290 修学旅行 2日目 ②
俺達は想定よりも早くにスカウトを終える事が出来たので京都観光をする事に決めた。
するとケイたちがお礼も兼ねて町を案内したいと言い出しており、4人で来た本当の理由はそれだったらしい。
しかし観光地を回るだけならガイドは必要ない。
バスに案内させれば観光客が喜びそうな基本的な所は全て行く事が可能だからだ。
なのでここは1つ普通の観光巡りは次回に取っておく事にして、地元の人間しか知らない穴場を周る事に決めた。
「ミキとカナデも良いか?」
「何で私達にだけ聞くのよ?」
「2人とも良家のお嬢様だろ。今更だけど気になったんだ。やっぱりここは地元とは違うからな。」
いつも普通に接しているから忘れがちだけど本当は「超」を付けても良いくらいだ。
それをマイナーな場所へ連れて行こうとするなら庶民的な俺としては確認を取るのは当然の事だ。
ちなみにアズサは家柄だけなら「超超」が付く位にお嬢様だけど、本人は庶民なので問題ない。
それに一般的な常識に当てはめれば捕まえた亀を捌いて食べたり、捕まえた蛙を捌いて食べたりはしないだろう。
そんな事をするのはお嬢様ではなく野生児かアマゾネス・・・ゴホン。
俺の大事で愛しの婚約者くらいだ。
だからアズサさんはそんなトウコさんみたいな目で睨まないで欲しい。
それにバスの中は狭いから金棒を取り出すのは止めて・・・。
俺は身の危険を背後に感じ冷や汗を掻きながらもミキに返した。
「それは本当に今更ですね。ダンジョンに連れて行かれるのに比べれば安全だと思いますけど。」
「海や山にキャンプだって行ったんだから大丈夫よ。」
すると2人からは心強い了承の返事が返って来た。
どうやら俺が思っていたよりもこの5年の間に2人はとっても逞しくなったみたいだ。
「これならいつでも海外のダンジョンに遠征へ言ったり、無人島でサバイバルしたり、私服で宇宙遊泳も出来るな。」
「どうしてアンタはいつも極端から極端に走るのよ!そのせいで私達もこんなに鍛えられたんでしょ!」
「ハルヤさんはその辺の事を自覚してください!」
「・・・はい。」
そう言われては仕方ないのでダンジョン遠征は国内にして無人島でのサバイバルは装備を持って食料は現地調達にしよう。
そして宇宙遊泳は成層圏からのパラシュートを持たない落下訓練で我慢するしかない。
これなら丁度中間付近だから大丈夫そうだ。
「だからアンタは極端の片方が極端すぎる自覚を持ちなさい!」
「おっと。中学からの予定が漏れたか。今聞いたのは気のせいだから忘れてくれ。」
「マジでするつもりなの!?」
「宇宙遊泳は仕方ないから高校からだな。落下訓練はゲンさんが受け身の練習に丁度良いって言ってたから許可もすぐに下りるだろう。」
なんでもあの人は既に宇宙遊泳からの大気圏突入までは経験しているらしい。
それに比べれば成層圏はまだまだ序の口のはずだけど、ミキにはそう思えなかったらしい。
「キャ~!このままじゃ脳筋にされちゃう~!」
「何を言ってるんだ?これくらいは今なら仕様の範囲内だぞ。今でも出来るのに仕方ないから成層圏なんだ。高校になったら皆で流れ星になろうぜ。」
俺は叫ぶミキの肩に手を置いてニコリと笑ってやる。
すると更に激しく叫び出したけど本番でも逃がす気はない。
例え親がダメだと言っても入学の時に契約書へとサインをしている。
小学生の時はかなり大人しく生活していたけど、中学からは更に楽しい学校生活が送れそうだ。
「なんだか凄い会話だよね。」
「俺の時もかなりきついって思ってたけど凄い優しかったんだな。」
「でも俺達も今から鍛えられるんだろ・・・。」
「2人とも生きて帰って来てね。」
「甘いなサラ。あの人が護衛対象を弱いままにしておくはずないだろ。きっとお前らもこれから巻き込まれると思うぞ。」
