368 最後の四天王
実を言うと最初から魔族の討伐を数日中に終わらせてここへ来るつもりでいた。
ここは100年前の勇者が魔王を倒した場所で、周辺で建造物はここにしかない。
地面は血で舗装されたかのように赤茶けた不毛の大地が広がり、そこからは定期的に魔族が生まれて一定数に達すると内陸へと向かっている。
ここがまさに呪われた大地であり、こうなった始まりの地でもある。
「アズサはここの浄化を頼む。」
「うん。穢れを完全に消し去っておくね。」
俺はここの処理をアズサに任せると魔王城へと向かって行った。
入口であろう場所にはかつての激しい戦いを物語るように複数の傷跡が刻まれている。
そして中に入り奥に向かうと聖堂を思わせる大きな空間へと辿り着き、そこには昨日死んだかのような人外の死体と折り重なるように倒れている男女の死体がある。
おそらくは人外の方が討伐された魔王で、手前に倒れているのが当時の勇者と共に戦っていた聖女と賢者だろう。
この2人は魔王との戦いよりも前に召喚された勇者の末裔で、戦後の記録では最後の決戦の前に姿を消した事になっている。
そのせいで人類側には多大な損害が出た事になっており、当時の見解では婚約者だった2人が怖くなって逃げ出した事になっていた。
しかし、この状況を見ると本当な何者かに殺されて逃げた事にされたと見るべきだ。
城での記録ではそれを言い出したのが勇者だったらしく、魔王を倒した功績もあり誰も疑わなかったらしい。
ただし勇者は聖女の事が好きだったようで何度もそういう話を周りも聞いており、実家にまで求婚の話を持ち掛けたそうだ。
その実家と言うのがラルティーネの家であり、禁書庫には当時のやり取りが記録されていた。
きっと決戦の最後に強引な手段を取って争いになり勇者が2人を殺したのだろう。
そして死体をここに捨てた事で利用され、この状況を作り出してしまったという訳だ。
しかも勇者は自分の罪をラルティーネの家に押し付け、ここの立ち入りは禁止して監視をさせるように各国へと働きかけている。
こうなる事が分かっていたのかは知らないけど予感は持っていた可能性が高い。
それに勇者が送った求婚の話は実家から丁寧に断られているようなので一族全員を苦しめるつもりもあったようだ。
そのせいであそこの国は他国や国内の貴族からも蔑ろにされ、国境から出る事も禁止されている。
国王は国境付近に家族を逃がしたと言っていたけど、彼等の行ける所はそこまでなのであのままなら逃げられずに殺されていただろう。
そして俺がここに来たのはこの腹立たしい状況を破壊するためだ。
「よう魔王さん。死んだフリは止めてくれないか。」
「・・・グフフ。これまで何人もの勇者を欺いて来たのだがな。」
「俺にはそんな誤魔化しは通用しない。」
ちなみに封印されている訳ではないのでここまで来られるなら誰でも入る事が出来る
しかし、ここへ立ち入れるのは召喚された勇者たちだけと決まっており、それ以外の者はここまで入る事を禁止されている。
そしてアイツ等は召喚される前から色々と話を聞かされて準備をして来たようなので、ここに何があるのかを知っていてもおかしくはない。
もし知らなかったとしても死んだ魔王の死体が放置されていれば魔族を生み出す原因になっていると簡単に予想が出来るだろう。
それを処理しないというのはあちらとしても何か思惑があると見るべきだ。
そして魔王は笑いながら立ち上がると受けているダメージを感じさせない声音で話しを始めた。
「グフフ!しかし気付くのが遅すぎたようだな。我は倒されてから長き時間を費やし邪神の召喚に成功したのだ。その力を受けた今となっては人間の勇者が敵う筈もない。」
「自信があるのは良いけどな・・・。」
