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345 決勝戦

俺はリングに向かいならアーロンのステータスを確認する。

すると真の覚醒者として中々の成長をしているようでレベルは80台と高くステータスもアイテムとスキルで強化しているとはいえ3000に届きそうだ。

職業はトリッキー・ソルジャーと言うらしく、これも初めて見るので戦う前からちょっと楽しみになって来た。

それに持っているスキルが多いのでそれをどうやって闘いに生かすのかが楽しみだ。


「ようアーロン。棄権しなかったんだな。」

「ウルセー!ここで負けて3位を狙う予定だったんだよ!本国もそこまでしておけば納得しただろうからな。」

「大国の代表者は大変だよな。」

「お前がそれを言うな。こんなに出場者が苦労してるのもお前が一番の原因なんだからな!」

「まあ、その自覚はあるけどな。」


恐らくは次の大会があったとしても俺に声が掛かる可能性は無いだろう。

ただし今回の大会に関しては妨害も多く俺でなければ出場すら出来ずに終わってしまった可能性もある。

もしかするとゲンさんはこれを予想していて俺を出場させたのかもしれない。

きっと見栄だけで俺に声を掛けた訳では無いはずだ。


しかし、そうなると俺自身も最後くらいは全てを出し切るべきかもしれない。

それに戦友に対して手加減するのも失礼な気がする。


「何でそこで俺には優しくないんだよ!」

「ああ悪い。審判さんは退避してくれ。これからここは少し荒れる事になる。」

「そうさせてもらいます。」


すると審判の男性はそのまま一足飛びで壁際まで移動して行った。

恐らくは今までの試合からどんな事になるのか想像が着いたのだろうけど、アーロンは逃げられない様にしたくせに本人は潔いことだ。

そして、その間を使って指輪を一つずつ外し力を解放して行く。

しかし最後の指輪を外して、さあ試合を始めようかと言う所で乱入者が会場の上空へと現れた。


「な!何だアイツは!?」

「ん?もしかしてコイツは!?」


上を見るとそこには全長が30メートルを超える巨体が滞空していた。

その姿は全身が黄金の鱗で覆われ、しかも体からは長い首が3本も生えている。

きっと特撮映画が好きな奴が見れば一言目にはキン〇・ギド〇と叫んでいるだろう。

しかし俺が驚いているのはそこではなく鑑定に出ている名前が問題で、その魔物は俺を睨むと背中の翼を動かしてゆっくりとこちらへと降りて来る。

しかも俺と奴の間には被害を防ぐためのシールドが張られているけど、それは触れると同時に苦も無く破壊され障害にもならなかった。

しかし、それはこの魔物のレベルが100である事を考えれば当然と言えるだろう。


「このプレッシャー!コイツは唯の魔物じゃないのか!?」

「ああ、多分だけどエアーズロックに出来たダンジョンから抜け出して来たんだろうな。」

「ダンジョンからだと!だが異界の奴等が監視してるはずだろ!?」

「恐らくはちょっとしたサプライズだな。クオナの奴も前座に面白いプレゼントをしてくれる。」


そして魔物は地面までは降りて来ず、途中で降下を止めると牙の並ぶ口を開いた。


「貴様が我らの地を荒らした者の1人だな!」

「喋った!まさかコイツもあの時の奴等と同じなのか!?」

「黙れ人間!お前に用は無い!この者を殺した後でゆっくりと踏み潰してやるから静かに待っていろ!」

「何だと!」

「アーロン。今は話を聞いてやれ。これが最後の言葉かもしれないからな。」

「愚かな人間には強さの次元が違う事も理解出来んか。しかし、それも当然であろう。我はミルガスト様より信頼も厚き眷族の一人だからな。」


・・・もしかしてミルガストの所は人材不足か?

