372 異世界巡り ②
「ただいまマルチ。」
「おかえりなさい。それであちらはどうでしたか?」
「何も無い場所で大外れだったよ。ついでに滅びそうな星系を助けて来た。」
「いつもながらにシレっと凄い事をやってきますね。それと次の行き先がこちらになります。」
「分かった。またハズレだったら困るから気合を入れて様子を見ておかないとな。」
そして今回向かった先では地を揺るがす激しい戦いが繰り広げられていた。
しかも幾つもの陣営が顔を突き合わせて睨み合い、殺気の籠った攻防が至る所で行われている。
ただしここに居るのは人間などではなく神に類する連中のようなので地震だけでなく天は轟き空間さえも震えている。
話を聞こうにも俺に対してまで攻撃をしてくるので誰に声を掛けたものか悩んでしまう。
「仕方ないからちょっと落ち着いてもらうか。」
いつもの様にキメラ化して周囲へと轟砲を放ち、更に駒のように回りながら周囲を薙ぎ払って行く。
中には盾を構えて耐えている奴も居るけど、威力を1パーセントほどに押さえてあるので不思議ではない。
「お前は邪神の類か!」
「俺の何処に邪悪な要素が・・・ありまくりだな。」
キメラ化した俺なら以前のイビルフェローズを歩いていても邪神と見分けが付かないだろう。
それが理由の1つとしてクオナから依頼をされたので、勘違いされてもおかしくはない。
半数は一時的に戦闘不能にしているけど、もう半数は防御に成功していて剣や杖を構えている。
「俺としてはここで何をしているのか教えてもらいたいだけなんだけどな。」
「仲間をこれだけやられて逃がすと思っているのか!?」
「それなら全滅させて話を聞くだけだ。ただし、今度は死人が出ても文句は言うなよ。」
俺は無益な争いを好まないけど、忠告を聞かないのなら遠慮はしない事にしている。
なるべく殺さないようにするつもりではいるけど、俺にとって力加減はとても面倒な作業なので力を入れ過ぎる事が多々ある。
「言っておくが貴様等に勝ち目があるとは思わない事だな!さあ、この悪魔王に掛かって来るが良い!!」
「奴を生かして帰すなーーー!!」
「討ち取って名をあげろーーー!」
「ハハハ!温いわーーー!」
最近は目立つ機会が無かったので、これも丁度良い機会と言えるだろう。
それにここの奴等は男女を問わずに戦い慣れており、争っていた割には連携もそこそこ取れている。
男の方は拳で沈めていくけど、流石に女性を拳で殴る訳にはいかないのでデコピンに留めておく。
それでも遠くまで弾き飛ばされるだけではなく、かなり痛いはずなので戦線に復帰するのに数秒は掛かるだろう。
その間に向かって来る連中を高速で鎮圧し、最後の1人が地面へと倒れた。
「ふ~・・・これで少しは静かになったな。」
「つ・・・強過ぎる!」
「見た目の通り化物だ・・・。」
「さて、後は本陣に居る奴等に話を聞くだけだな。」
「「「ヒ!?」」」
戦いには参加していないようだけど正三角形の配置で3つの陣が後方に作られている。
残っているのは豪華な椅子に座っている3人の少女と、世話をしている数人に加えて飛ばされて戻って来た女神の戦士だけだ。
「そこだと遠いからもっと近くまで来い。」
「貴様!この方を誰だと思っている!」
「言いたい事があるなら力で示せ。それが出来ないなら今は俺がルールだ。」
「か、構わん。どうやら敵意は無いようだからな。」
「分かりました。」
他も俺の言葉に従って俺の許へと集まって来るけど、近付くにつれて雰囲気が悪くなる。
それは俺のせいではなく争っていた他の奴等との距離が近付いたからだ。
「それで、ここは何処でお前等は何をしてたんだ?」
「そんな事も知らずにここに現れたのか!?」
「聞く前に攻撃されたからな。」
「それは貴様が!」
「ここに来た時は普通の姿だったぞ。第三者が現れたら攻撃するのがお前等のルールなのか?まあ、それは終った事だから良いとして説明の続きをしてくれ。」
「ここは神の墓場と呼ばれる戦場に指定されている場所だ。神々の間で争いが生じ和解が出来ない時にここで戦いを行い勝った陣営が条件を通す事が出来る。」
そうなるとここは自分達の世界を破壊しない為に創られた場所という事になるだろう。
かなり広くて丈夫に作ってあるのでここでなら神同士が争っても問題は無さそうだ。
生物も居ないので他に迷惑が掛かる心配もなく、彼等くらいなら全力で戦う事が出来る。
「ここが何処か分かったけど、なんで争ってたんだ。」
「それはアイツが私の御菓子を食べたから!」
「何言ってるの!最初に食べたのはアナタでしょ!!」
「人に責任を押し付けないでよ!いつも私のお菓子を食べているのはアナタ達でしょ!」
「・・・こういう訳なのです。」
なんだかさっきまで目を吊り上げて強気だった女神もこの光景に肩を落としている。
てっきり国を滅ぼしたとか、信者を奪ったとか真面な理由かと思っていたのに理由は私的な争いが原因だったようだ。
「それで、どんな御菓子を取られたんだ?」
「最近になって巷で人気のある黄金のお菓子よ!」
「とっても甘くて滑らかで美味しいの!」
「茶色いソースが甘苦くてアクセントになってて私達の世界だと大人気なのよ!」
「もしかしてプリンの事を言ってるのか?」
「「「それよ!!」」」
どうやらここでもプリン戦争が勃発しているようだけど実際に誰が食べたのだろうか?