「しかも!我を倒した愚かな勇者は最高の死体を置いて行ってくれた。我のネクロマンサーとしての力を使えば、かつての英雄を使役する事も可能なのだよ。」
すると骨と化した聖女と賢者が動き始めると、立ち上がってこちらへと向きを変えた。
その眼窩には勇者に対する怒りと憎しみが鬼火の様に灯り、共に足元へ落ちていた捻じれた杖を拾って構える。
カタカタと口を動かしながら詠唱に入ると賢者の方は巨大な火球を生み出して放ち、聖女の方は魔王に向かって回復魔法を放った。
炎は俺を呑み込んで爆発を起こし、魔王の方は傷が回復し万全な状態で今も笑っている。
「どうだ!かつて我が軍勢を壊滅させた2人が敵に回った気分は!?しかし、これが全てだと思うなよ!これまでの間に大地を呪いで覆い力を蓄積させていたのだ!さあ、今こそ集い我と1つになるのだ!」
『・・・シ~ン。』
「あれ?・・・呪いたちよ!我の許へ集え!!」
『・・・シ~ン。』
「どういう事だ!?なぜ全く反応が無いのだ!!」
「悪い。そんな計画があるなんて知らなかったから呪いは消してもらったんだ。・・・マジで御免。」
「おのれ勇者めーーー!!我が完璧な作戦を見破っていたのかーーー!!!」
どうやらコイツは人の話を聞かないようで、違うって言って謝ったのに全く聞いていない。
しかも地団駄を踏んだり後ろの壁を殴って八つ当たりしているので今の内にやる事を済ませてしまおう。
「ネクロマンサーは死体に悪霊を憑依させて操る類もあるけど、コイツ等は魂をそのまま束縛されて操られてるだけか。それなら蘇生に必要な物は全て揃ってるから上級蘇生薬・改で生き返りそうだな。」
「ハハハ!残念だが蘇生は聖女の一族だけが使える特殊な魔法だ!もし貴様が何らかの手段でそれを可能にするのだとしても我の技で縛っている下僕を蘇生させる事など出来ん!」
「それなら先に束縛を破壊しておくか。」
「何!束縛が断ち切られただと!!」
自信満々に言っているけどステラのように強力ではないので指を弾く程度の労力で束縛を破壊で来た。
逆に全てを吹き飛ばさないように気を付ける方が難しかったけど、俺が思っていたよりも良質の骨と魂を備えていたようだ。
これも骨があると言って良いのかは微妙だけど、これで蘇生薬を使っても効果を発揮するだろう。
「後は蘇生薬使用・・・蘇生完了。お前等はちょっと下がって寝てろ。」
「おのれー!こうなったら目覚める前に貴様諸共この手で殺し、再び手駒にしてくれる!」
「それこそ許すと思ってるのか?」
「知っているぞ!貴様は召喚されて日が浅いはずだ。どんなアイテムを使って我の策略を打ち砕いたか知らんが、完全復活し邪神より力を授かった我の敵ではないわ!」
すると10メートルの巨体が更に大きくなり、天井を突き破って顔がその更に上へと向かって行く。
しかし力の解放と限界を越えた巨大化は魔王の姿を歪め、ヒヒのようだった見た目は複数の獣と虫を合わせたようなキメラへと変わっている。
そして一仕事を終えてアズサが現れると苦笑しながら魔王の姿を見上げて感想を零した。
「何だかハルヤと被ってるね。」
「俺はあそこまで不気味じゃない・・・と思う。」
「冗談だよ。2人は私の方で回収しておくから早く片付けちゃってね。流石に私もあれは食べようとも思えないから。・・・思えないからね。」
「2回言わなくても分かってるって。」
アズサは最後まで念を押しながら崩れる城の内部から2人を連れて外へと移動して行った。
俺の方は降って来る瓦礫を頭で砕きながら奴の視線の高さまで上がって行くと途中で横から拳が向かって来たので手を突き出すようにして受け止めた。
「グオアーーー!!」
「受け止めようとしたのに消し飛んだか。」
「貴様!今度は何をした!?」
