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307 訓練合宿 最終日 ①

昨日で訓練も終わり、その成果を見せる日がやって来た。

Aチームからは試合の結果、武田タケダという生徒が出る事になっている。

元々は2位だったのだけど、ササイがタチバナと試合をするのでAチームとの試合を辞退したからだ。

それに今後も頑張れば学園で進学か卒業が出来る事は伝えてあるのでササイ以外には強い拘りは無く、他のメンバーも2人を応援している。


ちなみに試合に出るタケダは最初に治療をした生徒だ。

ササイと共にAチームを纏めていたのでその調子で頑張れば卒業してもパーティリーダーとして頑張って行けるだろう。


そしてBチームは出場させないと言う決定は変わらないけど、もし戦えば勝つのはBチームの出場者だろう。

現在のアイツ等は気構えがまるで違うので試合気分でやり合えば一瞬で勝負が決まってしまう。


そしてCチームからは予定通りにイノウエが出る事になっている。

こちらは試合ではなくマルチが訓練を見て総合的に決めた結果だ。

何でも昨日1日はオフにして海水浴をしていたというのだから何気に甘い所がある。

俺なら海水浴と銘打って完全武装で魔物を誘き寄せ、水中戦をさせるだろう。

水中での戦闘は俺も少し覚えがあるけど、色々と厳しい点も多く経験しておくのも悪い事じゃない。

国によってはダンジョンで水の中を進まないといけない場所もあると聞いているので機会があれば体験させてやろう。

別に武器を振ったり訓練する程度なら学園にあるプールでも可能だからな。


そして、この島に居る全員がAチームで使っていたキャンプ地に集合している。

Bチームのキャンプ地は綺麗にしてはいるけど、色々な物が飛び散っていたのでマルチの提案で使わない事にした。

Cチームのキャンプ地ではあそこを最初の拠点として島を開発するので壊す訳にはいかない。

なので壊れても問題の無いAチームのキャンプ地が選ばれた訳だ。


「これから試合をするから、なるべく相手を殺さない様に気を付けろよ。」

「そこは殺さない様にって断言して欲しいわね。」

「死んだら生き返らせてやるから安心しろ。最終確認だけど、もしもに備えて体の一部は預けて来てるな。」


ここに居る連中は来る前に爪や髪などを学園に預けているはずで一応は危険地帯に行くことになっているのでもしもに備えてという所だ。

捜索と回収は可能だけど、もし深海にでも連れ去られたら回収が面倒になる。

すると現代の常識に当てはめ理由が分からないタケダが質問をしてきた。


「教官。どうして体の一部を預けて来ているのか教えてもらえますか?」

「国家機密を知りたいなら教えてやるぞ。」

「それなら結構です。」


すると変な事には関わりたくないのか即座に視線を逸らして背中を向けてしまった。

イノウエの方はまるで余計な事を聞くなと言った顔をタケダへと向けている。

でも、これは数年後には分かる事だろうから種明かしをしておいても問題は無いだろう。


「そうか、そんなに知りたいなら教えてやろう。上級蘇生薬を超える上級蘇生薬・改なら肉片の一部からでも蘇生が出来るからだ。今の価格は1本1億円前後だが欲しい奴は俺から奪いに来い。その時は本気で相手をしてやろう。」


