表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/372

33 逃走

俺はアーロン。

今は操縦桿を握って飛行中で頭のイカレた日本人を目的地に送り届けたところだ。


アイツとはここに来る前にちょっとやらかしちまったって個人の私的な感情ならこのまま帰りたいところだ。

しかし、ヘリのパイロットである俺には他とは違う矜持がある。

それは送った奴は必ず迎えに行く事だ。


しかし、俺達が先日送った奴らは誰一人連れ帰る事が出来なかった。

上の判断で救出隊すら編成してもらえず、俺達は腐って憂さ晴らしのゲームに没頭するしかなかったんだ。

でもそんな中でアイツ等を助けに行こうって奴が現れた。

そのため上層部の判断も無視して俺達はすぐに名乗りを上げた。

でも来た奴はガキで生意気でしかも犬まで連れてやがる。


俺はイラっとして八つ当たりなのは自覚があったが喰ってかかっちまった。

その結果は見るも無残な惨敗だが、まさかアイツがあそこまでぶっ飛んだ奴だとは思わなかった。

でも、こう言う奴だからこそ魔物の群れのド真ん中にも平気で突入できるのかも知れねえ。


それにアイツはムカつく奴だが一度乗せちまったもんは仕方ねえ。

俺のヘリは往復チケットしか売り出してねえからな。


だからヘリを操作して仲間の反応がある地点へと向かって居る所だ。

今度こそ絶対に連れて帰ってみせるからな!




