292 修学旅行2日目 ④
急な再会によって風神と戦う事になってしまったけど、こんな町中で戦えばこの店だけでなく周囲も吹き飛ばしてしまうだろう。
特にアイツの攻撃は範囲が広いので被害は甚大なものになりかねない。
しかも、クスノキさんの言う事が確かなら、この周辺は食べ歩きロードと言われる程に飲食店が多い。
そんな所に被害を出せばアズサの怒りは成層圏すら突き抜けてしまう。
ハッキリ言って金棒で100回殴られるだけでは済まない事になり、下手をすれば今の俺でも何回か死ぬ可能性すらある。
「それで何処で戦うんだ?黄泉か、それともここではない人の居ない場所か?」
「それはもちろんここよ。でも、ちゃんと空間は準備してあるから安心してちょうだい。」
風神がそう言った指を鳴らすと部屋に置いてある椅子やテーブルが勝手に移動を始めた。
余分な物は部屋の端へ動き、使っている物に関しては部屋の中央を取り囲む様な配置へと変わる。
そして中央には台と杯が現れ、その上に光の玉が浮かび上がった。
「この中なら大丈夫よ。神器を使ってるから簡単には壊れないし周りに影響は出ないわ。」
「神棚みたいな物か。」
「あれよりも上等よ。それじゃあ行きましょうか。」
そう言って風神は俺の腕を抱え込むと光る玉へと向かって行った。
しかし薄着なのでかなりダイレクトに胸の感触が伝わって来るけど、トワコが凄い睨んでいるので止めてもらいたい。
言っても聞かないだろうから言わないけど、後でフォローをする身にもなってもらいたいものだ。
そして風神が玉に触れると視界が切り替わり、目に映るのは青空の下に広がる草原だった。
ただし空には太陽が無く、雲も浮かんでいないので完全なブルースカイだ。
あるのは爽快な空と穏やかに続く平坦な草原だけだけで、戦いなど止めてバーベキューへと切り替えたい。
しかし周囲を見ていると以前を思い出させるように、風神の纏う羽衣が真直ぐに襲い掛かって来た。
俺はそれを素手で逸らしながら体を傾け襲って来た攻撃を綺麗に回避して見せる。
「やっぱりハルヤは最高ね!絶対に首を飛ばせたと思ったのに!」
「合図無しで始めるのも変わらないな。それに俺も最近は本気を出すことが無かったからな。今日は久しぶりに本気を出させてもらうぞ。」
俺はそう言ってSソードを抜くと一瞬で間合いを詰めて横に振った。
それを風神は羽衣で受け止めるけど、それを更に押し切って腹部を浅く斬りつけて傷を負わせてやる。
「あ~良いわ!あの時よりも断然に良い!体が熱くなって心から燃え上るのを感じるわ!」
風神は傷から流れる血を指に取ると、それを目元と口元に塗って血化粧を施した。
すると先程までとは別人の様に筋肉が膨れ上がり、顔は鬼女へと変わっていく。
更に体も巨大化すると5メートル程まで大きくなった。
「それがお前の真の姿か?」
「アナタがもっと私を燃えさせてくれれば全てを見せてあげる。」
「なら俺もお前に合わせるか。」
俺も体を大きくすると同時にライオンの半獣人へと変わる。
それだけではなく既に大きく息を吸い終わっており姿が変わると同時に轟砲を放った。
「ウオアーーー!!」
「ハハハ!凄いわね!体の芯までビリビリ来るわ!」
すると風神も袋を取り出すとそこから俺の攻撃にも負けない程の激しい風を打ち出した。
しかし、これは互いにとっては挨拶代わりでしかなく、攻撃は相殺するだけに留まると次の行動へと移している。
「やっぱりこの姿になると接近戦も最高ね。」
「ならもう少し防御を考えろ。」
俺達は互いに間合いを詰めるとそこで拳を握ったインファイトをしている。
防御を捨てて攻撃のみに集中し、弾けた肉を再生させ、粉砕した骨を繋げ、潰れた内臓を復元する。
ハッキリ言って完全に馬鹿がするような肉弾戦だ。
「そういうアナタも付き合ってるじゃない。」
「お前に合わせてるんだよ。防いでたら防戦一方にされそうだからな。」
既にさっきの轟砲の余波で周囲から草原は消え去りまるでリングの様なクレーターが出来ている。