「え?お兄ちゃんマジで言ってる?」
「ちなみに教官は助けた奴が助かるまで逃がさない人らしいから諦めろ。」
「「「・・・嫌~~~!」」」
するとさっきまで大人しかった4人の内でケイ以外の3人が頭を抱えて叫び始めた。
きっと俺達の話を聞いていてやる気が湧いたのだろう。
誰だって紐無しバンジージャンプに憧れる瞬間があるものだ。
覚醒させるかは後で考えるとして、あの様子なら1年もあればレベルもカンストするだろう。
最近は教官としての仕事も落ち着いて来たので放課後も合わせればかなり効率よく鍛えられそうだ。
「やる気を出す話はこの辺にして最初は何処に連れて行ってくれるんだ?」
「そうですね。琵琶湖の傍に面白い店があるのですが言ってみますか。」
「今日の案内は任せるさ。」
そういう事でバスは琵琶湖の傍にある内容不明の店へと向かった。
そして到着するとそこには数人の客が既に居て優雅にお茶を楽しんでいる。
店の雰囲気は南国風のオープンテラスになっていて琵琶湖が一望できるので景色がとても良い。
特に以前と違って水質汚染が発生していない様で臭いも見た目もとても美しい。
それに技術の発展によってゴミの回収や処理技術が進んでいるため周囲を見回しても1つも落ちていない。
それと今の日本はシンガポール並みにポイ捨ての罰則が厳しくなっている。
そのおかげで町を歩いていても道が綺麗なのでそこは以前よりも良い所だ。
そして店の中を見回せば琵琶湖大鯰と書かれた魚拓が飾ってあり、大きさは150センチくらいだろうか。
以前にテレビのドキュメントで取り上げられたのを見た事があるけど、あの時に言っていた標準的なサイズよりもかなり大きい。
もしかするとここの店長は釣り人か漁師という事かもしれない。
そうなると琵琶湖で取れた新鮮な魚介類を出してくれるのだろうか。
ただし少し気になる事が魚拓の傍に貼ってあった。
「何々『琵琶湖大鯰大食いチャレンジ。30分で完食すれば賞金10万円。(頭、内臓、鰭、骨は含みません)』・・・か」
「ねえねえハルヤ~。」
すると同じ様に大食いチャレンジの掲示を見ていたアズサが凄いキラキラした目を向けて袖を引いて来た。
恐らく賞金は別にして『大鯰』と言う所と『30分で完食』という所に引かれたのだろう。
ただ張ってある紙はかなり黄ばんでいて字も掠れているので今もやっているかは確認の必要がありそうだ。
「あれってまだやってるのか?」
「ゲ!アレに目を付けるのですか!?あれは20年前から張られていますけど今までに1人しか達成できた者が居ないこの店では究極のタブーですよ。ほら、あそこにその時の写真と名前が書いてあります。」
言われて少し離れた所に飾られている写真立てを見ると何処となく見た事のありそうな顔の写真が入っていてその横にアイコと書いてある。
そして、食べるのに使ったであろう時間は29分32秒とも書いてあるのでかなりギリギリで完食したみたいだ。
でも、服装がセーラー服なので中学か高校の時にここへ来たのだろう。
これはアズサとしては今もやっているなら挑戦しない訳にはいかない状況だ。
「よし!それならさっそく挑戦だな。」
「あの・・・聞いてましたか教官?」
「おい!聞こえてたぞ!お前等が本当に挑戦するのか!?」
すると厨房の方から1人の男性が姿を現した。
そして、その服装からこの人がここの料理人なのだろうと予想できる。
ちょっと顔つきが怖いので客商売には向いて無さそうだけど、奥には他にも女性スタッフが何人か居るので普段は厨房からあまり出て来ないのかもしれない。
「挑戦者は俺ではなくこちらの子です。言っておきますが見た目に騙されて小魚を出さない様にお願いしますよ。」
