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369 迷惑な世界 ①

温泉に戻るとそこにはトウコさんが戻って来ており、神喰丸と一緒に入浴を楽しんでいた。

おそらく錆びる心配はないと思うけどアレも不明な点がとにかく多くていまだに俺の鑑定を一切受け付けない。

もしかすると鑑定阻害の効果があるのかもしれないけど、何らかの意思があるのは間違いないだろう。


「トウコさんの方は終ったみたいですね。」

「この大陸に居た王族の始末は終わらせて来たわ。後はワラビちゃんが人の意識を塗り替えてくれるから大丈夫よ。それにあの人は一足先に戻ったみたいだけど、私はしばらくここに残って商売の手解きをして帰るわね。」

「それなら帰る時にはクオナが派遣してくれたスタッフへ声を掛けてください。既にナノマシンはマルチが散布してくれているのでスマホを使えば連絡が可能な筈です。」

「分かったわ。」


ちなみにワラビの扇動の力は更なる進化を遂げて相手の意識を強制的に上書きする程にまで至っている。

もはや洗脳に近い部分もあるけど使う時は弁えているのでブレーンの様に乱用や悪用はしていない。

地球でも使ったのは年末年始に来る参拝客の整理くらいなので、悪用はしていない・・・はずだ。

まあ、悪戯好きでお調子者なので断言が出来ない所が辛いけど、今回の様な大規模に使ったのは初めてだろう。

そして、この場から立ち去ると助けた聖女と賢者の所へと向かって行った。


「こんにちは聖女のカイラさん。賢者のロベルさん。状況は把握出来ましたか?」

「まさか死んで100年も経って生き返る事が出来るとは思ってもみなかった。しかし私の知識が邪神召喚に利用されて申し訳ない。」

「これも全てはあの勇者の責任です!私達の家族を苦しめただけでなく、世界にまで迷惑を掛けて元の世界に帰るなんて!」

「それでもアナタ方の血筋はこれまでずっと世界の為に頑張って来たのですから、その見返りを頂かないと。その為の段取りは既に終わりつつあります。」

「本当にそんな事が出来るのか?」

「大陸統一なんて普通は一生を掛ける事ですよ。」

「一般人にとっては誰が上に立っても一緒ですよ。それに今回は魔族が国のトップに打撃を与えて貴族関連をかなり減らしてくれましたからね。後は汚名を返上して英雄になってもらい、それがこの危機に蘇った事にすれば反発も生まれません。」


それに神獣たちには大陸の安定と彼等への協力を指示してある。

もし悪政を行い大陸を荒れさせるような事があれば排除しろとも言ってあるけど、しばらくは大丈夫だろう。


「そういう訳で2人の住まいは今日から帝国の首都になります。それではさっそく移動しましょうか。」

「なんだか騙されている気がして来たな。」

「移動した先で兵士に囲まれてたりして。」


そして2人を連れて帝都へと移動すると周りは鎧を着た騎士たちに囲まれていた。

それを見てロベルは即座に戦闘態勢になって魔法を打てるように待機状態にし、カイラはその後ろに隠れて防御の体勢に入る。

しかし直後に放たれたのは攻撃ではなく打ち鳴らされる喝采の音と称える声だった。


「良くお戻りになられました!勇者が倒せなかった魔王を打ち倒し世界に平和をもたらした賢者ロベル様。聖女カイラ様。」

『言い忘れてたけど復活した魔王と魔族は2人を中心にして新たに召喚された俺達と共に倒した事にしてある。賢者なら当時は魔王の策略に嵌って今の時代まで飛ばされたとか言えば良いだろ。』

『まるで悪魔の囁きだな。しかし今はその流れで行くとしておこう。』


そしてロベルの説明によって周りも納得すると新たな統治者として迎え入れられた。

その後に各国の首都から合併の話が次々に伝えられ、大陸の7割が1つの国と成りつつある。


「今日中には合併の話は終りそうだな。ここは任せたから俺は次に行って来る。もし何かあれば温泉に居たトウコさんを頼ると良い。あの人はしばらくこの世界に残るそうだから良い相談相手になる。」

