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340 変化したダンジョン ②

俺達はダンジョンの中を歩いて次の魔物の許へと向かっていた。

既に1匹倒しているけど、そちらはアズサが瞬殺してしまったので得られた情報は2つだけだ。


1つ目はここの魔物は倒しても消えず、アズサの胃を満たすのに十分な量の肉がゲット出来ること。

2つ目はアズサが満足する味には1歩及んでいないという事だ。


元からここに生息している魔物程度には負けない自信はあったのでそれは置いておくとして、問題があるとすればここをこんな風にしてくれた存在だけだろう。

しかしクオナが送ってくれているスキャンの進捗状況は70パーセント程でいまだに発見には至っていない。

恐らくは残り30パーセントの何処かには居るはずだけど、それ以外にも別の目的が有る。


それは100階層に居るはずであり、昨日まではここの主だった存在の事だ。

俺はそいつに用があり何者なのかを確認しなければならない。

それがもし去年の夏から探していた存在なら目的の為に助け出す必要がある。

それに俺にはここに来た時に何となくだけど確信の様なものを感じていた。

これはもしかすると探している相手がアイツの・・・。

しかし思考の途中で目的の場所へと到着したらしくアケミが袖を引きながら小声で話しかけて来た。


「お兄ちゃん。次のターゲットはあの魔物だよね。」

「ああ。今回アズサは留守番だからな。」

「分かってるよ。次は魔法の効き目を確認するんでしょ。」

「今のアズサだと強過ぎて比較にならないからな。ここはアケミとユウナの出番だ。」

「うん。獲物の確保は任せて。」

「姉さんの為になるべくお肉は傷めない様に倒します。」


するとアケミとユウナの言葉にアズサの目と口元に光る物が浮かぶ。

ただ口に出してはツッコまないけど感動して涙を浮かべるなら、涎は我慢するべきだろう。

出来れば鼻をかむフリをして口元は拭うべきだ。

しかしマルチを除いてここに居るメンバーはそれぞれに付き合いが長い。

既にアズサがこういう女性だと分かっているので笑って返すだけだ。


そしてアケミとユウナは後衛なのでアズサの様に自身を囮にして誘き寄せたりはしない。

相手が射程に入ってさえいれば良いのでこの場から魔法を放って当てれば十分だ。

それに魔物に当たろうと避けられようとそれだけでも十分な結果と言える。

後は今の状況を見ているマルチとクオナが協力してデータを集めてくれる。


「それじゃあ、まずは風の刃で乱れ打ちかな。」

「火系はお肉がローストしてしまいますからね。」


そして、まずは鎌鼬による乱れ打ちに決まった。

しかし魔法を発動すると同時に魔物がこちらへと顔を向けて一直線に向かって来る。


『どうやら魔力の流れに敏感なようです。』


するとマルチが言った様に魔物は見えない真空の刃を見事に躱しながらこちらへと向かって来る。

速度も中々のものでちょっとした映画のワンシーンの様だ。

ゲームだとすればここまで辿り着かれるとゲームオーバーになってしまうだろう。

ただしここまで来たら俺が始末するのでゲームオーバーはあちらの方だ。


「足場を荒らしてみようか。」

「それなら私は石槍を飛ばします。」


すると次にアケミが魔法を放つと足元が石の剣山になり、容赦なく足の裏を切り裂いた。

しかも倒れた所を固定され完全に動きが止められてしまうと、そこにユウナの石槍が頸椎を貫き勝負は決まった。


「魔法でも普通に倒せそうだな。」

『しかし一部のドラゴンには特定のエレメントが備わっているので注意が必要です。』

「そうなると弱点属性もありそうだな。」

「そうだね・・・モグモグ。」

「つまみ食いは程々にな。」


気付けばアズサはさっきの魔物の尻尾を切って再び摘み食いをしている。

それによって再びすすり泣く様な声が聞こえるけど、これもきっと気のせいだろう。


「あ~アズサ姉だけ狡~い!」

「私達が倒したのですから分け前を要求します!」

「う~・・・。」


するとアズサは騰蛇に突き刺さっている尻尾とアケミ達とを視線で行ったり来たりし始めたので心の中で激しいせめぎ合いが行われているようだ。

