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338 1試合目

昨日はSOCシーカー・オブ・チャンピオンの予選や未登録のダンジョンの発見などがあったけど今日から本戦が始まる事になる。

しかし開始は朝の10時からと通達されたけどゲンさんの事もあったので8時には会場に入り準備されていた観戦室で寛いでいる。


「さすがに選手を騙す様な事はしないと思うよ。」

「昨日のアレを見てハルヤを騙そうとする奴が居るなら見てみたいかも。」


俺の慎重な行動に付き合ってくれているアズサとワラビがそんな事を言って来た。

しかし昨日は能力を1パーセントに押さえていたのでアレで怯える奴はそう居ないだろう。

姿だって人のままだったので怖い要素は1つもない。

それに言っては何だけど、あれで怖がっていると怒ったアズサ達を前にしたら心臓が止まってしまう。


「何か?」

「ナンデモナイヨ。」


危ない危ない。

最近はアズサも恐ろしい程に勘が良いので気を付けないと心を読んだかのようなタイミングで声を掛けて来る。

婚約者として以心伝心なのは悪くはないと思うけど、場合によっては恐ろしい結果に繋がってしまうので注意が必要だ。


『コンコンコン。』

「本戦に出場のハルヤ様。そろそろ時間なので入場ゲートまでお越しください。」


そして、しばらくすると扉がノックされスタッフの男性が俺を呼びに来た。

時刻は9時前となっており聞いていた予定よりも少し早いけど、これくらいは誤差の範囲としておこう。

周りは若干ながら呆れ混じりの顔になっているので既に予想はされていたことだ。

何故ならあの後に大会のサイトにアクセスしようとしてもサーバーがトラブルとかでメンテナンスに入り、テレビでも明日の試合開始時刻に関しては一切触れなかった。

通達もあちらからの一方的なメールのみで、こちらからの問い合わせにも一切の返答は無し。

なので多くの観客が来る事を考慮して常識的な時間で早めに来たと言う訳だ。


ただ俺達にはスーパーハッカーであるマルチと、スーパーくノ一であるハルカが居るのでその気になれば幾らでも調べる手段はある。

単純にそうしなかったのは泊っているホテルから会場がそれ程まで離れておらず、スキルの範囲内でその気になれば転移を使えば一瞬で移動が可能だからだ。

なので昨日は無駄な労力を使わずに皆で楽しく過ごす事を優先させた。


「お呼びが掛かったみたいだから行って来るよ。」

「うん。なんだかリングの中央でお爺ちゃんが凄く良い笑顔で手招きしてるから早く行った方が良いよ。」

「分かってる。」


あんな良い笑顔は俺も見た事が無い。

しかしそれとは裏腹にゲンさんは殺気混じりの気を体から放出しているので事前に張られているシールドが今にも破れそうだ。

あれを早く止めさせないと大変な事が起きるだろう。

きっとシールドが破れた瞬間に会場を呑み込んで大半の人間がショック死する。

さすがに蘇生薬を万単位で無駄使いしたくないのでそれだけは勘弁してもらいたい。


そしてスタッフに誘導されて入口に到着するとそこにはシールドを維持している聖職者の人達が青い顔で歯を食い縛っていた。

どうやら既にギリギリのようで足元には投げ捨てられたポーション瓶も転がっている。

初日の1試合目からゲンさんも何をやっているんだと思わないでもないけど、昨日に続いて今日もとなると仕方ない気もして来る。

それにあの人は昔から揶揄うのは好きだけど揶揄われるのは嫌いという子供みたいな人だ。

俺達くらい仲が良い?と別として、付き合いの浅い相手からコケにされたままでは黙ってはいられない。

きっと笑顔で俺に手招きをしているという事は試合に乗じて何かをさせるつもりなのだろう。

ただ俺も被害者であるのは変わらないのでその話には乗っても良いと思っている。


そして更に誘導に従ってシールドに近寄ると一部が開けられて通り道が出来た。

そこからゲンさんの気が漏れると大惨事になるので俺の方でもシールドを張り外に漏れない様に工夫しておく。

案内をしてくれた男性は既に心臓が止まって倒れてしまったけど、俺の責任ではないので放置しておこう。

きっと後で危険手当かボーナスを出してもらえるはずだ。

俺は小さな溜息をついてステージに上がるとそのまま真直ぐにゲンさんの許へと向かって行った。


「その気配を抑えないと俺の対戦相手が居なくなるんだけどな。」

「ク!仕方ない!」


すると本人にも自覚があるのか致死量だった殺気が収まりシールドに入り始めていた罅が修復されて行く。

もう少しここに来るのが遅れていればシールドが破れて大惨事を引き起こす所だった

そして、ようやく向かいの入り口からもう1人の選手が現れこちらへと向かって来る。

それまでにあまり時間が無いので早く話を擦り合わせる事にした。


「それで俺は誰を誤射すれば良いんだ?」

「フッフッフ!お前ならそう言ってくれると思っておったぞ。それに儂は審判としてしばらくここを動かれん。その間に自分の国に逃げ帰られると仕返しをするのも面倒じゃからな。まあ死なん程度に揶揄ってくれれば十分じゃ。」


