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330 中学生

夏休みが終わってDJN99のメンバーがツクモ学園に入学し、一時は混乱と歓声が広がった。

しかし、それも秋になる頃には落ち着きを見せ始め普通通りの学園生活が戻っている。

マルチも入学して来て同じクラスに入って来たので俺達の仲間入りを果たし、今では一緒に授業を受けているところだ。

ただ、時々科学や物理の教師が話しや研究の協力要請に来るのはご愛敬だ。

マルチはこの世界よりも遥かに高い科学技術の知識を持っているのでこの流れも当然と言える。

きっとクオナから許可が下りている範囲で科学の発展に貢献してくれるだろう。

それでもツクモが得られる利益は大きいのでマルチの学費は完全免除となっている。

逆に金を請求できる位の事は教えているようだけど、あまりそちらには興味が無い様なので気持ちだけ貰っているようだ。


そして夏から時間は瞬く間に過ぎ去り、俺達は中学生へと進学できた。

そうなれば6年ぶりに参加するイベントがある。


「は~~~今日は中学の入学式か。エスカレーターなんだから強制参加にしなくても良いのにな。」

「まだ言ってるの。お爺ちゃんが今回は必ず来る様にって言ってたでしょ。それにハルヤがサボったら私達も全員欠席するよ。」


実は先日の放課後にゲンさんに呼び出されて入学式には必ず参加する様にと言われている。

基本的には自由参加なのに毎回ほぼ全ての新入生が参加するらしく、俺は前回の事もあってサボろうと思っていた。

それを読まれて先に釘を刺された形なので嫌な予感しかしない。

何故なら今回は学園にあるダンジョンの10階層が会場になっており、管理棟にも申請して受理され今日1日はツクモ学園の貸し切りとなっている。

そしてダンジョンの中ではどんなに破壊を行っても自動修復される特徴があり、きっとゲンさんがここを会場にしたのもそれが理由だろう。

すなわち、その機能が必要であろう何らかの事をさせようという訳だ。

去年までは普通の会場でやっていたはずなのに明らかに俺を意識しての事だろう。

頼むから前回みたいに変な事へ巻き込まないでもらいたい。


そして俺達はショートカットで目的の階層に到着すると指定された場所へと向かって行った。

すると、そこには事前に魔法で段差が作られ外から見ると巨大なコロシアムのような囲みが出来ている。

しかし、この強度と出来はどう見ても普通では無い。


「あれって私達で作ったんだよ。」

「お兄さんが撫でても壊れない様に頑丈に作りました。」

「やっぱりアケミとユウナが作ったのか。これなら少し殴ったくらいじゃ壊れそうにないな。」


流石に本気で殴ると壊れるだろうけど上手く手加減すれば抉れるくらいで済むだろう。

しかし、こんな座席でないといけない時点で不安材料が増えるばかりだ。

そして時間が来ると前回と同じように重役たちの短い挨拶が行われ、デモンストレーションの時間が訪れた。


「それでは今日の相手を紹介しよう。皆も知っておる通り、当校でも評判の悪いユウキ ハルヤじゃ。勝てた者には儂の孫娘を嫁にやろう!」

「何言ってやがる!?」


しかし、周りの新入生からは歓声が上がり俺の声はかき消されてしまった。

いっそのこと轟砲で薙ぎ払ってやろうかと本気で思ったけど僅かに残っていた理性で踏み留まる事に成功する。


「あの爺~!今日を命日にしてやろうか!」

「あらら、困ったな~。私景品にされちゃったよ~。」


するとアズサはちょっと笑いながら全く困って無さそうな声を出した。

しかしアズサを嫁に出来れば大きなステータスになるとでも思っているのか、それなりの人数が下へと降りて行っている。

しかしアズサと結婚するのはそんなに生易しい事では無いのだけど、何も知らなければ馬鹿な男が群がって来るのも当然だ。

なにせアズサは俺が初めて本気で惚れた女なのだから、それ以上がこの世界に居るはずはない。

