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333 星を見下ろす場所で ②

俺達は異世界食所のオーパーツという飲食店へと入っている。

中も至って普通のファミレスみたいな感じで4人用のテーブルとそれを挟んで向かい合う様に設置されているソファータイプの席がある。

壁と天井はベージュ色で床は木目調となっているようだ。

ハッキリ言って完全に名前負けしているとしか言いようがない。


しかし今の俺達に必要なのは腹を満たす為の美味しい料理だ。

それさえあれば店の雰囲気なんて2の次3の次でも構わない。

そして席に着いて備え付けのガラス板の様な物を手にする。

どうやら、ここだけは異世界風でこれがこの店のメニュー端末の様だ。

ただし使い方やシステムはファミレスなどのタブレットと同じで新鮮味の欠片もない。


「まずは注文してみるか。まずはスモール・コカトリスのサムゲタンとバジリスクのソテーにするか。」

「私はドラゴンの尻尾焼きにするわ。」

「それじゃあ私はクラーケン飯にしようかな。」

「私は精力増強!バイコーン刺しを頂きます。」

「ねえ・・・このお店に普通の料理は無いの?」

「ねえ、ここに豚のソーセージならあるよ。」

「え、ほんと・・・ってそれに使ってるお肉は豚じゃなくてオークって書いてあるわよ!」

「アハハ~、それならこっちは?」

「そっちはミノタウロスのステーキでしょ!カナデはそんなに人型の魔物を食べさせたいの!?」

「お姉ちゃん料理になって出てきたら何のお肉かなんて気にならないよ。」

「出て来る前が気になるのよ!」


まあミキの言う事も納得できる話だ。

逆に考えればこれで俺達が普段食べているのと同じような味なら明らかに嘘と捉える者も居るだろう。

俺は鑑定があるから良いけど、このスキルは一般生活だと必要性が低く持っている者は殆ど居ない。

それでなくてもレベルを好んで上げている者はいまだに少なく、限られたスキルの取得回数の内1つはアイテムボックスで消費されてしまう。

なので持っているとすればそれが必要な職業に就いている一部の人間だけだろう。


そして注文をして少し待っていると奥から1人の女性が現れテーブルへと料理を並べ始めた。

しかし、その目がクオナに向くと動きが止まってしまい、視線を逸らすと少しずつ後ろに下がり逃げの体勢へと移行していく。

するとそれに鋭い視線を向けたクオナは威圧的な声でその足を止めさせた。


「待ちなさい。誰が下がって良いと言いましたか。」

「あの・・その・・・はい。おばさ・・・。」

「ん!?」

「よ!良くお越しくださいました!クオナさん。」


どうやらこの女性は以前からクオナの知り合いらしい。

それに女性へ対してあの言葉を言うのはどの世界でも禁句の様だ。

普段は年齢なんて気にしないといった感じなのにこれも肉体を得た影響だろうか。


「それで。この人はクオナの知り合いか?」

「娘の友達でミーナと言います。以前から飲食店をしたいと言っていたのですが、私達の世界では需要が低く多くの人がこの錠剤で食事を終わらせてしまうので商売になりません。食材だけは各世界から集める事は容易いのですが、どうもこの子は商才が無い様でこの状況という訳です。」

