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298 訓練合宿 2日目 ①

朝になて目を覚ますと窓の外では太陽が地平線から登り、綺麗な朝焼けを作り出していた。

それにこういった光景を日本で見ようと思えば地域も限られるため多くの者が既に外へと集まっている。

どうやら見た事が無い者が多く居る様で早朝の5時だというのに揃って景色を眺めているようだ。

それにしても昨夜は頑張ってくれたからかトワコたちが毛布に忍び込んで寝息を立てている。

確かエクレはこういう事が無い様に監視役で来ていると言っていたのに一緒に寝ていては同罪では無いだろうか。

もしかすると口裏を合わせて何も無かったと言うつもりかもしれない。

ただし、それが通用する様な婚約者たちではないのできっとお仕置が待ち構えているだろう。

俺は少しでも自分へのお仕置が軽くなる様に身代わりの熊さんの縫ぐるみを残して外へと向かって行った。


「なかなかに爽快な朝だな。昨夜の嵐のおかげで空気も澄んでいて塩っぽさも少し薄らいでる。」

「あ、おはよう。昨日は驚いてお礼も言えなかったけど改めてありがとう。」

「シャワーもあって助かりました。」

「あっちに行かなくて良かったね。」

「今迄ごめんなさい。」


そして、俺の力の一端を見たからか揃ってお礼や謝罪をして来る。

ただ、それに関しては学園側が悪いと言えない事も無いので彼女達だけの責任ではない。

それにマルチの顔を立てて一晩の宿は提供したけど今日からも使いたいならタダで使わせる訳にはいかないのでその辺の線引きはしっかりとさせてもらう。


「喜んでいる所悪いけど、今日からは別料金だ。それが払えないなら残念だけど出て行ってもらう。」

「な、何をしろっていうの!?」


すると周りからは警戒が生まれ、俺を睨んでいる者まで居る。

俺がお金に汚いという噂もあるみたいだから当然と言えるけど、一晩で態度を完全に変えるまでには至っていないと言うところか。


「まずは全員に食料を集めてもらう。その1割を頂こう。それと料理はそちらで作ってくれ。」

「そ、それくらいなら良いわよ。てっきり変な事をさせられると思ったわ。」

「子供に何言ってるんだ?それと同時に訓練にも参加してもらう。身を守る強さは必要だろ。」

「・・・そうね。この島には危ない奴等もいるみたいだから。」


恐らくは彼女たちが別れてきた2つの男性チームの事だろう。

昨日のナゴミの話では諍いをしていたようだし、嵐の中でもかなり険悪なムードだった。

あの調子で無事に食料が取れるだろうか疑問だけど、無理のない範囲で追い込んで行く予定だ。

しかし、あの様子だとこちらから何もしなくても勝手に自滅するかもしれない。


「それで誰が指導してくれるの?」

「俺が引き受ける。こう見えても教えるのは得意なんだ。」

「ならお試しでお願いしてみようかな。」

「他に居ないから仕方ないわね。」


そして朝食の準備と言う事でまずは食材を切り分ける事となり、昨日の内に手に入れておいた鮫の半身を取り出して地面へと置いた。

ちょっと断面がグロテスクに見えない事は無いけどそこは我慢してもらおう。


「昨日の内に取れていて良かったな。これなら60人分くらいにはなるだろう。」

「・・・これって3メートル以上あるわよね。上はどうしたの?」

「取る時に力加減を間違えて吹き飛ばしただけだ。それよりも訓練は始まってるぞ。捌いたら魔法で竈を作って火で炙るんだ。」

「なんだか普通のキャンプみたいに思えてきたわ。食材さえ普通なら。」

「そうだよね。そこが大きなネックだけど。」


そう言いながらも流石は九十九の学生と言ったところか、剣で切り込みを入れると豪快に皮を剥がし身を切り分け始めた。

鮫の皮は魚のハゲと同様に丈夫なのでコツが分かっていれば解体は難しくない。

すると周りの声に気付いてマコトが目を覚ましたらしく、横で眠るナゴミに驚いて跳ね起きそうになっている。

しかし理性を全力で働かせてゆっくりと起き上がると胸を押さえ安堵の息を漏らしていた。

そして横の温もりが消えた事に気付いたナゴミも目を覚ましマコトを見ると柔らかく微笑んだ。