そして、まるで我が身を切り裂く様な表情を浮かべると300グラム程の肉を2つ切り取りバーベキュー用の金串に刺して差し出した。

その光景を見て俺はアズサの成長を喜び心の中だけで涙を流している。


「アズサも成長したんだな。」

「これくらいは当たり前だよ!」

「その割りには凄い顔をしてたよね。」

「美味しい物を独り占めしようとするのは姉さんの悪い癖です。」

「う!」


どうやら自分でも自覚だけはあるようだけど癖とは簡単に治せない事を俺は誰よりも知っている。

なので今は頑張って食べ物を分けたアズサを賞賛し、今後の成長に向けてエールだけは送っておいた。


「きっとアズサもこれからもっと変わって行けるさ。」

「100年以上かけてこれだとあまり期待は出来そうにないけどね。」


するとこのタイミングでハルカが鋭い指摘を放ちアズサにクリティカルヒットを与えた。

しかし、そのダメージを肉をヤケ食いした事で呑み込み、何も無かったかのように普段と変わらない顔つきに戻った。


「さ~次の獲物を取りに行くわよ。」

「調査の事も忘れないでね。」


そしてその後の俺達は更に魔物を倒して調査を行い数時間程でこの場を後にした。

しかし今日だけでもかなりの収穫があり、アズサでも数ヶ月分くらいの食材をゲットできた。

しかしヒュドラの様な強力な毒は無く、再構築を行って毒を旨味に変えてもイマイチらしい。

俺にはそれでも十分に美味しく感じるけど、アズサにとっては食う側としての拘りがあるようだ。

それでも狩って来たドラゴン肉は全てアズサが持って行ってしまったので、いつか美味しい料理になって食卓を飾ってくれる・・・かもしれない。


「それでクオナ。ダンジョン内のスキャンは終了したんだろ。」

「ええ、ここがアナタ達が入った入り口でダンジョンの主はここに居ます。」


クオナはダンジョン全域のマップを表示させると、そこに赤と青の光点を表示させた。

俺も途中まではマルチと一緒に見ていたので分かるけど、マップの右寄りに表示されている青い光点が俺達が入った入り口になる。

そして左の端の方にある赤い光点が主の位置になるようだ。

すると光点の部分から映像がアップされ、そこには荒れ果てた黒い荒野が広がっている。

その中心には周囲よりも更に黒い鱗を持つドラゴンが体を丸め大人しく眠っていた。


「アイツは私達の間でも討伐対象になっている龍神のミルガストです。邪龍とも呼ばれ既に幾つもの世界を滅ぼした危険な存在になります。出来ればここで何らかの処理をしておきたいところですね。」

「それは封印も視野に入れていると受け取っていいのか?」

「そうですね。しかし、それにはミルガストを弱らせる必要があります。以前に邪神を封印した貴方ならそれがどれだけ大変かは分かりますね。それに奴はダンジョンの機能を利用し自身の僕を次々に生み出しています。さっき倒した数など1パーセントにも満たないのですよ。」

「1パーセント!」


すると一番に大きな反応を見せたのは食欲の権化となっているアズサだ。

その顔には満面の笑みを浮かべており、放つ気配は捕食者にしか見えない程に荒々しい。

しかも、さっき戻って来たばかりなのに「一狩り行こうぜ!」と言い出しそうな雰囲気になっている。

しかし敵の情報を得る事が出来たのは良いけど映像には初めて見る物も映し出されていた。

見た目は新円の赤い宝石で大きなルビーの様にも見える。

それが地面から突き出した水晶のような台の上に置かれ仄かに輝きを放っていた。


「それで、こっちは何なんだ?」

「こちらはダンジョンを維持している核になります。アナタにも分かる様に言えばダンジョンコアと呼ばれる物です。現在はその権限の殆どをミルガストに奪われていますがダンジョンを維持する要に使われています。ただ、この中に何処かの女神が封印されている事が判明しました。」

「女神か。解放する手段はあるのか?」

「あれは私達が邪神を捕らえている封印と似た様な物なので破壊は可能でしょう。懸念があるとすれば、アナタがやり過ぎて女神を殺さないかという方が心配です。それと今の段階でコアを破壊するとダンジョンが崩壊してしまうので気を付けなければなりません。」

