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293 修学旅行 2日目 ⑤

俺は戦いを終わらせて外に出ると、そこで待っていたアズサ達に出迎えられた。

そして今は絶賛正座の真最中で、どうやらまた色々とやらかしたらしい。


「ハルヤ!その人とはどういう関係なのかな!?」

「お兄ちゃん。どうしてこんなに浮気してるの!?」

「私も悲しいです。お兄さんの魅力は知っていますが多過ぎます。それにこの調子ではもっと増える気がします!」

「ハルヤ!どうして眷族が2人も増えるのですか!?あなたの眷族は私だけで十分だったのに!」


要約すると、さっきの戦いは外からバッチリ観戦され会話も聞こえていたらしい。

そして心配していた通りにアズサ達は俺とエヴァのやり取りを見て誤解をしてしまった。

ただ眷族は友達以上家族未満だと聞いていたのに何か問題があるのだろうか?


「友達以上家族未満ってハルヤは何を連想するの!?」

「何を連想するかって・・・う~んと。」


親しい友人・・は友達と変わらないな。

親友もなんだかイメージ的に違う気がする。

それだと家族未満とは言わないだろう。

そうなるとそれに当て嵌まる事柄と言えば・・・。


「恋人とか婚約者?」

「もしかして今頃気付いたの!?」

「トワコさんの状況から考えてそれくらいは気付いていると思っていました。」


するとアケミとユウナからグサリと心に響くお叱りが飛んでくる。

既にさっきまでこの部屋に居た神達は痴話喧嘩は犬も食べないと言い残して逃げ去っているし、他の皆はヤレヤレと言いながら1つのケーキを分け合って食べている。

でもあれはもしかしなくても俺のケーキではないだろうか?