そこで互いに殴り合いながら周囲に衝撃波を発生させ更に周りの土を吹き飛ばしていく。
ただし、このままだと互角なので良くて引き分けとなり、更に言えばいつ終わるかも分からないので帰りの新幹線に遅れてしまう。
もし風神が言ったようにこの先があるのなら無理やり引き出してやらないと時間ばかりが消費される事になる。
「そろそろ俺も本気を出すぞ!」
「良いわよ!もっと私を楽しませて!」
俺はキメラのスキルを使うと腕を1対から3対へと増やす。
その増えた腕を淀みなく自由自在に動かすと攻撃を受け流しながら残った手で猛攻に出る。
「グフ!ガハ!流石にやるわね!なら私も本気を出すわ!」
すると風神の姿が更に鬼へと近づいて行き今の段階でその性別が女性と認識できるのは大きくなった胸くらいだ。
まさにスイカやメロンではなくミサイルと表現しても良いだろう。
ロボット物のアニメでオッパイミサイルと言う名前を付ける気持ちが分かる気がする。
それに今の風神なら肉厚だけで人間を溺れさせることも可能な存在感を持っている。
「さあ、本気で行くわよ!」
「掛かって来い!」
そして風神は全身に風を纏うとそれを鎌鼬の様にして攻撃を加えて来た。
それは受け止めるだけで体を何度も切り裂き、俺を大きく後方へと吹き飛ばしている。
しかし、その間合いは一瞬で埋められ再び拳や蹴りが降り注ぎ、羽衣は1撃で俺の腕を切り飛ばした。
「さっきまでとは段違いだな。」
「ごめんなさいね。もう楽しくて気持ち良くてどうにかなりそうなの。このままアナタを倒せれば今までに感じた事のない絶頂を感じられるわ!」
「それは御免被りたいな。」
しかも今は防戦一方となり腕も2対まで減らされてしまった。
再生を続けているけど攻撃が苛烈で何をしてもダメージを受ける上に攻撃が防がれる。
まるで俺の轟砲に包まれた状態で自在に攻撃を行っているようだ。
「それで、それがお前の全力だな。」
「そうよ。もしこの状態の私に勝てるって言うなら何でも言う事を聞いてあげるわよ。」
「その言葉を忘れるなよ。俺も最終形態を見せてやる。」
「まだ先があるっているの!」
俺は攻撃を受けながらも体を巨大化させていく。
すでに10メートルを超えていたけど今は70メートルへとなり、首は4つに増やして更に尻尾も生やす。
これが今の俺が成れる最大の戦闘形態だ。
「お前のその攻防一体の攻撃は確かに凄まじい。でもその威力は俺の轟砲1発分にしか相当しない。これからその4倍をお前に放つから死なない事だけは注意してくれ。」
そして鯨の肺活量を使い息を大きく吸い込むと4つの口から轟砲を放った。
それは空気を震わせるというレベルを超えていて全てを粉砕、崩壊させるほどの威力が有る。
それを前にして風神も持っている袋から攻撃を放って相殺しようとするけど僅かな時間しか持ち堪えられず、そのまま飲み込まれて行った。
「・・・ふう。少しやり過ぎたか?」
地面を見ると土は完全になくなり、以前に恵比寿を呼び出す時に開けてしまった空間の狭間みたいな穴が出来ている。
そして問題の風神はと言うと・・・。
「ふ~危なかった。あれはアナタでも死んでたかもしれない。」
「助かったわ雷神。」
「エクレ。」
「分かったわよ。助かったわエクレ。」
そして風神は直前で乱入して来たエクレによって救出され、俺の横を浮遊している。
そういえば恵比寿も唯では済まない様な事を言っていたので流石に4連はヤリ過ぎだったかもしれない。
実際は更に増やした4対の腕からも攻撃を放てるので本当の本気はまだ上だとは言わないでおこう。
「それで勝負は俺の勝ちか?」
「ええ、そうね。あの攻撃を見て最後に凄いのが来ちゃった。もうアナタ無しじゃ生きていけないわね。」
「いや、そういうのは良いから。」
「フフ。私をこんな気持ちにさせたのはハルヤが初めてよ。だから私はアナタに付き従う事にするわね。」
ハッキリと「要らないです」と言っているのに風神は勝手に話を進めて着いて来る気でいる。
こういう時にさっきの約束である、どんな言う事でも聞く権利を行使するのは狡い事だろうか?