この程度の食材・・・じゃなかった。

この程度のドラゴンで信頼できるとはとても思えないけどな。

もしかするとダンジョンに生まれたコイツ等は無条件でミルガストから信頼を得ていると思っているのかもしれない。

それにあのダンジョンにはレベル100の壁を超えている魔物もそれなりの数が居た。

そいつ等を差し置いて信頼が厚いと考えるのは少し不自然な気がする。


「それで、お前は俺を倒しに来たのか?」

「それだけではないがな。我が身には神さえも殺す猛毒が宿っている。それによりこの世界を穢し全ての存在に死を与えよと命を受けている。」


どうやらコイツは鑑定に出ている通りの奴で間違いなさそうだ。

ちなみに俺の鑑定ではヒュドラと出ており、あの時の調査では最後まで会う事が出来なかった。

もちろんこの事は既にアズサも気付いているだろう。

その証拠にボックス席の一つから巨大な魔力が嵐の様に吹き荒れている。


「な、なんだ!?この強大な魔力は!」

「「ダブル・エアーハンマー。」」

「グゥオーーー!!」


するとヒュドラが魔力に気付いた時には既に遅く、アケミとユウナの魔法が頭上から襲い掛かった。

そして激しい衝撃と共にその体が急激に下降し、激突してリングを破壊する。

その直後に俺達を巻き込んで強固なシールドがアズサによって張られ完全に閉じ込められた。


「・・・なあ。俺は部外者だよな。」

「諦めろ。戦友なんだから一狩りしようぜ。」

「は~・・・仕方ないか。」


そして俺達が話をしている間にヒュドラも体勢を整え太い二本足で立ち上がると頭をこちらへと向けた。


「おのれ油断をした!しかし、2度目は無いぞ。それにあの程度の障壁で我を閉じ込められると思わない事だな。」

「そう思うなら破壊してみたらどうだ。」

「フン!あんな物は戦闘の余波だけで十分に破壊できる。それに今は貴様を逃がさぬ為の良い檻にもなっているからな。」

「まあ、逃げないんならそれで良いけどな。」


俺達は睨み合ったまま緊張感を高め、互いに間合いを計りながら距離を詰めていく。

それが周囲へも広がり、急な事態も相まって会場は静寂に包まれていた。


「行け。」

「ん!?・・グハ!」


そして俺に集中していたヒュドラは横から忍び寄り攻撃の機会を窺っていたアーロンの存在を完全に忘れていたようだ。

元々取るに足らない相手と侮っていたので、まさかそんな相手からダメージを負わされるとは思わなかったのだろう。


「ハハー!ざまー見やがれ。でも、これだけじゃないんだぜ!」


そう言ってアーロンはその背中を走り回るそこに爆薬を張り付けた。

そして、その場を離れてすぐに起爆させるとその反動を利用してこちらまで飛んで見事に着地を決める。

見れば返り血も浴びていない様なのでヒュドラが強い毒を持っているのは会話から理解していたようだ。

そして煙が張れると背中を黒く焦がし、血を流しているヒュドラが現れた。


「あの爆弾には何か仕掛けがあるのか?」

「まあな。起爆と同時に杭が体内に突き刺さってその杭自体も体内で爆発する様な仕掛けになってるんだ。杭自体は魔道具だから先に魔力を込めておかないとけけないけどな。」


そうなると高価な魔道具を使い捨てにしている訳か。

しかし効果はあるみたいで大きく肉が抉れてしまっている。

そう・・・大事な肉が抉れて・・・。

すると魔物に回復魔法が放たれ、傷が綺麗に塞がって行く。


「オイオイ!誰だ奴を回復させてんのはよう!?」

「悪い。多分アズサ達だ。」

「正気かよ?」

「いたって正気だと思うぞ。きっと無駄な傷を付けずに倒せって事だ。」

「マジかよ・・・。」

「大マジだ。」


しかしヒュドラの方は傷が回復した事よりも傷を負った事で怒りに火が着いたようだ。

ターゲットが俺からアーロンへと移り、真赤に充血した目で睨み付けている。


「なあ・・・スゲー睨まれてないか?」

「俺はまだ何もしてないからな。」

「それなら早速で悪いんだがタゲ取ってもらっても良いか。て言うか、早く挑発してくれ!・・・あれ?オ、オイ・・・。冗談は無しにしようぜ。」


