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302 訓練合宿 2日目 ⑤

俺は男性野郎Aチームが動き出したのと同時に部屋を出ると、裏手に回って進行方向に先回りするとそこで相手を待ち構えた。

その様子をマルチに誘導された女性陣がシェルターの陰から覗いているのが分かる。


すると、やって来た男達は闇の中に立っている俺を見つけて足を止め、声は出さずに学校で教わったハンドサインを使い周囲を取り囲んで行く。

しかも数人は一番端にあるナゴミの居るシェルターへと向かっているようだ。

今の2人は見た目相応と言うか、昼間の訓練に疲れて眠ってしまっている。

やっぱりあの歳で周りと同じ事をしろと言うのは無理があったようだけど、あちらには容赦の無いマルチが既に控えているので心配は無い。

放っておいても上手くやってくれるだろう。


すると準備が整ったのを見てリーダーと思しき男が前に出てきた。

名前はフドウと言うらしくスキルに『扇動』を持っている。

これは相手を自分と同じ考えに誘導する事が出来て普段は良い事に使われる事が多い。

例えばイベントを盛り上げるとか、ボランティアに行く人のやる気を向上させるとか、長い列が出来ても苛つかなくさせるなど活躍する場面は多い。

しかし悪用すればテロや暴動を誘発するので、そういった事に使用した場合は重い罪が課せられる事になる。

そして足を止めて俺を見ると笑みを絶やさずに声を掛けてきた。


「ちょっと訪ねたいのだけど良いかな?不適合者君。」


すると途端に周りから噛み殺した様な笑い声が洩れ聞こえて来る。

扇動のスキルを使っているならこれがフドウの本心という事だろう。

しかし俺個人としてはその呼び名は好きな小説で出て来る言葉なのでちょっと気に入っている。

色々な意味で俺を現している様でしっくり来るのも理由の一つだ。

それに初対面の相手に下の名前で呼ばれるよりかはマシだろう。


「それで、こんな夜更けに夜這いですか?」

「聞いているのはこちらです。それに私は貧乳に興味はないのですよ。」


すると途端に背後から殺気が立ち上り背後に幽鬼でも居るかの様に重くねばりつく様な気配が伝わって来る。

なんだか今ならこの場を任せても良い気がするけど、刺激しない様に胸に関しては触れない様にしよう。

そうでないと勝手に自分達で武器を抜いて飛び出してしまいそうだ。

もしも豊胸作業を食後にしていなければ、今頃は血みどろの戦いが始まっていたかもしれない。


「それで何が聞きたいのですか?」

「ここに余分な食料があると聞いて来ましてね。出来ればここの代表と話がしたいのですよ。」


これは明らかに嘘で間違いないな。

それにコイツ等が知っているのは良くても食料があるという事だけだ。

さっきの夕食の時にも必要な分しか食材を出してはいないので見ていたとしても把握できているはずは無い。


「そんな出鱈目を誰が言ったのですか?それに海に入れば食料は取れるでしょう。それとも魔物が怖くて海に出れないとでも?」

「ハッハッハ・・・。」

「ハッハッハ!もしかして地雷を踏みましたか?」

「黙りなさい!私への侮辱は誰だろうと許しませんよ!」


するとフドウは急に感情的になると顔を歪めて怒りをぶつけて来た。

器用な事をする奴だけど普段から俺以上に猫を被っているのだろうけど怒りの対象が自分だけとは思っていた以上に傲慢な奴だ。


「そうですか。それで聞きたい事とは食料は有るかって事ですね。もし在るならどうするのですか?」

「もちろん話し合って貰って行くのですよ。僕は暴力が嫌いでしてね。」


そう言いながらも周囲の男達が包囲を狭めているのでコイツ自体は暴力が嫌いでも周りの奴等はそうでもなさそうだ。

この島に来て既に1日半が経過しているので九十九学生と言っても温室育ちの学生にはそろそろ限界なのかもしれない。

流石に断食をして空腹に慣らさせる訓練はしてないので当然だけど、この程度で理性が緩むとは呆れてしまいそうだ。

しかも、そんな状態で鼻先に食料とそれを食べる光景があれば、心の隙を突かれてしまい『扇動』で簡単に流されてしまうだろう。

後日にでもこの事はゲンさんに報告して訓練に取り入れた方が良いかもしれない。


「もし君が案内をしてくれるなら手荒な事はしなくても済む。それにこちらのメンバーにも加えてあげようじゃないか。どうだい?君にとっても悪くはない条件だろ。」


しかし周りの表情を見るとそうとは言っていないので、意外と周りを見るだけで本心が丸分かりなスキルだ。

それとも全員が同じ事を思っているだけか、あいつ自身が『扇動』のスキルを扱いきれていないのだろう。

ただ他人のスキルに流されている周囲の奴等も、それを過信しているフドウもまだまだと言える。


「さあ答えを聞かせてくれ。」

「丁重にお断りします。」

「なに!?」


すると反抗された事に腹を立てたのかフドウの表情が怒りに歪む。

この程度で心を乱すとは持っているスキルは有用なのにここへ送られて来ただけはある。

そして、その顔が笑みに戻ると無言で周りへとサインを送っており、これは捕縛ではなく攻撃命令だ。

それを見て周りは一瞬の躊躇もなく腰の剣を抜くと一斉に襲い掛かって来た。

元から俺の事を良く思っていない連中ならこの機会に死んでも良いとでも思っているのかもしれない。

そして振り下ろしや突きなどが前後左右と上方向から向かって来る。

俺はそれを瞬きすらせず、立ったまま何も対応せずに受け入れた。


「な!」

「どうなっているんだ!」


この程度の攻撃が俺の防御を突破できるはずは無いのはいつもの事だ。

目に向けられた突きでさえ防ぐに値せず、全員の動きが攻撃を放った形で硬直している。

それにしても、こんな事で思考が止まるとは修行が足りていない証でもある。

躊躇の無さは評価できるけど京都で再会したケイならこの瞬間に撤退を宣言しているだろう。

やっぱり実戦慣れしてない奴だとこの程度と採点するしか無さそうだ。


「お前等には教育的指導が必要だな。」

「お、お前は何をした!」

「二人称は君ではなかったのか?」

「だ、黙れ不適合者が!どうせ何かのトリックに決まっている!他の奴等も何をやっている!早くそいつを始末しろ!」


どうやらもう取り繕う気はなくなっているみたいで「捕らえろ」ではなく「始末しろ」とは完全に悪役のセリフだ。

それにコイツ等は明確な意思を持って敵対する選択をしたので、その事を後悔させてやるのが俺の出来る唯一の指導だ。


「フッフッフ!今こそ俺の中に眠る獣を解き放つ時が来た。さあ、お前の敵は目の前だ!怒るべき相手、憎むべき相手に牙を剥け!眼前の敵を殲滅して見せろ。」


俺は空に向かって叫ぶと周囲をシールドで覆い誰も逃げられないフィールドを作り出した。

そして姿を悪魔王である狼の半獣人へと変えると腕の一薙ぎで周りの者達を弾き飛ばし壁へと叩き付けた。


「ハーハハハ!愚かな人間共め!再び仲間同士で諍いをしているとはな!そのおかげで神の施した封印が緩みガキの体から出て来れたぞ!」

「ま、まさかお前が悪魔王なのか!」

「馬鹿な!アイツは神によって更生して僕になったはずじゃ無いのか!」


そういえば教会の伝えた話ではそうなっていたのだったな。

ならその話を上手く利用させてもらおう。


「愚かな人間よ聞くが良い!我は悪魔王の闇の部分!神に切り離されこの人間の中に封印されていたのだ!人の転生によって少しずつ分解され力が弱まっていたが貴様らのおかげで一時的にでも力が戻って来たぞ!」