地上に降りてオメガの示す先に進むと白い物体を発見した。

手で触るとまるでガラスの様にスベスベしていて硬い感触が返ってくる。


「もしかして目的の奴らはこの中か?」

「ワン。」


俺が聞くとオメガは首を縦に振って肯定を示した。

しかし、この中から掘りだして死体を回収するのはかなり骨が折れそうだ。


「まさか、こんな感じに固められてるとは思わなかったな。」


俺は剣を抜くと外周の岩に絡まっている部分へと振り下ろしてみる。

するとまるで氷を砕く様な感触と共に切り裂く事が出来た。

しかし見上げる程のサイズがあり、この中から人間を掘り出すにはかなりの時間と労力が掛かりそうだ。


「何とか力技で剥離は出来そうだけど、ここでとなると無理があるな。」


俺は敵が来ない内に周辺の岩から白い物体を切り離すと障害物の無い方向へと押してみた。

すると丸い形状が幸いして転しながらなんとか移動をさせられそうだ。


「何とか動かせそうだな。」


これで地面の奥まで根を張る様に固定されてたらかなり面倒な事になるところだった。

しかし、それでもどうやら時間切れの様で、周囲から次々に気配が向かって来るのを感じる。

どうやら、これ自体が時間稼ぎのようで俺の様な人間を誘き寄せる為の餌と言う事らしい。

もしかするとこの群れを指揮している魔物は意外と頭が良いのかもしれないけど固定が剥がれた時点で作業は既に終わっている。

なので俺は即座にオメガに声を掛けると逃げる準備を始めることにした。


「収納してとっとと逃げるぞ。」

「ワン!」


そしてオメガはバスすら入るアイテムボックスを使って白い塊ごと遺体を収納した。

それを何処からか見ていたのか甲高い叫びが周囲に響き渡り、密かにこちらを包囲しようとしていた蟻たちが一気に向かって来る。


「やっぱり指揮している奴が居るな。オメガ、そいつの場所は分かるか?」

「ワンワン。」


オメガは俺に駆け寄って肩に飛び乗ると少し離れた丘の上に視線を向けた。

それを追って俺も視線を向けると、そこには7メートルはありそうな巨大蟻が此方を見ている。

しかも背中に羽まであり、まるで女王バチみたいな貫禄がある。

あの巨体で飛べるのかとも思ったけど魔法が存在し、リアムも飛べていたので恐らくは可能なのだろう。

魔物に関しては今までの常識に捕らわれない方が良さそうだ。


俺は向かって来る蟻を倒しながら包囲の薄い所を狙って一点突破で駆け抜けていく。

1メートルもある蟻と言っても気にする所は口にある牙だけだ。

しかも魔物の強さはダンジョンの階層で言えば3階層クラスなので俺の敵ではない。


すると続いては2メートル級の蟻が行く手を遮り鋭い牙と爪を向けてくる。

俺は最初の1匹の顎を剣で斬り取るとその蟻を盾にしてそのまま敵を掻き分ける様に進んでいく。


それにしても思った通りコイツ等は鰐男に比べるとかなり弱い。

あの戦いが無ければ苦戦は免れなかっただろうけど今なら簡単に倒す事が出来る。

ただ、この強さなら全部倒したとしてもレベルが1か2上がるかどうかだろう。

あの丘の上でこちらを見ている巨大な蟻を倒せば別だろうけど襲って来ないなら手を出す必要はない。

俺の今回の目的は死んだ奴らの回収であって戦いは二の次だ。

それを忘れさえしなければこの程度の包囲網は少しのダメージで切り抜けられる。


それにここは来る時は上りだけど帰る時は下りになっている。

そのためジャンプする事の出来る俺の方が有利に動けて蟻たちを置き去りに出来る。

それに大量に居ると言っても一点突破なら相手にする数はたかが知れている。

そのためしばらく走ると蟻の群れを突破できたので俺はそのまま山岳地帯から離れて行った。

しかしその時、俺の耳に空気を切り裂く羽音が聞こえて来る。


「まさかそんなに俺を逃がしたくないのか?」


空を見ると先程の巨大蟻が背中の羽を使ってこちらへと向かって来ている。

速度は早いとは言えないけど俺が走るよりかは早そうだ。

しかし、ここで待ち構えると他の蟻たちに追いつかれてしまうので巨大蟻に背中を向けると再び全力で走り出した。


「オメガ、中級ポーションを頼む。」

「ワン。」


俺が指示を出すとすぐにポーションが数本その姿を現した。

その1つは口に咥え、他のは服のポケットへと入れておく。

ポーションを飲み始めると体に出来ていた小さな傷が回復し体力が戻ってくる。

そして山岳地帯を一気に駆け抜けるとそのまま足場の良い道路にぶつかり速度を上げる事が出来た。


「やっぱり免許を早く取っておけば良かったかな。」


いまだに仮免取りたてで教習所の中でしか走った事のない俺にここでの運転はハードルが高い。

しかもかなりの速度で走る必要があり、道から外れて走る必要もあるかもしれない。

それなら追いつかれても走った方がまだマシで、こんな所でツキミヤさんをあてにする日が来るとは思わなかった。

しかし彼ならきっと、この状況でも大喜びで運転してくれただろう。


そして、しばらく走っているとようやく目的の奴らが見えて来た。

俺は道の端によると親指を立ててヒッチハイカーの真似事をする。


「何でお前が前に居るんだよ!」


俺の移動手段を知らなければもっともな意見だ。

しかし彼らはしっかりと俺と視線を交わしながらもそのまま通り過ぎてしまった。

流石にいきなりだったのでブレーキを掛けるタイミングを失ったみたいだ。

仕方なく俺は彼らを置き去りにして再び走り出し、少しでも遠くに逃げる事にする。

しかし数分もしない内に後ろからエンジン音が迫り物凄い勢いで彼らは追いついて来た。


「よう、トマス。早かったな。」

「どうしてここに居るかは後回しだ!それよりもなんだあのデカいのは!もう少し気付くのが遅れたら攻撃されてたぞ!」


見ると巨大蟻もかなり近くまで迫っている。