ケイ達は既にこの場から運び出されて下の階に居るらしく、ここに居るのはいつものメンバーだけだ。

すなわち誰も助けてはくれないと言う事だろう・・・。


しかし言われてみればユウナの言う通りかもしれない。

明確な婚約はまだでもあのトワコが恋人未満で納得するはずがない。

でもそれならハッキリと言ってくれれば良いのに、遠回しに言うから分かり難いんだ。


「なにか言いたい事でも?『ギロリ!』」

「ナンデモアリマセン。」


俺がその事を指摘しようとした瞬間にトワコから睨まれてしまった。

何とも理不尽な気もしないではないけど、ここは防御を固めて耐えるしかない。

きっと世に居る多くのお父さんも動かざること山の如しという言葉を聞けば、今の俺の様な光景を思い浮かべるに違いないのだ。

それにしても何かを忘れている様な気がする。

とても大事な目的があった様な気がするけど何だっただろうか。


その後30分ほどのお叱りとお仕置を受けてからようやく解放され、俺達は集合場所である駅へと向かって行った。

そして他の生徒たちと合流して少しすると乗車時間となったので移動が開始される。


「ギリギリセーフだったな。」

「そうだね。でも乗ったらすぐに会議を始めないといけないかな。」

「その通りだよ。今後の対策も考えないとダメだよね。」

「きっと今日みたいに突然現れる事があるはずです。」


ちなみに会議とは俺に発言権の無い女子会ならぬ嫁会と言う物だ。

皆が前世の時には時々やっていて色々な事を決めていた。

今回エクレは昔の付き合いもあるのでスルーされているけど、エヴァに関してと更に次の嫁が現れた時の事を話し合うみたいだ。

でも、そんなに女の子と深く関わった記憶が無いのでもう増えないと思いたい。

しかしエヴァとは過去に5分ほど闘っただけで今の状況なので少し自信がない。


そして多くの人が行きかうホームを歩きながら視線を横へ向けるとある物に目を奪われた。


「あ、お土産忘れてた。」

「え、でも時間がないよ。」

「それに商品も殆ど無いみたいだよ。」

「人が会計所で長蛇の列を作ってますね。」


確かに周囲に人が多いと思っていれば、どうやら他の修学旅行客や団体旅行客と鉢合わせしてしまっているようだ。

周囲にあるお土産屋は大盛況で品物は買い尽くされた後となっている。

しかし、そんな一画に客が誰も居ないお店を発見した。

そこはプリン販売出張所と書いてあり、ショーケースには大量のプリンが並んでいる。

でもなぜかそこだけは人が寄り付かず、避けている様にすら見える。

それに店員の女性が頑張って試食を持って声を掛けているけど誰も取り合う者も居ないようだ。


「こうなったら背に腹は代えられない!」

「あ、ちょっと待って。あそこのプリンは・・・!」


俺が駆け出すと後ろでアズサが声を掛けて来たけど、今はお前の屍を超えて行く。

まあ、本当にそんな事があったら蘇生薬で蘇らせるし、殺した相手は磨り潰すけどな。

そして近寄ると女性は沈んだ顔に笑顔を浮かべてこちらに声を掛けようとした。

しかし試食のカップに一瞬視線を向けると諦めた様に後ろへと下がってしまう。


「あのね。これはプリンだけど君にはちょっと食べられないかな。」


どうやら味に自信が無いのか試食すらさせる気は無いらしい。

変な物を子供が食べて泣き出す事は良くある事なので、そこを気にしているのだろう。

それでなくても周囲から避けられている様な店なので、その前で子供に泣かれるのはあまり宜しくない。

きっと僅かにでも興味のある客すら近寄らなくなるだろう。


「まずは1つ下さい。」

「あれ?さっきの子は?」


それならと俺は一瞬で大人の姿に変わると試食を要求した。

今は神の衣だから出来るけど以前のままならここでの買い物すら諦めなければならなかっただろう。

すると女性店員は思い出したように俺に視線を戻すと手に持っている試食を差し出して来た。


「あの・・・辛いので気を付けてください。」

「辛いのか。それなら問題ないな。」


どうやら子供に食べさせなかったのは味に自信がないのではなく、辛さが原因だったみたいだ。

