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39 戦闘開始

俺達が走り出して5時間ほどが経過した。

すると、その先には俺達が乗っているのと同じようなジープが止まり、20人程の軍人が戦闘の準備を行っている。

それを見て予想は付くがアーロンが彼らの正体を教えてくれる。


「アイツ等は避難せずに魔物と戦おうって奴らだ。他の奴らはこの大陸の奪還時に戦うために沖に避難してる。」

「なら、アイツ等は犬死するつもりなのか。」


この国の軍隊なら揃ってレベルは1だろう。

それだとここに向かっている魔物1匹倒す事すら出来ないだろう。

それでもここに居るという事は何か理由がありそうだ。


「アイツ等の家はこの先のずっと先にあるらしいぜ。そして、その家族は最後まで港には現れなかった。きっと連絡が遅れて逃げられなかったんだろうな。」

「それでも無謀だな。」

「お前が言えるのかよ。」


そう言って俺の言葉にアーロンは大声で笑ったが、それに対して俺も確かにと小さく笑みを零す。

そして到着すると俺達は彼らと合流し状況の確認を始めた。

勝てれば奇跡だけど負けるつもりは全く無いので勝つための作戦を立てなければならない。

それに空は既に太陽が昇り始めているのに厚い雲がその光を遮り、大粒の雨が地面を黒く染め始めている。

このままだと嵐になるのも時間の問題で状況は悪化の一途を辿っており、時間さえも見方とは言い難い。


しかし奇跡は待っているだけで起きる程、神様は俺達に優しくない。

それどころか邪神の封印に力を注いでいる今だからこそ神頼みには意味が無いのだ

勝つためには俺達しか知らない事や有利な状況がどうしても必要になる。


「それで状況はどうなっている?」

「き、君が何でここに!?」


俺の姿を見てそこに居た全員の視線が集まってくる。

しかし、その顔には死へ向かう者の気配はなく何があっても勝つと言う気合が感じ取れる。

これはこの状況において明らかにプラスに働く事だろう。

しかも、彼らの横には数えるのもバカらしい程の手榴弾が準備してある。

恐らくは色々と周って無理を言って譲ってもらった物だろう。

それを示す様に少し離れた所に色々な国のマークの付いた箱が投げ捨てられており、彼らも無策でここに来た訳ではなさそうだ。


「少し手違いがあって船は途中で下船したんだ。それよりもお前らが考えている作戦を教えてくれ。」


すると一人の男がテーブルの上にあった者を乱暴に押しのけるとその上に地図を置いた。

そして足元に落ちたカップを二つ拾うと地図の上に置いて互いの位置関係を示し説明を始めてくれる。


「現在ここから20キロの位置に敵が迫っています。その数およそ3千。」

「なんでこの位置に布陣しているんだ?」

「もうじきこの付近は嵐になり北からの風が激しく吹く事になります。」

「それにこの近辺の土は最近の好天で乾いていて雨が降れば酷くぬかるむでしょう。そして、相手の速度が落ちた所で我々の攻撃で数を減らし、その際のレベルアップで敵に対応しようと考えています。」


この作戦なら前半はかなり有利に働くだろう。

ただし一つの問題がここには横たわっている。


「手榴弾は1つで1匹にしかダメージを与えられない。それについては理解しているか?」

「分かっております。こちらが準備できた数は1000と少し。おそらくは足りないどころか500倒せればいい方でしょう。」

「そうだな。もし、20人で均等に倒したとして1人25匹。俺の経験から言って1対1でギリギリ倒せる可能性がある程度だ。」


すると俺の評価に周りからざわめきが広がった。

恐らくは予想よりもかなり辛口の意見だったからだろう。


「それはアナタが訓練を受けていないからではないですか?」

「確かに俺は一般人だ。でも俺はあいつらと初めて戦った時のレベルは20手前だった。それでも奴らの外皮が固くて深く斬り裂けなかった。」


俺は以前に戦った時の情報を余さず伝え奴らが如何に厄介なのか理解してもらった。


「確かに我々はレベル1ですし魔石の強化も戦闘中では難しそうですね。それに私達の半分は前衛です。半分は運よく魔力の高い者が集まりましたが。」

「半分も居るのか!?」


それには流石の俺も驚きを感じる。

それなら彼らの全員が精霊を使えると言う事か。


「それならみんな精霊魔法が使える様になるか確認しているか?」

「はい。全員が取得可能なのは確認済みです。」

「よし。それならそいつらは真っ先に精霊魔法を取って魔石を回収させろ。俺はその間になるべく多くの敵を倒して魔石に変える。それで出来るだけ強化して精霊の攻撃が通用するようになったら2人1組で戦いに参加してくれ。そうすれば確実に敵を減らして行けるはずだ。」