「色々と感謝する。」

「これでやっとこの人と幸せになれます。」

「そのまま一生を幸せに終わらせられる事を祈っているよ。もし神にまで成れたら歓迎しよう。」

「君は・・・いや、アナタはもしや神なのですか!?」

「この世界の神はもう長く御隠れになっているというのに何処から来られたのですか!?」

「そういえばこの世界に神の存在を感じないと思ってたら誰も居ないのか。それなら代わりを派遣するから細かい事はそいつ等と決めてくれ。それじゃ、急いでるから機会があればまた会おう。」


てっきり邪神が怖くて逃げ出したのかと思っていたけど、それよりもずっと前から神が居なくなった世界だったようだ。

クオナが言うにはこういう世界もたまにあり、管理していた神が仕事が嫌になって放り出したとか、力が弱いと魔王にも恐れをなして逃げ出したとか理由が幾つもある。

普通は流れの神が見つけて理を読み解いて管理を引き継いだりするらしいけど、ここにはそれが現れなかったのか追い払われたかのどちらかだろう。

後者だとすれば俺の予想が当たっている事になるのでそちらも対応しなければならなくなる。


「その前に・・・ラルティーネ。」

「ハルヤ!先程から通信でおかしな話が入っているのですけど、これはどうなっているのですか!?」

「話しの通り魔王は俺達で倒しているから大丈夫だ。それと聖女と賢者の汚名も晴れてこの国も自由になったぞ。」

「本当ですか!それならこの国は救われたのですね!」

「そういう事だ。もう魔族が現れる事はないから安心して暮らせるはずだ。ついでに温泉も湧いたから観光資源もバッチリだ!」

「私は温泉に入った事がないので凄く楽しみです!!」

「温泉は良いぞ~。後で入りに行くか!」

「はい!」


そしてテンション上げ上げなラルティーネを王城へと送り届け国王にも報告をしておく。

ここから逃げ出した貴族や勇者たちは放置したままだけど、あちらの対応は最後でも良いだろう。


そして国王を連れて家族を迎えに行って城へと戻り、その後に温泉へと連れて行ってこれまでの疲れを癒してもらう。

ちなみに兵士達にはここに来る前に大露天風呂を作り、そこを教えておいたので全員で入りに向かっている。

これでしばらくは時間が出来たので、最後の仕上げに移る事に決めた。


「マルチ、調査状況を教えてくれ。」

「召喚陣の解析終了。この世界に存在する勇者教との癒着を確認しました。」

「勇者教は廃止させてくれ。これからは新しい宗派を新しく派遣されてくる神々が決めてくれる。」

「その様に伝えておきます。それとあちらの世界に行きますか?」

「ああ。すぐに出掛けてくるから行き違いになったら対処を頼む。」

「分かりました。」


そして召喚陣を解析したマルチが送還陣として起動し、勇者たちを派遣している世界へと送ってくれる。

すると到着早々に周囲から拘束と弱体化の魔法や魔道具が襲い掛かり、全身を固められてしまった。


「ハハハハハ!勇者教の司祭共から異常が発生したと連絡があり警戒していたが、まんまと飛び込んで来るとはな。」

「手厚い歓迎をどうも。それで、お前等は何を目的にこんな事をしてるんだ?」

「そんな事も知らずにこちらへと攻め込んで来たのか。まあ、知らないのなら教えてやろう。」


そう言って男が語った内容は俺が予想していた状況と合致していた。

どうやら、この世界では限られた一部の者だけが精神生命体になるための試練を受けられるらしく、これまでにも多くの者が試練を通過しているそうだ。

その中で何パーセントかが成功して精神生命体への進化に成功するそうで、先程のような世界が他に幾つもあると自慢げに話してくれた。

そして、ここに居る連中も試練を受けた者達で並みの勇者くらいの力を保有している。

それが数十人で俺を拘束しているのだけど・・・。


「話が聞けて良かった。」


そう言いながら魔道具を破壊すると拘束系の魔法を断ち切って立ち上がった。

しかし既に周囲の把握を始めているけど、貧富の差が激しい世界と言えるだろう。

目の前の奴等は繁栄を謳歌し、特権階級として不自由のない暮らしを送っている。

命を懸けた戦いを生き抜いたのだから、その恩恵を受けても良いとは思うけど少しは救済の手を伸ばすべきだろう。