「なら料理の腕はあるのか?」

「この子は模倣が得意で地球に降りて幾つものお店を周っては技術を盗ん・・・覚えてきたはずなのですが味がイマイチなのです。」


ん~・・・どうやら弟子入りして覚えてきた訳では無さそうだけど、料理の世界では何度も通って味を盗むのはよくある事だ。

アズサだって気に入った店に通ったりして味や技術を盗んで来たりしている。

中には仲良くなって新しい料理を開発したり料理を教え合ったりもする。

今では以前に増して数々の料理を作る事が出来るのはそういった理由がある。


「それならまずは味見といこう。」

「そうですね。もしかすると何か分かるかもしれません。それとミーナは皆さんが料理を食べ終わるまでに任せている仕事を終わらせておきなさい。」

「りょ、了解であります!」


そして俺達が味見を始めると同時にミーナは別の仕事を始めた。

ハッキリ言って食べれば味は悪くないけど、ファミレスに行けば何処でも食べられるレベルだ。

これならその辺の居酒屋に行った方が美味しい料理が食べられる。

これではこの周辺で店を構えているプロの料理人たちに勝てる筈はない。

ただ、気になる事が1つあり、素材が違えば味も変わるはずだ。

なのにこのコカトリスのサムゲタンには野性味と言うか癖が無く、まるで日本に売られている鶏肉で作った様な味がする。

バジリスクのソテーも同じで鶏の胸肉を食べている感じだ。

ソースがパッとしないだけでそこそこの味はしており、食べられるけど出来合いの冷凍食品を連想させる。

きっと、この味をわざわざ飲食店に来てまで食べたいかと聞かれれば殆どの人が首を横に振るだろう。

今だって思考が目の前の料理に集中できず、ミーナがどんな仕事をしているのかと気になる程だ。


「そういえばミーナの仕事って何なんだ?」

「我々は知的生命体の居ない原始的な世界を幾つも見守っています。今はその世界に送り込んでいる小型ドローンを使って大きな問題が発生していないかの見回りをしているのです。」


確かに視線を向けるとテーブルの上に立体的な映像が映し出され、そこには地球上とは違うリアルな映像が映し出している。

ハッキリ言ってなんでその技術をメニュー画面に活用しないのだろうかとさえ思ってしまう。

そしてフと壁を見ると僅かだけど違和感の様なものを感じる。

しかもこの感覚は覚えがあり、クオナが以前に家へ持ち込んだゲームボックスに似ている。

簡単に言えば、一室が全てゲーム機の様になっていて高度なグラフィックを再現してくれるという物だった。

あの時に遊んだのはパイロットとして戦うシューティングゲームだったけど、凄いリアルな体験が出来たのを覚えている。


「もしかして店内の内装は簡単に変更できるのか?」

「それくらいなら簡単に出来ますよ。」


そう言ってクオナが指を鳴らすと壁紙が変わり天井には星が瞬き、床は流れる溶岩となった。

しかも映像とは思えない鮮明さで店の中に居ると言う事が分かるのは席とテーブルだけだ。

これだけでも他の店と大きな差を付けられ、客が呼べそうな気がする。


「これを活用すればもしかして客が入るんじゃ・・・。」

「ダメだよ!この味じゃあ来てくれたお客さんに失礼にしかならないよ!きっと皆ジュースだけ頼んで料理なんて食べなと思う!」


するとそこで料理を完食したアズサが厳しい意見を口にした。

テーブルを見れば皆も食べるのに苦労していた料理も全て完食している。


「それにこれって何処の料理を参考にしたの!?」

「え?人がいっぱい入ってるお店だよ。感じもそこに似せて作ったんだけど。」


そう言って俺も良く知るファミレス店の名前が次々に出て来る。

確かに子供連れの家族から学生まで手軽で良く入る店ではあるけど、それは安さに引かれての事だ。

だからさっきから何処かで食べた事がある気がしていたのだろう。

ただ、俺の場合は体感で200年以上前の記憶になる。

あの高校最後の年にアズサの事を思い出してからは一度も行った事が無いので完全に思い出す事が出来なかった。

しかし、ここまでの再現力を持っているなら希望が有るかもしれない。

何故なら、ここには天才の称号を持つ料理人が居るのだから。


「ミーナさん。今から私と料理をしましょう。ただ私も初めて使う食材ばかりだから美味しく作れるか分かりません。だから食材の癖や特徴はミーナさんが教えてください。」

「分かりました。でもその前にこれだけは見てから始めませんか。」


そう言ってミーナは指を鳴らすと部屋の内装が再び変化した。

するとそこは大きな競技場となっていて沢山の選手が行進をしている。

どうやら何処かで開かれている世界大会のようで選手の前を歩く係員は国名の書かれたプラカードを持っていた。

ただし、1人の係員が不安そうに周囲を見回し選手を探しているようだ。

その手にあるプラカードには大きな九十九のロゴマークと日本の文字が・・・。

俺は何やら嫌な予感を感じてゲンさんに視線を向けるとアイテムボックスから手紙を取り出して焦った顔で読み始めた。


「おい、これってもしかして?」

「いや待て!どう見ても開会式の日程は明日になっておるぞ!」


そしてゲンさんは手紙を見せてくれるけど確かに開会式は明日になっている。

ならどうして予定を繰り上げて開会式が行われているのか?