「これだけ強化されても理性が残ってるのか。お前の評価を上方修正しないとな。」
ここまで姿が変われば理性を失っているかと思っていたけど、魔王という種族はメンタルが驚くほどにタフネスのようだ。
無くなった腕も既に生えており、まるでオマールエビの鋏のような形をしている。
『ビク!!』
「な、なんだ今の悪寒は!?」
「・・・気のせいじゃないか。」
俺はそう言って反対の腕を切り落としてみると今度はカマキリの腕が生えてきたので残念ながらこちらは食べられそうにない。。
都合良くはいかないようなので反対の鋏を切り落として回収すると、今度は蛇が生えて威嚇してくる。
これは食べれそうではあるけど、魔王の反応を見るに今度のはアズサ的にアウトのようだ。
「いくら切り取ろうとも無駄だ!この体には常に邪神の力が注がれ無限の再生力を発揮するのだ!」
「それは本当か!?」
「ハハハ!驚いているな!いずれ力尽きてその顔が絶望に染まるのが楽しみだ!」
「邪神のウィークポイント発見!!」
俺は即座に巨大化してキメラ化すると魔王の下半身を蹴り飛ばしてミンチに変えた。
その状況に奴が気付いたのは地面に体が落ちて生え変わった後で、どうして自分が倒れているのか分からないようだ。
しかし、その間に両腕は3回生え代わり、胸から下は2回磨り潰している。
それでも死なずに再生するという事は魔王の言っている事は嘘ではないのだろう。
ただ目の前に居る俺が魔王よりも恐ろしい悪魔王であるだけで、その事にようやく気が付いたようだ。
「き、貴様は勇者では無かったのか!?」
「誰がそんな事を名乗った!」
(言おうとしたらお前に邪魔されたけどな。)
「俺は自身の価値観でどんな悪や正義だろうと打ち砕く!そして特にお前みたいに世界を滅ぼそうとする馬鹿が嫌いな何処にでも居る13歳だよ!」
『『『それは無い。』』』
すると念話を通して複数のツッコミが聞こえてきたけど、きっと誰かと話でもしていて言葉が被っただけだろう。
言っては何だけど、九十九学園の中で俺ほど子供らしい13歳は他には居ないと自負している。
ちょっとキメラ化が出来たり、ちょっと巨大化が出来たり、ちょっと神になったくらいは誤差の範囲だ。
そして気が付くと魔王の再生が止まっているので意識を向けると完全なミンチになっていた。
「あれ?魔王が死んでる。」
数え間違えてなければ500回までは傷が治っており、途中からは面倒になって数えるのを止めた。
おそらくは1000回くらいまでは繰り返したと思うけど、あまりのコストパフォーマンスの悪さに見放されてしまったようだ。
「でも、止めの1撃!」
「ギエーーー!!」
「だから死んだフリは俺に通用しないって言っただろ。以前の俺並みに記憶力が悪い奴だな。」
おそらく死ぬ直前に自分へネクロマンサーの力を使ってアンデットに変化していたのだろう。
このミンチ状態からどうやって持ち直すのかは知らないけど、コイツの警戒するべき所は精神の強さなので存在していると俺達が居なくなった後に何か仕出かす可能性が高い。
俺がそんな可能性を残すはずないので、破壊の能力も使ってこの周辺に散らばった血肉とアズサの為に確保したオマール型の腕も消し去っておく。
『あ~・・・。』
(悪いアズサ。今回だけは勘弁してくれ。)
『埋め合わせで海に配下に加えた神獣が居るから美味しい魚介類を取って来させるよ。』
『それならオッケ~だよ~。』
これでアズサの方はどうにかなったので、海に居るケートスになるべく巨大な蟹を取って来る様に指示を出してみた。
するとすぐに返答があり近くに丁度良い獲物が居たようだ。
『それでしたら近くにジャイアント・キング・クラブが居ますので捕獲して昨日の海岸へと向かいましょう。』