すると周りの奴等は驚きながらも勢い良く首を横に振っている。

マコトとナゴミも驚いているけど、値段に関しては言ってなかった気がする。

でも今の2人なら数年掛ければ稼げない金額ではないので、そんなに驚かなくても良い筈だ。

そしてイノウエが心配そうな表情を浮かべているのでこちらから声を掛けてみる。


「どうしたんだ?」

「凄い重要な情報を簡単に口にしてるけど漏れたら家族とかが危険じゃないの?」

「俺の家族は・・・そうだな。俺の家を襲撃すれば分かるだろ。」

「もしかして高名な探索者なんですか?」

「いや、普通の会社員と専業主婦だな。」


但し、レベルが100であるのは言うまでもない。

壁こそ超えてはいないけど今の時代では100人も居ない俺と同じ本物の覚醒者だ。

同じレベルの者が居たとしても、この時代の者とは隔絶した強さを持っている。


「でも強いのよね。」

「手合わせをすれば分かるだろ。暇な時はダンジョンに出かけている程度だ。それよりも無駄話が過ぎたな。そろそろ始めるぞ。」

「誰のせいよ!誰の!」

「ハハハ。俺のせいです。」


話しを始めたのは俺なのでここは笑いながら軽く謝っておく。

そして2人が互いに5メートル程の距離を空けると剣を抜いて構えを取るのを見て開始の合図を送った。


「それでは始めー!」

「先手必勝!」


そう叫んで飛び掛かったのはタケダの方だ。

剣を上段に掲げて縮地で間合いに入ると力任せに剣を振り下ろした。


「太刀筋が甘いわ!」


するとイノウエはそれを読んでいた様でタイミングを合わせて剣を横に振ると軌道を逸らし、そのまま体を捻って回し蹴りを放つ。

しかしタケダはそのまま剣の流された方途へと体ごと飛び込むと一回転して蹴りを躱し距離を空けて構えを取り直した。


「危ねえな。体術まで使えるのか。」

「女なら護身術くらいは嗜みでしょ。」


とは言っても足に付けてある脚甲の性能を考えれば生身に当たると骨が砕けていただろうから、それが分かる者から見るとあまりにも危険な嗜みと言える。

もちろん同じ装備を身に纏っているタケダも、その事は十分に理解しているはずだ。

その為に無理をしてでも避けたのだろうけど、その顔にはまだ余裕の笑みが浮かんでいる。


「だが今の対応から力は俺に分があると見た!」


どうやらタケダは今の1合の打ち合いでそう判断したようで、今度は剣を流されにくい横薙ぎで攻撃を仕掛ける。

しかしイノウエはその口元に笑みを浮かべると正面から見事に受け止めて見せた。


「何!」

「レベルだけで判断してたら怪我をするわよ。私達が何度そこに居る奴とやり合ったと思ってるの!」


確かにCチームのメンバーは頻繁に怒らせていたので何度もやり合った記憶がある。

そのおかげで身体強化系のスキルを幾つか習得しているので、それが今の状況を作り出しているのだろう。

とくにイノウエは事ある毎に突っ掛かって来ていたので一番回数が多かった。

それ以外にもマルチによって程よく筋肉も発達させられているので見た目以上に肉体性能も高い。


逆にAチームの奴等には時間があまり無かったので直接鍛えた事はあまり無く、能力的に見るとその差は大きいだろう。


「タケダ油断するなよ。」

「そう言う事は先に言ってくださいよ!」


すると鍔迫り合いに持ち込んで押し勝とうとしていたのに、逆に負けそうになっているので泣き言を漏らし始めた。

そしてイノウエが剣を押し込みながら1歩前に出ると足元から岩の棘が飛び出しタケダへと襲い掛かる。

これは詠唱破棄ではなく詠唱代替の方だろうけどステップによって魔法を使うとは考えたな。

しかし、それをタケダは体を少し動かして鎧で受けるとその反動を利用して再び距離を取った。

するとその一瞬に隙が生まれそこを突く様に今度はイノウエが間合いを詰める。


「しまった!」

「もらったー!」

「・・・なんてな。」


タケダは焦っていた顔が笑みに変わると空中で素早く飛び跳ねて攻撃を躱した。

そのため大振りになっていたイノウエは攻撃を躱されてしまった事で大きく体勢を崩すと大きな隙を晒してしまう。

どうやらタケダの作戦に嵌って隙を作ってしまったのはイノウエの方だったようで、その間にタケダは後ろに回ると剣を振り下ろして背後から襲い掛かる。

そしてガラ空きになっていた背中に剣が迫るとイノウエは走る痛みに耐える為に強く目を閉じて歯を食いしばった。

しかし痛みは走らず、その場に俺の声だけが響き渡る。


「勝負ありだ。」


そして振り下ろされた剣は俺が素手で受け止めているのでイノウエに怪我は無い。

それにもしこのまま見過ごしていれば背中に流れている髪がバッサリと切り取られていただろう。