しかし渡された物に視線を向けても普通のプリンと見た目は全く変わらない。

色艶だけでなく、その黄色い色や掛っているキャラメルソースからもパッと見で違いを見分ける事は出来ないだろう。

もしかしてこれはネタ菓子ではないかと思える程のある意味で凄い完成度だ。


「それでは頂きます。」


そして口に入れるとまるで顎を殴り上げられたかの様な鋭い辛さが襲い掛かって来た。

しかし、その中には確かなプリンらしい甘さとキャラメルのほのかな苦みと風味が生きている。

これは確かに普通の人だと辛過ぎ簡単には手が出せず、周りの様子からすると俺の指摘した点では有名みたいだ。

表情も変えずにパクパク食べているのを見てスマホで撮影したり、驚いて足を止める者が続出している。

しかし辛い味付けに対して高い耐性のある俺にはまさに至宝と言っても間違いではない。


「あの、大丈夫ですか?」

「ああ、そこのショーケースのプリンは全部頂こう。会計を急いでくれないか。」

「え・・・え!?良いのですか!?」

「急いでるんだ。嫌なら買わずに帰るぞ。」

「か、畏まりました!」


そして女性店員はまるで救世主とでも出会ったかの様な顔で俺を見詰めるとすぐに会計を開始した。

ただ置いてあるプリンは総数で300個ほどある。

1つが200円するので支払いは単純に6万円になった。

それをスマホで支払いを終えるとカウンターの横にあるアドレスが書いてあるカードを1枚貰っておく。


「無くなったら連絡するから送ってくれ。」

「あ、それならこちらに・・・。」

「早く行くわよハルヤ!皆に遅れてるんだから。」

「あ・・・。」


すると後ろからアズサがやって来て俺の手を取ると無理やり連れて行かれてしまった。

なんだか女性店員は紙に何かの連絡先を書いていたみたいだけど専用のサイトが別にあるのだろうか。

まあ、もしもの時は連絡をして聞いてみれば良いだろう。

そして子供の姿に戻るとアズサと手を繋いだまま皆の許へと戻って行った。

それにしても、こうして手を繋いで一緒に走るのは久しぶりだ。

飛んだり歩いたりはあるけど走るというちょっとした変化でも凄く新鮮に思える。


「アズサ。」

「どうしたの?」

「こうして一緒に走るのも楽しいな。」

「もうハルヤは・・・うん、そうだね。私も楽しいよ。」


俺が笑顔で声を掛けると、それに対してアズサは少し溜息を零して何かを言おうとした。

でもすぐに笑顔を浮かべると頷きと同時に同意の言葉をくれる。

そして、その足を緩めると手を離さないままに歩き始めた。


「もう間に合うから歩いて行こうか。」

「そうだな。」


皆に合流すると互いに手を離していつものメンバーの輪へと加わっていく。

でも手にはちゃんとアズサの温もりと感触が残っている。

贔屓をするつもりは無いけど、やっぱり初恋の相手だからか少し皆とは違いを感じる。

でもそれは他の誰でも言える所があり、出来れば今回も皆が寿命で死ぬまではそれぞれの温もりを守って行きたいものだ。


そしてリニアモーターカーに乗り込むとアズサ達は集まって会議を始め、俺は1人で蚊帳の外へと追いやられてしまった。

仕方ないので窓から外を眺めているとダイチがやって来て横の席へと腰を下ろした。


「今回も色々と大変だったな。」

「今回もって言うな。」

「ハハハ、悪い悪い。でも本当の事だろ。」


するとダイチは笑いながら謝ってはいるけど意見を変えるつもりは無いらしい。

でも俺の記憶が確かなら毎回そんなに大変だった記憶はなく、どれもちょっとした事で解決して無事に過ごす事が出来ている。


「それはお前の記憶違いだ。去年の海だって無事に海水浴を楽しめただろ。」

「その前にあの海域を回遊していたシュモクザメの群れを駆除しないといけなかったろ。」

「でも30分くらいで終わったじゃないか。」


その後にアズサが解体して昼御飯になったのは良い思い出だ。

周辺の地域の人もこれで海開きが出来ると喜んでいたし、差し入れに沢山の海鮮も頂いた。

それの何処に問題があると言うのだろうか?


