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318追加合宿 2日目 ②

アイリが俺の許へと来てすぐにもう一度そのステータスを確認してみる。

しかし何度見てもコイツには戦闘に適したスキルが1つもない。

普通なら剣術、格闘、攻撃魔法のどれかがあるはずなのにそれが無いという事はアイリが嘘をついている事になる。

何故なら手元の資料には剣術が書いてあるのでDJN99に入る際の審査ではそう申告しているという事だ。

でも持っているスキルは自己申告制な事も多くわざわざ真偽官までは使ったりしない。

嘘をついても最終的に困るのは自分なのでいつかは歪みとなって返って来る事になる。

ただ命の危険があるダンジョンではそれまで待っていると仲間の死を招く事もある。

自分だけに迷惑が掛かるならともかく、この状況はあまり宜しいとは言えない。


「アイリ、まずは手を見せてみろ。」

「・・・はい。」


するとアイリは僅かな抵抗の後に渋々と言った感じに手を差し出して来た。

そしてそこにはアイドルとは思えない硬く分厚い皮膚が掌を覆っている。


「あの・・・ごめんなさい。」

「何に対してだ?」

「あんまり綺麗な手じゃないから。」

「そうでもないさ。」

「え?」

「ポーションでも治らないんだろ?」


こういう手は何度か見た事がありポーションは傷を癒してくれるけど、治してくれない類の物もある。

それは格闘家の拳ダコだったり、剣士の剣ダコなど体の一部と化しているものだ。

今のゲンさんにも拳にはしっかりとそれが刻まれていて拳だけは歴戦の戦士の様な形をしている。

それは即ち、それだけの修練を積んで来た事に等しい。


「いつもはどうやって魔物と戦ってるんだ?」

「その・・・小さい頃からお父さんに剣を習ってて・・・それで戦ってます。でも私は才能が無くて他の人の何倍も頑張らないとダメなんです。」

「そうか。これまでずっと頑張ってたんだな。」

「・・・はい。」


するとアイリの目からは大粒の涙が流れその手へと落ちていった。

しかし、これだけ努力してもスキルが習得できないのは絶対に何かある。

俺はアイリの目を覗き込むとそこに宿る魂の輝きを読み取り隠れているその何かを探し始めた。


するとステータスへと1つの加護が浮かび上がってくるのが目に入った。

このタイミングで現れると言う事は昨日の今日でやっと加護が与えられたと言う事だろう。

それと同時に新たなスキルが選択可能となり更に別の称号も追加された。


「よし、お前は魔物じゃなくて俺と戦え。」

「え!でも・・・。」

「俺を信じろ。」

「・・・分かりました!」


そして距離を置いて腰の剣に触れた瞬間にアイリの雰囲気がガラリと変わる。

これはこの時代では珍しい修羅の気配だ。

どうしてここまで至れるのにスキルが無いのか不思議でならない。

そして剣を構えたアイリは見事な足さばきで距離を詰めると剣を抜く勢いを利用して素早い斬撃を放って来る。

そこには容赦の欠片すらなく、ただ殺すだけが目的と言える意志が宿っていた。

防がれても表情も変えずに続いて斬撃が放たれ絶妙な距離感と歩法でフェイントを仕掛けて来る。

もし俺とアイリのレベル差が10以内なら俺は一瞬で斬り殺されていただろう。


「秘剣・陽炎。」

「おっと!」


どういった仕組みなのか剣の長さと言うか位置が一瞬で変化した。

引いた様には見えなかったけど俺の構えている剣を避けて元の軌道に戻ると真直ぐに襲い掛かって来る。

なので俺はその手前まで剣を戻すと余裕を持って受け止めた。

恐らくこの剣速ならよっぽど動体視力に自信が無ければ相手の剣が自分の剣を擦り抜けた様に見えただろう。


「これも受け止めますか。なら!」


するとアイリは一瞬下がると見せかけてその場でステップを踏むと残像を残して横から斬り掛って来る。


「幻惑の太刀。」

「なかなか面白い技だな。」


俺の目には残像が残ったけど、その横へ移動するアイリの姿も見えている。

だからちょっとした手品の様な感覚で躱す事が可能だった。


「なら私が持てる最強の一太刀で挑みます。」

「好きに掛かって来い。」


アイリは距離を空けると剣を鞘に納めた。

しかも格闘のスキルが無くてもその体には気を纏い、それは腰の剣へと集中して行く。