しかし横に座っているクオナも手紙を取り出すとそれを俺達に見せてくれる。

するとそこには今日の日付が書かれており、それは1つの可能性を示していた。


「もしかして伝達ミストか?」

「または儂らに恥を掻かせたい者の嫌がらせかもしれんな。」

「ならやる事は1つだけだな。」

「フフフ!お前ならそう言ってくれると思っておったぞ。」


そして2人で立ち上がるとその視線はクオナへと向けられた。

すると小さな溜息と共に立ち上がると「付いて来てください。」と言って歩き始める。

その向かった先には非常射出装置と書かれた扉があり、ロックを解除するとその中へと入って行く。

どうやらここは一般人は立ち入り禁止なエリアの様で各所に厳重なセキュリティーが設置されている。


「これで2人を会場まで撃ち出します。」

「流石クオナだな!俺が望んでいた物を既に準備してあるとは恐れ入ったぞ!」

「しかし、これは邪神が攻めて来た時に戦闘員を打ち出す装置なので生身の人間を打ち出すようには出来ていません。アナタ方なら大丈夫でしょうから使用を許可しますが今回だけの特例措置ですよ。」


そうなるとこれを使えるのは今回だけか。

飛行機の滑り台は残念な結果になってしまったけど、こちらは更に楽しめそうだ。

ゲンさんもどうやら同じ気持ちのようで、子供の様なキラキラした目を射出機に向けている。

やっぱり男としてはカタパルト発進は一度はやってみたい事の1つだよな!