「やっぱり夢じゃなかったね。ちゃんと今もお兄ちゃんが見えるよ。」

「そ、そうか。」

「どうしたのおにいちゃん。私の顔に何か付いてる?」

「何でもない。」


マコトは顔が赤いけどきっとあの性格なので朝から血圧が高いのだろう。

ナゴミは逆な様で瞼を擦りながら眠たそうにしている。

そして外を見たマコトは驚きと共に扉を開けてシェルターから飛び出して来た。


「これはどうなってんだ!?」

「起きたかマコト。自分の飯は自分で解体しろよ。それと昨日の夜にメンバーが増えたから仲良くする様に。」

「あ、ああ。」


すると解体をしていた1人が挨拶代わりにと身を切り分けてマコトの許へと向かって行った。

そういえば、まだ自己紹介もしていないのでそこから始めないといけない。


「これが今日の朝ご飯らしいよ。」

「あ、これはどうもありがとうございます。」

「なんだか変な合宿になったけど一緒に頑張りましょう。」

「ええ、よろしくお願いします。あ、それとこれをみんなで使ってください。」


そう言って取り出されたのは昨日ナゴミが作った塩だ。

調味料の無い中で塩があるだけでも味が良くなるのでそれを見て全員から歓声が上がる。


「とても助かるわ。流石に焼いただけだと味気ないものね。」

「今日中には沢山作っておきますね。」

「助かるわ。」


そして互いに挨拶を済ませると竈を作り俺を除いた皆は鮫の肉を焼き始めた。

ただ、油なんて無いので焦げ付いたりとトラブルは絶えない。

火も魔法で作り出せると言っても安定して燃やし続けるには制御が難しく、今迄は放つだけで意識していなかった為に失敗をして周囲から悲鳴が上がっている。


「まさか魔法クッキングがこんなに難しいなんて思わなかったわ。」

「料理研の人達って意外と凄かったのね。」


ちなみに魔法クッキングとは魔法で色々な調理法を再現する事だ。

焼く煮るだけでなく、蒸したりピザ窯の様に炙ったりなど再現するためにはかなりの制御力が必要になる。

アズサ達は普段から何気なく使っているけど、練習していないとなかなか使えないのだ。


「ちなみに焼け過ぎた奴は俺が食べるから炭でない奴は持って来てくれ。」

「何気に酷い言われようだけど仕方ないわね。次に挑戦しましょう。」

「でも、なんだか男らしいわね。こんなのでも文句を言わずに食べてくれるんだから少し見直しちゃうわ。」

「そう言われると今の彼氏よりも良く思えて来るわ。」

「そうそう、作ってあげても文句ばっかり言うし手伝わないしね。」


なんだか変な話の流れで彼氏の愚痴大会が始まってしまった。

でもここには彼氏どころか男は小6の俺と小3のマコトだけだ。

なんだか親睦も深まっているようだし自由にさせておこう。

そして何とか全員が腹を膨らませた頃には鮫の半身は骨と化してしまい、どれだけ失敗したのかは触れないでおいた。


ちなみにナゴミはスキルと称号の補正があるので一発で成功してマコトと既に食事を終えている。

そのため海水からせっせと塩を作って皆に提供していたので朝から意外と良い訓練になっていた。

まだ体力が少ないのでアレだと今後の訓練で倒れてしまうだろう。


「ナゴミは皆に着いて行くためにこれを持っておけ。」

「これは下級ポーションですね。」

「おお、もう鑑定眼も覚えたのか。」

「あ、そう言えば見ただけで頭にこれが何なのか浮かんできました。」

「ダンジョン内だと役に立つからしっかりと鍛えておけよ。そうすれば呪いが掛かってるアイテムとかも分かる様になるからな。」

「はい!」


これから自己紹介をと思ったけど60人も居ると名前と顔を一致させるのは難しい。

なので時間の短縮も兼ねて皆には白いシャツを配る事にした。


「皆はこれに名前を書いて着てくれ。そうすれば自己紹介と名前を覚える手間も省ける。」

「ねえ、なんでそんなに白いシャツを持ってるの?」

「え、これくらいは普通だろ。靴やズボンに毛布も大量にあるぞ。もし周りが全員民間人で自分だけが物資を持ってたらこれくらいは無いと配れないだろ。お前等もダンジョンがあるんだからバリバリ稼いで有事に備えとけよ。」