「そ、そんな!俺達の責任で世界の敵を復活させてしまったのか!?」

「今頃気付いたか!しかし我は言ったはずだ!お前達が人間同士で再び争う時に我は復活すると。その言葉を忘れ、我を復活させてくれたお前達には等しく死を与えてやろう!」

「お、俺達のおかげで復活できたんじゃないのか!」


もしかして復活させたのだから命を助けろとか言っているのか。

残念だけどお前達の言う所の世界の敵はそんなに優しい存在ではない。


「何を都合の良い事を言っているのだ。我は切り離された事で純粋な悪となり良心など持ち合わせておらんわ。死を受け入れ我の復活を飾る花となれ!」


俺は向かって来る相手の剣を素手で弾き拳を振って命を奪って行く。

拳の1撃で殆どの部分がミンチになってしまうので生き返らせる時は中級蘇生薬が必要になりそうだ。

その光景に恐怖した連中は必死に逃げようと周囲のシールドへと攻撃を加えているけど、その程度の攻撃で破れるなら本当の戦闘では役に立たない。

俺は絶望に沈んでいる奴らの尽くを例外なく殺すと最後にフドウを残した。


「お前の罪は最も重い!ここに居る奴等を扇動し、ここに連れてきただけではなく略奪を行おうとしたのは分かっている!」

「ゆ、許してくれ・・・。出来心だったんだ。」

「ダメだ!!」


過去に始末した盗賊たちも同じ様な事を言っていた。

しかし同じ事を繰り返す内にそれが普通となり、やる事が奪うだけではなく傷害や殺害にまで発展する結果となっている。

人は慣れる生き物だと言うけど人殺もいつかは慣れてしまう。

まさに多くの人間を始末して来た俺みたいに。


「一度死んで反省するんだな。」


そして巨大化して恐怖を発動しフドウの心の隅々までを塗り潰してやる。

そのまま拳を引いて振り下ろすと最後の絶叫を上げて地面に赤い染みを作り出した。


「ふ~~~。それにしても教会の奴等が色々と盛ってるから話を合わせるだけでも面倒だ。それに後でもう一度、悪魔王の話しはおさらいしておかないとな。は~・・・聖書を読むのが一番面倒なんだよ。」