「よし!さっそく打ち出してくれ!」

「儂も同意見じゃ!」

「本当にあなた方は人間の枠から逸脱していますね。」


そして呆れた顔のクオナから説明を受けて射出用の足場に乗るとカウントダウンが開始された。

ただし時間がないため形だけのもので10カウントが2秒程度で終了する。


「発射!」

「ハルヤ!行きま~す!」

「ヤッハー!」


そして俺の感覚でも1秒に満たない速度で射出されると急激な速度で地上が迫って来る。

ただし、このまま減速しなければ会場の中央に大きなクレーターを作り出してしまうだろう。

そうなればどれだけの犠牲が出るのか想像もしたくない。

選手はともかく観客に犠牲者を出す訳にはいかないのでそろそろ減速しないと危険だ。


「ゲンさん。そろそろ減速しないと会場が吹き飛ぶぞ。」

「そんな事を言っていたら間に合わんぞ!」


イヤイヤ、さっき見た時は入場が開始された直後だっただろ。

ここまで来れば被害が出ない様に飛翔の速度まで減速したとしても十分に間に合わせる事が出来る。

これは絶対に開催日の事で嘘を伝えられた事を根に持ってるな。


ちなみに俺の方は結果として邪神の駆除が出来てみんなと無事に到着できたから思う所は無い。

開会式に参加しなかったからと言って出場停止になる訳では無いだろうし、笑い者になるのも慣れている。

しかし、その内なる思いが伝わったのか、ゲンさんは決め顔を作ると俺のやる気を出させる魔法の言葉を使った。


「ハルヤよ。ここで勢い良く着地し土煙を薙ぎ払って姿を現せばカッコ良いと思わんか?きっとアズサ達もそんなお前の勇ましい姿を望んでおるはずじゃ。」

「た、確かに!最近は学園でも侮られなくなって皆も喜んでるな。」

「ここで遅刻などという不名誉な事になれば世界規模で馬鹿にされるぞ。そうなればあの者達ならきっと怒るのではないか?」


言われてみればそうかもしれない。

しかも、ここで悲しむのではなく怒る所がネックだ。

その怒りが俺に向けば金棒の刑が確定する。

周囲に向けば世界の危機かもしれない。


何気に俺の婚約者たちの強さは世界でもトップクラスだ。

しかも真の覚醒者と成っている時点で今の時代の飛び道具は一切の効果がない。

クオナ達の兵器なら別だけど、アイツ等は自分達の科学技術が兵器へと転用される事を一切禁止している。

それを破った国はダンジョンの閉鎖や電波類の遮断など、彼らに大きく依存している分野で大きなペナルティーが科せられる事となる。

ハッキリ言って今の世の中の仕組みではデメリットが大き過ぎるだろう。

それなら兵士をダンジョンに入れて鍛えた方が資源も手に入り国の強化も出来る。

なので、もしクオナ達がこの世界を侵略しようとすれば1日と掛からずに終わってしまいそうだ。


そして話は逸れたけど俺もそろそろ決断しなければ減速が遅れてしまい結果は変わらない事になる。

俺はゲンさんへと真剣な顔を向けるとキッパリと言ってやった。


「カッコ良く登場するしかないよな!」

「お前ならそう言うと思っておったぞ!(チョロい奴じゃ。)」


すると最後に何か聞こえた様な気がしたけど、この速度なのできっと空耳だろう。

ただしこのままの速度では大惨事となるので減速だけはしておく。

しかし速度はゲンさんに一任すると上手く角度を調整して会場の空いている場所へと落下した。


『『ドゴーーーン!』』

「・・・もしかして速度を間違えたか?」


途中で何かを突き破ったような気もするし俺達の周りには土の壁が出来ている。

と言うか、クレータが出来ているので周りからは俺達の姿が見えなくなってしまった。

これが背丈よりも少し低いだけなら未来からやって来た戦闘用サイボーグの様に膝を地面に着いたポーズを取るのだけど、このアングルでは意味がない。

それに周囲の選手たちは襲撃かと警戒して武器を手にしている者も居る。

しかし一緒に降りてきたはずのゲンさんは何処へ行ったのだろうか?


「ハルヤはこれを持っておれ。」


するといつの間にかこの場から移動していた様で土煙の中から声が聞こえた。

そしてプラカードが頭上から降って来たのでそれを受け取って見てみると『日本代表』と書かれている。

しかし受け取ったは良いけどゲンさんは素早くその場から移動して姿を消してしまった。


「あれ?これってハメられたんじゃね?」


ゲンさんは土煙で姿を隠していただけでなく、見事な隠形で誰にも気付かれる事無く自分の席へと向かっている。

しかし俺が居るべき場所はこちらに剣を向けている選手達の中だ。

渡されたプラカードが俺の名札みたいな物なので手放す訳にもいかず、選択肢はこのまま姿を見せるしかない。

これがいつもの感じなら山羊の姿になって愛くるしい姿で誤魔化すんだけど、流石に世界大会でそれは出来ないだろう。

それに悪魔王等の姿では日本に迷惑が掛かるかもしれない。

ゲンさん一人ならともかく、俺は国の代表としてここに来ている。

仕方ないのでプラカードを肩に担ぎ姿だけは周りに合わせて少し大人にしておいた。

選手の平均年齢は30歳前後なのでこれくらいでも十分だろう。


「そこに誰か居るのは分かっているぞ!諦めて出て来い!」


すると少しずつ近づいていた男の1人が痺れを切らせた様に顔をしかめて声を上げた。

しかし、その横を別の男が大剣を肩に担いで通り過ぎると先頭になって剣を振るう。

その剣筋に沿って土煙が切り裂かれると左右に分かれて俺の姿を露わにさせた。

しかし、それを見て先に声を掛けていた男は機嫌を損ねてしまったようだ。


「お前!何を勝手な事をしているんだ!」

「それはお互い様だろ。それに俺達は互いに相手の顔色を窺う間柄じゃないんだ。今は各国の代表同士で明確な敵なんだからな。」


そう言って大剣男は剣を担ぎ直すとニヒルに笑って見せた。

それは紛れもなく挑発であり、今にも闘いが開始されそうな雰囲気を醸し出している。

ただそのおかげでこちらへの意識が格段に薄れているのでこの間に選手たちの中へ紛れてしまおう。

ただ問題があるとすればあの2人が邪魔な位置に居てその間を通らなければならないと言う事だ。

仕方ないのでここはそっと通り過ぎて行くしかないだろう。

そうと決まれば即行動が俺の信条なのでクレーターから出ると目立たない様に唯の通行人を装って歩き始めた。


(・・・上手くいきそうだな。)

