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358 異世界食事処2号店

オウカとファルが待つ部屋に向かっていると一仕事終えたハルアキさんと会う事が出来た。

その顔には爽やかな笑顔が浮かび、今にも白い歯をキラリと光らせそうだ。

しかも今は鎧を身に着けていてもライオンの仮面は被っていないので素顔を晒している。


「そんな恰好で出歩いても大丈夫ですか。ファルから聞きましたけど寡黙なライオン仮面と呼ばれているんでしょ。」

「ハルヤ君が初日からやらかしてくれたからだよ。それと一応言っておくけど僕はここではセイメイと呼ばれているから呼ぶ時は気を付けてね。」

「分かりました。それで、セイメイさんもお茶にお呼ばれですか?」

「せっかくの時間を邪魔してすまないね。でもこれからの事や説明する事も多いから早めに伝えておくよ。」

「ちょうど打ち合わせがしたいと思っていた所です。オウカがお茶の準備をしてくれているのでゆっくり話をしましょう。実はここに来るまでにも色々あって2ヶ月ほどあまり休んでないんですよ。」

「本当に君は性格とは正反対で忙しい人生を送ってるね。」

「そうなんです!」


ちなみに俺の称号には神になった時から怠惰さんが戻って来た。

それ以外にも・憤怒・色欲・傲慢・強欲・暴食・嫉妬と何故か全て揃っている。

ただ1つだけハッキリ言っておくけど俺は誰とも婚前交渉はしていない。

なのにどうして色欲が付いているのか疑問しか湧いて来ず、誰かに教えてもらいたいほどあ。

やはりここは悪魔王の姿で恵比寿と弁才天にお伺いを立てるしか無いのだろうか。

なんだか最近はこの称号のせいなのか性格が少し過激になている気がする。


「それは以前から変わらないと思うけど。」

「ともかく今日はのんびりしようと思っているので中に入りましょう。」

「そうだね。」


そして俺はハルアキさんに背中を押されて部屋へと入って行った。

しかし、そこにではファルとオウカが着替えを行っていたらしく2人とも下着姿になっている。

ちなみにファルは控え目な黄色い下着を身に着けていて少し大きめのお尻が可愛らしい。

何度も背中に乗せて知ってはいたけど安産型という奴だろう。


そしてオウカの方は深緑の下着で彼女の透き通るような肌と相まってとても似合っている。

俺に気付いてその肌がピンク色に変わったので頭の花と合わせて満開の桜が咲いたようだ。


「・・・うん。2人とも綺麗だよ。」

「そ、そう。ちょっとオウカが見立ててくれたのだけど・・・って!見てないで出て行きなさい!」

「あ、あの。褒めてくれるのは私も嬉しいのですが、もう少し心の準備をさせてください。」

「あ、ああ。そうだな。俺は外で待ってるから準備が終わったら呼んでくれ。」


それだけ伝えて外に出ると後ろ手に扉を閉めて笑っているハルアキさんへと呆れた視線を送った。

恐らくはこうなる事を知っていたのだろうけどこの人にも困ったものだ。

実は以前にも同じ様な事をされて既成事実を作ろうとした事がある。

体感では何百年も前になるから忘れていたけど、ハルアキさんはこういう人だった

それとも石化を解除する時に落ち武者ヘアーにした事を今も根に持っているのだろうか・・・。


「嵌めましたね。」

「良い夢は見れたかい?」

「地球に戻ったら悪夢になりそうです。まだ死にたくないのでこういう冗談は控えてください。」

「フフフ。まあ気を付けておくよ。」


これは絶対に分かっていない時の笑い方なので自分の方で気を付けるしかない。

しかしラッキースケベの称号は無いはずなのに、神になってから今のような事が起き易くなっている気がする。

ハルカ仕込みの隠密行動でなんとか躱せているけど、まさか隠れスキルか称号でも付いているのだろうか?

そしてステータス画面を睨んでいると部屋の中からファルの声が聞こえて来た。


「もう入って良いわよ。」

「分かった。」


返事をして扉に手を掛けると慎重に扉を開けて中を覗き込んだ。

どうやら今回は大丈夫なようで俺から見ても普通の服を着ている。

肩と背中が出ているキャミソールのような服で布地には繊細な刺繡が施されている。

ズボンと合わせて体のラインが出ており、その服で町中を歩くには覚悟が必要になるだろう。


「お前はまた、そんな際どいのを良く着るな~。」

「前のに比べたらこれでもマシだと思うけど。」

「私は止めたのですけどハルヤさんに見せたいと言うので仕方なく。」

「ならどうしてオウカはミニスカメイド服なんだ?」

「あら?私とした事がうっかりしてました。」

「・・・お前も確信犯なのか。まあ、着替えてたら時間が掛かるから今は良いけど。」

「それで感想はどうなの?」

「いかかですか?」

「・・・良く似合ってるよ。」

「ハルヤにそう言って貰えると嬉しいわ。でも外ではあまり着ないように控えるわね。」

「ありがとうございます。私もこれはハルヤさん専用にします。」


上手く褒められた気はしないけど2人は嬉しそうな笑顔を浮かべている。

それは良いとしてハルアキさんがなかなか部屋に入って来ないけど、何かあったのだろうか?