せっかく綺麗に伸ばしているのだから事故でも切り取ってしまうのは勿体ない。


「髪は女の命だからな。タケダも彼女が欲しいならその辺は気を遣わないと嫌われるぞ。」

「そんな余裕はありませんよ。」

「それならもっと強くならないとな。」

「・・・了解です。」

「イノウエも戦闘中くらいは髪を纏めとけ。」

「う、うん。・・・ありがと。」


そしてタケダとイノウエは剣を収めると互いに礼をして自分のチームへと戻って行った。

数日前までは碌に戦えなかった2人にしては良い試合だったので学園に戻っても合格点が貰えるだろう。

それに互いに得る物があったようで勝ったタケダだけでなく、イノウエも嬉しそうな表情を浮かべている。


「それじゃあ次はササイとタチバナだな。」


そして、俺が声を掛けるとササイが出て来て周りへと視線を向けた。

どうやらタチバナが出て来ないので探しているようだ。


「教官。アイツの姿が見えないが何処にいるんだ?」

「ああ、アイツならここに居るぞ。」

「は?」


すると言葉の意味が分からないのかササイは首を傾げて不機嫌そうに表情を歪めた。

ガンを飛ばしている様に見えるのは見捨てられた事を思い出して気が立っているからだろう。

俺はそんなササイの前で生首を取り出すとそれを地面へと置いて蘇生薬を振り掛ける。

それによって生首から蘇生が完了し女性陣も居るので素早く要らない毛布を掛けておく。


「まさか死んでるとは思わなかったぜ。」

「普通はこのまま連れ帰って真偽官に審問を依頼するつもりだったんだ。場合によってはこれがまともに戦える最後の機会かもしれないから悔いのない様に存分にやれ。」

「そのつもりだぜ!」


そして俺はタチバナの傍に立つと面倒そうに足で触れ体を揺すって起こしてやる。


「・・・教官は男に対して扱いが雑だよな。」

「気のせいだろ。それよりも俺はもう1人生き返らせるからここは任せたからな。」


それにコイツ等が以前まで使っていたような武器だと数合も打ち合えば壊れてしまう。

それくらいは合わせてやらないと試合にすらならないので服と装備を渡してその場から離れるとタケダの許へと向かって行った。


「タケダ。お前にはコイツを頼む。」


そして次に取り出したのはフドウのミンチだ。

ハッキリ言って原型を一切保っていないのでパッと見は何か分からない。

しかしタチバナの事もあってすぐに足元の肉塊が何なのかに気付くと周りから「オエー!」という声と共に地面に何かが『ビチャビチャ』と落ちる音が聞こえて来る。

どうやら、ちょっとだけ刺激が強過ぎたみたいで、このままだと地面を汚す者が続出してしまうので早く蘇生させよう。

これならBチームの所に行って任せた方が良かったかもしれない。


そして蘇生が終わると後は任せて元の場所へと戻って行った。


「準備は終わったか。」

「テメーこれはどういう事だ!」


すると俺の顔を見てすぐにタチバナは掴み掛って来た。

しかしコイツは学ばないのか、それとも記憶が消えているのか、再び俺に腕を掴まれて動きが止まる。


「お前に選択肢は無い。このままササイと試合をするか俺に殺されるかだ。」

「チッ!試合くらいしてやるよ!」


実のところを言うと前回はちょっと優しく扱い過ぎたと思っている。

なので今回は容赦なく威圧し、掴んでいる腕を握り潰す1歩手前まで力を込めてやる。

その甲斐があったのかタチバナは素直に納得して首を縦に振ってくれた。

それにしても、どうもコイツを見ていると何故かイライラして来る。

フドウも同じ感じでつい苛ついてミンチにしてしまった。

なんだか生理的に受け付けないと言うか、他の奴なら許せる事でもこいつら2人に関しては許す気が湧いてこない。


「ならササイと向かい合って試合の準備を整えろ。」

「分かってるから一々言うんじゃねえ!」


そして俺から逃げる様に離れてササイと向かい合うと、何度か大きな深呼吸をして気分を落ち着けたのかその顔に余裕が戻って来る。

どうやら思っていた以上に立ち直りは早い様だ。

既に口元には笑みが戻り、その目はまるで相手を馬鹿にしている様にも見える。

初めて会話をした時もこんな感じだったけど、この自信は何処から湧いて来るのだろうか?

すると俺が開始の合図を出す前にタチバナはササイへと声を掛けた。


「お前程度の奴が俺に勝てると思ってるのか?少し死んでいた様だが状況から言って数日と言った所か。その程度の期間で雑魚が選ばれた血筋の俺の前に立つとはおこがましいと思わないのか。」

「良く喋る口だな。漢なら言葉よりも剣と拳で語ってみろや!」

「雑種の分際で吠えるんじゃねえ!」


それにしてもタチバナは何処かの有名な家系なのか?