そして横に居るアズサは俺の手を握ると視線を交わして笑みを浮かべた。


「今日も頑張って来てね。」

「もちろんだ。でもその前にあの爺の所に行って来る。」


俺はボケた事をほざく爺の前に立つと久しぶりに本気の殺気を孕んで目を向けた。

さっきの軽率な発言は俺にとって一瞬も許容できない事だからだ。

長い付き合いの中でアレが本気で言った事ではないと分かっていなければ、即座に殺し合いに発展していただろう。


「爺さん。こういう寝言は寝ても言っちゃダメな奴だろ。」

「ハッハッハ!一度はお前から本気の殺気を受けてみたいと思っておったんじゃよ。しかし、勝てば良いだけの話じゃ。それにアズサはまだ幼いが美しく成長しておるからな。」

「当たり前だ!」

「なら、お前もそろそろ力を周りに示しておけ。そうしなければ色ボケした馬鹿が幾らでも湧いてくるぞ。」


確かに今もアズサはリボンを付けて力を抑えているけど、それでも抑えられないものがある。

爺さんの言う様にまだ幼さは残っていても外見は周りを魅了するには十分な効果があり、最近は俺の婚約者と知りながら良からぬ遊びに誘おうとする輩も少なくない。

それは他の婚約者であるアケミたちに対しても同じで遊びに誘うなら良いけど無理に引き離そうとする奴等も出始めている。

今はまだ大きな問題には発展していないとはいえ、そろそろ人の大事な者に手を出すとどうなるかを教えておく必要はありそうだ。


「死人が出ても知らないからな。」

「バンクには既に登録しておる。好きにすると良い。」


そして目の前には数百の生徒が戦闘準備を終えて得物を手にして立っている。

その顔には余裕が浮かんでいるけどコイツ等が全員ではない。

観客席には俺が夏に教官を務めた奴等も来ていて周りの奴等を必死に止めているからだ。

そうでなければ2~3倍の人数は降りて来て1000人は越えていただろう。

しかし、ここに降りて来てない奴等は止めてくれた奴に感謝するべきだ。

これから行われるのは今迄の訓練やハエを払うような温い戦闘とは掛け離れた物になる。

それに他人の婚約者に手を出そうとしている馬鹿は一度痛い目を見て然るべきなので死なない様に手加減するつもりはない。


俺は怒りで変身してしまいそうな自分を無理やり押し込めると長い付き合いになる1本の刀を取り出した。

コイツは業物でも何でもなく、覚醒して最初の頃から使って来た思い出の品だ。

しかしそれだけ長い間アズサ達を護るために力を貸してくれて来た物でもあり、今この時に使う事が他のどんな得物を使うよりも相応しいと感じる。

柄には俺の血と汗と思いが染み付き、既に戦友と言える存在になっている。

ただ、ここまで来れば流石に折りたくはないのでそろそろ休ませてやるのも良いかもしれない。


そう思いながら俺は刀を抜くといつもよりも繊細に扱い、魔刃で覆ってから精神力で更に強化する。

これなら相手がどんな武器を持って来ようと一刀両断に出来るだろう。


「さあ、掛かって来い雑魚共!」

「それはテメーだろうが!」


すると抜け駆けする様に飛び出していた1人の生徒が大剣を頭上から振り下ろして来た。

その軌道は明らかに頭部を狙っており、魔刃を纏うその1撃は相手の命を十分に奪えるものだ。

それならこちらはその希望を叶えてやり、剣を振らずに頭で受ける事にした。

しかし、こちらも相手が武器なら手加減をする必要を感じない。

刃が触れる瞬間に頭を横へ逸らし、大剣の側面へとヘッドバットを叩きこんだ。

それだけで刃は小さな破片となって砕け散り、その時に生まれた衝撃波は男を後ろへと吹き飛ばしている。


「な、何が起きて・・・。」

「まずは1人。」


そして起き上がる前に間合いを詰めると一瞬の停滞も無く首を切り落とした。

それによって周囲は言葉を失うと次に悲鳴が湧き起った。

しかし俺の時には誰も声を上げなかったのに俺が殺すのはNGなのか?