残念だがお前が話しかけていたのは俺の残像だ。

と、直接言いたいけど既に転移でさっきの場から移動し、ドーム状に作られているシールドの頂点に居る。

ちなみに何故こんな事をしているのかと言えば、戦友としてアーロンには見せ場を提供しようと思ったからだ。

それにステータス的に見てアーロンとヒュドラの能力に大きな違いは無さそうなので本気を出せばすぐに殺される事も無いだろう。

しかしトリッキーソルジャーという職業は日本で言う所の忍者みたいだ。


見ていてもとても面白く、分身、身代わり、影移動を巧みに使って攻撃を躱している。

更に霧を発生させて身を隠す霧隠れを使って上手く隠れたりもしていた。

そして投擲とセットで必中も持っているので投げた物は必ず命中し少しずつだがダメージを与えている。

ただし、そちらはアズサによって即座に治療され、焦げ目すら残っていない。


そして、この映像は異世界の撮影技術によって観客に伝えられ、会場を揺るがすような大歓声を引き起こしている。

どうやら準決勝の2回戦が棄権で終わった事での悪い空気は払拭された様だ。

それに人間同士の闘いを見るよりも相手が魔物の方が観客側も応援し易いだろう。

しかし、そろそろ流石のアーロンも限界のようだ。

断続的に吐かれる毒のブレスだけでも厄介だけど3つの頭によって死角の無い状態なので何処に移動してもすぐに見つかってしまう。

戦闘自体は数分程度しかしていないけど引き延ばされた時間の中でなので体感では1時間以上は戦っている。

スキルの使用にも体力を消耗するらしく、既に何本かポーションも飲んで回復も行っていた。

それにこのままではアーロンが負ける前に俺の存在が忘れ去られてしまいそうだ。


「そろそろ止めを刺すか。」


俺はSソードを取り出して構えると自由落下を利用してヒュドラへと迫って行く。

そして間合いに入って一刀目で1つの首を切り落とし、二刀目で2つ目の首を飛ばした。


「グオアーーー!貴様ーーー!」

「残り1つ。」

「しかし幾ら首を切っても無駄だ!我は無限の再生能力を持っているのだ!」

「え、マジで!」

「我を殺せるものなら殺してみるが良い!」

「それじゃあちょっと試しに。」


俺はそう言って吠えていた首を付け根から切り離した。

するとヒュドラが言っていた通り肉が盛り上がると頭が再生され始める。

これならアズサが回復させなくてもアーロンの与えたダメージ程度ならすぐに回復していただろう。


「ハハハハハ!何をしても無駄な事よ。さあ、これから貴様には我の必殺技であるトリプルポイズンブレスを喰らわせてやろう。」

「トリプル?もしかして3つの頭を使った同時ブレスの事を言っているのか?」


どうやらこいつは一つの重要な事に気付いていないらしい。


「それで残りの2つは何処にあるんだ?」

「何を言っている?ここにあるではない・・・か?」

「残念だけど既に2本の首はご臨終しているんだ。」


最初の2撃は邪神と同じ様に破壊の力を込めていた。

そのため再生も出来ずに新しく生えて来てはいない。

それにこいつが神をも殺す毒を持っているのなら、俺は神をも殺す1撃を放つ事が出来る。


「さてと。お前をこれからどうするか。」

『ねえ、再生で栄養を使い過ぎたらお肉の味が落ちるかもしれないよ。』

「分かった。次で決める。」


ウナギも暴れると体力を消耗して味が落ちると聞いた事があるので時間は掛けない方が良いだろう。

すると俺が剣を握り直すと同時にヒュドラは大きく翼を広げて空に向かい飛び上った。

どうやら自慢の無限再生も機能せず、勝ち目がないと悟って逃げ出したようだ。


「こ、こんな奴がどうしてこんな所に!?は、早く戻ミルガスト様に報告しなければ。」

『バキ!ボキ!』

「あ~あ。シールドに正面衝突して首から上がグチャグチャだ。」


きっと簡単に突破できると思っていたのだろうけど、あのシールドは俺でも一撃で突破できない程に頑丈だ。

なにせ玄武を召喚し封印を解いた状態で張った物なのでレベル100程度のヒュドラでは傷すら付けられない。

