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44 怒りを力に 

俺は地面に下りるとすぐに目的の場所へと走り出した。

そして到着するとそこは周囲が破壊されダンジョンの周りは重機で囲まれている。

どうやら今もまだ俺達を隔てる壁は厚くなり続けているようだ。

そして俺は荒れ地へと変わったエリアに足を踏み入れるとそのまま正面から歩き始めた。


「お前ら何をしてるか分かってるのか?」


しかし問いに対して返って来たのは沢山の銃声だった。

俺はスキルを全力で使い銃弾を受けながらも前へと進んでいく。

すると一人の男が現れた事で攻撃が止まり俺も足を止めて様子を窺う事にする。

そしてどうやら兵士はその男に状況を報告しているようだ。


「問題が発生し化け物の生き残りが現れました。」

(化け物?いったい誰の事を言ってるんだ?)


しかし、報告を受けた男は俺の顔を見ると濁った眼で納得したように頷いた。

そして俺の中の獣が鋭い嗅覚でもって今回の元凶は奴だと教えてくれる。


「ターゲットを結城家の長男と確認。アレも他の奴らと同じ化け物だ。物量で押し込んで拘束しろ。その後、モルモットとして実験に使う。奴らを殺す手段を見つけなければならないからな。」

「アレも?モルモット?」


そう言って男が指示を出すと先程を上回る攻撃が俺に押し寄せてくる。

それを受けながら先程聞こえた会話を頭の中で何度も検証する。


俺達が化け物?

