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348 決戦 ①

そろそろ敵の数も増え始めたけど、この程度の相手ならまだまだ余裕だ。

それにアン達の方を常に気にしていたけど精霊たちが上手くやってくれたらしい。

今ではレベルの壁を越えて予想よりも大きな力を手に入れている。

ただ、あのままでは精霊たちが力に呑まれて消えそうだったので、少なめに与えていた加護を追加し自我が残る位まで強化しておいた。

それにあの様子なら3人が神にまで至る事が出来ればユカリの時の様に無理のない分離も可能だろう。

その場合にあの精霊たちがどういった存在で生まれて来るかは分からないけど、方法はツクヨミが知っているので後で確認しておこう。


そしてマルチのおかげでダンジョン内の敵の動きは丸分かりだ。

まだ1割くらいしか削れてはいないけど、もともとレベルが100を超えている魔物はそれほど多くない。

既に3匹倒しているので総数でも100を超えないだろう。

そいつ等も今の俺達にとっては強敵には成り得ないのでしばらくは安定して討伐が出来そうだ。


「オイ!一般人代表が居る事を忘れるなよ。」

「ああ、そう言えば居たな。悪いなジーナ。」

「ええ、でも私もお姉さまから加護を頂いたから少しは戦えますよ。」

「そうなのか。流石アズサだな。いつの間にか加護まで与えられるようになってたのか。」


確かにジーナの魂を見るとアズサの力が蕾の様な形をとなって周囲を覆ている。

それはとても綺麗で俺とは何かが違っている気がする。

それに先程からジーナも経験値を得ているけど、その蕾が次第に綻んでいる様に見える。

もしかするとレベルが100になった時には完全に開いて何かが起きるのかもしれない。


「ジーナは加護について何か聞いているか?」

「良く分からないけど壁を超える手助けをしてくれるそうです。でも壁って何なのですか?」

「まあ、それは後のお楽しみだな。」


実際に俺にはそんな芸当が出来ないのでアズサだけのオリジナルなのかもしれない。

それにもし他の神にも出来るなら俺の時にあそこまでの苦労はしなかっただろう。

ただ手助けをしてくれるのであって本人次第である事に変わりは無さそうだ。

でもそうなると俺が加護を与えて進化を促すよりもアズサに任せた方が良かったんじゃないだろうか。


『そこは意識の違いですね。恐らくあの3人に聞いたとしてもマスターの加護を選んだでしょう。それにマスターの加護はちょっと強引なので。』

「え、俺の加護が何だって?」


最後の方は声が小さくて聞こえなかった。

いつもハッキリものを言うマルチにしては珍しのでつい聞き逃してしまった。


『何でもありません。それよりも魔物の数が増えてきましたね。』

「ああ、そのせいでこっちも大変だ。」

「だから!一般参加の俺はもっと大変なんだよ!」


すると再びアーロンが何かを吠えているけど何が大変なんだ?

さっきからちゃんと厳選してレベル100以下の魔物しか相手をさせていないだろ。


『マスターは先程からレベル100の魔物しかあの人に流していませんが。』

「え、そうだったかな?」


そう言えばそんな気もしないでもないな。

しかし、それでもちゃんと生き残っているのだから俺の見立てに狂いはなかったと言う事だ。

ちなみにクレインは既に限界を迎えてパシリにされてしまい回収だけに没頭している。

しばらく休めば再び精霊武装も可能だという話なのでその時はまた相手をさせれば良いだろう。


それとアイラとエリスの方は今も順調にレベルを上げている。

俺が言った事をちゃんと守って無理をせずに準備を行いレベルを100を目指している真っ最中だ。

ただ、あの2人に関して言えば既に長い年月を掛けて弁才天の加護を受け続けている。

本人に確認をしてみるとレベルさえ達していれば何の障害も無く壁は超えられるだろうとの事だ。

それに戦っている時にも弁才天から一時的なブーストを受けてステータスが10倍まで上昇していた。

あれに耐えられる素質があるなら俺なんかよりも心配は無いはずだ。


「それでお前も加護が欲しいのか?」

「え!マジでくれるのか!?」

「良いけど痛くて苦しくて死ぬかもしれないぞ。」

「へ!俺は妹を残して死なないと心に誓ってるから問題無いぜ!」

「そうだったな。それじゃあホイっと。」


俺はアーロンの覚悟を受け取って遠慮の欠片も無くドバっと加護を与えてみた。

しかし、どういう訳かアーロンには大きな変化はなく、笑顔まで浮かべている有り様だ。


『どうやら、この人はアナタと同類なようですね。』

(どうやら俺の加護はシスコンと相性が良いみたいだな。)