しかし体への負担が大きいのか目と鼻から血が流れ、強く噛み締めた口に血に染まった歯が覗いている。


「奥義・断魔の太刀!」


その1撃はまるでゲンさんが拳で放つ1撃に似ている。

ただし威力はまだまだ弱く収束も完全ではない。

そのため抑えきれなかった気が肉体へと跳ね返りダメージとなって血を流させている。

まさに今のアイリには諸刃の剣と言ったところなので、これは上手く処理しなければ剣に込められた気が逆流してアイリが死んでしまう。


俺は自分の剣を手放すとアイリが抜き放った斬撃をそっと受け止め、込められている気だけこちらへと通しそのまま外へと放出した。

それにより気によってそのまま地面へは斬撃が刻まれ、まるで大剣で斬り裂いたかのような跡が出来上がった。


「ゴフッ・・・流石・・・です。」

「お前もよくここまで練り上げたな。」


戦国の時代でもこの若さでここまで出来る奴を俺は知らない。

もしかするとゲンさんならこれくらいの年齢から出来ていたかもしれないけど、天才でもない者がここまで育つためには血を滲ませる努力では到底足りなかっただろう。


俺は血を吐いて倒れそうになっているアイリを抱き止めると、そっと回復魔法で傷を癒してやる。

それでもやっぱり手は治らないのでアレはもうアイリの体の一部と化しているのだろう。

神聖魔法でゴリ押しするかアズサなら元に戻せるだろうけど本人の了承もなくするべき事では無い。


「アイリ!」

「大丈夫アイリ!」

「アイリちゃん!」


すると戦闘が終わったと見てミコトたちが名前を呼びながら駆け寄って来る。

しかし傷や汚れの無い様子と穏やかな呼吸を見てホッと胸を撫で下ろした。


「お前等はコイツの事をどれくらい知ってるんだ?」

「仲良くしてたけどこんなアイリは初めて見た。」

「頑張り屋さんですがまさかここまでの剣を収めてるなんて。」

「私も知りませんでした。」


そうなると今までは本気で戦わずに他のメンバーに付いて行っていた訳か。

確かにあの実力なら1人でも19階層までなら行けるだろう。

20階はエリアボスが居るから厳しいけど相打ち覚悟なら倒せなるかもしれない。


「おい、お前等もビビってないでこっちに来い。」

「ウッ!ビビってた訳じゃ・・・。」

「そう思ってるなら早く来い。次はお前等の実力を見るからな。」

「え、まだ続けるんですか?」

「こんな状態ですよ!?」

「何を言ってるんだ?1人が死にかけて気絶しただけだろ。それにこんなに早く帰ったら1日が無駄になるじゃないか。良いからさっさと準備をして順番を決めろ。」


すると今の戦いで怖気付いたのか返事に元気がない。

まあ、やる気は関係ないので魔物相手に頑張ってもらおう。


「意気地なし。」

「ヘタレ確定ですね。」

「ハハハ・・・。」


そして男性陣がその場から離れるとミコトたちの声が聞こえて来たけど、この様子だとこのパーティは長続きしないだろう。

仲間を信じずに恐れている様では信用以前の問題がある。

その逆に彼女達の方は戦闘終了後にすぐに駆け寄ってきているので恐れよりも仲間を信じる絆の方が強いという事だ。

ここは一度、命の掛かった戦場に放り込む必要がありそうだ。


「さて、お前らの覚悟を見せてもらおうか。」

「あの、俺達にハンデは?」

「ない!」


そして戦闘が終わると満身創痍が2人に死亡が2人となった。

どうやら今日はここで足踏みになりそうだ。


「ねえ教官。私達ってこの人たちと組まないといけないの?」

「コイツ等は無理だな。明日は今日とは別のメンバーにして貰う様に言っておくから今は様子見をしておいてくれ。あれでも化けるかもしれないからな。」

「それなら仕方ないかな~。」


もとから全員に適性があるとは思っていない。

だから脱落者が出るのも想定には含まれている。

俺が出来るとすればそうならない様に手を貸してやるだけだ。


そしてカトウ達を叩き起こしてこの階層で訓練を続けレベルを強化してから少しずつ階層を下げて行った。

ただ、アイリだけは俺が背負って移動しているおり、コイツの実力ならもう少し下の魔物と戦わせた方が効率が良い。


「・・・お父さん・・・帰って来て。」


すると背中で寝ているアイリから寝言が聞こえて来る。

そう言えば店に何度も行ったけど母親であるヤベさんとは会った事があるけど父親の顔は見た事が無い。

失踪中なら届け出をすれば探す事も可能なはずなんだけど、それもしていないのか?