それに時によっては九十九学生は一般人とは見なされない事もある。

その為に特殊な教育や訓練を日頃から行っているのだから出来ませんでは通用しない。

それに大学生となれば既に授業で海難空難の場合に取るべき行動も習っているはずだ。


「なんだか今まで思ってたのとは全然違うのね。」

「ねえ、アナタもしかして前世の記憶があるんじゃない。能力もだけど子供とは思えないわ。」


まあ確かに前世の記憶ならあると言えばあるな。


「俺の前世は鯨だな。」

「鯨?鯨って海で潮を吐いてるあれ?」

「ああ、その前が山羊だったか。その前がライオンでその前が狼か。」

「ねえ。本気で答える気が無いならそう言って欲しんだけど。」


すると真面目に答えたのに周りから冷たい視線を向けられてしまった。

しかし、こうして口にしてみると確かにふざけていると思われても仕方のない獣生を送っているな。


「それでその前・・・。」

「まだ続くの!?」

「これが最後だから安心しろ。その前が人間でハル、又はハルヤと名乗ってたな。」


すると今度は周りから呆れた様な視線が飛んでくる。

ただ、これはこの学園で中学生以上なら誰でも知っている事で、過去の英雄と言われている人物と同じ名前だからだ。

そして何気にその名前を語る連中はどの時代でも一定数は居るらしい。

簡単に言えば偽物がそれなりに居て、毎年詐欺などで逮捕されたりしている。

だから普通に名乗ってもまともに信じてくれる人はあまり居ないのが現状だ。


「ねえ、助けてもらっておいて言うのは何だけど、あまりそれは言わない方が良いと思うわよ。」

「子供だから許されるけど大人になって同じ事を言ってると怖い警察官が来て逮捕されちゃうかも。」


今は俺が居るので語った奴は問答無用で逮捕されているらしい。

アンドウさん曰く、確認の手間が省ける様になってとても助かっているそうだ。


「まあ、普通ならこういう反応か。証明してくれる人も居ないし、物と言ってもこれくらいだからな。」


そう言って俺はダメ出しで黄龍の登録証を取り出して見せた。

一応は最上位と書いてあるけど少し前に偽物を見たばかりだなので、あまり信頼性は無いかもしれない。

しかし皆の視線が俺の手に集中すると何故か動きが止まった。


「なんだか反応がおかしいな?」

「え、だ、だって・・・その、知らないのですか!?」

「何で丁寧語になるんだ?」

「そのカードに書いてある月のマークの描かれた登録証を持てるのは組織と天皇陛下が認めた過去の英雄だけですよ!」

「それをもし偽造なんてしたら最悪は終身刑か死刑になるから絶対にするなって先生が教えてくれました!」


・・・そうだったのか。

俺がサイトにアクセスしてログインした所にはそんな事は書いてなかったけどな。

もしかして専用だから本人が知らなくても良いと言う事で書いてなかったのか。

てっきり今の時代だと月と太陽でどちらでも選べるのかと思っていたけど、どうやら俺の勘違いだったみたいだ。


「でも、それなら私達って過去の英雄に指導を受けられるってことよね。」

「もしかして今になって大当たりを引いたのかも。」

「ちょっと待って。何でも昔の書物では鬼みたいに厳しい訓練だって書いてあったらしいわ。」


すると一喜一憂していた彼女たちの視線がこちらへと向けられた。

この気温が上がって来た中で顔色が悪いのは日射病にでも罹りかけているのかもしれない。


「最初に言っておくけど、俺の訓練はそんなに厳しくないぞ。」

「「え!?」」


するとマコトとナゴミから間髪入れずに心の声が洩れてしまった。

それを聞き逃す者は誰も居らず竈の前に居た時以上の汗を流しながら2人へと視線が集まっている。

しかし、せっかく彼女達もヤル気になっているのだから余計な情報を与える前に体験者の口を塞ぐことにした。


「何か言ったか?」

「「ベツニ・・・。」」


そしてマコトとナゴミは視線を逸らした後に俺が求めていた答えを返してくれた。

しかし、その様子に女性たちは汗の次に体を震わせ始めてしまう。

ここで一気に背を向けて逃げ出せば鬼ごっこの始まりなので、それはそれで楽しいのだけど身動きすら出来なくなっているようだ。

そんな状況でようやく目を覚ましたマルチが扉を開けて姿を現した。


「皆さんおはようございます。」


この状況で何とも自然な朝の挨拶に周りから緊張が僅かに抜けていく。

すると女性陣の中から勇気ある1人が前に出るとマルチへと声を掛けた。


「まさかアナタもこうなると知っていたの?」

「・・・状況の説明をお願いします。」


するとマルチは周りからの説明と様子から状況を素早く分析し答えを導き出した。


「言い忘れましたが私もその人とは古い付き合いです。共に戦国の世を駆け抜けた・・・かは微妙ですが、共に戦った仲間なのでこうなる事は想定済みでした。」

「ここに来てまさかの裏切り!?」


すると周りの女性陣は驚くと同時にハメられたと言った顔になる。

しかし彼女達の心情が理解できないのかマルチは表情筋を一切動かさずに首を傾げるだけだ。

それに俺も聞いていたけど何処に裏切りの要素があるのか理解に苦しむ。

それか現代に生きる女性は悩み多き人が多いので理解するのが無理なのかもしれない。


「何が裏切りか理解に苦しみますが無事に進学と卒業をしたいのならこの環境は最適だと判断します。こういう場合はどう言えば良いのでしょうか。呉越同舟・・・それとも袖触れ合うも多少の縁・・・。そうです。死なば諸共ですね。」