そして落下しながら首を修復しているけど、逃がす訳にはいかないので地面に落ちたのと同時に残っていた首も切り取って勝負を終わらせた。


そして素早く体と首を回収し通常通りに消えた様に見せかけておく。

今この段階であのダンジョンの魔物が消えないと知られるのは色々な理由で宜しくない。

一番の理由としてもう少し肉を確保してからの方が良いだろう

すると戦いが終わった事を知った観客から割れんばかりのヤジが飛んできた。


「テメー何処に隠れてやがった!」

「良い所だけ持って行くんじゃねえ!」


そういえば彼らもアーロンが奮戦している姿をずっと見て応援していたのだった。

そこに最後の方で戻って来た俺が横から掻っ攫う様に倒してしまったので納得できないのだろう。

しかし、この状態で決勝を行い俺が勝ったとして、ちゃんとしたフィナーレが飾れるだろうか。

下手をすれば殆どの人が閉会式の途中で帰ってしまうかもしれない。

そうなればあまりにも印象が悪いので次以降の開催も危ぶまれるのではと心配になる。


するとその時この激しい罵倒の嵐を意に介さない澄んだ声が会場中に響き渡った。


「皆さん落ち着いてください。」


その途端に周囲の声がピタリと止まり、全員が一点へと視線を集中させた。

そこには部屋の窓を開けて教皇が顔を晒しており、穏やかな笑みを浮かべていた。


「どうでしょうか皆さん。このまま試合をしても納得のいく結果は訪れそうにありません。ならば両者とその代表となっている国が良いと言うなら彼等を第一回シーカー・オブ・チャンピオンの優勝者としてはどうでしょうか?」


すると周囲の気配が急激に変わって行き観客たちが納得をして行く。

その様子を見てアーロンは俺の横に来ると小声で話しかけてきた。


「これってあのスキルだよな。」

「ああ、扇動だ。しかも10万人を超える人数に対して一瞬で効果を出してるな。」

「ウチの調査員が言うには教皇のレベルは30以下らしいが可能だと思うか?」

「いくら神に選ばれてても無理だな。その調査員自体が先導に掛かってるか、調査をミスってるんだと思うぞ。」


まあ、俺の鑑定で教皇のレベルを見ると今は鑑定不能になっており、少し前までは見れたけど偽装であった可能性がある、

それにこうなるのは俺の知っている範囲だと壁を超えて無ければならない。

更に半分は人を止めて半神になっていなければ無理だけど、考えてみると条件は揃っているのでおかしくはないだろう。

今では世界中に信者がおり神と同じくらいに教皇を崇めている者も多い。

もしかするとアイツも既に前世から神に選ばれこの時代の為に準備された人材なのかもしれない。


そういえば今の教皇も日本に来た時はコーヒー屋のカリーナに入り浸っているという話を聞いた。

しかも2号店を出すなら教皇庁の傍に店を準備するとも言っていたらしい。

もしかしてと思うけどあの時の教皇がこの時代に転生しているのかもしれない。

まあ、アイツとはアンと結婚したら親戚関係になるのでこの情報は黙っておこう。


「それよりもお前の所の大統領はこの状況を受け入れると思うか?」

「受け入れると思うぞ。何せ最初から3位以上に入れればそれで良いって言ってたからな。それが同列でも優勝出来るなら喜んで認めると思うぞ。それよりもそっちの爺さんはどうなんだよ。」

「どうだろうな。今はそっちの大統領と話をしてるみたいだぞ。でも両国の関係は悪く無いからもうじき話が終わるみたいだな。」


そして無事に話し合いが終わった様で集まっていた部屋の窓が開き、大統領の方が顔を出した。

どうやあ説明は彼から行われるようだ。


「日本代表代理である九十九 ゲンジュウロウ殿と話し合った結果、両国とも今の提案を了承する事に決め。後は選手2人だが・・・。」


すると大統領が俺達に視線を向けて来たので揃って親指を立てて同意を示した。

それを持って互いの選手と国が納得し、教皇の提案が無事に通った事で観客側も歓声と拍手で応えてくれる。

そして、その後の閉会式も無事に終了し、俺達は会場からホテルへと戻って行った。

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