でもアイリの剣の師なら少なくともかなりの実力者で間違いないので、ちょっと組織経由で調べてもらうか。


俺はそう結論付けると今日の所はミドウさんに任せ様子を見守る事にした。

奇しくも前日に言っていた望み通りに温い訓練となってしまったけど仕方がない。


「そろそろ時間ですね。」

「ああ、今なら戻った方が早そうだ。」


俺達が進んだのは半日で4階層だけだ。

戻る為の時間も考慮すればそろそろ引き返さないと夕飯の時間に遅れてしまう。

アイリも無事に起きているので後は戻るだけで、それまでにも魔物の相手をさせれば良いだろう。


そして外に出てホテルに到着するともう教える事が無いかもしれな生徒たちへと言葉を掛けてやる事にした。


「カトウ、フクダ、タケウチ、スガワラ。」

「「「「はい。」」」」

「今日の事で自分にどれだけ覚悟が足りていないかは理解が出来ただろ。合宿はここで終わりではないが、このままでは高い確率で落第する。それを胸に刻んで明日からは心機一転して頑張れ。」

「「「「はい。」」」」

「あの、でもどうしたら・・・。」

「一度タチバナと話でもして教えてもらえ。ササイでも良いが俺が言うよりかは信じられるだろ。アイツ等が何のために、誰の為に戦うのかを知れば十分なアドバイスになるはずだ。」

「分かりました。」

「アドバイスをありがとうございます。」

「来年も学園で会える様に期待しているぞ。」

「「「「はい!」」」」


これで解散にして俺はスマホから組織へと連絡を入れた。

直接行くのが一番なんだけど今は京都の本部はドタバタしているのであまり機能していない。

ここの支部は少し離れた所にあるので行った事が無いけど、正確な情報を得るためには直接行く必要がある。

だからそれまでに少しでも情報を整理してもらわなければ待ち時間が長くなるので時間が勿体ない。


『はい、こちら松山支部。』

「調査を依頼したい。出来るだけ最優先で。」

『分かりました。組織への登録はされていますか?』

「ああ。」


俺は登録証に書かれている番号を見てそれを伝えていく。

するとすぐに向こうから素っ頓狂な声が返って来る。


『ま、まさか英雄様ですか!』

「そうらしいな。」


そして交渉の結果は最優先で調べてくれる事になった。

今から行く事も伝えると割れんばかりの声で「お待ちしています。」と返してくる。


「アズサ。ちょっと組織の支部に行って来る。」

「やっぱりあの子の事が気になる?」

「ああ・・・ごめん。」


俺はあんなに言われてはいたけど、やっぱり仲良くなった店の娘と言う事で何か出来るなら手を貸してやりたい。

恋愛感情は全くないけど申し訳ない気持ちから自然と頭を下げる。

しかしアズサは笑みを浮かべたまま首を横に振ってくれた。


「ううん。私もちょっと気になってたから良いよ。すぐに帰って来れるの?」

「向こう次第だな。いざとなったら強硬手段も使わせてもらう。」


支部が情報を持ってない可能性もあるけど秘匿する事も考えられる。

まだ先日の事件からそれ程時間も経過していないので流石のアンドウさんでも支部の全てまで調査は出来ていないだろう。

元から安倍家の失墜自体がイレギュラーな出来事だったので仕方がなとしか言えない。

だからいざとなればマルチに活躍してもらう事になるだろう。


「マルチ。スマホを胸ポケットに入れとくから状況に応じて好きに動いてくれ。出来るだけ痕跡は残さない様にな。」

「はい。」

「その場合に何か情報が出たら使えそうならハルカ経由でアンドウさんに伝えてくれ。」

「任せなさい。さっそく今朝の事が正夢になるかもしれないわね。」


そう言えばハルカは夢で俺と潜入工作をした夢を見たと言っていた。

たまには夢の通りに動くのもそれはそれで良いかもしれない。


「それなら今回はハルカも同行するか?見えない所での調査は任せたいからな。」

「面白そうだからそれで行きましょう。」


そして夢のお告げを信じてハルカを同行させる事に決まった。

支部の場所も知っているそうなので案内してもらう事になり、俺達はホテルから出るとすぐに移動を開始する。



「なんだかハルヤが動き出したみたいね。」

「アヤツが動くといつも大袈裟になるからのう。今回くらいは空回りで終われば良いんじゃが。」


屋上で飛んで行くハルヤの後ろ姿を見ながらゲンとトウコは苦笑を浮かべた。

するとその横で酒をラッパ飲みしているスサノオと大国主が会話へと加わってくる。


「アイツの属性は破壊だからな。深く関わりゃ変化も起きるさ。」

「しかし半神の破壊神と言っても面白い奴じゃ。他人の運命を壊して再構築しておる。」

「アイツの周りにゃ女神が集まってるからな。その影響も受けてんだろうけどハルヤの奴はそういう所にとことん鈍いからな。あのままだと後100年は気付かねーかも知れねえな。」

「壁を超えた時点で神への進化は始まっていると知っとるはずなのだがな。」

「フフ。あの子は忘れっぽいですからね。」

「昔からそういう所は馬鹿なままじゃな。」

「違いねえぜ!」

「「「「ハハハハハ!」」」」


そんな会話がされているとは知らずにハルヤは目的地へと向かっていく。

そして到着すると扉を開け、子供の姿で中へと入って行った。

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