3人がそれぞれに取られたと主張しているけど、嘘吐きが何処かに居るはずだ。
「さて、ここで話を纏めよう。最初にプリンを取ったのは誰だ?」
「「「コイツよ!」」」
「ちなみにここへ3つのプリンがあります。食べたのは誰だ?」
「「「はい!」」」
すると全員が一斉に手を上げたのでどうやらここに問題があったようだ。
誰とは言わなくても分かると思うけど、ウチでも勝手にプリンを食べると凄く怒る奴がいる。
だから名前を書いたりしているのだけど、それを誰かが最初に取り間違えたとしよう。
そうなると次に来た奴が自分のプリンが消えていると見ていつもの犯人の事を連想する。
それでそいつのを食べて最後の奴が同じ事をすれば今回の図式が完成するという訳だ。
「それなら仲直り出来るなら1人に3つ付けてやる。」
「私達は親友です!」
「喧嘩するほど仲が良いのです!」
「ここに姉妹の契りを交わしましょう!」
これで傍迷惑な喧嘩は終了とみても良いだろう。
肩を組んで友情を誓い合った3人にご褒美としてプリンを進呈すると、周りも動けるようになった者から仲間を担いで撤退を始めた。
それと世界間の事は良く分からないので横の女神戦士にイビルフェローズと俺達の世界について説明を行っておく。
これでいつでもプリンの購入が可能なのでこんな騒動も減ってくれるはずだ。
それにクオナもこんなバカバカしい喧嘩を止めさせたくて、同じ甘党である俺をここへと送り込んだに違いない。
「俺は戻るからプリンばっかり食べてないで他のも食べろよ。」
「プリンは最強!」
「クックック!まだまだ修行が足りないな。」
「どういう事ですか!?」
「異世界には多種多様な甘味が存在する。ここにあるフルーツと生クリームを巻いたロールケーキを食べてもそんな事が言えるかな。」
「こんな神々しい物がこの世に存在しているなんて!?」
「食べたい奴は手を上げろ。」
「「「はい!」」」
「「「はい!」」」
すると周りで興味深そうんしていた女神たちまで軒並み手を上げた。
どうやら彼等の世界では食事文化が未発達のようで、これくらいでも十分に刺激的なようだ。
男神の方は興味が無さそうなので戦国の武将たちに行ったように酒の摘まみをチラつかせると、戦闘時を上回る速度で擦り寄って来た。
「これらは味醂や味噌という調味料を使った加工品だ。興味があればここに問い合わせてくれ。」
「うむ。あの連中なら少しだが面識がある。ノウハウが得られれば我等の世界でも試してみよう。」
「これ美味~!!」
「こら!勝手に食うな!帰って酒を準備し宴会に使うのだぞ!!」
きっとお酒の製法も聞いて来るだろうから戻ったらマルチに報告しておこう。
しかし、ここへ来る前に持たされた名刺には数字しか書いてなかったのに良く分かったな。
それにマルチは既にここの状況を把握していたからアレを渡してくれたのかもしれない。
おかげで説明が省けたので後は周りへ丸投げしておくことにした。
「それにしてもここにも食材は無かったな。」
その後も幾つかの世界を周りながらそこで起きている問題を解決していった。
おかげでイビルフェローズにあるサクラに来るお客が増えて大繁盛となっている。
1人の悲鳴が周囲に木霊しているけど、きっと世界を越えて多くの神々が来てくれているという感謝の悲鳴だろう。
アズサ達の食材探索は順調なようだし、生態系に影響を与えない程度に採取や狩りを楽しんでいる。
そして、そろそろ色々と落ち着いて来たので最後の仕上げをする事に決めた。