今は教皇の孫であるアンも居るから少しはマシか。

俺は愚痴っぽく独り言を呟くと死体を回収してシールドを解き外へと出た。

足元には大量の血が跡を残しているけど片付けるのは明日でも良いだろう。


「マルチの方も片付いたんだな。」

「この通りです。」


すると手に持っている3つの生首をこちらへと見せて来るのでマルチも敵に対して容赦が無いみたいだ。

どうせ生きていても俺の方で始末していただろうから結果に変わりはなかっただろう。

コイツ等には真偽官に依頼して本心を聞き出し、結果が良くない者には更生施設へと入ってもらおう。

結果が良好なら夏休みの後半にでも別の合宿を企画すれば良い。


ちなみに更生施設に入れられた者は神から能力を完全に封印されて普通の人間と同じにされる。

そこで私生活に慣らされて解放されるけど、封印を解除してもらえるかはその後の頑張りしだいだ。

ただ噂では能力を封印された者でそれを解除された者は殆ど居ないらしい。

これに関しては完全な自業自得でアイテムボックスくらいは残してくれるそうだから普通に生活を送るなら苦労する事は無いだろう。


「さて、こちらは任せたから俺は残りのチームの様子を見て来るよ。」

「分かりました。こちらは上手く言っておきます。」


そしてAチームのキャンプ地へと到着すると、そこにある小さな建物を覗き込んだ。

するとそこには体の至る所を食い千切られ、中途半端な治療しかされていない者達が何人も寝かされている。

動ける者は回復魔法を使える後衛が数人で、その者達も魔法の使い過ぎで倒れて眠っている有様だ。

周囲には痛みに呻く声も充満していて安眠するには向かない場所であるのは間違いない。


「た、助けてくれ・・・。」


すると痛みで眠れないのか1人の生徒が掠れる声で助けを求めてきた。

しかしタダで治してやるほど俺は優しくはない。


「助けてやっても良いが俺の指示に従え。」

「ああ・・何でも聞く。」


既に痛みに耐えて半日ほどが経過しているので正常な思考が失われつつあるのかもしれない。

誰とも分からない者とそんな約束をしても後でどうなっても知らないぞ。

今回は酷い扱いをするつもりもないのでコイツ等の事は明日から面倒を見てやろう。


「ならまずは起きて俺を手伝え。」

「え?あれ!?もう治ってる!」


部位欠損をしている訳では無いので直すのは簡単だ。

人体で一番治すのに時間が掛かるのは骨だから欠損していると指でも1秒は掛かる。

肉を治すだけなら彼らくらいの認識力だと一瞬と変わらないだろう。


「言っとくがさっきの約束を忘れるなよ。」

「あ、アナタは誰ですか?もしかして教師でしょうか?」


今はここに大人の姿で来ているので分からなくても当然だな。

普段の子供の姿だとさっきの奴等と対応が変わらないかもしれないからこの姿だけど、どうやら上手く行ったみたいだ。


「残念だが教師ではない。お前等を指導するために雇われた教官だ。明日からビシバシしごいてやるから覚悟しておけよ。」


俺はそう言ってからシャツを渡すと説明を行い、回復した奴らに配らせながら説明をさせて行った。

何度も同じ説明をしたり、起こしたりするのは面倒だからだ。

そして次第に起き出した数も増えて俺の事を教官と共通認識を持ち、服を着て名前を書き始めた。

これで明日からはこちらにも来ないといけないから、あちらはマルチに任せる事になりそうだ。

それにレベルも20を超えているのでこの辺の魔物だとそろそろ頭打ちだ。

数日掛けてもあと2~4くらい上がれば良い方だろう。

スキルの習得に関してもここの限られた環境では限界もあるので後はスキルを何処まで使いこなせるようになるかが課題となる。

実は今の時点でも帰して問題は無いけど胸の件があるのでもう数日は滞在してもらう必要がある。


「明日の朝にまた来るからそれまでにしっかりと飯を食べて寝ておけよ。」


そう言って俺は女性チームから徴収した食料を分けてやる事にした。

持って帰っても食うに困るので丁度良いだろう。

すると久しぶりに見た食料に感動したのか、揃って「ありがとうございます」と言ってくる。

それでも明日からは自分達で取る事はしっかりと伝えておいたので大事に食べるだろう。