そう言ってゲンさんは邪悪な笑みを浮かべると、俺も合わせて同じ様な顔で返す。

そして、こちらに見える様に端末に表示された顔写真を見せて来ると、今度は視線を斜め上へと向けた。

そこにはVIP専用にボックス席があり、目的のターゲットはそこに居るようだ。

それだけ分かれば視線を向けなくても確認は可能なのでまずは空間把握で状況を探ってみる。

すると部屋には数人のVIP客が居てこちらを見ながら試合が始まるのを待っている。

ただ、写真の男はこちらに鋭い視線を向けながら睨むように見下ろしていた。

どうやら、俺が早めに来て試合に出場しているのがお気に召さないらしい。


「確認は終えた。後は任せろ。」

「期待しておるぞ。」


そして俺の対戦選手が目の前までやって来た。

しかし、どうやら俺の相手は女性のようで美人だけど目付きが少しきつめだ。

髪は長く伸ばしたプラチナブロンドを三つ編みにして纏めており、手には斧の様な武器を持っている。

ただ柄が長く刃の部分が半月状なのでバルディッシュという武器かもしれない。

俺の好きな魔法少女アニメで使っているキャラが居たけど実物を見るとかなり厳つい。


それに贅沢を言えば銀髪ではなく金髪少女に使って欲しかった・・・。


「なに?私が女だから文句でもあるの!?」

「いや、俺は戦いに性別は持ち込まない質だ。それに頻繁に婚約者に殴られて女性の強さは骨身に染みてる。」


しかし俺の相手はジーナと言う名前らしいけど今までに女性と言う事で偏見でも受けていたのかもしれない。

今は世界的に男女平等が進んではいても前衛として戦うとなると話は別だ。

やはり彼女の様な見た目が華奢な女性よりも鍛え抜かれた肉体を持つ男性が前で戦っていた方が安心感がある。

ただし、それは精神的なものなので実力は二の次にされてしまうのだろう。

夏にやった合宿でDJN99のメンバーにトラブルが発生したのも似た様な理由d、どうしても戦いとなると女性は下に見られ易くなってしまう。


しかし、そんな彼女も遥か宇宙の彼方を見詰める様な目を見て誤解であると分かってくれたみたいだ。


「そ、そうなのね。機会があれば会ってみたいわ。」

「それならK-32の部屋で観戦してるから後で尋ねてみると良い。」

「でもその前に試合を終わらせるわよ。言っておくけど予選の時とは一味違うから覚悟しなさい。」


そう言って武器の柄を両手で握ると腰を落として構えを取った。

どうやら、あの時と違いアクセサリーなどを万全に揃え、自身のステータスを強化しているようだ。

しかも面白いアイテムを持っていて魔力の数値を力に変換する魔道具を使っている。

その結果、力だけなら予選の時の倍の900を超えていて今の俺を大きく上回っていた。


するとゲンさんが審判として俺達の間に立ち開始の声を上げた。


「それではロシア代表ソコロフ対、日本代表ユウキの試合を始める。互いに悔いの残らない様に・・・始め!」

「ハー!」


すると開始と同時にジーナはステータスを生かした全力の突きを放って来る。

力を強化するとスピードも上がるので各種スキルと合わせればなかなかのものだ。

しかし、まだまだ修練が足りない様で力を出しきれていないのが分かる。

又は力を上げた代わりに大きく下回ってしまった防御を気にしているのかもしれない。

バランスが悪いと動いた結果で自分の体を破壊してしまう事もあり俺も経験済みの事だ。

それに互いが思考加速は持っていても数年鍛えた程度と、200年鍛えて来た俺のスキルでは雲泥の差がある。

たとえ相手の速度が大きく上回っていたとしても簡単に攻撃をヒットさせられる程には俺の積み上げて来た時間は甘くはない。


