361 死神と創造神 ②
死神の治安維持軍を率いているという隊長を追い返してからお食事処のサクラへと戻った。
もちろん残っていたバームクーヘンは残すと勿体無いので美味しく頂いている途中だ。
そして到着してさっきの2人組の所に向かうと、仮眠室として作られた部屋のベッドで横になっていた。
「大丈夫か?」
「来てくれたか。俺はそろそろ限界のようだ。悪いがフィリアの事をお前に託したい。」
「ダメよバレン!気をしっかり持って!」
「しかし、この傷は如何なる手段を取ろうと回復は不可能なのだ。これを治すには再生ではなく生を与える神の力が必要だ。」
「ごめんなさい。私にもっと力があればこの傷も治してあげられたのに・・・。」
フィリアは創造神としてイザナギと同様に生の力を持っているのだろう。
しかしバレンの体を犯している死の力を上回るだけの力は持っていないようだ。
そんな自分の無力さにフィリアは涙し、愛するバレンの手を握って悔しそうな表情を浮かべている。
「諦めている所に悪いんだけど治療をしても良いか?」
「そんな事も可能なのか!?」
「さっき実験は済ませて来た。まずはここに蘇生薬があるからこれを試そう。」
「それからは生その物のような強い力を感じます!」
「これを振り掛ければ少しは治るはずだ。」
そして試してみると傷の幾つかが正常に戻っただけで完治には至らなかった。
しかし、それは予想していた事なので次の実験に取り掛かる事にする。
「これから俺の力で死の概念を再構築して反転させる。何か異常を感じたら途中で止めるから言ってくれ。」
「分かった。しかし最初に見た時には破壊神かと思ったが・・・。」
「まさか死と創造の両方を使えるなんて。」
「創造と言っても俺の場合は元となる対象が必要になるけどな。」
「それはきっと力の使い方を完全に理解していないからです。良ければお礼に力の使い方をお教えしましょうか?」
「それは有難いな。でもその前に治療を終えてしまおう。」
「はい!」
そしてバレンの全身に刻まれた死という概念を反転させると黒かった傷は正常に戻り、回復を始めた。
それを見て2人は大喜びで抱き締め合い、それと同時に申請が届いた事を教えてくれる。
「感動の途中で悪いけど、追加の話が出来た。」
「ああ、気にせずに言ってくれ。」
「俺はステータスがあり、仲間になりたいと心の底から思った奴へ強くなる切っ掛けを与えてやる事が出来る。痛みが伴うがバレンに関しては大丈夫だろう。でも痛みに慣れていないフィリアにはかなり辛いかもしれない。」
「俺はこれからもフィリアを守りたいから問題無い。しかし、お前の言うようにコイツには辛いかもしれないな。」
「何を言ってるの!私だって守られてるだけの女ではないのよ!気にせずにやってください!」
「分かった。それなら了承ということで遠慮なくやらせてもらう。」
そして申請を承諾するとバレンは軽く表情を歪めただけで無事に変化を終えた
フィリアはやはり痛みに慣れていないからかバレンの体を強く抱きしめて辛そうに耐えている。
それでも少しすると痛みが引いた様で、表情が緩み顔が真赤に色付いていた。
「な!?あ・・あの?これは・・・!?」
「言い忘れてたけど副作用として好きな相手が更に好きになるから。」
「そっちの方が重大だと思いますけど!」
「まあフィリア。俺はどちらかと言えば今の状態に感謝している。今迄はお前を巻き込んだ罪悪感が色々と躊躇わせていたが、今ならどんな事でも素直に受け入れられる。」
「それは私にもありましたけど・・・。」
「俺は席を外すからしっかり2人で話し合ったら良い。それとここが鍵になってるから閉め忘れるなよ。」
「少し2人で話し合う時間が欲しかったんだ。」
「そうですね。もしこの事を事前に知らされていたらこうは成れなかったかもしれません。」
そして、ここで愛を囁き合っている2人を残して俺は部屋を一時退散した。
その後に扉の鍵が閉まる音が聞こえてきたので、迷いのなくなった愛を存分に確かめ合っている事だろう。
スキルに俺と同じ即死耐性と死亡耐性が付いているかは後で確認するとして、俺はお客さんの相手をしなければならない。
「ねえ、ハルヤ~。空の上に殺意と敵意が集まってるけど何か知ってる~。」
「それならさっきの事なんだけど・・・。」
俺はこの1時間ほどの間で起こった事をアズサへと説明した。
するとその顔に笑みが浮かび12神将を纏うと今日は最初から般若の仮面を装着する。
「それなら上の人達にはお仕置きが必要だね。」
「一応は出直せとは言ったんだけどな。話した奴が理解してくれないのなら仕方がないか。」
既に戦闘態勢へと入っているようで上空には1000を越える死神が得物である鎌を構えている。