「ならダンジョンを掌握してからミルガストとかいう邪龍をボコって封印してからじゃないとダメって事か。」

「ええ、掌握するのはミルガストがダンジョンから出れば容易いでしょう。主が居なければ鍵の掛かっていない空き家と同じです。」


まあ、他にも問題が無い訳じゃないけど、何かあれば向こうから勝手に現れるだろう。

今はダンジョンをどうにかする事が最優先なのでちょっと地形が変わったり、エアーズロックが無くなったりしても怒られたりしないはずだ。


「そんな筈はないでしょ!」

「どうしてお前はいつもそういった思考になるんだよ!」

「なんだ来てたのか。それなら隠れてないで最初から出て来れば良いだろ。」

「隠れてたんじゃなくて今さっき到着したんだよ。それとその他力本願な思考をどうにかしろよな。」

「ははは、それはいつもの事だろ。」

「いつもだから問題があるのですよ!毎回の様に尻拭いをしているこちらの身にもなってください。」


俺の心の声に応えて現れたのは別行動中だったシュリとダイチだ。

2人とも最近は小言が増えて来ていて思春期の真っ盛りになっている。

それに昔はあんなに親切だったのにこれが時間が流れると言う事だろうか。


「なに1人で悲観してんだ!あの時は何かやらかしても数年に一度くらいだっただろうが。今は年間にどれだけ地形を変えてるんだ!」

「ん~と1・2・3・・・悪い。手と足の指で足りないから貸してくれないか。」


何せ去年の夏から邪神関係の襲撃が何度もあり中にはギリギリで倒した強敵も居た。

スサノオ達の様な上位の神なら即席で異空間を作り出してそこで戦うらしいけど、今の俺にはそんな事は出来ないので通常空間での戦闘になる。

そうなると周辺への被害が出てしまうのでシュリにお願いして直してもらっているのだ。

しかし、今は以前と違いちょっとした事では騒ぎにならない。

昨日の飛行機事故だって軽くニュースで流れただけなので山が消えたとか巨大なクレーターが突然出来たとしても取るに足らない事に違いない!


「いつもの事だけど考えが声に出てるぞ。」

「もう慣れましたが今でもワザとではないかと疑いたくなる独り言ですね。」

「ああ、今のはワザとだ。」

「「余計に性質が悪い!」」


すると周りから笑い声が溢れ、その中でクオナが幾つもの画面を表示してこちらに投げ渡して来た。

どうやら各国のニュース番組を録画した物のようで、日時は昨日の昼前から今日の昼過ぎまでのようだ。

内容は昨日の飛行機事故の事が大きく取り上げられていて教会からのゲストと何処かの専門家っぽいオッサンが激しい論争を繰り広げている。

どうやら教会は俺の事を悪魔王と判断し、善良な子供たちを救うために現れたと言っているようだ。

それに対してオッサンの方は未確認の魔物か、宇宙からやって来た未確認生物ではないかと言っている。


きっと俺が何も知らなければオッサンの意見に賛同していただろう。

歴史が変化して教育内容が変わっているので確実ではないけど、異世界人も大きく分類すれば地球外生命体とも言える。

クオナ達は空間軸の違う別宇宙から来たと言っていたけど、大きな違いは無さそうに思う。

まあ、今回に限っては純地球産の俺がやった事なので間違いであるのは確かなんだけどな。


「こんな感じで各国ではアナタの事で持ちきりです。次からは何かするにしても、もっと目立たない様にする方が良いですね。」

「だから今回もバッチリ現場を隠蔽してもらうために2人を呼んだんだろ?」

「なんだかそう言われると俺達が始末屋か何かに思えて来た。」

「ダイチ諦めましょう。この人には何を言っても無駄です無駄!それよりも生活の為に建設的な話をしましょ。」


さすがシュリは長く生きているだけあってその辺の事を心得ている。

それにどうやら今回の報酬の話に移った様でここに連れて来てくれたスタッフと何処かに行ってしまった。

昔と違って今の世の中ではどうしてもお金が必要なのでシュリも逞しくなったものだ。


「これでエアーズロックが跡形もなく無くなったとしても問題なさそうだな。」

「ハルヤ。目的を忘れたら今回は本気で怒るからね。」


すると俺の呟きを聞いて真面目な顔でアズサが釘を刺して来た。

そういえば今回の目的は討伐ではなく封印なので特に注意が必要となる。

勝てる確証も無いので本当に仕方なければ許してくれるはずだけど、もし俺が悪ふざけで倒してしまいダンジョンの維持が難しくなった場合はお仕置きだけでは済まないかもしれない。

下手をしたら婚約解消となる可能性すらあるので今回だけは褌を締め直して挑む必要がある。


「もちろん覚えてるよ。だから安心してくれ。」

『ジ~~~。』

「だ、大丈夫だって・・・。」

「・・・なら信じてあげる。でも、もしダメだったらハルヤが思っている事の斜め上の事をするからね。」

「が、頑張ります。」

「頑張る?」

「やり遂げて見せます!サー!」

「よろしい。」


どうやら俺が思っている以上に今回のアズサは本気の様だ。

しかし斜め上って言ってたけど何をするつもりだろな?

考えただけでも鳴り響いている危機感知のスキルが限界を超えて静かになるのできっと俺の想像を絶する何かが待っているのだろう。

これはもしもの時は許してくれるなんて甘い考えは捨てた方が良さそうだ。


それに問題はそこだけではなく、クオナが数値化してくれた相手のステータスがどれも30万オーバーとなっている事だ。

それに対して俺の数値は10万を超えた辺りなので今迄で一番の強敵と言える。

これで封印する余裕があれば良いんだけど既に債は投げられてしまっている。

これは日本に残して来たエクレ達を呼び寄せて備える必要がありそうだ。

俺はそんな事を思いながら同時に自身のスキルを確認し対策を考えるのだった。

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