そのため攻撃を余裕を持って躱すと柄の側面を手の甲で左に弾き、空いた右側面に蹴りを放った。


「く!?ステータスでは上回ってるはずなのに!」

「猪突猛進の魔物が相手じゃないんだ。フェインも無く不用意に間合いに入ると痛い目を見るぞ。」


しかし流石に初撃で終わらせると観客がガッカリするかもしれないので蹴ったのは相手の左腕の辺りだ。

それでも数メートルは飛ばされ、自分の速度もあってリングの端の方まで行ってしまった。

もしこのまま追い打ちを仕掛けてリングアウトにすれば怪我もさせずに安全に勝つ事が出来る。

しかし、せっかくの平和的な世界大会なのでもっと楽しんでおきたいし、多くの人に楽しんでもらいたい。

それでもし負けたとしても個人的に優勝を狙っている訳ではないので悔いは残らない。

とは言ってもゲンさんが凄い眼力で睨んでいるので簡単に負けたら後が面倒なので負ける気はない。

それに場外と言っても俺達には空歩があるので簡単に落ちたりはしないだろう。


そしてジーナは再び攻撃を仕掛けてきたけど今度は上段からの振り下ろしだ。

斧の様な形状なので普通の剣よりは威力が有り、今の彼女がやればリングが大きく破損するだろう。

ただし、それをわざと狙っていて飛び散った破片を目潰しにして次の攻撃に繋げるつもりだ。


「アースウォール。」

「この程度の魔法じゃ防げないわよ!」


そう言って力に任せて岩の壁へと攻撃を放って大きく切り裂いた。

しかし無詠唱はあまり一般的ではないので一応唱えてはいるけど、そもそも魔法とはイメージが反映されて行使される。

なので俺の作ったアースウォールは高さだけでも10メートルを超え、途中まで切り裂けても俺までは届いていない。

そしてこの角度と位置取りは俺が狙った通りの配置だ。

なのでまずは拳を打ち付けて壁を粉砕しシールドへと散弾を叩きつけた。

それだけでシールドに亀裂が入ったのでそこへ向かって一瞬遅れた轟砲を放つとシールドを突き抜けてVIP専用席の窓ガラスに30センチほどの穴が開いた。

当然そこには写真の男が立っており、轟砲はその真横を通り過ぎて更にその後ろの壁にも穴を開ける。

それだけで男は顔中に滝の様な汗を流し、その場に尻餅をついた。


「まずは1回。」


俺は窓の縁から恐る恐る覗き込んでいる男に向かってニヤリと笑うとジーナの相手をするために試合へと戻って行った。

その時にゲンさんの方を見ると今にも吹き出しそうな顔をしていたので溜飲は少しくらい下がってくれたようだ。


「余所見をしている暇はないわよ。」

「おっと、そうだったな。」


既にジーナは俺を間合いに捉えリーチを生かして連続突きを放って来る。

それに脚は止めず流れる様な動きはまるでリングと言う舞台で舞い踊るバレリーナのようだ。

それを見て観客も歓声を上げテンションが次第に上昇を始めている。


「何これ!こんな動きが出来た事は無いのに。」

「それはお前のスキルにある舞がソードダンスに進化したからだな。」

「あ、あなた他人のステータスが分かるの!」

「・・・秘密。」


いつものしていた教官の癖で無意識に説明を入れてしまった。

それにきっと昨日と今日の俺との闘いが切っ掛けになってスキルの成長が早まってしまったのだろう。

そのおかげでさっきまでの猪突猛進が無くなりバルディッシュの長い柄を軸にして円運動を生かした攻撃にシフトしている。

対人戦や長期戦ならこの方が彼女には合っているだろう。


「しかし残念だな。」

「何がよ!」

「バランスの悪さが動きを悪くしている。」


やはり防御が低いのは大問題だ。

そこが解消されればもっと伸び伸びとした動きで体を動かせられるだろう。