安倍家なら安倍の姓を持っているだろうし、それを持っていないとなると本人も雑種のはずだ。

天皇家という可能性も無い訳では無いけど、あそこは神の加護を強く受けているので独特な気配を纏っている。

タチバナにはそれが無いので可能性は限りなく薄いだろう。

それともあの時の対戦で活躍した別の武将の子孫だろうか。

そう思っていると互いに会話がヒートアップし始めていた。


「何が英雄の家系だ!テメーこそ先祖に恥ずかしくねえのかよ!」

「ハッ!そんなのは僻みにしか聞こえねーな!選ばれた者はそれだけでも周りを凌駕する力を持つ事が出来る。血や家系で選ばれるとはそう言う事だ!」

「なら俺がテメーこそが雑魚だと分からせてやるよ!」

「話が済んだなら開始しろ。」

「「死ねやーーー!」」


そして、このままだと勝手に始めそうだったので話しに割って入り開始の合図を掛けてやる。

すると2人は怒りをぶつけ合う様に剣をぶつけ合い、殺気に満ちた戦いを始めた。

使っている武器が良いので壊れないけど、元々使っていた物なら互いに1合目をぶつけた瞬間に砕けていただろう。

それにしても、もしかしなくてもタチバナは俺の子孫だったらしい。

厳島で会った俺の子孫たちは誠実に生きていたので安心していたのに、こんな増長した奴も居るみたいだ。


俺が死んでから400年は経過しているので、こういった奴が出て来てもおかしくは無いのかもしれない。

安倍家だってヒコボシには最初に会た時に問題があったけど、奥さんのオリヒメに関しては立派な人物だった。

それがあそこまで腐っていたのだから誰の子孫でも関係なくこういった奴等が現れてもおかしくない。

そして戦いを見ているとマルチが俺の横へと並び、追加の情報を教えてくれた。


「あのフドウという男もマスターの子孫だと推測されます。魂の一部にアナタの加護が付いている様です。」

「俺の加護?」


そう言えば俺の子孫には生まれつき他の人よりも強い力が宿っていた。

俺からすれば誤差の範囲だけど本当はそうでなかったのかもしれない。

特に俺が死んだ後には同じ様な覚醒者は居なくなっていた。

今の様にステータスが広がったのはその後の事だけど、俺の子孫には生まれついて強い力が宿る様になったと考えるべきだ。


「でもそんなの良くわかるな。俺も魂が見えるけど全く見分けがつかないぞ。」

「今はこの様な見た目ですが元は解析や情報収集に特化していたので私に掛かればこの程度は大した事ではありません。」

「そうか。マルチは今も凄いんだな。」


俺はそう言って丁度良い位置にある頭に手を置いて撫でてやる。

すると無表情だった顔が赤らめると少しだけ距離を詰めてきたので、どうやらマルチは頭を撫でられるのが好きな様だ。


「ちなみに勘違いが無い様に言っておきますが、私に気安く触れて良い男性はマスターだけです。」


そして俺の思考でも読んでいたかのように勘違いを訂正して来る。

しかし不機嫌と言う訳では無く、なんだか宣言のようにも聞こえる。

ただ他の皆も似たり寄ったりなので気にする程の事では無い。

それよりも重要なのは目の前で行われている死合いの経過だろう。


戦う前から険悪なムードだったので予想はしていたけど既に試合や喧嘩の域を超えそうになっている。

それにタチバナの奴も意外とやるようでレベルが16とササイより8も低いのに善戦しており、特に勘が鋭くて攻撃を先読みする事に長けているようだ。