「ファル。カオスブレードを貸してくれ。」
「良いけど何かするの?」
「まあ、見てれば分かる。」
今の俺はここに来た当時と違い力も増して、その使い方にも慣れて来た。
だから今ならばカオスブレードの呪いのみを破壊し、さらに再構築で元の姿に戻せるはずだ。
「さあ、あるべき姿に戻れカオスブレード!」
すると剣に付いている瞳が大きく見開かれ、全体が黒いオーラを吹き上げて姿を変え始めた。
最初に手足が生えてきたけど、ここで止まればかなり笑える姿になってくれるだろう。
しかし希望は呆気なく打ち砕かれてしまい、体が出来て厳ついオッサン顔が姿を現した。
それを見てファルは驚きながらも口元を押さえて目に涙を浮かべている。
「まさか・・・あれがパパだったなんて。」
「うおーーー!戻ったぞーーー!!」
「パパーーー!」
「おお!大きくなったなファルマリス。状況は把握しているが色々と苦労を掛けた。」
「ううん。ハルヤが助けてくれたから大丈夫よ。」
「フッフッフ!それについては色々と思う所があるから少し離れていなさい。」
「パパ?」
「久しぶりの再会を邪魔して悪いけど、どうやらやるべき事があるみたいだから離れてろ。」
「う、うん。」
そしてファルが離れた所で俺達は先日に訪れた神に墓場へと移動した。
そこでは新たな争いが行われているようだけど、そんな事は俺達には関係ない。
「元に戻ってすぐなんだから手加減してやろうか?」
「今から負けた時の言い訳作りか?」
「「フ!」」
「後悔するなよ!」
「娘が欲しえれば俺を倒してからにしろ!」
そして、その直後から防御無視の激しい殴り合いが行われた。
その衝撃波に巻き込まれて先客達は逃げ去ってしまい、ここには俺達しか残っていない。
「「オラ!オラ!オラ!」」
「少しば防御の事を考えないと後が堪えるんじゃないか?」
「若造に心配される程に耄碌しとらんわ!!」
そうは言っても互いにノーガードで好きなように殴り蹴って力をぶつけ合っている。
殺す気は無いので破壊の力は使っていないけど、さすがイビルフェローズのトップに君臨していただけはあって良い拳を持っているようだ。
それに魂と想いが十分以上に乗っていて親としての愛情と信念を感じる事が出来る。
特に娘となると親として守りたい気持ちと相手を見定めたい気持ちは人一倍に感じてしまうので気が済むまで相手をしてやるつもりだ。
それから七日七晩もの間を戦闘に費やし、ようやく決着を迎える事が出来た。
「お前・・・若造のくせにタフ過ぎるだろ!」
「まだたった7日だろう!魂と感情を燃やせ!手足を再生して立ち上がれ!戦いの本番はこれからだ!さあさあ、ハリーハリーハリーーー!」
「完全にキャラが変わっているぞ。・・・しかし、まさかここまで完全に負けるとはな。俺が言うのも何だが本当に化物だ。」
「それならファルは連れて行くからイビルフェローズの事は任せたぞ。お前が400年も休んでいる間にアイツはその分の苦労を肩代わりしたんだ。しばらく休ませて自由にしてやらないとな。」
「今のイビルフェローズなら1000年だろうと完璧に統治してみせるわ。まあ、それまでには遊び歩くのは止めて移り住んで来い。」
「まあ、色々と試そうと思ってるからな。まあまあの頻度で戻って来るさ。」
そして無事にファルの父親に認められた俺は、揃って皆の許へと戻って行った。
しかしクレーターで一帯が凸凹になってしまったけど、直す必要は無いのだろうか?