確かに魔物と酷似している所が多いのでそれが俺に対してだけなら幾らでも受けよう。

どんな罵倒も暴力も俺だけならば受け入れよう。

でも家族や仲間。

特にアケミとユウナに同じ事をすると言うなら俺は容赦しない。

アイツ等はこれからもっと色々な事を経験して幸せになるべきなんだ。


「アイツ等は俺とは違う!!」


俺は自分の中で怒りが膨らみ再び視野が狭くなるのを感じた。

しかし次の瞬間、世界が開けあらゆる物が今まで以上に鮮明に捉えられるようになったのを感じる。


「あの二人を悲しませるお前らに生きる価値はない!」


俺は銃弾を避けるのも止めるとそのまま前進をはじめ剣を手にする。


「攻撃が通用しません!」

「手榴弾とロケット砲を使え。魔物に効果があるならコイツにも効果がある。」


すると俺の前に先日からお世話になっている手榴弾が大量に飛んでくる。

しかし、これには一つの大きな欠点がありピンを抜いてしばらくは爆発しない事だ。


俺は飛んでくる手榴弾に接近し、それらを剣で全て打ち返した。


『ドドドドーーン!!』

「「「ぐあーーー!!」」」


俺が打ち返した事で奴らの陣地は火の海に変わった。

誘爆もしている様で予想以上の数が爆発している。

その中で悲鳴を上げて陣地を放棄し、向かって来る者達がいた。


「よくも仲間をーーー!」

「黙れ。お前が仲間と口にするな。」


俺はそれらの兵隊を容赦なく斬り裂くと骸に変えながら前進を再開する。

そこには一切の手抜きや慈悲はなく、ただ怒りの中で作業をするように一刀で命を奪う。


すると今度はトラックがバリケードを越えて俺に向かって来るが、この質量だと流石に受け止めるのは難しい。

俺は左手で剣を逆手に持ち側面を首の後ろから右腕に添えて斜めに構える。

そして衝突の瞬間、全身に力を籠めるとトラックの前面が剣に沿って浮かびそのまま飛び上る様にして横転した。

これにはさすがに足腰に負担がかかり過ぎた様で下級ポーションを飲んで体を万全にする。


すると俺に向かって今度は砲弾が襲い掛かって来た。

その速度は今のゾーンに入っている状態でも車が走る様な速度で向かって来る。

しかし俺には発射される瞬間から見えているので体を捻って砲弾を躱す。

すると複数の戦車が次々と砲撃を開始し俺の背後では大きな砂埃が上がる。

向こうからは俺の動きが一昔前に人気を博したSF映画の主人公の様に見えているだろう。

誰かこの状況を撮影してくれていれば後で確認してみたい。


攻撃が止むと向かって来る戦車に駆け寄って砲身を切り取り、装甲を斬り裂いて中の人間を始末する。

どうやら車と違って戦車を切るのはまだまだ負担が大きかったみたいで一度斬ると腕にガタが来てしまった。

しかし、オーストラリアでは毒と解毒ポーションを譲った分、中級ポーションは沢山持っている。

この程度で俺が止まる理由は無い。


すると先程から指示を出していた男が俺の前に姿を現した。


「この化け物め!貴様の様な者が俺の世界を壊すのだ!」


そう言う男の顔は何処かノーマルゴブリンを思わせる。

目は濁って顔は歪み、自分の為なら他人がどうなっても構わないと平気で言いそうな顔だ。

現にこいつは俺の家族をダンジョンに閉じ込めた奴らの1人。

俺にとってはそれだけで生きる価値はない。

剣を握り直すとそのまま男との間合いを詰め、その肥え太った体と腐った脳みその両方を両断して命を奪った。


それにしてもコイツ等を殺しても後悔も何もない。

逆に初めて魔物を倒した時の様な満足感のようなものを感じる。

コイツ等を殺せばそれだけ家族の許に近づけるので恐らくはその所為だろう。

しかし、それも僅かな時間で消え去ると俺は敵の陣地へと足を踏み入れた。

そしてどうやら反対側は今の誘爆を見て逃げ出し、他の隊員たちに拘束されているようだ。

そのため既に襲い掛かって来る者は皆無となり俺はダンジョンの前に向かった。


「そう言えばさっきは変な感覚があったな。」


俺はステータスを開くとログを確認する。

するとそこには新たな称号の名が記されていた。

その名はベルセルク。

怒りが強ければ強い程に能力が上昇すると書かれている。

そして今の俺は目の前の状況に家族が殺された時と同じ程の怒りを感じていた。

あの時はその怒りを神へと向けたが今回はこの武骨なオブジェクトに向けさせてもらおう。


俺は剣を構えるとゾーンに入り自分の出せる全力で最速の連続攻撃を行った。

すると硬化しきれていないセメントだからか簡単に斬り裂くことができる。

しかし、それはすぐに間違いであった事に気が付いた。


『ベキッ』

「あ、折れた。」


見れば剣を持つ腕が完全に折れてしまった。

しかしベルセルクの効果なのか、いつもの様に激しい痛みが襲ってこない。

折れたと言うよりも打撲の様な感覚だ。

俺は仕方なく中級ポーションを飲んで体を治すと再び作業に戻った。


「仕方ないから中級ポーションでも飲みながら掘るしかないか。」


そして体は破壊と治癒の連続で次第に強化され、モヤシの様な体へ更に筋肉が付き始めた。

そうなって来ると足も鍛えるために蹴りも使う様になり気付けば格闘のスキルも習得していた。

流石に血を流しながらの行動だと何か一つくらいはスキルが覚えられたようだ。


そして何度も骨を折り、肉が砕け修復するを繰り返した体は目的を達成する頃には見違えるほど鍛えられていた。

ただ、ボディービルダーの様なムキムキではなく、かなり引き締まった感じではある。

流石にモヤシからだといきなりは無理なのか、それともこれが俺のベストスタイルなのかもしれない。

今度ジムに行った時にでも聞いてみようと思う。

それにしても体が変化した所為かお腹が空いてきた。

それとも入り口まで到着して怒りが収まり気が緩んだのかもしれない。

しかし俺はダンジョンの入り口を潜って中に入りその光景にちょっと驚かされた。


「あ、お兄ちゃん早かったね。」

「お兄さんお久しぶりです。これをどうぞ。」


そう言ってユウナはいつもの感じで手に持つ皿と箸を俺に差し出して来る。

恐らくさっきまで使っていたのだろうけどそれを気にした様子は無い。

こういうのは女の子の方が気にするんじゃないだろうか。


「あ~さっきあんな事言ってたのに~。それなら私はこうだ!」


そう言ってアケミは皿の中身を箸で取ると俺に差し出して来る。

それは油が滴る一口大の牛肉で適度に焼けた匂いが鼻を擽り更に食欲を掻き立ててくる。


「はい、お・に・い・ちゃん。あ~ん。」

「あ~ん。」


誘惑に負けて口を開くとアケミはそこへ肉を入れて笑顔を浮かべる。

ただし言っておくが俺はアケミの誘惑に負けたのではなく肉の誘惑に負けたのだ。

でも最後の笑顔は美味い肉よりも至福の瞬間を与えてくれたのは間違いない。

俺の中に燻ぶっていた怒りもその全てがまるで太陽に照らされた闇の様に完全に消え去ってしまった。

やっぱりアケミは天使・・・いや、女神で間違いない!