今も薬すら買えずに苦しんでいる人たちや、飢えに耐えて地面に蹲っている人の姿が脳内に浮かんでくる。


「ど、どうなっている!?これだけの拘束ならば魔王だろうと微動だに出来ないはずだ!」

「残念だが俺はそこいらの魔王と違うのだ。お前たちには真の魔王である悪魔王がどういう存在か存分に教えてやろう。」

「攻撃開始!自身の持てる最大攻撃を喰らわせてやれ!!」


さすが曲がりなりにも異世界で戦いを生き抜いただけはあり、魔道具を破壊しただけでは脅しにもなっていないようだ。

しかし飛んでくる魔法や武技というのか武器から放たれる攻撃を素手で弾き返し、自分を中心にして暴風を巻き起こすと相手を壁まで押し返した。


「コイツは異常だ!絶対にここから出すな!!」

「ここでも異常者扱いか。ならば相応の姿で相手をしてやろう!」


ここで姿をキメラに変えると、部屋に合わせて体を巨大化させる。

そして向かって来る奴等を殴り飛ばし壁へ叩き付けて風穴を開けた。


「我々が雑兵扱いだと!」

「訛ってるんじゃないのか雑魚共。これでは準備運動にもならんぞ。」

「上に報告し剣聖、聖女、賢者の称号を持つ者を集めろ!何があってもあの化物を討伐するのだ!!」

「そうなるとここに居るのは雑魚だけか。それならば俺はこの世界を破壊して回るとしよう。止めたければ命懸けで掛かって来るのだな。」

「おのれーーー!行かせるものかーーー!!」

「邪魔をするなら排除するだけだ。」


そして向かって来る連中を地面へとめり込ませ俺はこの場から出て町を歩き始めた。

もちろん外は大騒ぎになっており、こんな人外が歩いていれば腕に覚えがある者が次々に襲い掛かってくる。

それらも容赦なく沈めると他には目もくれず町の中心から離れて行った。

町の見た目は大都会と言えるように煌びやかで美しく、高層ビルが道路を囲む様に空へと伸びている。

技術水準は今の日本よりも少し先を言っている感じだけど、世界全土を総合してバランスを考えるとこちらの方が明らかに劣っているようだ。


「ここからは貧民街か。」


町の中心から離れてしばらく進むと、灯りのない真っ暗な街並みが広がっていた。

建物は古くて崩れている所もあり、この世界では何処の町もここのような光景が広がっている。

何故ならこの世界では既にエネルギー資源が枯渇し供給は外へと頼り切っている。

その外というのが異世界の事で食料などもそちらに依存しているようだ。

そこがどのような扱いを受けているかまでは分からないけど、1つの世界で2つの世界を支えようと言うのだから植民地化していてもおかしくはない。

現にさっきの世界では自分達が精神生命体に進化するための試練の場として利用されていた。

本来ならもっと早くに魔王を処理していれば今回のような事にはならなかったはずなので、自分達以外はどうでも良いのかもしれない。

それにここに来た途端にさっきまでの攻撃が止んでいるので、ここから先の人間がどうなっても良いと思っているのだろう。


「さあ、人間共!隠れてないでその姿を現せ!さもなければこのまま町を壊滅させるぞ!」

「ま、待て!すぐに出るから待ってくれ!」

「俺にはお前たちの位置が全て把握できている。怪我人だろうと容赦しないから隠れても無駄だ。」


そして、この周辺に暮らす数百人が俺の前へと姿を現した。

中には奇形の者が何人も居り、この世界の多くが有害物質で汚染されている事を示している。


「良く来たな。これよりお前たちに洗礼を与える。」

「洗礼とは何でしょうか?」

「健康な体に治してやろうと言うのだ。さあ、我が力をとくと見よ!」


この場に集まっている者は半信半疑と言った感じだけど、瞬く間に体の傷が治り異常に見える体が正常な状態へと形を変えた。

それに驚きと歓声が返されると誰もがその場に膝をついて感謝の言葉と祈りを送ってくる。


「ありがとうございます。まさかこの世界で再び心から感謝する時が来るとは思いませんでした。」

「そう思うのなら、自分達だけではなく他の者にもその喜びを広げるのだ。そして、その思いこそが我に力を与え更なる救いをもたらす原動力となる。」