そして、その場を離れると、もう1つの男性チームであるBチームへと向かって行った。

しかし、こちらは到着すると御通夜の様な光景が広がっている。

所々で小さな焚火か灯され、それを囲むように数人が固まって静かに炎を眺めて居るだけだ。

誰も喋らず無言なのでAチームとは違う不気味さがあるけど仲間が魔物に食べられて海に消えた後なら仕方がない。

もしそれでドンチャン騒ぎなんてしていれば風神とエクレに言って海に吹き飛ばした後に感電させていた。


ただ、こんなに雰囲気が悪いと碌に話も出来ない。

なのでまずはこの状況を改善する為にマルチから受け取った男のバラバラ死体を取り出して地面へと置く。

そして蘇生させて担ぐとBチームの許へと向かって行って声を掛ける。


「よう、不景気そうな面をしてるな。」

「だ、誰だお前は!」

「届け者だ。」


俺は名乗るよりも先に肩の荷物を足元へと置いて彼らへと見せた。

すると見覚えがあるのかこちらに駆け寄って来た男の1人が顔を確認し始める。

そして他の仲間も呼んで顔を確認させると何処かへと行ってしまった。

すると、すぐに体つきの良い男が大声を上げながらやって来て周囲の視線を集めた。

更に集まっていた周り者達を押し退けて俺の前まで来ると確認する様に声を上げる。


笹井ササイが戻ったって言うのは本当か!?」

「タチバナさん!」

「リーダー見てください!」


そして周りがそう呼んでいるという事は、あの男がこのチームの代表で間違いなさそうだ。

タチバナは地面で寝ている男に視線を向けると安心したように表情を崩して見せた。

しかし顔を上げた時には警戒感が籠った視線へと変わりこちらを睨みつけて来る。


「お前は何者だ。何故そいつを連れている?」

「そりゃあ俺がコイツを回収したからだ。」

「そいつを食ったメガロドンは海の何処かへと消えて行ったぞ。それを偶然見つけたっていうのか!?」


するとある程度は予想が付いているのか俺に対して語気を強めた。

しかし、こちらは笑みを崩さずにただ真実のみを伝えてやる。


「お前等が海でコイツを見捨てた所を見てたからに決まってるだろ。それともコイツが死んだのは別の理由だって言うのか?それなら今から起こして聞いてみるか。」

「ま、待て!」


俺はササイと呼ばれた男を足で触れて起きる様に体を揺すってやる。

その間にも周りは俺の言葉に驚きの声を上げ、あらぬ憶測も聞こえて来る。

ただタチバナはやけに焦っているので、もしかすると見捨てた事を周りに言わない様に口止めでもするつもりだったのかもしれない。

しかし、そんな時間は無いので目を覚まして体を起こしたササイは周囲を見回すとその目が真直ぐにタチバナへと向けた。


「よくも俺を見捨てやがったな!」

「あ、あの時は仕方なかっただろうが!それに俺はすぐに指示を出しただろ!」

「最初に逃げてからだろうが!」


どうやら互いに意見の食い違いがある様で話がなかなか前に進まない。

しかもタチバナは周りを気にしているようであまり強気には出れないようだ。

それでもかなりの苛つきを感じているのは確かで次第に表情が険しくなっている。


そして、その言い争いはしばらく続き、周りへと広がりながら不信感を植え付けてくれる。

その結果、ササイはタチバナと折り合いが悪くなった事でBチームを抜けてAチームへと移ると言い出した。


「こんな所でやってられるか!俺は分かれた奴らの所に行かせてもらうぞ!お前等もそいつに殺されたくなかったら早めにここを抜けるんだな!」


すると既に不信感を持っていた者が居たのか、ササイに付いて行く者が30人ほど居たのでどちらのチームも90人程となってくれた。

しかしAチームには既にフドウが居ない事を知らないタチバナは大きな舌打ちをして不機嫌そうに顔を歪める。


「チ!これでフドウの奴に大きく差を付けられたか!」

「そんなにフドウとか言うのと仲が悪いのか?」

「テメーには関係ねえ!それよりもお前は何処の誰だ!」

「そういえば名乗ってなかったな。俺はこの島に派遣された教官だ。昨日から今日に掛けてお前らの様子は見させてもらった。」

「なら、どうしてあの時に助けなかったんだ!?」