「それは敵同士の場合でしょ!そういう時は一蓮托生よ!」

「私とした事が間違えてしまいました。まあ、そういう事なので皆で死なない様に楽しく頑張りましょう。」

「先に言っとくけど死んでも生き返らせるから死んでも良いぞ。でも滅茶苦茶痛いかもしれないから注意しろ。」


「「「きゃーーー!」」」


するとあまりの現実に感極まったのか全員が一斉に背中を向けて別々の方向へと逃げ出した。

その見事な連携に一瞬感心しながら楽しい鬼ごっこを開始する事にする。

まずはライオンに変身してサイズは5メートル位で良いだろう。


「グオ~~~!」

「「「きゃーーー!!」」」


ここに居る連中なら魔物と戦った事はあってもこれだけの大きさは初めてだろう。

学園のダンジョンは10階層辺りまで虫系が出て、それ以降は獣系の魔物に変わる。

でもその大きさは深く潜らないと3メートルを超える事は無い。

それに深く潜るやる気のある奴はこんな所に召集なんてされないだろう。


それと九十九学園では文武両道を掲げているけど、上があの2人なので脳筋寄りと言っても良い。

そちらの方がダンジョンから素材やアイテムなどを持ち帰るので利益を上げられるからだ。

ただ勉強の道に進んだ人たちも冷遇されているという訳では無い。

就職先は多いらしく、あらゆる資格を取る為のサポートも受けられる。

ただし人材の面でダンジョンに入って無事に戻って来られる者が不足しているため、どうしても今はそうなってしまっているだけだ。

とは言っても一定以上の成績を収める必要はあって強さだけでは卒業や進学はさせてもらえない。

なのでここに居るのは両方が足りない者達と言う訳だ。


それで、ちょっとした用事のついでに少しでもどうにかしてくれというオファーが学園側から来た訳だ。

危険だからと断ったんだけど報酬が良かったので今の流れとなっている。


それにしても向かって来る連中が1人も居ないのは考えものだ。

60人も居れば少しは骨のある奴が混ざっていると思ったのに、どんなにバラバラに逃げてもこちらには転移があるので逃げられるはずは無い。

そして全員を元の場所に集めるとその周りをグルグルと回ってスキルを使わずに威圧しておく。

ついでに、こういう時に良く手に入るスキルを覚えてないかを確認してみる。


「・・・どうやらさっそくスキルを覚えた様だな。」


見ると全員が脱兎という逃げる時に倍の速さで走る事の出来るスキルを習得していた。

これは本人が本気で命の危機を感じて逃げた時に覚える事の出来るスキルだ。

いきなり速度が倍になっても身体強化か、思考加速が無いと役に立たないんだけどな。

そして俺は彼女たちの周りを周りながら確認を取った。


「さて、お前等には2つの選択肢がある。」

「まさか今晩の餌になれって事は無いわよね。」

「お前等を食っても何の利益にもならないだろ。それで1つ目の選択肢だがこのまま男達と合流するか、ここで俺の特訓を受けるかだ。」

「今なら前者でも良い気がして来るわ。」

「そうか。なら行っても良いぞ。」


すると恐怖を張り付けた顔で何人かが動いて向かおうとしている。

猛獣の相手をするよりかは同じ人間と一緒にいた方がマシと安直な考えに至る奴が居てもおかしくない。


「ただし俺は今日からアイツ等を鍛える為に襲撃を仕掛ける予定だ。きっと今の状況が天国に思えるだろうな。」