出来ればアズサには耐性を得てから戦ってもらいたかったけど、こうなっては仕方が無いだろう。
そして成層圏まで上がるとあちらは待ち構えていたようで逃がさないように包囲を始めている。
もともと逃げるつもりは無いので良いのだけど、向こうがやるきなら容赦する必要は無さそうだ。
「今なら帰ると言えば追わないけど。」
「黙れ化物め!我々は本来の役目を果たすだけに過ぎん!貴様のような存在を如何なる手段を使っても排除し、打ち滅ぼすのが使命なのだ!!」
「ねえ、もうやっても良いかな?」
「宣戦布告されたから良いんじゃないか。」
命の取り合いにゴングなんて存在しないのだから俺は既に変身を終えて周囲を轟砲で薙ぎ払っている。
分散しているおかげで被害は100人にも達していないけど、その間にアズサは間合いを詰めると全ての攻撃を躱しながら騰蛇で相手を焼き滅ぼしてしまう。
その殲滅速度は雷の如くと言うのが相応しく敵を全く寄せ付けていない。
「死ねーーー!」
「ちょっと試してみるか。」
さっきは完全に防ぐ事が出来なかったけど、全身を覆っている防御の壁に破壊の力をプラスさせる。
そして振り下ろされた鎌をノーガードで受け止めると、無傷で破壊する事に成功した。
「耐性の効果で属性攻撃に対する防御が上がってるみたいだな。」
「どうして神の中で最も強力と言われる死神の攻撃が弾かれる!?」
「俺の防御能力が優秀だからだろ。」
これでコイツ等の攻撃は通用しないと分かったので本気を出させてもらう事にした。
体を大きくして轟砲の範囲を拡大し、リーチを伸ばして届く相手をミンチに変えていく。
その混乱の中でアズサは蝶よりも華麗に舞い、蜂なんて比べ物にならない鋭い攻撃を放っている。
まるで戦場の全てを把握し支配しているかのようで敵の方か自ら首を差し出している様にも見える。
「この化物めーーー!!」
「アズサも化物認定されたな。」
「愛を理解しない人達の遠吠えは聞こえません!」
「まあ、俺が聞こえてれば良いんだけど。」
家族の中で俺以外を化物と呼ぶ事を許容できるほどに心は広くない。
その怒りを憤怒のスキルで力に変えると、先程の数倍の力で周囲を薙ぎ払った。
「隊長!コイツ等は我々では手に負えません!一時帰還して対策を考えるべきです!」
「俺に尻尾を巻いて逃げろと言うのか!?」
「このままでは全滅します!」
「・・・分かった。しかし、私が援軍を呼んで来るまでお前たちはこの場で奴を抑えていろ!」
「隊長!それではここに居る者が無駄死にします!」
「黙れ!俺の命令は絶対だ!」
「逃がすと思っているのか?」
「貴様!どうやってここまで来た!?」
こいつは周りが見えていないのだろうか?
すでに無事な死神はここに居る2人しか残っておらず、この周辺を風船のように漂っている。
俺は隊長を掴んで拘束すると、残っているもう1人を睨み付けた。
「この状況下で良く撤退を進言した。お前の冷静な判断能力は賞賛に値する。今回は許してやるから負傷者を連れて自分達の世界に撤退するんだな。」
「・・・感謝する。」
「おい貴様!命令違反がどうなるか分かっているのか!?」
「黙れ!お前の様に周りへ犠牲を払い自分は逃げようとする奴を俺が生かして帰すと思うな!貴様には永劫の恐怖と苦しみを与えて滅ぼしてくれる!!」
そして先程の男は仲間の許へと向かい、ここには隊長と2人だけとなった。
俺は破壊の力を込めてその身を砕き、スキルによって絶望と恐怖を体と魂に刻み付ける。
そして最後は悲鳴すら上げなくなった隊長を口へと放り込んで飲み込むと、その全てを吸収して消し去った。
「さて、俺もアズサと救助活動をするか。」
ここに来ているのは神に類する連中なので首を切り取られて全身を焼かれた程度で死んだりはしない。
俺が殴った相手も全身骨折はしていても生きており、轟砲を受けた連中も全身の骨が砕けて肉離れを起こしている状態なので動けなくなっているだけだ。
破壊の力は回復を阻害する程度に留めてあるので、力を解除すれば自身の力だけでも復帰は可能だろう。
そして、全ての作業を終えると後は副隊長と名乗る男に任せて帰ってもらう事になった。
「次に来た時に同じ事をしたら本気で皆殺しにするからな。」
「肝に免じておきます。それに彼等を家族の許に帰してやれるので満足です。」
「しかし、ここは邪神が支配している世界だと聞いていましたが?」
「数日前に俺が一部を暫定的に支配する事になった。完全に平和になった訳じゃないからその辺の話を聞きたかったら正式な使者を送ってくれ。」
「分かりました。上層部には伝えておきましょう。」
そして彼等は空間の裂け目を作るとその中へと消えて行った。
これで、こちらはしばらく大丈夫だと思うけど、あちらは大丈夫だろうか?