『こちらからは俺の婚約者であるアズサが向かう。・・・食われないように大きい獲物を頼むぞ。』
『あ、主!?食べられるとはどういう事ですか!?』
『獲物が十分なら問題無い。健闘を祈るぞ。』
『主~~~!!』
悲鳴に似た声が聞こえてきたけど俺はアズサの許に行くと地面へと簡単に地図を描いた。
それを見てアズサは先程の聖女と賢者を連れて転移してから戻って来たので、何処かへと預けて来たようだ。
ただ場所は限られるので温泉の所を確認するとマルチが対応しているようで、目を覚ましている2人にこれまでの説明を行っている。
アズサの方はと言うと戻ってすぐに空に上がり音よりも早い速度で海岸へと向かって飛んで行った。
帰りは転移で帰って来るだろうから1時間もせずに戻って来られるだろう。
これでここに残っているのは俺と今回の騒動を助長した邪神の2人だけ・・・と言いたいけど。
「うおーーー!!」
「は~・・・戦いの気配を感じ取ってゲンさんが来ちゃったか~。」
「ふ~。間に合ったようじゃな。ここは任せてもらおうか。」
「でも、ここに居る邪神は確実にゲンさんよりも強いですよ。」
「構わん。強敵と戦わずして武は極められん。」
「まあ、死んでも知りませんよ。」
「戦いの中で死ぬのも武人の定めじゃ。」
そう言って上半身を開けさせると静かに前へと歩み出た。
しかも、その体には最大まで凝縮された気を纏っており、普通の人間が触れると跡形もなく弾け飛んでしまうだろう。
エヴァの風塵障壁を纏っている状態に近く、あれがゲンさんの本気モードのようだ。
すると進んでいる先の空間から指が突き出し、縁を掴むと左右へ引き裂くようにして邪神が現れた
筋肉質な体と赤黒い肌をしており、黒く濁った目で俺達を睨んで来る。
さっきはこいつの力を削る為に魔王をとことん磨り潰したのでかなり怒っているのだろう。
「テメー!さっきは舐めた事をしてくれたな。おかげで力を得るどころか削られちまっただろうが!」
「あんな雑魚に力を無限供給したお前が悪い。自分の無能を他人に押し付けるな。」
「ゼッテーにブッ殺す!まずはそこの中途半端な奴が相手みてーだが相手が雑魚でも手加減なんてしねーからな。」
「それは楽しみじゃ。それではさっそく楽しませてもらおうかのう。」
「楽しめると思うなよガキがーーー!」
ゲンさんが拳を構えて半身になる頃には邪神は間合いへと飛び込み拳を振るっていた。
普通に考えればこの攻撃をゲンさんが目で追い掛けて防ぐ事は不可能だ。
しかし邪神の拳は空を切ると直後に気を一点に凝縮した拳が横から顎を砕き、極限まで研ぎ澄まされた手刀が腹部を切り裂いた。
さすがミルガストに加護を貰って来ただけはあり、攻撃力は十分に相手を破壊できる段階まで練り上げられている。
おそらく俺でも、あの拳をまともに受ければダメージは免れないだろう。
あの程度のダメージなら1秒も必要とせずに治癒してしまうけど、今のやり取りだけで動きが読まれて対応された事が分かるはずだ。
邪神は顔を歪めながらも後ろへと飛んで距離を開けると、俺に向けていた視線をゲンさんへと移した。
「卵にしてはやるじゃねーか。まさか俺の攻撃を躱すだけじゃなくカウンターまで決めてくるとはな。」
「躱したのではなく完全に躱されたと言うべきじゃな。敵を相手に余所見をしておるからそうなるのよ。」
「チッ!減らず口が減らねえ奴だ。しかし、次からはそうもいかねーからな!」
「お前には武が如何なるものか、その体に教え込んでやるわい。」
そして邪神は再び間合いを詰めると激しい猛攻を始めた。
拳だけでなく蹴りも繰り出し、あらゆる角度から攻撃を加えている。
しかしゲンさんは風に吹かれる木の葉の様に攻撃を躱し、掠り傷さえ受けてはいない。