まさか気付かない内に残りの四天王がそこまで来ていて睨み合いをしているという事はないはずだ。

扉も閉まっているので再びノブに手を掛けると、何の警戒も無く開けて外へと顔を出した。


「・・・。」

「とても仲が良さそうだね。」

「ア、アズサ。」

「お兄ちゃん!ハルアキさんから聞いたよ!」

「また婚約者を増やしたそうですね!!」

「アケミにユウナまで!そ、それについては事情があるんだ!」


しかし3人は地球で学校に通っている筈なのにどうしてイビルフェローズに居るんだ!?

咄嗟に敵からの精神攻撃かとも思ったけど俺の中の全てが3人は本物だと断定している。

特にアケミには俺の中に脈々と受け継がれ、研ぎ澄まされた妹回路が完全肯定しているので間違いは有り得ない。

すると3人の後ろに控えているその他の1人が控え目に手を上げながら話に割って入って来た。


「あの~・・・私は帰っても良いでしょうか~?」

「ミーナは何で居るんだ?」

「私だけ軽くないですか!?せっかくお店を再開しようと張り切っていたのにオバサンにはクビにされるし!その後はこうして拉致られてイビルフェローズに連れて来られるし踏んだり蹴ったりなんですよ!」

「大変だったな。それで・・・。」

「それで!?そんな一言で終わりですか!?」


別に今のような状況でなければ話くらいは聞いてやるんだけど、残念な事にそんな余裕は俺にも無い。

それに言葉を途中で止めたのはミーナの後ろに迫った鬼に一睨みされてしまったからだ。

あれではもう逃げられないだろうから、言葉の続きを声に出しても大丈夫だろう。


「クオナも来たのか。」

「へ?『ガシ!!』・・・あ・・あの・・・クオナ・・・さん。」

「オ・バ・サ・ン?おかしな言葉が聞こえましたが私の気のせいですか?」

「ぎゃ~~~!!!申し訳ございません!言い間違えただけなんです!!どうか頭を握り潰さないで~~~!!!」

『ミシ・・・ミシミシ!』

「あ~~~!!」


ミーナは頭頂部をクオナに掴まれると片手で宙吊りにされて叫びをあげている。

ちょっと大事な話の途中で五月蠅いので2人を残して中に入ってもらい、扉を閉めて関わらない事にした。

きっとお仕置きが済んで生きていれば2人で入って来るに違いない。

そんな事よりも俺には最優先でやらなければならない事が残っている。


「ど、どうかお話を聞いて下さいませ!!」


そう言って神としての全ての力を注ぎ込んだ全力の土下座をして見せる。

普通にすると城が跡形もなく吹き飛び浮島が崩壊する程の衝撃が生まれてしまうので破壊の事象に破壊をぶつけて相殺している。

なので普通に見たら床に座って頭を下げているだけだけど、きっと誠意は届くはずだ。


「まあまあ、ちょっと落ち着つこうか。まずは色々と話す事も溜まっているだろうからそちらから片付けよう。」

(さすがハルアキさんです!)

「お父さんが言うなら仕方ないけど、納得できなかったら金棒で100回叩くからね!」

「1人100回だよ!」

「スサノオ先生にお願いして強化してもらいましたから威力はお墨付きです!」

(逆にアイツは何してくれとんじゃ!今では間違いなくソウル ブラザーのはずなのに俺を殺すつもりか!?)