すると苛ついているのか大声で怒鳴り付け胸倉を掴もうとしてくる。

しかし、その腕を掴んで止めさせるとその場へと固定して動けないようにする。


「な!う、動かねえ・・・。」

「先に言っておくがあちらはAチーム。お前等はBチームだ。暫定的に女性たちをCチームとするなら、既にCチームは従順に訓練を開始して強くなっている。あちらのAチームに関しては明日からだ。」

「そんな事が信じられるか!女共が強くなっただと!たった1日で何が出来るって言うんだ!それにあのフドウが簡単に他人の言う事を聞く筈はねえ!」

「なら明日1日は拒否をするんだな。後悔するなよ。」


俺はそれだけ言うと何もせずに引き下り闇の中へと消えて行った。

それにメガロドンの様な大きな魔物は滅多に居ないので今日が特に運が悪かっただけだ。

残っているのは牙が生えたフライングフィッシュと烏賊や蛸。

後はシーマン・・・じゃなかった、マーマンの様な半魚人の人型魔物くらいだ。

それでもまだまだ数は多いのだけど、それだけなので強さはそんなに高くはない。

このまま戦っても怪我人が続出する程度だろうと評価すると自分のシェルターへと戻って行った。



そしてハルヤが飛び去った後で女性チームではマルチによる話が行われていた。


「皆さんも驚いた事でしょうね。」

「そりゃ当然でしょ!」

「まさかあんな化物になるなんて知らなかったもの!」


そう言って声を大きくしているのはいまだに顔色の悪いハヤシとシミズの2人だ。

しかし、マルチはそんな2人の言葉に大きな溜息を返した。


「アナタ達は何を相手にしているつもりだったのですか?」

「え?だって昨日までは落ち零れと思ってたんですよ。」


すると周りはそれに頷くがマルチだけは首を横へと振った。


「そうではなく我々の本当の敵は邪神なのです。それに彼の本当の強さはあの程度ではありません。それでも邪神を封印するしか方法が無かった。まさかアナタ達は自分達が常に安全な所に居ると考えていませんか?」

「そ、それはそうですけど・・・。」

「恐らく彼は今回の合宿で徹底的に全員を鍛えるつもりだったはずです。気紛れなのとチームが上手く分かれているのでアナタ達はこの程度で済んでいますが。」


すると先程からこの中の誰よりも真剣に話を聞いていたイノウエがマルチが何を言いたいのかに気が付いた。

彼女は小さく挙手をするとマルチに発言を許されてから話に加わる。


「もしかして、さっきみたいなのが普通に行われていたって事?」

「本人は元々そのつもりだったみたいです。生かさず殺さずで心が壊れる直前まで続ける予定だと言ってましたが皆さんも知っての通りに彼はヤリ過ぎる癖があるので合宿が終わった後には全員が再起不能になっていたでしょう。学園長たちもそこから這い上がれれば合格にするつもりでいたみたいです。」


すると今日1日の訓練を思い出してそれでもヤリ過ぎだと周りは納得した。

もしかするとここに居る全員がお嫁に行けない体となっていてもおかしくなかっただろう。

しかし今は偶然と運が味方してダイエットと豊胸をしてもらえる事になっている。

彼女らは口には出さなくても天国と地獄が余りに違う事を現世において実感していた。


「もしかして明日からもっとハードになるの?」

「明日からは私が指導を引き継ぎました。しかし楽になるとは思わないでください。戦国の時代ではあなた達のレベルで数人が100を超える魔物と戦う事も珍しくありませんでした。それくらいの事が出来るくらいには鍛えるので覚悟だけはしておいてください。」


すると先程の光景に比べればまだマシだと揃って頷きが返って来る。

そして彼女達は初めて過去の英雄と言われた人物の持つ力の片鱗を見て、何故こんな無茶苦茶とも言える学園が存続できているのかの意味を知る事となった。

その後もマルチからダンジョンにおいて魔物を狩る意味や重要性をレクチャーされ、ハルヤが戻って来たころには怯える顔をする者は1人も居なくなっていた。

そして逆に普段よりも普通に話せるようになっている事に首を傾げると自分のシェルターへと戻って行き眠りに着いた。

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