「まさかゲンさんが気を防御に使うとはな。」
俺達全員に言える事だけど人間の肉体の重さなんて木の葉とそんなに変わらない。
それを利用して気を大きく膨らませて風船のように展開し、触れた時の反発作用を利用して躱している。
もちろんそれでけではなくゲンさん自身も相手の気の動きを呼んで攻撃を先読みし、防御に反映させているからこの状況になっているのであって俺だとここまでのことは不可能だ。
「クソ!風船みたいに躱しやがって!」
「お主は力だけで技術がなっとらんな。ほれほれ隙だらけじゃ。」
ゲンさんも常に防御に徹している訳ではなく、1秒に満たない合間に凝縮した気を打ち出して内臓を破壊している。
必要最低限の動きで最大限のダメージを与えており、見た目の攻防に反して血を吐いているのは邪神の方だ。
「スサノオと数百年修行したのは聞いていたけど技術が凄い進化を遂げてるな。」
アイツは手加減が下手なので黄泉で死んだ回数も3桁では収まらないはずだ。
そこで身に着けた事を更に現世で磨き抜き、上位の存在である神へと届くまでに練り上げたのだから才能だけで片付けられる物ではない。
「こうなりゃ体裁なんて考えていられねーぜ!負けて死に戻りしたとなったら他の四天王に馬鹿にされちまうからな!」
「隠し玉があるなら最初から出しておけ。てっきりこの程度が限界なのかと欠伸が出そうになったわい。」
「後悔させてやるから覚悟しやがれ!」
邪神はそう言って再び距離を開けると空間収納から幾つもの装備品を取り出した。
あれはステラと同じ様に神を材料として武器の姿に固定した物で神武装に該当する。
生きているのでアイテムボックスには入らないけど、神が使う空間収納なら入れる事が可能だ。
こちらも俺は不器用なので使えないけど、使えてもステラを閉じ込める様な事をするつもりはない。
ちなみに聖剣 ライトニング・セイバーは俺と一体化するような形で傍に居るらしく、他とは少し違う感じだ。
「あれは神武装の一種ですけど大丈夫ですか?」
「武人は常にこの身一つで戦うものじゃ!お前も手出しをする必要は無い!」
「その言葉を後悔と絶望に変えてやるよ。こいつらは俺に負けた神々を武器として状態を固定した物だからな。唯の装備品だと思うなよ!」
確かに今の邪神は以前よりも明らかに力が増しているけど、その強化は装備1つで1割くらいだろう。
屈服させた神を無理矢理に従えて使っているのだから仕方がないとはいえ、今も彼等は抵抗を続けて意地を見せている。
それにいまだに本気を出していなかったのは奴だけではない。
「さて、儂もそろそろ本気で人間を卒業する時じゃな。」
「まさかテメーは既に神化を得ているのか!」
「そういう事じゃ!これが儂の真の姿!龍武神じゃーーー!!」
ゲンさんは進化を使う事で自らの意思で肉体を捨て去り新たな姿へと変わっていく。
それは黄金の鱗を持った人型のドラゴンで、まさに四神を纏める黄龍のようだ。
おそらくはミルガストの加護を完全に自身の体へと取り込み、そちらの方向で神化したのだろう。
今ならその力だけでも装備を纏う前の奴にも匹敵し、以前の数倍まで力を増している。
「さあ、第2ラウンドを始めようか。」
「調子に乗るなよ!神に成りたての雛が俺に勝てると思うな!」
「温い攻撃じゃな。この程度なら片手無刀取りが出来てしまうわい。」
「馬鹿な!?」
「物は言いようじゃな。どれ、手本を見せてやろうかの。」
ゲンさんは剣を巧みに動かして邪神を放り投げると、同時に流れるように放った蹴りで腕を破壊した。
それで相手から剣を奪うと同時に剣線が幾つも走り、邪神から装備品を切り離してしまう。
「フム。最近は拳ばかりじゃったが剣の腕も訛っておらんようじゃな。」