「へッ!そんな油断はあの写真の嬢ちゃんと会った時に捨てちまったよ。今では俺が釣り上げた奴を更にデカくなる様に養殖した奴が居るからな。後で泣いても知らねえぞ!」
「ハッハッハー!それはこちらのセリフですよ。」
「なら大人しくそこに座って待ってな!下拵えは終わってるから後は焼くだけだからよ。」
「それではお願いします。」
そして俺達はテーブルを動かしたりして席を確保すると店員の女性がコップに水を入れて持って来てくれた。
「お冷とメニューです。何かありましたらお呼びください。」
「ありがとうございます。」
しかし、何で「何かありましたら」何だろうか。
普通は「注文が決まりましたら」だと思うんだけど、もしかすると彼女は新人なのかもしれない。
それならお店によっては今の様に言う所もあるかもしれないので小さな事を気にするのは止しておこう。
俺達は疑問に思いながらも渡されたメニューを受け取ると、どんな料理があるのかと目を通していく。
すると魚介系のパスタにパエリア。
魚の塩焼きやホイル蒸しにムニエルなど、予想した通りのメニューが並んでいる。
それに焼くだけと言っても1メートルを超えるナマズを調理するにはそれなりに時間が掛かるだろう。
それならまずは繋ぎに何かを頼む必要がありそうだ。
「皆は何を頼むか決まったか?」
「今日はパスタにしようかな。」
「私は久しぶりにパエリアが食べたい。」
「私はこの塩釜蒸しと言うのを食べてみたいな。」
するとアケミ、ユウナ、アンは既に決めているみたいで返事が返って来る。
アンの注文は変わっているのでメニューを見ると、そこには鳥を1匹使った豪華な写真がプリントされていた。
それ以外にも炊き込みご飯なども皆で選ぶと、さっき水を持って来てくれた女性へと声を掛ける。
「すみませ~ん。」
「はい、何かありましたか。」
「はい。追加の注文をお願いします。」
「・・・はい?」
すると女性は厨房の方を向きながら困った表情を浮かべている。
確かにさっきの料理人が巨大なナマズを丸ごと大窯に入れていたけど、あれはあくまでアズサが食べる1人用に過ぎない。
当然、別に注文しないと俺達のお昼が無くなってしまう。
そして女性の視線は悩んだ末に、助けを求めてケイたちへと向けられた。
「あの・・・よろしいのですか?」
「良いから注文を受けてあげてください。いざとなったら持ち帰りで。」
「分かりました。」
すると店員の女性は俺達の言った注文を書き取り厨房へと戻って行った。
最近はアイテムボックスのおかげでこういったお店が多く、残しても持ち帰る事が出来る。
なので以前の時にはマイバックと言う買い物袋を持っている人が多かったけど、今ではそれに追加される形でマイケースと言う物がある。
店によってはマイケースで総菜などを買うと料金を割り引いてくれるお店もあるくらいだ。
もちろん、ここもその例に漏れずマイケースによるテイクアウトが可能と書いてある。
そして注文をして10分としない内に料理がずらりとテーブルに並び昼食が開始された。
「ちょ、ちょっと待って!アナタも食べるの!?」
「ここのアレはマジでヤバくてデカいんだぞ!」
するとアズサが普通に食べ始めたのを見てサラさんとミドウさんが焦ると同時に声をあげた。
しかし、アズサの手は彼らの認識の出来ない速度で動き、美味しそうに注がれていた炊き込みご飯を胃へと消し去ってしまう。
「あれ?さっきまで御飯が盛ってあった様な・・?」
「俺達の気のせいか?」
すると米粒1つ残っていない茶碗の中を覗き込み2人は首を傾げた。
しかし流石と言うか何年も修羅場を潜って来たケイだけは真実を見破り、僅かに顔を引き攣らせている。
恐らくは見えた訳では無いだろうけど、今のを幻で終わらせない程度には理解があるようだ。
それを示す様に持って帰る為に取り出していたマイケースを密かに収納している。