しかしアズサの兄でもあると思えば可愛い妹の為なら当然のような気がしてくる。

なんだかアマテラスも凄い良い笑顔で手を振っている気がするし、ここは是が非でも金棒の刑は回避しなければならない。


「それとオウカは久しぶりだね。話を聞いた時は驚いたけどこれからも仲良くしようね。」

「はい!」

「あ、あの・・・私は・・・。」

「ファルマリスさんの方はこれまでがあるので話を先に聞かせてもらいます。ハルヤは優しいし押しに弱いから流れで簡単に了承しちゃうけど、本来は敵同士である事を理解してください。」

「・・・はい。」


どうやら今回のアズサは簡単に首を縦に振らないつもるのようだ。

ファルの方も肩を落として萎れてしまっており、いつもの明るい雰囲気は何処にも見られない。


「それなら状況の説明は僕からしよう。最後の部分については本人達でないと分からないけど、それまでの経緯なら客観的に話してあげられるからね。」


そしてハルアキさんはそう言いながらも、もう1人の愛娘とも言えるファルの事を話し始めた。

養子みたいなものだけど以前はアケミも似たような感じだったので俺としては十分に納得できる所がある。

それはアケミも同じのようで見事な共感を得るに至っている。

いまでこそ皆が生きていて幸せに暮らしているけど、あの時の記憶があるので他人事にはしないようだ。


そしてユウナの方は俺には怒っていてもファルに思う事はないらしく、もともと来る者は拒まずな性格なので金棒の刑10回で手を打ってくれた。

こういう懐の深過ぎる所が少し心配ではあるけど、俺が全ての罪を背負って痛いのを我慢すれば良いので助かった。


それで問題のアズサだけどハルアキさんの話で半分納得し、もう半分は俺の話で納得してくれた。

それは少し前まで洗脳されており、周囲から虐めを受けながら孤立状態だった事を話したのだ。

これはファルも気付いてはいなかった事なので一緒に驚いており、かなり動揺をしていた。

今は邪神ではなく慈愛と調和を司る地母神である事を話すと、なんとか許しを得ることが出来た。

しかしファルが世界樹が言ってた色々な事をアズサに告げ口してしまい金棒の刑10回が追加されている。

ただ、アズサも以前に世界の理として記憶を消されて学校で孤立し苦労をした記憶があるので、その時の自分と重ねて同じ傷を持つ者として優しく接してくれている。


「は~・・・なんとか軟着陸できたみたいで良かったな。」

「そうだね。後はハルヤのお仕置きが終われば大団円だね。」

「・・・優しくお願いします。」

「うん。心を込めてすっごく優しくするよ。」


そういう事は背後に般若を浮かべずに言ってほしいのだけど、それは声に出す事は出来ない

しかし横で見ているファルも怯えてしまっているので、もう少し抑えてくれないかな。

そして獄卒の金棒・改によるお仕置きを耐え切り、今は床に倒れて無様な姿を晒していた。


「・・・死ぬかと思った。」

「あ、あれって大丈夫なの?凄く大丈夫じゃない音がしてたけど。」

「今回は情状酌量の余地があって手加減もしてるから大丈夫だよ。」

「あれで手加減・・・。」

「ファ・・ファルも気を付けろよ。アズサは強いから『ドゴ!』・・・ぐふ。」

「これでお仕置きは完了かな。ファルも今回は仕方ないけど悪い子はしっかりとお仕置きするから覚悟してね。」

「は、はい!以後は気を付けます!!」


どうやら俺が見せしめとして体を張った効果は十分以上にあったようだ。

流石に初対面から金棒の刑は厳し過ぎるので敢えてその役を引き受けたけど、これでワラビのように悪戯半分で間違いを犯す事は無いだろう。


「それで状況が落ち着いて来たところで確認なんだけど、3人とも学校はどうなってるんだ?」

「もう何言ってるのお兄ちゃん。今はもう7月で夏休みになってるよ。」

「それとクオナさんが手配をしてくれて私達はオーストラリアの学校へ留学する事になりました。」

「表上の話だけどね。」

「それに関しては私から説明しましょう。」


すると部屋の外でミーナと肉体言語によるオ・ハ・ナ・シをしていたクオナが部屋へと入って来た。

その手には今もミーナが握られており頭の形が少し変わっているように見える。

きっと表面から脳の奥に至るまで、2度と忘れないように刷り込みをが行われた事だろ。

まあ、肉体は入れ物であって彼等にとっての核は魂と言える部分にあるので何処まで効果があるかは分からないけど。

ただし今日の痛みは本物なので、これに懲りれば軽々に禁句を口にする事はなくなるだろう。


「それで留学というのはどういう事なんだ?」

「ハルヤはボケているので忘れているようですが、学校には進級するために必要な出席日数がある事を忘れたのですか?」

「・・・そうだった!もしかして俺は進級できないのか!?」

「そこを解消するために以前から用意していたダミー学校を使います。名目は今回発見されたダンジョンの調査で日本からは早急な人員としてアナタを派遣してもらう事になっています。これで他のメンバーとも学年が変わる事はありませんよ。」