でも命令しても勝手に居付きそうな気配がするので無意味な事に大事な命令権を使いたくない。
(既にエクレと言う実例が居るしな・・・。)
しかし困った事に招いてもいないのにオマケのお客さんが現れた様だ。
そいつは俺の空けた穴から手を突き出すと淵に手を掛け這い上がる様に姿を現した。
「フッフッフ!先程の衝撃が気になって来てみれば良い感じに穴が開いているではないか。しかし、ここはやけに閉鎖された空間だな。魂の波動が1つ、2つ、3つだけか。しかし外には大量の気配を感じるぞ。クックック!奴等を殺してここから出ればこの世界は邪神である俺の物だ。」
もしかして自称『邪神』というのは意外と多いのだろうか?
以前に恵比寿を呼び出した時にも似た様な奴が現れたけど俺の攻撃にも耐えられない雑魚だった。
あの時も自分の事を邪神と思い込んでいるイタい奴だったけど、今回の奴も言っている事から敵である事に間違いなさそうだ。
しかし、顔を確認しようにも大きなフード付きのマントを羽織っているので大まかにしか確認が出来ない。
見える所と言えば所々から蛸足の様に卑猥に蠢く触手が飛び出ているくらいだ。
もしアイツが異世界から来た唯の観光客だとしてもご退場願いたのは言うまでもない。
「アイツをどうする?」
「ここで倒すのが最適。でも私1人だと無理。」
「私もかなり力を削られているから1人では無理ね。」
「なら俺が相手をするしかないか。」
近くに隠れて見ていた俺は仕方ないかと思いながら岩陰から出ようとした。
しかし、それを見ていた2人に肩を掴まれて止められてしまう。
「ちょっと待つ。アナタもさっきまでギリギリの戦いをして消耗してるはず。」
「その筈だけど、どうしてそんなに元気なの?」
確かに俺自身も体力を温存していたつもりは無い。
しかし半神になってからは戦いの中で疲れを感じた事は無い気がする。
てっきり体力が上がって疲れる程の動きをしていないからと思っていたけど流石に何か違う気がする。
「ちょっとアナタを見せてもらうわね。」
そう言って風神は俺の顔を両手で掴むと顔を近づけて目を覗き込んで来る。
ただ今は人の姿に戻っているのでそんなに近くに寄られると髪が掛かって互いの顔が隠れてしまう。
それは見様によってはキスをしているようで、もしこの光景をアズサ達が見ていると要らぬ誤解を招きそうだ。
「・・・どうもまだ確定はしてないみたいだけどアナタの力は破壊に特化しているのね。もしかして強い破壊衝動とかは無い?」
「そんなの普段はないな。それに壊すと怒られるのは現代の常識だろ。特にアズサとアケミとユウナの持ってる金棒で殴られると凄く痛いんだぞ。」
「・・・そう、アレに殴られて痛いのね。何となく分かった気がするわ。」
すると何故か風神は納得したように頷くとエクレに視線を向けた。
エクレもそれで分かったのか頷きを返しているけど俺には何が何だかさっぱり分からない。
「これについてはいつか教えてあげるわ。でも今は知らない方が良さそうね。」
「私もそう思う。今はそっとして様子を見る。それと念の為にハルヤが戦うなら神武装を勧める。私と風神がサポートするから身に纏って欲しい。」
「良いのか?」
「私はもともとそのつもりで待ってた。風神もアナタの事を気に入ってる。」
てっきりエクレだけかと思ったらサラリと言った感じで風神の事も神武装として纏えと言い出した。
それにこの世界の神は見た目が普通でも明確な肉体を持っていない。
だから可能だろうとは思っていたけど風神の方は本当に良いのだろうか。
「本当に良いのか?」
「ええ、その代わり私にも名前を頂戴。アナタに風神と言われるはちょっと辛いわ。」
すると風神は苦笑と共に名前を付けて欲しいと言ってきた。
もしかして雷神の様に風神も複数いて、その呼び方だと名字みたいな物なのだろうか?