「その前にも雪山で雪崩があっただろう。」

「それは皆が魔法で固めた後に浄化で綺麗にしてかき氷にして食べただろ。雪崩に呑まれた人も助けて犠牲者も無かった。」


あの時は雪山を見ながらのかき氷だったけどアズサ特製のシロップはとても美味しかった。

今ではそのレシピを教えてもらったあのスキー場では真冬でもかき氷が売れる程に大人気になっている。


「その前も地震があって・・・。」

「あれはシュリが腕の一振りで鎮めただろ。」

「津波が来た事も・・・。」

「それは俺が轟砲で吹き飛ばしたじゃないか。」


その程度の事は問題にすらならない。

それに、その後は平和に皆で楽しく過ごして良い思い出となっている。


「・・・もう良いか。どうせ今回の事もプラスに考えてるんだろ?」

「プラスも何もルリコとアズサにちょっかいを掛けようとした奴を始末して安全に学校生活を送れるようになったんだ。どう見てもプラス以外の何でもないだろ。」


何を言っているんだろうなダイチは。

これは今までにない程のプラス要素なのに悪い事のはずがないじゃないか。


「それなら話は変えるけどお土産は買えたのか?」

「ああ、それならバッチリだ。沢山あるからお前も食べてみるか?」


俺はそう言ってさっき購入したばかりのプリンを取り出した。

ダイチはそれを受け取ると自分でスプーンを出して蓋を開ける。


「サンキュ~!ちょっと気になってたんだ。」

「俺としては超おすすめ品だな。」

「そんなに美味いのか?まあ、ハルヤは甘党だから話半分で聞いとくか。」


そしてダイチはプリンを掬うとそれを零れない様に口へと運んでパクリと食い付いた。

その直後に顔からは大量の脂汗が流れ出し、その場で口を押えて暴れ始めてしまう。

どうやらあまりの美味しさに理性を失ってしまったようだ。


「ぎゃーーなんだこれは超辛れーーー!口にプリンが刺さってるみたいだ!喉が焼けて胃から炎が燃え上がって来る!」

「ハハハ良い食レポだな。そこまで喜んでくれると俺も嬉しいぞ。」

「喜んでねーよ。お前は俺を殺す気か!」

「何を言ってるんだ?こんなに美味しいプリンなのに。」


そう言って俺は別のプリンを取り出して口へと入れた。

やっぱりこの辛さは俺には丁度良い。

最近は辛さをあまり感じなくなっていたので、この刺激は懐かしさすら感じられる。


「お、お前は化物だな!?」

「たかがプリンで何を言ってるんだ?まだまだ残ってるから最後まで食えよ。」

「・・・。」


するとダイチは再び顔から滝のような汗を流し始めた。

そしてアズサ達の方を見ると気にはなっているようで、こちらを覗き込んで様子を窺っている。

ただし、ジッと見ているだけで誰も来ないのは今までに無く異様な光景と言える。

てっきり俺達だけでプリンを食べていたから催促に来るかと思ってたけどこういう異変も天変地異の前触れと言うのだろうか?


そしてダイチは感動するあまり目から涙を流しながら最後まで完食した。

ただ、その後にシュリに連れられて少し離れた所で膝枕をしてもらっている。

耳を澄ますと、うなされている様な声が聞こえ、シュリに回復魔法を使ってもらってるけど何かあったのだろうか?


その後は無事に駅に到着すると解散となり、俺達は家へと帰って行った。

そして家に入るとそこにはユカリたちが待ち構えていたので、どうやらお土産を一早く貰うために早めに帰って来ていたらしい。

俺は家に入るとまずは熱いお茶を用意し、向かいに座っているツクヨミ、ユカリ、クレハの前に今日買ったばかりのプリンを取り出した。


「京都駅で美味いプリンを見つけたんだ。」

「流石ハルヤですね。よく分かっています。」

「さっそく食べてみるのじゃ!」

「昨日のは食べ尽・・・ゴホン。無くなってしまいましたからね。」


すると俺の予想していた通りにあの黄金プリンはもう失われてしまったみたいだ。

でもクレハはせっかく言い直したのに全く意味が変わっていない。

それならせめて食べ尽くしたと言われた方が素直に受け入れられただろう。

そして3人はいつもの様に大きめのスプーンを手にするとプリンを掬い上げ口元へと持って行った。


「「「それでは頂きます。あ~ん・・・!?」」」

「辛ーーー!」

「み、水を・・・!ブフーー!!何で熱々のお茶が準備してあるのじゃ!」

「ま、まさか・・・こんな落とし穴が!」


するとなんだか凄い騒ぎとなり居間はあっと言う間に大混乱に包まれた。

しかし、こんなに喜んでくれるとは予想以上なので買って来た甲斐があるというものだ。

今後も美味しい物を発見した時には、ちゃんとお土産として買って来る事にしよう。


「だ、誰か・・・助けて・・・。『ガク!』」

「もう・・プリンを取ったり・・・・しないのじゃ・・・。『ガク!』」

「何で・・アズサさん達が居ないのか・・・分かり・・ました・・・。『ガク』」



その後の事だけどユカリたちはちゃんとプリンを買って持って来てくれた。

なんだかちょっと震えていたので早朝から並んで体が冷えてしまったのかもしれない。

まだ夏前で山間部だと冷える事もあるから油断していたのだろう。

だからお礼を兼ねて体の温まるプリンを取り出したのに3人は凄い勢いで逃げ出してしまった。

せっかく皆で食べようと思ったのに何か急な用事でも思い出したに違いない。


そして、しばらくの間ユカリたちは俺のお土産を口に入れる時には牛乳を準備してから食べる様になった。

何故か毒見をしているかのように緊迫した表情を浮かべていたけど、地球上の毒は大丈夫だと言っていたのに不思議なものだ。

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