「おい!何勝手に何処かへ行こうとしてやがる!」

「ここは通行止めなのが言わないと分からないのか?」


すると険悪に向かい合っていた筈なのに俺が2人の間に差し掛かった所で容赦なく斬りかかって来た。

連携に向かなそうな性格のくせにこういう時には息がピッタリだな。


剣の方はレベル65で名前はアルミロ。

スキル的に見てスピードタイプだろう。


大剣の方はレベル68で名前はボルスト。

こちらのスキル構成だとパワータイプと言ったところか。


戦闘スタイルからするとアルミロの方が攻撃が早く到達しそうだが、ボルストの方が判断が早いのか動き出しは早かった。

そのため、ほぼ同時に攻撃が到達するタイミングで剣が振られ、鋭い刃が首へと迫って来る。

しかし、このまま避けるのは簡単だけど、それだとまるで逃げているみたいでカッコ悪い。

それに手には丁度良い事にプラカードを持っているのでこれを使えば意識をそちらに向ける事が出来て俺が何者かにも気付くだろう。

そういう訳で柄の真ん中を持つと、名前が書かれている札の部分を使って左右から迫る刃を受け止めた。


「何!俺の高速剣が見切られたっていうのか!?」

「そんな玩具で俺の大剣が止められただと!」


どうやら今の1撃は互いに自信のある攻撃だったようで、俺からしても昔を思い出させる容赦のない斬撃だった。

もしここに立っているのが俺ではなく他の選手なら無傷で防ぐのは難しかっただろう。

しかし、そろそろ諦めて剣を引いてくれないだろうか。

微動だにせずに受け止められたのが悔しいのか鍔迫り合いの様な形のまま力を緩める気配がない。

それにここはダンジョンではなくシーカー・オブ・チャンピオンと言う世界大会を行う会場だ。

周りには10万を超える観客が詰めかけていて、こちらの成り行きを見守っている。


ただ俺達と観客の間には多くの武装した兵士たちが睨みを利かせているけど動く気配はまるでない。

確認すると選手に比べて明らかにレベルが低く持っている銃火器も普通の物だ。

あれではここに集まっている探索者相手に碌なダメージを与える事も出来ず、銃を撃ったとしても牽制程度にしかならないだろう。

日本では影の実力者(元は俺の生徒)がゴロゴロいるのだけど、そういった奴らは居ないようだ。

これではルールを守った真面な大会になるかも怪しく思えて来たので、アズサ達に任せずに俺が出場して正解だった。


「おい、そろそろ・・・。」

「剣を引きなさい!それに国を背負って立つ者ならそれ相応の礼節を示すべきです!」


すると選手たちの中から1人の少女が姿を現した。

しかもその横には堂々とした姿でプラカードを地面に突き立て、その上に手を乗せている男の姿もある。

だが、どうやら選手は少女の方で男の方は付き添いのようだ。

そして、そのどちらにも以前に出会った時の面影を感じる。

まさかアイツがここに出場しているとは思っていなかったので驚きでつい力が入ってしまった。


『『バキ!』』

「馬鹿な!この剣は最高級品だぞ!」

「何をしやがった!?」

「あ!悪い。ちょっと驚いた拍子に力が入った。」


すると向けられていた剣が2本とも見事なまでに砕け散ってしまった。

ただ、この程度で砕けてしまったのでどちらの武器も言っている程の価値は無さそうだ。

きっと偽物を掴まされたか職人の腕が悪かったのだろう。

アンドウさんならコイツ等が行けるであろう50階層付近の素材を使ってもこれよりも遥かにマシな武器を作れる。


しかし一時的にでも得物を失ったおかげなのか冷静さを取り戻し、大きな舌打ちをして選手たちの中へと消えて行った。

俺はそれに続く様にしてプラカードを自分で担いで選手の中へと紛れようとする。

しかし、その思惑は見事に阻まれ背後から伸びて来た手に腕を掴まれた。

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