恐らくはさっきの1撃は俺でなければ殆どの奴等が真っ二つにされていただろう。

それに今日の俺はいつもの教官ではなく、怒れる1人の男なので容赦するつもりは微塵も無い。

戦意が無いとか、後悔をしているとか、逃げる奴だとか俺の前に一度立ったなら俺の敵だ。

どんなに泣こうが叫ぼうが、今の俺の耳や心には届かない。


会場の出口と言える全ての場所をシールドで塞ぎ、観客席を境目にして天井までを覆って逃げ場を完全に無くす。

そして向かって来る者は容赦なく切り捨て、逃げて行くものも追って始末した。

その徹底ぶりに何時しか会場から悲鳴さえも消え、周囲は沈黙のみが広がっている。

ただしアズサ達に関しては既に今日の事は知らされていたようだ。

今は両手に旗を持って応援しており楽しそうに横へ振っている。

アレを見るとどうして俺達だけが個別の席を準備されていたのかが分かる。


「さて、これで終了だな。」


俺は泣き叫び命乞いをして来る奴の首を刎ねて始末するとシールドを解いて飛び上った。

そして周囲を見回し全員に聞こえる声量で最終確認を行う。


「まだ俺から婚約者を奪いたいと言う奴が居れば前に出ろ。今度はデモンストレーションも兼ねてゆっくり相手をしてやる。」


最初に出て来た奴等に関しては痛みを与えずに一瞬で始末している。

恐らくは生き返っても今回の事はしっかりと覚えているだろう。

しかし、これでも挑んで来ると言うなら話は別だ。

今度は周りへの見せしめも兼ねて手足を輪切りにして後悔しながら死んでもらう。


しかし誰も動かず前に出て来る者が居ないと言う事は俺の出番は終わりで良いだろう。

これで実力は示す事が出来たので席へと戻る事にした。


「ただいま。」

「お帰りハルヤ。これで少しは周りが静かになるかな。」

「最近は気の早い男子から頻繁に声を掛けられてたもんね」

「この指に輝く婚約指輪を見て諦めてくれれば良いのに困ったものです。」


俺も皆とずっと傍に居られるわ訳じゃないから、そのタイミングを狙っている奴等の仕業だろう。

下校や登校の時は別々な事も多く、寄り道で駅周りを歩くこともある。

この辺はそんなに都会では無いので変なスカウトは居ないけど、学生は多いのでどうしても声を掛けられる事もあるのだろう。

それにしても小学生をナンパするとはけしからん奴等だな。

今度見つけたら腹痛が3日は続く呪いを掛けてやろう。


そして最後にゲンさんがノホホンとした顔で出て来ると絞めの言葉を放った。


「これであの者がお前らが思っている様な劣等生ではないと分かっただろう。今後はこの惨状が2度と起きん事を期待しておる。ただし、もしそれでも希望者が居るなら何時でも言って来るが良い。会場はこちらで用意してやろう。それでは解散。」


しかし数千人の中で動く事の出来るのは1割にも満たない一部の連中だけだ。

彼らは夏に合宿を生き抜いてここに居るのでこうなる事を予想していたのだろう。

他の連中と違い吐いたり泣きわめいたりせずにこの場から立ち去っている。

その中で1人こちらへ向かって来る者が居るので視線を向けるとそいつは予想外の人物だった。


「よう、久しぶりだなハルヤ。」

「ショウゴ!もしかしてツクモに入学できたのか!?」

「ああ、クラスはどうなるか分からないけどな。お前のおかげで推薦枠に入れたぜ。」


ショウゴはあの夏から時々会う様になり、家も近所なので会って遊ぶ事も多かった。

以前と同様でアズサ達に対しても理解があり、友達感覚で付き合う事が出来る数少ない奴だ。

俺にとって同年代ではダイチと並ぶ親友の様な関係と言える。


そんなショウゴがダンジョンが解禁してすぐに俺の所へ来てツクモに入りたいと言って来た。

しかしジャンルは文系だったので入学するためには頭が足りず、ツクヨミに相談したところまずは強くなる事を勧められた。

そして最初の一歩であるツクモ学園に入学する事を優先させ、入学後に勉学に励み成果を出せば良いと教えてもらった。

入ってしまえば学園からのサポートを受けられ、今までよりも良い環境を手に入れる事が出来るからだ。


その結果ショウゴはスカウトに見いだされて無事に入学できたようだ。

まあ、スカウトマンは新甲賀の人達なので何人か顔見知りになっている。

なのでショウゴが知らない間に見てもらい審査してもらった訳だ。

結果までは知らなかったけど、ここに居るので入学が出来た様で良かった。


「でも、これからがスタートなのを忘れるなよ。」

「もちろんだぜ。ダンジョンでのノルマもあるからこれから頑張らねーとな。」


それにショウゴには他にも重要な役割がある。

コイツは島での合宿で問題を起こして力を封印されたフドウと同じ『扇動』のスキルを持っている。

それを使い周りへとダンジョンへの興味を抱かせるのがショウゴに課せられた特別な課題だ。

今でもツクモではダンジョンに入ろうとせず、傍観している生徒が多いので学園としてもどうにか解決したいのだろう。

その代わりフドウの様な事が二度と起きない様にしっかりとしたサポートという名の監視も着いている。


「せっかく入学できたんだからしっかりやれよ。」

「私達も応援してるからね。」

「ノルマが達成できなかったら手伝うからね。」

「私も僭越ながら協力します。」


アズサ、アケミ、ユウナは未来の記憶からショウゴには好意的に接してくれている。

これなら俺が居ない時でも何かあれば助けてくれるだろう。

まあ、スタンピードが起きたとしても初期の段階でなら簡単に死ぬような鍛え方はしていないので余程の事が無い限りは大丈夫だ。


そして今日はスタッフの人たちに任せてこの場を立ち去る事にした。

今のままだと観客席にいる奴等が俺の一挙手一投足にも怯えてしまい動けないでいるからだ。

それに死んでもすぐにダンジョンに取り込まれる訳では無いので俺達が手伝う必要もない。

もし間に合わなかった場合にだけは救出くらいはこちらで請け負ってやれば良いだけだ。

しかし、今日相手をした連中なら20階層のボス程度の実力しかないだろう。

この程度の奴等なら俺が出なくても他の奴等でも十分かもしれない。


そして揃って立ち上がると転移陣を使って外へと出て行った。

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