その頃、死神が暮らす世界では・・・。
「敵襲です!死を纏った破壊神が精鋭であるはずの死神たちを次々に倒して中央に向かっています!」
「何を世迷言を言っているのだ!」
「対象に超高密度エネルギーを感知!!・・・世界が。」
「世界がどうした!?」
「世界が消されて行きます!」
「総員緊急退避!!」
「間に合いません!うあーーー!!」
そして、この日。
死神の世界となる星の半分が無へと還り、浄化と修復に300年の歳月を必要とした。
ただし、被害者が数万人も出たにも関わらず死亡者と行方不明者は0という神から見ても奇跡的な状況となっており、後にこの世界の歴史に刻まれることになる。
その少し後にハルヤ達に敗北した死神たちも帰還を果たしたが、混乱の中で情報が錯綜してしまいイビルフェローズへの対応が行われる事は無かった。
「そういう訳で世界が半壊したのでしばらく難民を引き受けてもらえませんか?」
「・・・仕方ないな。土地はあるから適当に暮らしてくれ。」
流石にイザナミ様が犯人だろうと伝える訳にはいかない。
星の半分が光に呑まれて消失した所で何となく必殺技である『雷光神魔滅殺波』を使用したのだろうと想像できる。
地球からでも月にクレータを作るくらいの威力があるのだから、それくらいの威力があってもおかしくはない。
「それで俺達の対応はどうなったんだ?」
「この状況で何かできると思いますか?」
「そうだな。そういう事なら皆で協力してより良い世界に作り変えて行こう。」
「我々も民間神の護衛の範囲でならご協力しましょう。」
「そうしてくれ。」
難民を受け入れた事にはこういった理由もある。
今の時点で戦う事の出来る人員が数名しか居なくてあまりここから離れられなかったけど、これで少しは戦力を整える事が出来た。
それに邪神達にとっても死神は回復不可能の攻撃手段を持っているので簡単に手を出す事が出来ない存在だ。
ここには戦闘が可能な死神が100人ほど待機しているので防御だけでなく警戒や監視の面で見ても充実した事になる。
そうしていると今度はハルアキさんが皆を連れて俺の許へとやって来た。
「そろそろここも安全になって来たから他の子達も連れて来たよ。」
「久しぶりだな。来るのを待ってたよ。」
ハルアキさんが連れて来たのはルリコやアンなどの地球に残っていたメンバーで、安全性が確保できたことで連れて来てくれたようだ。
それぞれに再会を喜んで抱擁を交わし、これで全員が再び揃った事になる。
しかし、その後ろでは一番連れて来てはいけない面子が2人ほど混ざっていた。
「ゲンさんにトウコさん。2人も連れて来ちゃったんですね。」
「見事に待ち伏をせされてしまってね。鬼喰丸で頬をペチペチされたら断れないだろ。」
「確かに。」
それは俺でも断り切れないので仕方が無いと思うしかない。
2人なら相手が鬼や神でも普通に勝ちそうだし、黄泉でも訓練をしていたと聞いている。
俺が半神の時に放った本気の威圧でも楽しそうに受け流していたし、この2人を通常の枠に嵌めて考えるのは止めた方が良いだろう。
「それなら少しここの観光にでも出掛けますか。中央に行けば色々な邪神が見られますよ。」
「それは面白そうだな。」
「なんだかワクワクしてくるわね。」
「対象が邪神でなければゆるキャラでも見に行くような気軽さだね。」
「細かい所を気にしなければ変わらないと思いますけど。」
「それは全国のゆるキャラに失礼だから周りには言わない方が良いよ。」
確かに邪神は緩くはないので似せて言うならキモキャラと言ったところかもしれない。
俺は全国のゆるキャラたちにお詫びの言葉を送りながら2人を連れて中央にある町へと案内して行った。
「ここがイビルフェローズの中心で最大の町になります。」
「カオスな街並みじゃな。」
「統一性が無くて色々なジャンルの建造物が並んでるわね。」
「俺も最初はそう思いましたよ。」
ここで一番多いのは古代ギリシャの建造物とされるパルテノン神殿のような作りの建物で、材質は大理石のような見た目の物が多い。