普通だと貸し出されている競技場やフィールドは後に使う人の事を考え、マナーやルールに則って使用後は整備をしなければならない。
特に運動部なら良くある事だけど土のグランドは土を均したりするのが一般的だ。
まあ、戦闘用に作られた場所なのでその必要が無いのだろう。
しかし、その数日後にクオナがやって来て滅茶苦茶怒られた。
どうやら、あそこの使用には許可が居るらしく、それはクオナ達の世界が管理しているそうだ。
しかも神の墓場とか呼ばれているのに使用前説明書のルールには『他に迷惑を掛けずに仲良く使いましょ』と明記されている。
それを見てファルの父親であるシルバスタはクオナが肩に担いでいた獄卒の金棒 超強化版によって地中深くまで沈められてしまった。
どうやらあの時の片付けをクオナ達がしてくれたようだけど、その時に回収した俺達の血肉を材料に混ぜて作ったようだ。
きっとSソードなんて玩具に思える程の威力があるだろうから、シルバスタが死んでいないのが奇跡と言える。
まあ、そんなこんなで何故か追加で問題のある世界を2人で周らされ、問題の解決をさせられることになった。
そして世界の再構築と一緒に幾つもの世界に平和が戻り、とうとうイビルフェローズを去る日がやって来た。
「あの~・・・私は帰れるのでしょうか?」
「ハッハッハ!お前が帰ったら誰が俺達の飯を作るのだ。いっその事、俺の嫁になるか?」
「え!?・・・その・・・え~と・・・清い交際からなら。」
「よっしゃーーー!ファルマリス!次に戻って来た時には妹の顔を見せてやるからな!」
「娘の前でそんな話は止めてよね!それに清い交際からって聞いてないの!?」
「ハハハ!まあ、任せておけ!」
最後の別れ際に変な話になったけど、シルバスタは邪神だったくせに手先が器用で料理まで得意ときている。
しかもファルを1人で育て、その時の世話も全て自分で行った凄い奴だ。
他にも裁縫、編み物、アクセサリー作り、掃除、洗濯を高いレベルで習得している。
今ではファルの力で邪神でも無くなっており、浄化まで使えるようになってしまった。
それらの力を使って暇を持て余していた所でミーナの店に立ち寄り、最初は食べるだけだったけどすぐに店を手伝うようにもなっている。
その姿に俺達の間でも友達以上、恋人未満と評されていて、いつ付き合うのか注目を集めていたほどだ。
「そういえばマルチに伝言が届いてるんだろ。」
「はい。クオナさんから個人的なメールが届いています。」
「あの・・・もしかしてダメとかですか?それとも一時帰還とか?」
この様子ならシルバスタの勢いに負けて交際に同意した訳ではなさそうだ。
それにミーナはトワコとメールのやり取りをしていて遠回しに相談を持ち掛けられていたそうなので、この状況も既に予想されていた。
何気にシルバスタ、ミーナ、トワコは実年齢が近いらしいので付き合うにしても相談をするにしても丁度良い相手なのだろう。
「いえ、あくまで個人的な内容ですが、そろそろ良い歳なので一度は落ち着いてみてはどうかと書いてありました。そうすればアナタもオバサンと呼ばれる気持ちが分かるだろうと。」
「それはきっとマジな奴ですね。」
「アイツは自虐ネタで冗談を言う奴じゃないから気にしてたんだな。」
「これって遠回しに帰って来るなって言ってますよね・・・絶対。」
受け取りようによってはそうかもしれないけど、良い風に受け取れば応援をしているとも感じられる内容だ。
ミーナは知らないだろうけど、今のクオナは旦那とラブラブで地球の生活を全力でエンジョイしていると皆が言っていた。
夏にもマルチへ届いたメールに祭りで屋台をやっていた時の写真データが入っていたので間違いない。
少し前にはハロウィンを楽しみ、異界大使館も飾り立てて子供の見学会を開催したそうだ。
今はクリスマスで本当に空を飛ぶトナカイとソリを準備して抽選に当たった子供の家にプレゼントを持って周る事にしているらしい。
昔は仕事だけの性格をしていたのに変われば変わるものだ。
「まあ、良い方に受け取って恋と仕事を頑張ってみたらどうだ。それに戻っても勤務地は軌道エレベーターのオーパーツだろ。」
「あそこの映像ならここに。」
「私のお店はどうなってるの!?・・・げ!」
「ここよりも忙しそうだな。」
「アズサさんの監修でかなりの自動化はしているそうですが、スタッフが常に悲鳴を上げて阿鼻叫喚の地獄絵図とか。」
「ここに残ります。」
「賢明な判断ですね。」
そして全てが収まるべき所に収まった形で俺達は久しぶりに地球へと戻って行った。
これから冬休みを家で過ごして3学期を迎える事になるけど、再び勉強も頑張らなければならない。
ここに居る間もそれなりにしていて予習と1年先までの内容は既に終わらせてあるけど、来年には奴が再び姿を現す年になる。
気を引き締めなければならないので気合を入れ直す必要があるだろう。
そして今回は目的を終えたハルアキさんとオウカも一緒に家へと帰って行った。