どうやら突然現れたと言っても人間であるトマス達もターゲットと認識された様だ。


「アイツは山岳地帯の蟻を統率していたボスみたいだ。死んだ奴らを回収してたら現れて今に至るってところだな。」

「色々ツッコミどころはあるが回収は失敗したのか!?」

「オメガが持ってるから回収は成功している。それよりもそろそろ止まってくれないか。メンバーも集まって群れからも引き離した。料理するには丁度良い頃合いだろう。」


すると彼らは目を丸くして驚きの視線を向けてくる。

オメガですらやる気に尻尾を振っていると言うのに情けない奴らだ。


「まさか勝てないとか言わないよな。」

「いや、飛んでる奴とどうやって戦うんだ。」

「それには俺に考えがある。とにかくこのまま走ってても前の群れと挟み撃ちになるかもしれないから早く勝負をつけるぞ。」


先程から巨大蟻はしきりに甲高い声で鳴き続けている。

あれが奴の後方の蟻たちへ向けているだけなら問題ないのだけど、町に向かっている蟻たちへも向けられていたら厄介だ。

あちらには奴ほどでないにしろ4メートル級が数匹いたのでアレと群れを同時に相手するとなると無事に戦闘を終えるのは不可能だ。

きっとこの中から死人が出る事になるので出来ればそれは回避しておきたい。

でも、今なら相手をするのはあの一匹だけなので逆に言えばこれはアイツを倒すチャンスでもある。


そして俺達は逃げるのを止めてその場で止まり全員が武器を構えた。

どうやらこの中で後衛は狼犬のタイラーだけみたいだ。


「全員が脳筋か。」

「オメーもだろうが。」


そして巨大蟻は俺達の上空へとやって来るとそのまま高度を維持したまま下りてくる気配がない。

どうやら自らが俺達を監視して戦うのは集まって来るであろう他の蟻たちに任せるようだ。


「タイラーに魔法を撃ってもらうか?」

「さっき試したがあの位置だと届くまでに躱される。おそらく魔法も警戒しているんだろうな。」

「アナタさっき任せろって言ってたけど、どうやってあの蟻を落とすつもりなの?」


すると傍に居たエリンから疑問の声が上がった。

これは最後の手段として取っておくつもりだったけど、ここで使うのが一番だろう。


「俺をあそこまで運べるか?」

「だ・い・じょ・う・ぶ。」


するとかすれた様な声が聞こえ俺の背中に風の羽が浮かび上がる。

風の精霊だけあって空気を震わせ言葉も話せるみたいなので、練習すればもっと上手に喋れるようになるだろう。


「よし。それなら行くぞオメガ。お前の見せ場だ。」

「ワン!」

「精霊よアイツよりも高く飛び上ってくれ。」

「わ・か・た」


そして、俺が飛び上がると奴はすぐに警戒を強めて距離を取ろうと向きを変え始める。

そんな慎重な奴にスキルの挑発を使用し、意識と敵意の両方を俺へと向けさせる。

すると効果があったみたいで先程とは違う声を上げながら俺へと向かって来た。


「まだ高く上がってくれ。」


俺は更に高く上がるとそこで一旦停止し巨大蟻を観察する。

奴は挑発の効果で俺に真っ直ぐに向かってきており、口の牙を何度も開閉している。

あれに挟まれたら軽自動車くらいならプレス機に掛けられたみたいに噛み潰されてしまうだろう。

しかし俺はそんな巨大蟻の真上に位置取るとそのまま奴に向かって下降を始めた。


「オメガ、タイミングは任せたからな。」

「ワン!」


互いに距離を詰めているので間合いがグングン近づいてくる。

そしてその距離が20メートルを切った時にオメガが動き、目の前に今朝まで使っていた大型バスが姿を現した。

これに関しては巨大蟻も驚いている様で挑発の効果を振り切って回避に動こうとする。

しかし既に直前まで来ているバスを避ける程の機動力は無く、そのまま正面からバスに顔を突き刺すと地面に向かって落下し始めた。

どうやらあの巨体を浮かせるだけの力はあっても何トンもあるバスを持ち上げるまでの力は無いみたいだ。

俺は更に効果を上げるために落ちていくバスの中に手榴弾を少々とガソリンを追加し、更に背中に回るとブンブンと五月蠅い6対の羽を根元から切断した。


すると落下速度が一気に加速して地面に向かって一直線に落ち始めた。

そして地面に直撃すると大爆発を起こし周囲に炎と衝撃を撒き散らした。

俺はオメガと一緒にトマス達の横に降り立つと結果を確認するために落下地点に視線を向ける。


「お、お前。今のは何だ?もしかして飛べるのか!?」

「いや、ちょっと変わった魔法を使える奴と会って支援してもらっただけだ。」


でもこの距離まで精霊が着いて来れるかは不明だったので今回は良い結果に終わって一安心だ。

もしダメだったらトマス達と一緒に町まで逃げてリアムの力を借りる必要があった。

それに巨大蟻は飛べるので何処まで追って来るかが分からず、下手をすると海の上まで追って来られて洋上での戦闘になっていたかもしれない。

しかし、どうやらこの程度で簡単に死んでくれる相手では無かったみたいで炎と煙の中に動く影が現れた。


「しぶとい奴だな。」

「あれでまだ生きてるの!」

「やっぱり投擲でのダメージは微妙だな。あの爆発でも生き残ってるみたいだ。」

「何を悠長な事を言ってんだ!」


すると次第に巨大蟻は立ち上がり俺達の前に姿を現した。

しかし流石にノーダメージとはいかない様で赤かった体は焼けて黒ずみ、6本あった足は2本が千切れている。

体の半分を占める尾の部分にも大きな傷が刻まれ、そこから中身も零れ出ているようだ。

それに俺が羽を切り落としているのでもう飛ぶ事も出来ないだろう。

このまま放置しても死にそうだけど魔物がポーションなどの回復薬を使わないという保証はない。

それにこれ程の大物なら魔石の質もかなり良さそうだ。

俺は巨大蟻との戦いに備えて手に持っている剣を握り直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