それ以外だと作りが同じでも黒曜石や花崗岩のような材質の物もある。
それらに囲まれるような形で中国っぽい作りやサグラダファミリアのような教会のような作りの建物もある。
残念な事に日本風の建物は無いけど、お城のような建物があるとカオス度数は更に増していただろう。
「オイオイ!なんだ~!?やけに人間臭えのが歩いてやがるな!」
「こつら人間じゃねえか?」
「なんでこんな連中が俺達の世界を歩いてるんだ?」
「こんな猿共は食っちまっても文句は言わねえよな。」
「なら早い者勝ちだな!!」
すると周囲の家々から異形の邪神達が姿を現し我先にと殺到してくる。
しかしゲンさんは既に拳を引いて静かに気を高めており、それはまるで津波の前兆を思わせる。
その横ではトウコさんがニコニコと笑みを深めながら腰にある鬼喰丸・・・いや、既に名を変えて神喰丸へと手を伸ばした。
「どうやらここは儂好みの世界のようじゃな!!」
「今日はたくさん食べても良いわよ。」
そしてゲンさんの拳は突き出されるとその先にあった空間を粉砕し、一定の範囲に居た邪神をバラバラの肉塊へと変える。
トウコさんは迫る手を巧みに捌いているけど、その刃は触れた邪神を跡形もなく吸収している。
更に力へと変換してそのまま2人を強化し人間とは思えない戦闘を繰り広げていた。
「俺は余分に寄って来てる奴等を殲滅しておくか。」
離れた所から騒ぎに気付いた連中が集まって来るので、轟砲で弾き飛ばしてお帰り願っている。
それでもこちらに向かって来ると言うなら順番を守って時間差を付けてもらい、2人が楽しく戦えるようにサポートしておく。
「それにしても2人は神の加護を受けて来たみたいですね。」
「気付いたか。ミルガストの奴にたらふく酒を飲ませてやったら喜んで加護を寄こしおったぞ。」
「九十九商会がオーストラリアで飼育してる牛も100匹くらい付けたけど、お金と食べ物で満足してくれる相手って便利よね~。」
どうやらこの2人は世界を滅ぼそうとした邪龍さえも手玉に取って力を手に入れて来たようだ。
今は人間と言うよりもドラゴニュートみたいな姿になっていて角やツバサまで生えているけど大丈夫なのだろうか?
「姿が変わってますけど?」
「ちょいと加護を強く受け過ぎての。人間の枠を超えて半神の亜龍神になっておるんじゃよ。」
「これで九十九商会を更に発展させられるわね。」
「程々で引退しないと役員が泣くんじゃないですか?それとも異世界に手を広げてはどうです?」
「それは良いアイデアね!世界の次は異世界なんてロマンがあるわ!」
「クオナに頼めば異世界で危険な生物とも戦えますよ。」
「それはロマンがあるな!以前から思っておったが、お前はどうしてそういった思い付きが出せるんじゃ!」
まあ、今の時点でここよりもデンジャーな世界は多くないだろうから、ゲンさんが満足できるかは分からない。
それにトウコさんを異世界に解き放つと、その世界を裏から支配して統一してしまいそうだ。
まあ両方ともやっている事は悪くはないので、世界平和のために貢献してくれていると思っておこう。
「そろそろこの辺の邪神が尽きそうなので終わったらもう少し周りますか?」
「1日目から遊び過ぎては楽しみが無くなってしまうわい。」
「神喰丸も満足しているから今日は帰っても問題は無いわよ。」
「それならアズサ達が歓迎会の準備をしてますからそろそろ戻りましょうか。」
そして、この辺りの邪神が枯渇してしまった所で俺達は2番島へと戻る事にした。
出来れば邪神も真面な神に戻して再スタートさせたいとは思っているので諦めて早めに降伏してくれる事を望んでいる。
その方が神材の確保も出来るし手間もかからないので楽が出来る。
そして今日は久しぶりに揃った皆と美味しい食事を堪能すると、揃って一緒の部屋で眠りに就いた。
その時にやはり俺の居場所はここなのだと再認識する事が出来たので明日はちょっと頑張ろうと思う。