「その手がありましたか!」


どうやら奇跡を起こす階段だけは神様も準備してくれていたみたいで僅かな希望が湧いてくる。

問題はそれを最後まで昇って行けるかだが時に奇跡は自分の力で掴み取るものだ。


そして綿密な話し合いをしていると外は嵐となり戦いの時が訪れた。

激しい雨で視界は悪いけど気配はこちらに向けて真直ぐに迫っており、ここがベストポジションとである事に間違いない。

俺達は一つのパーティーとなって手に手榴弾を握り、投げる体制となって俺の合図を待っている。

そして、その時が来たので俺は大声で合図を送り真先に前方へと投擲を行った。


「投げろーーーー。」

「「「おーーー!」」」


鬨の声と同時に手榴弾は嵐の中に消えて行き大きな爆発音を大量に発生させる。

そして、その成果も見る事なく次々と投擲は続けられていった。

そんな中でも当然抜けてくる個体はいるのでそれは俺の方で相手する事になっている。

剣を抜くと鰐男に駆け寄り容赦なく両腕と尻尾を切り落としてその場に放置していった。


「手の空いている者からコイツ等を始末しろ。しっかりとその特性も確認しておけよ。」


これで何処を攻撃すれな効果的なのかも分かり易いだろう。

コイツ等の最大の脅威は噛みつきだけど、それも尻尾を切り落としたことで危険度はかなり下がっている。

出来れば足も落としておきたいけど抜けてくる魔物が多いのでそこまでは手が回らない。

俺は昨夜に獲得したばかりの水上移動を使い、ぬかるんだ足場を気にする事なく走り回ると敵を行動不能に追いやって行く。

その間にも足元を小さな水の精霊が走り、魔石を回収して来てくれる。

彼らはそれでステータスを強化し更に前衛は身体強化、鉄壁、剛力の順にスキルを習得する。

後衛は当然、精霊魔法、鉄壁を覚え、更に一時的に魔力を強める魔力ブーストなどを取得していく。

そして倒れている鰐男に攻撃を加え、その弱点の確認とそうでない所の強度を確認していく。


「確かに背中の皮が異様に硬い。今の俺達ではダメージを与えるのは難しそうだ。」


それでも、基から身体能力が高いのとスキルと魔石ポイントの極振りで初めて俺が戦った時くらいには戦えている。

それに小説などだとリザードマンは湿地帯の様な地形が得意としている事が多いけど、コイツ等に関してはそのような事はなく、かなり深い所まで足が沈んで動きが鈍っている。

そのおかげで進行も遅く有利に戦闘が進められていた。


しかし一定の戦火を上げた所で俺達は車に乗り込むと時間を稼ぐために一時後退していく。


「一旦第二ポイントまで下がるぞ。」

「「「了解」」」


ここは投擲に向いている場所であって少数で戦うには不利な場所だ。

周囲には何もなく広大な平地が周囲へ広がっている。

既に欲しい情報も手に入ったので次のポイントへと移動する事にした。


そして少し進んだ先にあるのは広範囲に木が立ち並ぶ場所だ。

俺達はそこで準備を行い奴らを待ち構える。


「精霊魔法で足場をなるべく泥に変えてくれ。全員、水上移動のスキルは取得したな。」

「大丈夫です。」


この辺りの木々は深い所まで根が張っているので表面を泥に変えても倒れる事は無い。

そして、足元が深い泥にしておけば奴らの行動を更に阻害できる。

俺達はスキルで水の上を移動できるので根と泥に足を取られる心配もない。


先程の戦闘でそれらは俺が確認済みで敵が足場の悪い土地に適正が無い事が分かっている。

なのであそこでの戦闘を粘らずに放棄し、ここへと移す事にした。

これは既にプランの一つとして決められていたことで打ち合わせも終わらせているので滞り無く作戦を進める事が出来ている。

そして現在こちらに向かって来ているのは2500程まで減らす事に成功した魔物の群れだ。

俺達の攻撃を受けたうえにまんまと逃げられてしまった奴らは俺の『挑発』の格好の的になる。

俺はアーロンの運転する車に乗り込むと近くまで来ている奴らの鼻先で挑発を使用する。


「頭の足りない爬虫類野郎が。獲物はここに居るぞ。」


そう言って幾つかの石を全力で投げつけてダメージと呷りをプラスする。

これは先日の件で挑発は行動を伴った方が効果が高いと証明されたからだ。