それなら混同しないように名前を付けて欲しいと言うなら何か考えよう。
安直に付けるなら風子だけどそれは安直が過ぎるだろう。
あまり考える時間は無さそうなのでイメージから決めてしまおう。
しかし印象がそんなに良くないからか白髪からはシルバーバック。
性格からは苦いを意味するビターや、戦闘狂からトルネードやストームなどの単語が出て来る。
それだとどうしても男っぽい名前になってしまうので納得してくれそうにない。
こうなればあの暴走具合からイメージしてエヴァと名付けよう。
「なら今日からエヴァで良いか。」
「分かったわ。でも女の子の名前を付ける時はもう少し考えてもらいたいわね。特に理由が女の子らしくないわ。」
「それは自業自得だろ。それに時間が無いのも確かなんだ。それじゃあサポートは任せたからなエヴァ。」
「うう~。思考とは裏腹にハルヤに名前で呼んでもらえると嬉しいわ。」
「エヴァは贅沢。私なんてお菓子からだよ。」
しかし2人とも何だかんだと言いなが顔は笑っている。
エクレも400年以上も同じ名前を使い続けているので嫌という訳ではなさそうだ。
エヴァも頬を赤くして笑うのを必死に堪える様な顔をしているので、もう少し素直に喜べば良いのにな。
「そろそろ行くぞ。」
「分かってる。『神武装・雷速天翔』」
「それなら後は任せたわよ。『神武装・風殻衝覇』」
するとエクレは以前と同じ黄色い脚甲となって足に取り付き、風神はその姿が白い手甲へと変わると俺の腕まで覆い装着を完了した。
『やっぱりハルヤに使ってもらえるのは嬉しい。』
『何よこれ!凄い精神力で全部が満たされて行くみたい!』
すると装着と同時にエヴァが俺の精神力を吸い始めたのが伝わって来る。
ただ感じるのは苦痛や疲労感ではなく、寒い日に上着を羽織った時に似ている。
最初は冷たいけど次第に暖かくなって一体感が増す感じだ。
なので最初は唯の鎧だったのが今では体の一部の様に感覚すら伝わって来る。
「なんだか前と感じが違うな。」
『神武装はもともと神が纏うもの。だからハルヤは半神になった事で私達との親和性が増してる。それに私達は自分から求めて名前を付けてもらった。それは神の世界だとその相手に仕える事を意味してる。』
「でも俺はそんな事は望んでないぞ。」
『なら私達の事をどうしたいか思い描いて。そうすれば私達もそれに沿って立場を変えられるわ。』
なんだか急な話だけどそれならトワコと同じ眷族で良いかな。
聞いた話では友達以上、家族未満みたいな扱いらしいし。
『ハルヤはいつもそういう所が抜けてる。』
『良いじゃない。そのおかげで私達もハルヤの眷族になれたわ。あ~心が満たされて行く。まるであなたの優しさが流れ込んで来るみたい。』
『どうしてこれで属性が破壊なのか疑問。』
なんだか頭の中でエクレとエヴァが話しているけど俺には理解できない事が多過ぎる。
きっと聞いても教えてくれないだろうから今は目の前の敵に集中しよう。
「それでアイツは何者なんだ?」
『あれは下級の邪神。封印されている邪神に比べれば雑魚の雑魚。』
「そうか。まあ、戦えば強さも分かるか。」
『あまり期待しない方が良いわね。1つになって分かったけどアナタは神殺しでしょ。きっとすぐに終わってしまうわ。』
すると、ちょっと楽しみにしていたのにエヴァがネタバレのように水を差してしまった。
でも油断大敵なので容赦するつもりは無く、エヴァの時とは違い全力でやらせてもらう。
ただし奴はこちらを既に認識しているので小細工はせず、一直線に奴へと向かって飛び出した。
「おい、そこの邪神!俺が相手だ!」
「ようやく姿を現したか。てっきり怯えて出て来ないのかと思っていたぞ。」
そして声を出しながら接近するとSソードを抜いて容赦なく斬り掛った。
邪神はそれを腰に差している禍々しい剣で受け止めニヤリと笑みを浮かべると声を上げて笑っている。
「ハハハハハ!想像を絶する雑魚!これではこの世界を滅ぼす前の準備運動にもならん。」
「そうか。お前はこの世界を滅ぼす気なんだな。」
「何を馬鹿な事を言っている。邪神とは全ての生けとし生ける者の天敵。貴様はそんな事も知らずに挑んで来たのか!」
「いや、確認をしただけだ。」
これで厨二病を患った唯の異世界人という線は消えた。
もしかしたら邪神プレイを今も楽しんでいるのかもしれないけど、この状況でそこまで拘るなら滅びるまで拘りを見せてもらう。
なので遠慮なく手に力を込めるとそのまま剣を邪神に向かって押し込んでいった。
すると鍔迫り合いとなっていた接触部に火花が生まれ相手の剣が次第に削れ始める。
それを見て邪神は驚愕すると体に生えている複数の触手を使って襲い掛かって来た。
「くらうが良い!ダークネス・ランス!」
すると触手は先端に闇を纏い鎗の様な鋭利さをもって波状攻撃を仕掛けてくる。
しかし神の間では攻撃をする時に相手に知らせるのが暗黙のルールなのだろうか?