「分かりました。」


そして彼等が俺の存在を周囲へと知らてくれたおかげで貧民街の全ての人が俺の進む先へと集まり始めた。

それを全て治療して周り、どうしても動けない者へはこちらから魔法を飛ばして治療を行っておく。

町を1周する頃には町の人は正常に戻り、その殆どは喜びながら再び町へと戻って行った。


「お前たちはそのまま付いて来い。」

「「「はい。」」」

「それで何処へ行かれるのですか?その先には過去に行われた戦争によって汚染された土地が広がり草木すら生えていない不毛の大地が広がるのみです。」

「大地を浄化し正常に戻す。しかし、我だけの力では全てを元に戻す事は出来ん。後に他の神々にも相談して対処するが、この世界の事情を聞かせてもらいたい。」

「分かりました。我々で知っている事ならなんなりとお答えしましょう。」


そして話を聞くと事の起こりは200年ほど前に遡り、この世界では世界大戦が行われたそうだ。

その時に多くの土地が焦土と代わり、その時の影響で水、土地、空気の全てが汚染されてしまったらしい。

そんな時に過去の遺物から異世界への転送陣が発見され、多くの人体実験の末に今の体制が構築された。

その中で異世界に行った者の中に死んだ後にも新たな存在として進化した者が現れ、今ではそれらによって世界は統治されているそうだ。

彼等は毎日の祈りを彼等に捧げる事を条件に汚染されていない食料や水を分け与えられ希望も持てずに暮らしている。

しかも中心部は完全に守られているけど、その周りの町は不完全らしく汚染が広がって真面な子供が生まれなくなっているらしい。

出生率も低下を続けており、今では多くの赤ん坊が死産となってしまうそうだ。

それでも生きるために次代を担う子供が必要なため家畜のような暮らしをしている者も少なくない。


「よし。こうなったらクオナモンに相談しよう。そういう訳で少し待っててくれ。」

「はい。」


俺は空間の裂け目を作り出して元の世界に戻るとマルチ経由でクオナへと連絡を入れた。

しかし返ってきた渋めの回答だったので理由を聞く事にした。


「その世界は助けてやれないのか?」

『マルチからのデータから・・・まあ、名前は省きますが、以前に私達からの申し出を断った世界のようです。私達の世界は無理強いはしないので相手が拒むのなら滅びようと放置を続けます。』

「住民は助けを望んでるぞ。」

『世界にはそれぞれに管理をしている者達が居ます。一部例外はありますが、その者達の意見が最優先されるので今のままでは不可能です。』

「内政干渉みたいになるのか。でも今のままではって言ったよな。」

『はい。それに助けを拒む世界について我々は関与しませんが、そういう仕事は我々ではなく死神の仕事です。彼等はその世界に暮らす生物を不当に苦しめる存在を取り締まるのが役目ですから。』

「了解した。」

『いつもの事ですが準備の手際が良いですね。』

「最近は良く言われる。」


そして今度はイビルフェローズへと移動して死神たちへと声を掛けた。

彼等はここに暮らす人達の護衛ではあるけど、邪神は壊滅し問題となっていたカルマも倒したので脅威は居なくなっている。

手が空いている者だけでも良いのだけど誰か付いて来てくれるだろうか?


「そういう訳で悪い神様を退治しに行かないか。」

「それなら既にいつでも出陣可能ですよ!住む場所を失い難民に成ろうと我等は神の端くれです。全員が戦闘の心得があります。」


すると1人が声を掛けた途端にテントから黒い衣に身を包んだ者達が次々に現れた。

彼等は手に鎌を握り今すぐにでも出陣が可能だという意思を見せてくれる。


「それなら大元は俺がどうにかするから早急に片付けるか。」


既に時間を掛け過ぎてしまいラルティーネ達は温泉から土風呂へと変更している。

まさかあんな事まで可能とは知らなかったので俺も早く行って加わりたい!


「それなら1つの世界を不当な神の手から解放するために力を貸してくれ!」

「「「おーーー!!」」」


そして再び空間に裂け目を作ると先程の世界へ向けて進軍を開始した。

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