その証拠にスキルには『直感』『危機感知』『見切り』と言った感覚系のスキルが並んでいる。

それに元から体が大きくて鍛えてもいるのでステータスの低さを地力で補っていて力負けはしていない。

しかし五感強化系のスキルを持っていないのでスピードで翻弄され防戦に徹しているようだ。


ただ『見切り』は戦いが長引けば次第に有利になっていくスキルで同じ様な攻撃が来ると簡単に避けられるようになる。

もしタチバナがそれを狙っていて、ササイが気付いてないなら最後に勝つのはタチバナの方になるだろう。

しかしササイも無駄にタチバナの傍にした訳ではないようだ。


「テメーはいつも変わらねーな!勝てない相手にはそうやって防御に徹してばかりだ。」

「無駄口を叩けるのも今の内だぜ!戦いっていうのは最後に立ってる奴が勝者なんだからな!」


既にタチバナはササイの攻撃の半分を見切って逸らしたり躱し始めている。

しかし見た目や態度と違って戦闘では慎重な性格のようで亀の様に防御を固めて攻撃に転じる様子はない。

それならこの間にササイにはちょっとした事を思い出してもらおう。


俺は過去にダイゴと話をした時の様に威圧を叩きつけ、更にその足首にSソードの切っ先を走らせると腱を切断した様な痛みを与えた。

通常こんな事をした程度では過去の記憶が戻らないのは分かっているけど既に俺の事を旦那と無意識に呼んで記憶が戻り掛けている。

もしかするとあと一押しで記憶を思い出すかもしれない。


「いってー!な、何すんですかい旦那!・・・あれ?どうなってるんですかい?」

「ハハハ!アイツはお前の見方じゃなかったのか!?」


すると頭を抱えて動きの止まったササイへとタチバナは剣を振り下ろした。

流石にあれだけ隙だらけならこのチャンスに決着を急ぎたくなるのも仕方ない。

あの戦法は俺も使うけど相手の方が格上と判断した時の苦肉の策でもある。

だから、それを分かって防戦に徹しているタチバナからすれば、勝利という餌をチラつかされているのと変わらないだろう。

しかしササイは剣が頭に落ちて来るまでの間に思考を加速させ、こちらへと視線を向けて来た。


「こりゃどうなってるんですかい?以前と今の記憶がありやすが?」

「お前は今のササイとして転生させてもらえたんだ。それよりも早く決着を着けろ。次の試合が控えてるんだ。」

「へイ。良く分かりやせんがこの程度の相手なら問題ありませんぜ。」

「それよりも今まで通りにササイとして行動しろよ。今は昔みたいなチンピラじゃなく九十九学園の生徒なんだからな。」

「ヘイ・・・じゃなくて了解です。」


そしてササイは過去の再現から記憶を取り戻すと同時に力も取り戻した。

その結果レベルは100へと急激に上昇し、複数のスキルがステータスに追加されると迫って来る剣を軽々と掴み取った。


「な!?」

「残念だが遊びは終わりだ。お前も旦那の子孫なら、まずは力よりも心を鍛えるんだな。」

「何を言ってやがる!力があれば相手を屈服させて言う事を聞かせられるだろうが!」

「は~~~・・・なんだか旦那と会う前の自分を見てる気分だな。これは徹底的に圧し折ってから鍛え直した方が良さそうだ。」


ササイは掴んでいる剣をそのまま握り潰すと武器を捨てて拳を叩きつけた。