「・・・私はここに残ります。」

「私も・・・。」

「私もよ。」


すると誰もが自分の意思でここから去る事を辞退した為に欠員は発生せず、ここで特訓を受ける事を選んだ。


「それならまずは基礎から入るぞ。お前等はもちろん全員が格闘のスキルは持っているな。持ってない奴は手を挙げろ。」

「あ、私は持っていません。」


すると1人だけが手を挙げたのでそちらを見ると納得できる人物だった。

その相手とはナゴミの事で今までに目が見えなかったので当然だろう。


「なら先に俺と殴り合ってスキルを覚えるか。」

「ちょっと待て!お前と殴り合ったらナゴミが死んでしまうだろうが!」

「それもそうか。なら皆が服を着替えている間に俺を殴ってろ。そうすれば覚えられるだろ。」

「そ、それなら・・・良いか。絶対に反撃するなよ!」

「俺を何だと思ってるんだ?」

「鬼畜でケダモノな人でない何かだ!」


すると何ともしっくりくる答えが返って来た。

周りも大きく頷いている様なので皆の心が初めて1つになったとも言える。


「それよりも急いで着替えて来いよ。今日は食材も捕まえないといけないからな。」

「「「は~い・・・。」」」


なんだか朝から疲れた顔をしているけど訓練を始めればすぐに元気な声が響き渡るはずだ。


「それに同意は取ったから、これでどんな訓練でもさせられる。なんて思ってますね。」

「流石に分かってるなマルチ。でも出来れば俺の心の声を代弁するのは止めて。」

「以前と変わっていない様で安心しました。」


マルチはそう言って微笑むと何故か服へと手を掛けた。

そう言えば皆はコイツの事を知らないから着替えないといけないんだよな。


「こら!女の子がこんな所で服を抜いじゃいけません。ちゃんと部屋に入ってから着替えて来なさい。」

「・・・分かりました。あなたの中では私もちゃんと女の子なんですね。」

「何を言っているか知らないけど当たり前だろ。」


何処からどう見ても女の子で間違いない。

胸も膨らんでいるし男のシンボルも付いていない。

下着も女物なのでこれで男の娘だったら俺は今すぐクオナに物申しに行かないといけなくなる。


「そういうデリカシーの無い所も相変わらずですか。これはミズメさん、今はアズサさんですね。報告しておかないといけません。ちょうど証人もいますから都合が良いです。」


そう言ってマルチは少し頬を赤く染めながら不機嫌そうな顔で背後にある俺の作った部屋へと視線を向ける。

するとそこからは3つの鋭い視線がこちらを睨んでいた。

しかもトワコは手にビデオカメラを、エクレはスマホを、エヴァはメモ帳をもってペンを走らせていた。

それはどう見ても密告者の風体であり、背中に悪寒が駆け上がって来る。

そして目を合わせるとサッと陰に隠れ、次に顔を見せた時には怪しい笑みを浮かべている。

どうやらエクレの役目が他の2人の監視だとするなら、3人揃って別の任務もあるみたいだ。

このままだと捏造された(ほぼ真実)報告をされてしまうかもしれないので今夜にでもしっかりと話し合っておく必要がありそうだ。


そして不安の種は尽きないけど、全員が準備を終えたので訓練を開始する事となった。

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