今はまだ怪我を恐れる雛鳥の様に所々の動きがぎこちなくなっている。

それに頭の装備枠が空いている様なので丁度良い装備がある。


俺は今だけ指輪を1つ外すとステータスてジーナを上回り向かって来た攻撃を受け止めた。


「な!」

「動くな。」


そして腰に手を回して動きを封じると目的の髪留めを取り出して前髪に着けてやる

ちなみに今着けたのは昨日の件でクオナに貰ったドラゴンの牙だ。

それを加工したボーンアクセサリーでアズサがオオカミの顔の形に整えてペイントもしてくれている。

試作品だけど効果は高くデザインもカッコ良いのでちょっと気に入っている。

ちなみに効果は鉄壁と同様で防御を2倍にしてくれるのでジーナには丁度良いアイテムだ。

これなら防御が力を上回るので自由に戦えるようになるだろう。


「は、離れなさい!」

「おっと。」


しかしジーナはアクセサリーを着けた直後に顔を赤くして拳による攻撃を放ってきた。

その感情的になった1撃には手加減は微塵も無く、さっきまでなら体の何処かを痛めていただろう。

しかし今はそんな事は起きず、その事に気付いたジーナは着けられている髪留めに手を伸ばした。


「もしかしてこれのおかげ?・・・礼は言わないわよ!」

「お、見事なツンデレ頂きました。」

「ツンデレじゃない!」


しかし顔を赤くしながら言われても説得力が無いのがお約束だ。

それに要らないと投げ捨てられるよりかはずっとマシだろう。

さっきまでとは違い動きがさらに良くなり、スキルの助けもあってステータス以上の動きを見せている。

これなら更にダンジョンで活躍してくれるだろうから次の大会があったとしても呼んでもらえるだろう。


「良い動きになったな。」

「ほ、褒められても嬉しくないんだからね!」


ただ、これくらいの事で感情を露わにするのは良くないことだ。

美人なんだからもっと男に免疫を持っておかないと他の男性探索者に言い寄られて大変だろう。

でも、せっかく楽しくなってきたのにそろそろ終わりにする頃合いだろう。

試合が開始されて数分だけど今日はまだ15試合も残っているので時間を掛けるにしても明日以降だ。


「そろそろ終わりにするか。」

「それはこちらのセリフよ!」


そして正面からぶつかり合い俺は腕を砕かれたけど相打ちとしてジーナのバルディッシュを圧し折ってやった。

そのまま上に蹴り上げてシールドに叩き付けると落ちて来る途中で回し蹴りを放ちリングの外へと叩きつけて場外にする。

それを見てゲンさんは手を上げると勝者の名前を叫んだ。


「勝者!日本代表ユウキ!」

「「「うおーーー!!!」」」


すると会場に集まっている観客から津波の様な歓声が上がった。

中には「試合中に女を口説いてんじゃねえ!」とか「大爆発しやがれ!」といった声も聞こえる気がするがきっと幻聴だろう。

そしてゲンさんの傍に行くと再びニヤリと笑みを浮かべた。


「さっきのはゲンさんの分だからな。」

「うむ、次も期待しておるぞ。」

「「フッフッフッフ!」」


そして、次は俺の分だが明日も逃げずに来てくれるだろうか。

しかしそこはゲンさんが上手く煽ってくれる事を期待するしかない。

俺はそのままリングを下りると倒れて気を失っているジーナの許へと向かって行った。

手加減はしたけどちょっと強めに蹴り過ぎたので胸骨に罅が入り腕も骨折している。

もし俺の付けた髪留めが無かったら即死していただろう。


「よっこらせっと。」

「・・・爺臭いわね。でも過去の英雄なら見た目通りの歳じゃないわね。」

「そう言うな。今はピチピチも10代なんだからな。」

「やっぱり爺臭いわね。それよりも何で肩なのかしら?ここは両手で抱える所でしょ。」

