくれたけど、そこには元気に背筋を伸ばすお婆さんの姿がある。
普通に考えれば過去の写真と思うだろうけど、きっと2人の魔法が効いて完治したのだろう。
「でも、それと俺達に何の関係が?」
「母の話だとこの子たちが腰に手を当てた後に良くなったそうなの。それに知らないかもしれないけど、あの状態は内臓にも負担がかかって最近は食が細かったのよ。でも今日は久しぶりに美味しいご飯が食べれたって喜んでたわ。腰が治っただけにしては早過ぎると思わない?」
どうやらこの人には何か確信の様なものがあるようで顔はニコニコしているのに目の奥に鋭さを感じる。
魔物とは違うその強い視線に俺は内心で諸手を上げて降参した。
「仰る通り、この2人がそちらの方を魔法で治しました。少しですが話していて仲良くしてもらったお礼でしょう。別に大した事ではないので気にしないで下さいとお伝えてください。」
「ふふふ、欲が無いのね。お礼に割引くらいはしても良かったのよ。」
「そんなつもりで治したわけではないので結構ですよ。」
すると背後の扉が開きそこに付いていたレトロなベルがけたたましい音を奏でた。
「全員動くな!」
「「「きゃーーー!」」」
そして荒々しい声と共に客と店員の悲鳴が上がり狭い室内に混乱が広がって行く。
俺はそんな突然の襲撃の中で椅子から体をズラして後ろを向くと、そこには覆面を着けた男が此方にナイフを構えていた。
「これは何かのドッキリか?」
「何を言ってるの!これは本物の強盗よ!」
どうやらカメラが何処かにセットされているとか、避難訓練の類では無いみたいだ。
なら対応は簡単なのでプレゼント選びの邪魔をされる前に片付けることにする。
そして見ている間に犯人は近くの女性を人質にするために手を伸ばすと、掴んだ腕を自分へと引き寄せた。
「こっちに来い!お前は人質にしてやる!」
「助けてー!」
そう言って男は女性を拘束するとその首元へナイフを突きつけた。
それに女性は怯える仕草を見せると、男と並んで動けなくなってしまう。
「このバックにこの店の装飾品を全部入れろ!余計な事をしたらコイツをぶっ殺すからな!」
「お願い助けて!」
そう言って持っていた黒い背負いバッグを放り投げて来るが、すぐに動ける者は居ないようだ。
そして俺は苦笑を浮かべると椅子から立ち上がって2人の前に立ちはだかった。
「臭い芝居は止めてくれ。見てるだけで笑えてくる。」
「何を言ってるのお願い助けて!」
「お前ら揃ってグルなんだろ。素直に言わないと両方が痛い目を見るぞ。」
何と言おうと俺のスキルは2人ともが黒だと告げている。
索敵にも反応があり危機感知も警鐘を鳴らしている。
こういった場面でこんな効果があるとは知らなかったけど、この二つのコンボは優秀のようだ。
「クソガキが黙りやがれ!」
そう言って男は女から手を離すと本当の人質を取るために駆けだした。
すなわち、丸腰で一番近くに居る俺に向かって。
「遅いな。」
相手にとっては全速でも今の俺を捕まえるには遅すぎる。
これだとゾーンに入らなくても殺さずに倒すことも容易く出来る。
俺は向けられたナイフを素手で払うとなるべく殺さない様に気を使いながら顎を横に払いさらに縦に打ち上げる。
「これでもかなり手加減したんだけどな。」
俺が打ち上げた男はそのまま来た方向へと跳ね返ると女性へと直撃した。
それだけで打ちどころが悪かったのか、女性もその場で気絶するとポケットからはバタフライナイフが零れ落ちる。
「これで静かになったな。それじゃあコーヒーの残りを頂くか。」
俺は倒れた男達を放置してそのまま席に戻るとカップに口を着ける。
するとようやく意識が復帰した目の前の女性は周囲へと指示を出し始めた。
「すぐに警察と警備に連絡を入れなさい。男性店員は何でもいいから彼らを縛っておいて。」
そして店がドタバタしていると奥の部屋からアズサが顔を覗かせた。
どうやら防音の効いた部屋のようで外の状況を知らないようだ。
「何かあったの?」
「何でもないからお前は選ぶのに集中しろ。」
「言ったでしょ。お兄ちゃんに任せておけば問題ないの。」
「お兄さんならあの程度なんでもありません。」
そしてアズサは2人に引き摺り込まれる様に再び部屋へと消えて行った。
どうやらこっちはちゃんと気付いてはいたけど俺に全て任せれば大丈夫だと信じていたようで、その信頼に応えられて俺としては嬉しい限りだな。
すると指示を出し終えた先程の女性が俺の前へと戻って来た。
「少し前にこの近くにもダンジョンがあると報道されてましたけど、他と違って初動が良くて被害が少なかったと聞いています。もしかしてあなた達がそうなのですね」
俺は人差し指を立てて自分の口元へと持って行くと「静かに」とジェスチャーを送る。
秘密にしろとは言われては居ないが、平穏な生活の為にあまり周りには知られたくない。
「それは偶然の結果なだけですよ。俺は自分の目的の為に全力を出したに過ぎません。誇るつもりもなければ吹聴する気もありませんし今みたいに普通に過ごせれば良いと思っています。」
「そうなのですね。それならこれは私の胸にだけしまっておきます。」
「そうしてくれると助かります。」
そして、それからしばらくするとようやく3人が姿を現して俺の許へと戻って来た。
今は店内に警察と警備の人が数名現れ、防犯カメラの映像を受け取ったり店員に事情聴取をしている。
もちろん俺達にももうじきその順番が回って来る事になる。
「それでは次は君たち・・・ああ、何となく分かったよ。君なら納得だね。」
そう言って苦笑している警官は手帳に何かを書き込むと一人納得して去っていった。
「お兄ちゃん。きっとダンジョンの事で顔を知ってたんじゃない。」
「そうですね。私達の資料はあちらがバッチリ握ってますし。」
そう言われればそうかもしれない。
ここはダンジョン対策本部からも近く俺も何度か行った事がある。
それにこの町には自衛隊が来なかった分、警察に協力してもらいながらダンジョンに対応している。
俺にとっては沢山いる警官の1人でも、あちらからしたら俺はたった1人なので何処かで顔を合わせていたのかもしれない。
それに他の人の証言と店内にある防犯カメラの映像があれば事情は理解できるだろう。
「それで欲しい物はあったのか?」
「うん。いくつか選んだから後はお兄ちゃんに任せるよ。」
「私も同じです。楽しみにしてますね。」
「あの、私は・・・。」
「お前のもついでに買ってやるよ。」
俺は遠慮がちに言って来た梓にピシャリと断言すると待っている女性店員の許へと向かって行った。