そう思っていると俺の腕が引かれ、そちらを見るとユウナが頬を膨らませていた。


「お兄さん。差別はいけないと思います。」


そう言ってユウナは俺からお皿と箸を奪うと肉を焼いている場所へと向かっていった。

そして、そこで焼けた肉を取ると俺の許へと戻って来る。


「私にもナツキちゃんと同じ権利があるはずです。」

(それは即ち俺に肉を食わせる権利って事か。)

「でも別に自分で食べれ・・・。」

「何か言いましたか?」

「・・・何もござません。」

「よろしい。」


俺の遠慮の言葉を言い終わる前に周囲が氷点下まで下がった様な幻覚に陥った。

その時の感覚を言い表すなら特殊個体であるゲイザーの10倍、いや100倍は脅威を感じる。

俺の方が遥かに強い筈なのにこの感覚はどうした事だろうか。

そして俺の中で何かが明確な警鐘をガンガン響かせるので素直に好意?を受け取る事にした。


「それではア~ンです。」

「あ、あ~ん。」


そして俺は再び口を開けるとユウナは俺の口に肉を入れてその顔に花の様な笑顔を浮かべる。

どうやら最初から女神は2人居たようで心の闇が消えた今ではまさに天にも昇る気持ちになる。

でも太陽に近づき過ぎれば俺の翼は簡単に燃え尽き、地に落ちて闇に飲まれるかもしれない。

俺は二つの太陽に笑顔を向けると、これからも適度な距離から見守ろうと決意した。


そして、食べながら・・・食べさせてもらいながらスキルを確認すると危機感知と言うスキルを覚えていた。

どうやら俺の中で鳴り響いていたのはこのスキルだったみたいだ。

なら俺は先程のユウナにそれだけの脅威を感じたと言う事になる。

でもそうなるとこのスキルは当てにならないかもしれないのであまり期待しない方が良さそうだ。

そう思っていると二人が俺に顔を近づけ声を上げた。


「それで、お土産は何があるの?」

「そう言えば気になります。オーストラリアまで行って来たのですからとても素敵なお土産があるはずですよね。」


そう2人が言った瞬間、俺の中で危機感知のスキルが警鐘を鳴らす。

そしてこの瞬間にこの新しくも素晴らしいスキルの信用度を最大に引き上げる事に決めた。

ただし出来ればもう少し早く知らせて欲しかった。

俺は二人の美少女に迫られながら、なんとか許してもらおうと色々な条件を口にする。


「それなら帰ってから買い物に行って何かプレゼントを買おう。もう少しでクリスマスだからそれも兼ねて。」

「あれ~お兄ちゃん。纏めて一つのプレゼント~。」

「アケミちゃん。きっとサプライズがあるんだよ。」


すると二人はこちらに聞こえる声量で内緒話を始めた。

それと同時に俺に中で危機感知が地震でも起きているのではないかと言う程の警鐘を鳴らしている。


「ははは。楽しみは取って置かないとな。サンタは夜に来るものだろ。」

「ならその時を楽しみにしておこうかな。」

「その日はお泊り会だね。」


すると警鐘の音が静まり俺の中に静寂が戻って来た。

きっとこのスキルは覚えるべくして覚えたのだろう。

もしかすると一生お世話になり続けるスキルかもしれない。


その後ダンジョン内で腹を膨らませた俺は、一度みんなで外に出て自衛隊の人達と合流した。

そしてどうやら俺の殺した人たちはここで蘇生させずに何処か別の所で蘇生させるようだ。

見るとテントの近くには幾つもの死体袋が置かれトラックに投げ入れられている。

今の俺は先程とは違いアイツ等に対して思う事は何もない。

無関心と言えば一番分かり易いと思うけど死のうが生きようが今後俺の家族や仲間にちょっかいを掛けて来なければ関わるつもりのない相手だ。


そして、俺達の前には国の役人であるらしいアンドウさんが姿を表した。

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