そして粗方食べ終えると店員が総出でテーブルを片付け、厨房から丸焼きにされた大鯰が姿を現した。
しかもアイテムボックスに入れて持って来れば手間も掛からないのにわざわざ人が4人がかりで持ち上げて運んでいる。
それを見て店内に居た客たちの視線が集中し、驚きの声がどよめきとなって漏れ聞こえて来た。
「おい!アレを見ろよ!」
「まさか久しぶりに無謀な挑戦者が現れたのか!?」
「なんだあのデカさは!湖で泳いでる奴を見た事あるけど倍はあるんじゃないか!」
「お前は知らねーのか?ここの店長は一度完食されてから大鯰を養殖して2メートルを超える化物を作り出してるんだ。あれはその中でも最大級の奴に違いないぞ!」
「おいおい!まさか注文したのはあのテーブルの誰かか!誰が食えるって言うんだ!?」
「女子供ばかりだぞ!全員で挑んでも食いきれないだろ。てか、さっき普通に飯を食ってなかったか?」
「きっと勘違いした観光客さ。これは慌てる姿が目に浮かぶな。」
どうやら、ここに居る他の客はこの大鯰についての事前情報をちゃんと知っているようだ。
驚きながらも好奇心に負けてあからさまにこちらの様子を窺っている。
見せ物になる気は無いけど、確かにこの光景は気にするなと言う方が無理だ。
なにせ皿に乗って出て来たのは子供の俺達どころか大人よりも大きな大物なので、それをどこまで食い尽くせるのか気になっているのだろう。
「どうだ!これなら小魚に見えねーだろ!」
料理人はそう言って店員に指示を出して大鯰の乗ったお皿をテーブルの上へと置いた。
その店員たちも店長を見て、「子供相手に大人気ない」と言いたそうな表情を浮かべている。
しかし俺達の中で驚いているのはケイ達4人だけだ。
いつものメンバーは笑みを絶やさずついでとばかりに飲み物を注文している。
「これは立派ですね。」
「そうだろ嬢ちゃん。今までで一番の大物だからよ。味付けは塩とハーブだけだからタレやソースは準備してあるぜ。」
「ならここに置いてください。失礼ですが自分で作った物も使っても良いですか?」
「ハハハ、構わねーぜ。それと取り皿とタレとかを入れる皿は何人前用意するんだ?ただ悪いが参加は5人までにしてくれよ。」
まあ、こちらは子供が殆どで普通に見ても全員が食べたとしても食いきれないだろう。
それにあちらも賞金を懸けているので条件があるのは仕方がない。
しかしアズサの口から出たのは知らなければ誰もが驚くセリフだった。
「それなら1人前でお願いします。」
「は・・・、お嬢ちゃんマジで言ってんのか?」
「本気です。それでは準備が出来しだい開始してください。」
そして更に何かを言おうとした料理人もアズサの鬼気迫る表情を見て口を噤んだ。
ようやくアズサの事を子供ではなく挑戦者として認めたのだろう。
そして準備が整うと最後に身の丈はあるデジタル時計を取り出した。
そこには既に30分と表示がされていて、いつでも始められるようになっている。
「それじゃあ始めるぜ!」
「いつでもどうぞ。」
料理人はアズサが深く深呼吸をするのを見てタイミングを計っている。
そして、その目が開くと同時に時は来た事を感じ取り開始の合図を叫んだ。
「大食いチャレンジ開始だ!」
アズサは手元に準備していたナイフとフォークをゆっくりと手にして大鯰を観察する。
そしてナイフが頭に伸びた瞬間にその手が振り下ろされ一刀の下に首が切断される。
しかし周囲は首よりも小さなナイフでどうやって切り取ったのかと疑問に感じる前に、次の光景を目撃して驚きで目が皿の様に見開いた。
「どうなってんだ!頭部がいつの間にか煎餅みてえになってやがる!」
これはもちろんアズサがした事で頭を切り離したと同時にナイフを素早く動かしてスライスし、更に乾燥させて加熱したのだ。