「観客が五月蠅いんだよ。」


さっきから男の声で色々と罵声が飛んできている。

良い子には聞かせられないので省くけど公衆の面前で言う様な言葉ではない。


「確かにそうね。まあ、これでも暖かいから許してあげるわ。」


そして、そのまま退場すると俺達はそのままアズサ達が待っている部屋へと向かって行った。

さっき会ってみたいと言っていたので丁度良いだろう。

しかし扉を開けて中に入ると部屋には3つの音が響き渡り、床を大きく揺るがせた。


「お帰りハルヤ。とても仲が良さそうだね。」

「「浮気者!」」

「「「浮気者!」」」


すると皆は俺を部屋に押し込むとぐるりと取り囲んで睨み付けて来る。

そして俺の前にはいつもの様にアズサを中心にしてアケミとユウナが立ち3人の手には金棒が握られている。

しかし俺は別にジーナをどうこうしたいのではなく、アズサ達に会いたいからと言っていたから連れて来ただけだ。

なので俺はいつもの様に正座して睨まれながらその事を告げた。


「でも髪留めは!?」

「あれは教官をしている時の癖でつい・・・。それに男が髪留めを持ってるよりも似合ってるだろ?」

「「「ん!?」」」


どうやら言葉が過ぎたみたいで周りから睨まれてしまった。

しかし反対はしない様で奪い返したりもしないようだ。

そしてジーナの方はと言うと、最初は驚いた顔をしていたけど、今ではキラキラした目を向けている。

どうやらアズサ達の姿に何か思う所があったみたいだ。


「それで、ジーナさんの方は何か言いたい事はありますか?」

「お姉様と呼ばせてください!」


そう言ってジーナは日本風に土下座までしているけど、まだまだ修行が足りないようだ。

土下座とはこうして!こうして!こうだー!


「ハルヤは少し静かにしてて!」

「はい・・・。」


どうやら声に出てしまっていたようでこの場は最高権力者であるアズサの返答を頭を伏したまま待つしかない。

その間に皆は集まって会議を済ませ再び俺達の前に戻って来た。


「しばらく同行を許します。」

「でもお兄ちゃんは私達のだからね。」

「誘惑は禁止します。」

「了解しました!」


そして、アズサ達の許可も下りた所で俺達は立ち上がると・・・。


「ハルヤはしばらく罰として正座!」

「・・・はい。」


そしてジーナは立ち上がると皆に連れられて窓辺に向かうと次の試合の観戦を始めた。

俺はその様子を後ろから眺め皆の後ろから壁を透視して試合の様子を確認する。

途中にアズサ達が居るので服が透けてしまうけどそこは仕方の無い事だ。


『ゴッ!』

「痛い・・・。」

「ハルヤ。何をしようとしたのかな?」

「何もしておりませんが・・・。」

「そういうのは目を見てハッキリと言おうね。もう一回聞いて欲しい?」


そう言って頭に落とした金棒をグリグリと擦り付けて来る。

ただ今回は昨日の反省を生かしてここに戻るまでに指輪を外して置いて良かった。

そうでなければ流石に即死していたかもしれない。


「ごめんなさい。」

「もう、お兄ちゃんって本当にエッチだよね。」

「これは期待が持てそうです。」


ここで男だから仕方ないと返したいけど、それをユウナの言葉が止めてしまう。

皆が成長するまでまだ何年もあるので迂闊な事を言ってしまうと後になって自分の首を絞める事に繋がってしまうからだ。

それに試合が見れなくてもそれはそれで楽しみを先延ばしに出来て良いかもしれない。

そして俺はそう思う事にして昼になるまで正座をやり続けた。

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