「本当か!マジで助かった!」


せっかく皆と同じ歳になって一緒のクラスになっているのだから俺が留年して進級できないのは流石に辛い。

でも、これなら戻っても同じクラスで再開できるのでなんとかなりそうだ。


「それとなんでミーナを連れて来たんだ?言っちゃなんだけど、そいつは戦闘面に関しては全く役に立たないだろ。」

「実はあの後で追加で大きな問題が発生しまして。その処理をする為にここへと連れて来たのです。」

「問題?」


オーパーツの冷凍庫に保存されていた肉は既に毒を旨味に変えて処理を終えているので問題は無いはずだ。

その証拠にあの後に詰め掛けていた人々はヒュドラの肉を食べても死なずに生き残っている。

酸欠状態にして意識を奪ったので記憶も曖昧で混乱は綺麗に収まったけど、まさかマルチの解析を掻い潜って遅延性の毒でも残っていたのだろうか?


「それで何が起きたんだ?」

「後になって判明したのですがヒュドラの肉はあそこにあるのが全てではなく、総量に関してその100倍以上も在庫が眠っていました。それ以外にも本来ならば廃棄が必要な食材がゴロゴロ出て来たのです。」

「それはクビになるのも当然だな。それで俺の所に連れて来たって事か。」

「全てを処理するには経費が掛かり過ぎます。それでアナタの所でならという事になり、ここへと連れて来たのです。」

「ここで異世界食事処の2号店を開こうって事か。それで地球だと色々問題があるからイビルフェローズでって事だな。アズサ達はそこのサポートってところか。」

「そういう所は察しが良くて助かります。ハルアキとも既に検討を終えて店舗に使える土地は確保してあると聞きました。」


ここなら誰が死んでも問題にはならないので大丈夫だろう。

俺も地球が汚染されないのなら何処でやってもらっても構わないと思っている。

アズサもミズメの時には旅館で板前長をしていた記憶があるので手伝いと言うよりもメインとして働けるだろう。

するとここで名前の出たハルアキさんが手を上げると1つの提案をして来た。


「それについてだけど、店舗予定地を変更したいと思うんだ。」

「何処かに今よりも良い場所を確保できたのですか?」

「ハルヤ君がここに来てすぐにやらかしてね。四天王ナンバー2のマジャリを倒して浮島の1つを奪っているのです。あそこは1週間掛けてこの島の周りを1周するので立地としては申し分無いと思います。」

「確かに最初から邪神の客を相手はするのは難しいでしょうから・・・『チラリ』。まあ、ハルヤが何とかしてくれるでしょう。」

「まさかの丸投げ!・・・まあ、布告を出して店でのマナーとかは事前に知らせれば良いか。それに反抗しそうな奴等は散歩してれば襲ってきそうだから数日中に処理しとくよ。」

「それなら私達は店舗を作っちゃうね。ファルが居れば必要な大きさとかは分かるから一緒に頑張るよ。」

「それならオウカも頼めるか。あの島は荒れ地だから少しは景色とか色々と良くしておきたい。」

「任せてください!」


オウカが居ればあの島全体お緑に包んで綺麗な島に生まれ変わらせてくれるだろう。

ハルアキさんの所もそうなので、あちらは既に手を加えたのだと思う。


「アケミとユウナも任せたからな。変な客に関しては来る前に俺が出来るだけ始末しとくから。」

「頑張ってね。」

「もしもの時もお願いします。」

「ああ、任せろ。」


そして今回の店舗経営で片翼を担うとも言えるミーナの方は・・・。


「帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。」

「ミーナ聞いてるか?・・・ダメだな。まるで碌な説明もされずに汎用人型兵器に乗せられた少年みたいになってる。」


ここにツバサさんが居れば青い戦闘スーツに着替えさせたかもしれない。

または女性なので赤とかピンクとかそっちの方面に走る可能性もある。

ただ今の段階で言える事はしばらくミーナは使い物にならないだろうということだ。


「店が出来るまでに復活してくれれば良いか。あちらの店を再開させる予定だったって言ってたから仕込みの方も問題は無いんだろ。」

「この2ヶ月でバッチリ鍛えたから大丈夫だよ。お店の建造はこちらでしておくから任せておいて。」

「それならそれぞれの役目に分散して取り掛かるか。クオナはどうするんだ?」

「私は本来の仕事があるので地球に帰ります。ですからこちらは任せましたよ。」

「ああ、任せてくれ。」


そして俺達はミーナの生み出した在庫を処理するために異世界食所2号店を始める準備を始めるのだった。

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