剣はゲンさんに握られた瞬間に使用者の能力を強化し、その意思を読み取って完全な人器一体の攻撃を放っている。
既に使い手が神に進化しているので神器一体と言う方が正しいかもしれないけど、ゲンさんにはこれ以上あの剣を使うつもりはないらしい。
今は後ろへと放り投げて俺の前に突き立っているのでしばらく持っておけという事だろう。
「さあ、仕切り直しじゃ。」
「舐めやがってーーー!!」
邪神は新たに装備を整えると新しく出した剣を構えた。
どうやらカオスソードとかカオスブレードなどと厨二的な名前は付けていないようで、その手の声は聞こえて来ない。
余裕があれば各装備の公設が聞けたかもしれないけど、それは既に失われてしまっているようだ。
「邪神よ。お前にとって力とは何か?」
「テメーみてーな奴をブッ殺す力に決まってんだろ!」
「確かに力とは他者に行使し破壊するものじゃ。しかし武はその力を弱い者を守るために使い、本来ならば弱者が強者に勝つための手段として用いられる。」
「武だろうと何だろうと、俺は逆らった奴を力で屈服させるだけだ!」
「お前の言う力に対抗するために武は存在する。そして次の1撃で全てが終る。」
「テメーの攻撃なんて俺には屁でもねーんだよ!」
「そう思うなら受けてみるんじゃな。」
ゲンさんは攻撃を止めて防御も最小限に留めているため幾つもの傷が体へと刻まれている。
代わりに拳へは今迄で最大とも言える気が凝縮し、そこには破壊の力が込められていた。
おそらくは俺とは違う神からも加護を貰い破壊の力を手にしていたのだろう。
しかし腕の方が限界を超えており、血管が避けて血が噴き出している。
「馬鹿が!分相応な力を使おうとして自滅してやがる!」
「どうやらまだまだ修行が足りんようじゃな。」
「そのまま死ねーーー!」
しかし邪神が放った渾身の1撃は空振りに終わり、代わりにゲンさんの足が1歩前に出る。
そのまま静かに拳を突き出すと込められていた力が一瞬で解放され邪神と自身の拳を吹き飛ばした。
「儂が初めて技に名前を付けるならば神魂崩落拳と言ったところか。」
ゲンさんが言うように邪神は魂だけを完全に破壊され、体は崩れ落ちる様に地面へと倒れた。
ただおそらくは破壊されて死んだだけなのでいずれは魂が復活し活動を再開するかもしれない。
「それにしても四天王の最後の1人を倒すとは流石ですね。」
「コイツがカルマじゃたか。武闘派と聞いておったから、もっと強い奴を期待しとったんじゃがハズレも良い所じゃ。だが、これでクオナに言われておった依頼は終了じゃな。」
「まさか何か頼まれごとでもしてましたか?」
「強力な邪神の体を回収して来て欲しいと言われてな。儂向きな仕事じゃったからついでに受けて来たのじゃ。来た時にはナンバー2は既にお主が倒して居ったし、ナンバー3は頭だけの雑魚じゃったから少し困っておった所じゃがな。」
「それならコイツは回収して戻りますか。それとコイツが持っている神武装にされた神達の対処をしないと。」
コイツの空間収納の中身にはまだ姿を変えられた神が残っているかもしれない。
その回収は俺達には出来ないのでイビルフェローズへと戻る必要がある。
そういう事は死神たちが得意という事なので任せれば大丈夫だろう。
「ついでに戻った時に報告とかお願いしますね。俺はここで仕上げをして行きます。」
「やり過ぎて大陸を割るでないぞ。」
「そんな事はしないので大丈夫ですよ。」
そして落ちている神武装を回収するとゲンさんには先に戻ってもらい、俺はアズサが戻って来るのを待ってから皆と合流した。
まだやるべき事が幾つか残っているので、それを片付けなくてはならない。
特にこれ以上この世界を描き回させない為にあちらへのお仕置きもしておく必要があるだろう。