なんだか嬉しい様な微妙な気分だけど、これで才能があるなら壁を超えられるだろう。


「終わったぞアーロン。」

「お、言ってたほどキツく無かったな。それじゃあちょっと試してみるか。」


そう言ってアーロンは無謀にも再び現れたレベル100越えのドラゴンへと向かって行った。

するとドラゴンは既に準備を終えていたのか0タイムでブレスを放ってくる。

しかしアーロンはその一瞬で影移動を行い相手の下に潜り込むと一気に飛び出して拳で殴り上げた。


「ドッセーイ!!」

「グアーーー!」

「マジか!?」


しかも殴ったのは下顎だけど骨が砕けるどころか完全に消え去っている。

そして更なる追撃によって頭蓋骨が粉砕骨折し、ノックダウンしている間に首を切り取られて決着が着いた。

なんとも呆気なく終ったけど敵のレベルは101だったのが幸いしたのかもしれない。


(アイツも大概に運の良い奴だからな。)

「うお~~~!マジでレベルが100を超えてるぜー!」

「良かったな。これで少しは妹に自慢できるんじゃないか?」

「ああ、本国でも今のところレベルが100を越えた奴は居ないからな。て言うか俺が一番高かったんだ。」

「そうか。それならお前が最初の1人として発表しても良いぞ。どうせ加護が無いと滅多に壁は超えられないんだ。それでも目指す奴が増えればレベルをマックスにしようとする奴が居るかもしれないからな。」