すると群れの向きが急激に変化してこちらに顔を向け激しく鳴きながら追い掛けて来る。

それを見てアーロンはアクセルを踏み込んで全力で走り出し、雨で濡れた路上を走り始める。


「地上だと半端なく怖えな。」

「先日のは安全な空からだったからな。エンストなんて起こすなよ。」

「俺がそんな初歩的ミスをするかよ!」

『ギャギャッ!』


すると言った途端にクラッチ操作をミスり、車の速度が目に見えて落ちた。

この辺は道路と言っても泥と水が走行を妨げており減速が思いのほか早いみたいだな。


「言った先からこれか?」

「うるせー!慣れねー車なんだからこういった事もあるんだよ!」


それでも距離を取って誘導を行っているので軽口を叩く余裕は十分にある。

そして俺達は森の前まで来るとその場に車を乗り捨てて森へと入って行った。

すると後方から爆発音が聞こえたので振り向くと車が炎上し黒い煙を上げている。

どうやら、奴らは俺達の足を奪うために放棄した車を破壊したようだ。

そして、そのまま俺達を追って森へと足を踏み入れると足は脛まで浸かり、足元にある木の根が更に動きを妨げて中々進む事が出来なくなった。


実はこれにも仕掛けがあり精霊魔法は植物を操作する事も出来るのだ。

最初の頃にリアムが言っていたけど精霊はあらゆるモノに宿っている。

それは当然植物である木も同じなので魔法で操作し奴らの足を絡め捕っているのだ。

しかもこれは精霊魔法の効果なので直接相手に作用させることが出来る。

更に、植物操作の恩恵はそれだけではない。


「今だ行くぞ!」

「「「おーーー。」」」


俺達は水の上を進んでいるので根に足を取られる事無く魔物へと襲い掛かる。

その瞬間、植物から蔦が伸び奴らの口が開かない様に拘束する。

そして最大の武器を失い、弱点である前面を晒した鰐男達へと容赦なく攻撃を行った。

当然、この戦い方は後衛である魔法使いたちに多大な負担を掛ける。

そのため、先程の戦いで手に入れたポーションを幾つも持たせ継続的に回復をさせている。

そして木にも限界はあるので俺達は少しずつ戦場を後退させ相手を森に誘い込むと同時に有利なフィールドへと相手を誘導していく。

その間にも余裕があれば魔石やポーションを回収し強化と回復を行っている。


「レベルが一定に達しました。」

「それなら手筈通り重複詠唱を取って精霊を増やせ。」

「了解です。」


普通なら一度に1つの精霊しか呼べない精霊魔法だけどこのスキルを取得すれば複数呼べるようになる。

その代わり体力の消費が数に比例して増えて行くので回復が大変になる。

でも今は猫の手でも借りたいくらいに人が足りない。

精霊が増えればそれだけで魔石回収、足止め要員、更には攻撃役と増やす事が可能だ。

今は足止めに徹してもらえば十分なので1匹でも早く魔物を倒して地力を上げていく。


それに口を封じられても敵の攻撃は苛烈だ。

前衛は力に極振りしているので防御が薄く爪での攻撃だけでも肉を深く抉られる。

そして、ようやく俺もレベルが上がり25となった。


ハルヤ

レベル24→25

力 91→94

防御 64→67

魔力 24→25


そして職業を侍にした事で成長補正(小)の効果が加わりレベルアップする際の数値の上昇が、力と防御が3ずつに変わった。


更に今後の事を考え魔石ポイントは全て力に費やし

力 94→100

と、きりの良い数字とした。

それと鉄壁も取得したので今の俺は全力で戦う事が出来る。

それに体にかなり負担を掛けながら戦ったので筋肉や骨格がかなり鍛えられたみたいで以前よりも明らかに肉体が発達したのが分かる。

偶然の結果だけどモヤシだった体に目に見える筋肉が付いているのでちょっと嬉しい。


ただ敵のボスがどの程度なのか分からないまま職業を選んだことは不安でもある。

出来れば事前に確認がしたかったけど偵察する余裕もなく、嵐の所為で視界も悪い。

そのため今のところ確認が一切できていない状況が続いている。


するとそんな中で、ようやく雑魚ではない鰐男が俺達の前に姿を現した。

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