無言で攻撃した方が不意を突けて有利なのに不思議なものだ。
『させないわよ!風塵障壁』
しかし、その攻撃はエヴァが展開した攻防一体の風の刃によってズタズタに斬り裂かれた。
どうやら闇を纏っていても触手程度の強度しか無かったらしい。
『言っておくけどアナタの力が乗ってるから簡単に防げたのよ。』
「そうなのか?でもこれで隙が出来たな。」
今のが起死回生の1撃だったのか、マントも吹き飛んでその下も露わになっている。
その姿はリザードマンに近い様ではあるけど、体の至る所から伸縮自在の触手が生えているようだ。
そして失った触手は体から伸びる様に再生し、元の長さへと戻り始めた。
しかし、その僅かな時間でも奴の攻撃を遅らせてくれれば、その時間をエクレが有効に使ってくれる。
『任せて。迅雷加速。』
すると一瞬で精神が加速し邪神の動きさえもノロく感じる様になる。
その瞬間に邪神の剣を切断するとその表情が変わるよりも早く全身の触手を全て切断し、腕、足、首の順に斬り裂いた。
そしてエクレが能力を解除すると時間の流れも戻り邪神はバラバラになりながらその場に倒れる。
「ガハ!な、何をした!」
「何で敵に種明かしをしないといけないんだ?」
「おのれ!この程度の傷はすぐに回復して・・・なに!なぜ傷が癒えないのだ!」
しかし再生が出来ないようで邪神の体が端から崩れると次第に消え始めた。
それに気が付いた途端に恐怖で目を見開くとその視線が俺へと向けられる。
「こ、この力は!ま、まさか・・お前は・・・破壊し・・・。」
しかし喉から最後まで言葉が紡がれる事は無く、白い灰の様になって消えてしまった。
それにしても最後に一体何を言おうとしていたのだろうか。
『きっと墓石と言おうとしてた。』
『もしかすると墓標でも作って欲しかったとか?』
「そうなのか?」
まあ、死んだ奴の事を気にしても仕方がない。
でもなんだか体に力が漲るような気がしてステータスを確認すると、レベルは上がっていないのに力、防御、魔力の数値が上がっている。
確か前回に見た時が3000と少しだったので今は100ずつくらい増えているようだ。
もしかして邪神を倒すと魔物とは違って直接ステータスを強化してくれるのかもしれない
しかし今回は気付けたけど前回はどうだったかは覚えておらず、普段からレベルが上がっているかどうかで他の数値を確認していたので完全に見落としていた。
「そういえばこの穴はどうするんだ?」
戦いが終わったのでエクレとエヴァは揃って人型に戻ると一緒に穴を見詰めている。
しかし何の前触れもなく穴が縮小して行くと無事に塞がって地面に戻った。
「空間の歪みは外で見ていた神たちが塞いでくれた。」
「普通は穴が開いてもすぐに塞がる筈なんだけど、さっきの邪神が邪魔をしてたみたいね。」
事情はどうあれ、これでさっきの空間から次の観光客が来る事は無いだろう。
それに時計を見るとそろそろ帰らないといけない時間なので駅へ向かわないと乗り過ごしてしまう。
「それなら早くここから出て帰るか。」
「分かった。お供する。」
「フフ。八百比丘尼の顔が早くみたいわね。」
しかし、なんだか不穏なセリフが聞こえるけど避けては通れないのも確かだ。
確認も必要だしまずは外に出るのが先決でもある。
そしてエクレとエヴァに連れられる形で手を引かれて外に出ることが出来た。