「良いのか?」

「俺達の中には歴史に名を残そうって奴は居ないからな。」

「悪魔王として世界中に名を知られてる奴に言われると微妙だな。」

「あれはある意味で俺とは関係ない所で話が飛躍して伝わってるんだ。後になってやってもいない事を黒歴史のように知らされる俺に身にもなってみろ。」

「・・・最悪だな。少女を誑かすとか、人を連れ去るとか、血の雨を降らせるとかな。」

「・・・そ、そうだな。」


全部に覚えはあるけど第三者が間に入れば見方も変わる・・・はずだ。

それに誑かしたかどうかは知らないけど、その少女は今もそこに居て婚約者になっているし、死にかけてた者は何人も連れ去った。

最初の頃は恐怖を振り撒くために空から血の雨や臓物を撒いたりもしたので悪フザケでやり過ぎた感もある。


「そんな事よりも、これからは更に働いてもらうからな。」

「ケ!言われなくてもやってやるぜ!これで俺も国じゃ英雄って呼ばれるかもしれないからな。」


アーロンはそう言って笑っているけどコイツの称号には本当に英雄が追加されている。

勇者と比べれば効果は高くはないけど制限もないので今の状況なら十分だろう。

しかもそれなりにドラゴンを倒しているからかドラゴンスレイヤーの称号まである。

そこはドラゴンキラーではないかとも思ったけど、またエビスが変な拘りを出したのだろう。

かくいう俺もその拘りのある1人なので、こういう迷惑の掛からない事なら大事にして貰いたい。


そして、こちらの強化も順調に進み、大量のドラゴンを倒し終えた。

ただし出てきた奴等の大半がエアーズロックを削るのでダンジョンの周囲は傷だらけになっている。

もしここが本当に地球のヘソなら、刺激をし過ぎて腹痛を起こしているだろう。

それと今回に限って言えば俺はこの岩に傷一つ付けていない。

足裏も常に浮かせて戦っているので足跡すら着けていないのだ。

これなら今回はシュリやダイチに叱られずに済むだろう。


そしてダンジョン内のドラゴンたちもようやく尽き始め、問題の集団が姿を現した。


「レベル100越えの団体さんがご到着だな。」

『いえ・・・1匹です。』


すると俺の言葉をマルチは否定し、何故かダンジョンの入り口が縮小していった。

そして、そこからは1匹の魔物が姿を表し周囲を蹂躙する様にブレスを放って来る。

しかし特定の誰かを狙っている訳では無さそうなので、こちらも全員が素早く躱すと俺はマルチへと問いかけた。


「どうなってるんだ?さっきまで50匹は居たはずだろ。」

『ここに出て来るまでの僅かな間に急激に数を減らしあの1匹になりました。』

「そういう事か。」


恐らくは自身の経験値を譲り渡し1匹だけを強化したのだろう。

ここの調査で初めてドラゴンを見た時も勝った者が死んだ相手を食べていたので、これがこのダンジョンの仕様なのかもしれない。


ちなみに奴の姿だけど頭が3つあり、背中には蝙蝠の様な翼を生やしている

しかも腕は3対あってそれぞれの手には巨大な剣を持ち武装までしているようだ。

それに今までの奴等とは明らかに違う所があり、その大きさが2メートル程しかない。

体は黒光りする鱗で覆われ作りは人間に近く立ち居振る舞いから武道の心得があるのが伝わって来る。

ただ一つ問題があるとすれば俺の鑑定では奴のステータスを見る事が出来ない事だ。

そういう存在は限られているので奴が俺よりも遥かにレベルが高いか、神である可能性がある。


「ハルヤ。」

「ああ、分かってる。コイツは俺が相手をする。」

「お願いね。今日は食べられそうにない相手はなるべく殺したくない気分なの。」

「・・・そうですね。」


そして腕の数やもろもろの理由から俺が相手をするべきだろうと勇んで前に出たのにアズサからは微妙な返答を返されてしまった。

ただ食欲が湧かないという事はコイツは食材として見られていないという事だ。

そうなると俺の予想が的中したと言う事かもしれないけど、運が悪いのか良いのか微妙な所だ。

そしてコイツは囚われている魂の一つであり、見た目はこんなだけどドラゴンではないと言う事になる。

流石のアズサも今のところどんなに空腹でも人系には手を出していないので理由は残念でもある意味でホッとさせられる。


「ハーハッハッハ!聞いていた以上にお前たちは面白い奴らみたいだな。」

「聞いていた?」

「ああ。俺は元々ボルバディスによってここのダンジョンで最下層に設置されていたんだがな。その時に対お前用にカスタマイズさえたのよ。その時に奴が舐めて来た辛酸の記憶を見たんだが内心で腹を抱えたぜ。」

「その様子だと精神支配は弱そうだな。」

「まあな。今もダンジョンの仕組みでミルガストに従っちゃあいるが、アイツはボルバディスと違って管理が雑みてえだ。だから戦いながらになるが色々と教えてやるぜ。」

「そうか。それなら本命が出て来る前にとっとと始めるか。」

「そうしようぜ。」


そして俺は悪魔王の姿になるとそれぞれの手に武器を持った。

ただし、3つの武器に関してはアイテムボックスに入らないけどそれぞれに便利な機能があり、それによって持ち運びが可能になっている。


「我が声に応えてその姿を現せ。聖剣ライトニング・セイバー」


すると目の前に光りが集まり、そこに聖剣が現れた。

俺はそれを掴むと何度か振って光りを周囲へと振り撒き微妙な表情を浮かべる。


「なあ、恥ずかしいから普通に出て来てくれないか。」

『見た目は重要だと告げます。アナタも勇者の1人なら・・・。ともかく見た目は重要です。』


実を言うと、こんな事をしなくても聖剣を手にする事は出来る。

なら何故こんな事をしているかと言うと、厳密に言えば母さんの責任と言える。

今の世の中は勇者物の書籍やその手のアニメや特撮が多く、それを見せられて影響を受け厨二病を患ってしまったのだ

だから最初は呼べばすぐに手元に現れてくれていたのに、今では変に凝ったエフェクトまで追加してこうしないと現れてくれなくなった。

そしてコイツは見た目が大事だと言いながら言葉を止めたのは俺の見た目が原因と言える。

何せ外見は4つ首の大魔王なのでこの姿を見て誰が勇者だと思うのか。

街角で1000人にアンケートをしたら全員から魔王と言われる自信がある。


「まあいいや。」

『そこでサラリと流す所がアナタの凄い所です。』

「今は時間がないんだよ。・・・さあ来い。死と混沌を司どりしカオスブレード!」


すると今度は目の前に闇が凝縮すると禍々しい剣が現れた。

しかし、コイツも聖剣と張り合っているのか、こんな感じに呼び出さないと出て来てくれない。

最近は家のソファーで並んでテレビを見ている事もあり、性質は正反対のくせに聖剣とは大の仲良しだ。

今のところは喋ったりした事は無いけどアイテムボックスに入らない時点て何かが怪しい。

聖剣と同様に喋ったとしても俺は驚かないだろう。

なんだか父さんと時々食卓で酒を挟んで向かい合っているけど剣なのに飲めるのだろうか?


「はあ~。ステラ来てくれ。」

『は~い。いつも大変ですね。』

「まあな。お前はそのままでいてくれよ。」

『はい!私はずっとこのままです!』


いつかは剣の姿から解放してやりたいけど、それが何時になるかは分からない。

今は俺自身も力が足りないのでステラの状態を改善できていない状況だ。

皆とは仲も良くて家では一緒に食卓を囲み食べられない代わりに会話に花を咲かせている。


「待たせたな。」

「・・・凄い絵面だな。」

「これまで戦って来た邪神からは非常識だとよく言われる。」

「邪神に言われたらヤバくないか?」

「俺は常識に囚われない革新的な性格なんだ。」


最近では色々な奴からコイツ大丈夫か?って目を向けられる。

きっとこのカオスブレードの存在感があり過ぎるせいだと思うけど他に手頃な武器が無いから仕方ないんだ。


そして今日も敵から可哀そうな者を見る様な目を向けられてから戦いへと突入していった。

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