その1撃は手加減をされていてもタチバナの防御を容易く貫通し、腹部へと突き刺さると口から血を吐き出させる。


「ゴハ!ば、馬鹿な!」

「お前は他人の痛みをもっと知るべきだ。痛みを知れば自分が今までどれだけ酷い事を他人にして来たかにも気付ける。それに旦那をマジで怒らせる前で良かったな。あの人が怒ったら俺程度じゃ足元にも及ばねーぞ。」


そしてササイは痛みと教訓を体に刻み込むように拳を叩きつけて行く。

それによってタチバナは骨が砕け、肉は潰れ、血を吐き出すけど俺が適度に回復させているので死ぬ事は無い。

すると次第に戦意を削り取られていったタチバナの心がある所でポッキリと折れた。


「も、もう~許してくれ!俺が悪かった!」

「これに懲りたら自分から弱い者に拳を振るうんじゃねえぞ。今後は護る為に力を振るいやがれ。」


既にタチバナにはササイに抵抗するだけの心力は残されていない。

完全に怯えてしまい目からは滝のように涙を流して顔をクシャクシャにしている。

その姿にタチバナを知る者達は驚きの表情を浮かべているけど、ササイはその直後に別の方向へと歩き始めた。


その先には既に試合を終えて休憩をしているイノウエが石の上に腰を下ろしている。

その前にまで移動するとその場に膝をついて斜め上にある顔を見上げた。


「な、何?」

「・・・惚れた。」

「は!?」

「好きだ。俺と付き合って欲しい。」


するとササイの真剣な顔に本気で言っていると気付いたのか、その顔が真っ赤に染まっていく。

しかしササイはただ黙って動く事無く答えを待っていた。


「そ、その・・・本気・・なの?」

「もちろんだ。俺は碌で無しだが絶対にお前の事は幸せにしてみせる!」


そして先程よりも強く真剣な瞳をイノウエへと向ける。

それに対してイノウエは一瞬だけ俺に視線を向けるけど、目を瞑って少し考えた後に答えを返した。


「なら私が他に目移りしないくらいに惚れさせてみて。」

「任せろ!」


そう言ってササイは立ち上がるとイノウエを素早く抱き上げた。

そして自信に満ちた笑顔を向けると大きく頷きをして見せる。


「ちょ、まだ付き合うなんて言ってないでしょ!」

「はは!手加減しないから覚悟しろよ。」

「ちょっと話を聞きなさい!・・・も~~~強引なんだから。」


そしてイノウエも苦笑をしながら結局は拒まずにササイの言葉と行動を受け入れた。

周りもそんな2人に笑顔で拍手を送り、カップルの誕生を祝福している。

それにしても昔も今も思い切りが良いとは思っていたけど大胆な行動に出たな。

でも知らない相手ではないので出来れば幸せになってもらいたいと思える。


「ダイゴ。」

「何ですか旦那・・じゃなかった、教官。」

「護ると決めたなら覚悟をしろよ。」

「もちろんです。一生護って見せますぜ。」

「アンタ達は何処まで話を飛躍させてるのよ!」


そして周りから笑われたり囃し立てられながら少しの間2人はジャレ合うとササイはAチームの許へと戻って行った。

その間にタチバナは怪我と痛みに意識を失いBチームの許へと運ばれている。

あそこならある意味で言えば病人ばかりなので大丈夫だろうか。

そして場が和んだあたりで次の試合の為に2人に向かって声を掛けた。

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