まさに目にも止まらぬ早さなので認識できない者からすると気付いた時には頭が煎餅に変わっている様に見えるだろう。
それを手にして食べているけど早すぎて手に持つ煎餅が消えるのに等しい。
ただ口が動いて咀嚼し嚥下する所は見えているのでそのあまりの早さに誰も声も出せない。
これによって大きな頭が皿の上から消え去り、2割ほどが綺麗に無くなった。
確か頭は食べなくても問題ないと書いてあったのだけどアズサにとっては関係が無かったみたいだ。
しかし驚きはそこでは終わらず、ナイフが振るわれると大鯰は一瞬で3枚に卸された。
内臓はもともと抜かれていた様なので皿の上には無いけど、程よく焼かれた白身の部分を置いてまずは骨と鰭に取り掛かるようだ。
アズサにとって出された料理は全てが漏れなく食材なのだろう。
既に大人の身長程はある骨と鰭は煎餅の様な姿に代わり、アズサの口の中へと粉砕されながら消えて行っている。
そして全てを食べ終えるとメインディッシュへと取り掛かるかの様にナイフとフォークをぶつけ合って火花を散らした。
「それでは各種ソースを試させてもらいます。」
そして大鯰を乗せている大皿の前にソースの入った皿が並べられた。
その横にはいつの間にか取り出された大ジョッキが置かれ、口を濯ぐための水が並々と注がれている。
普通に見るとそのジョッキに入っている水だけでもお腹が一杯になりそうだ。
アズサは優雅な手付きで身を切り分けて口へと運び始めた。
いつもの様に普通に食べている様に見えるけど、所々で瞬動と縮地が応用されている。
なので普通に食べている様に見えるだけで大鯰の方はコマ落しの様に減っていき、タレやソースもお皿の底に穴でも開いているかの様な速度で減少していた。
そして魚体の全てを喰らい尽くし、添えてあった大量の野菜やフルーツまでもがその姿を消すとアズサはようやくナイフとフォークを置いて手を合わせた。
「美味しい料理をありがとうございます。」
その瞬間に時間を刻んでいたデジタル時計が停止した。
時計に表示されているのは20分00秒。
すなわちすべてを食べ尽くすのに10分も使っていないと言う事になる。
既に店内からは音が消え去り喋る者さえ存在しない。
しかしアズサはそんな中でアイコさんの写っている写真立てへと向かって行った。
「娘 アズサ 記録10分っと。」
そしてアズサはアイコさんの書いているサインの下にマジックで書き込むとそれをスマホの写真に収めて戻って来た。
きっと遠くない内にもう1人のフードファイタがこの店へと来店し、その時は再び記録が塗り替えられるかもしれない。
今回アズサはそれなりにセーブした速度で食べていたけどアイコさんでも5分は行けそうだ。
きっとこれはアズサなりの優しさと言う所だろう。
「これでお母さんが私の記録を抜けばまた食べに来れるね。」
「ああ、そう言う事ね。」
どうやら優しさではなく自分が再来店する口実作りだったようで、それだけここの料理が気に入ったと言う事だろう。
確かに出てきた料理はどれも美味しく、アズサの作る料理とはジャンルが違っていて新鮮だった。
今後も何度か通えばレシピを盗んで家で再現してくれるだろう。
その為にこの店に潰れてもらう訳にはいかない。
「それじゃあ次に行こうか。」
「・・・お、おい待て!しょ、賞金は!?」
「別に賞金が欲しくて食べた訳じゃないから気にしないでくれ。それよりも次に来た時にも美味い飯を頼む。」
そして料理人は先程アズサが写真立てに書いた字に気付くと驚きながらも声を上げて笑って見せた。
「そうか。お前はアイツの娘か!笊から枠が生まれたってか。ハーハハハ。」
きっと蛙の子は蛙と似た様な事を言いたいのだろう。
しかし、笊と枠とはある意味では的を射ているかもしれないな。
両方底無しと言う点では間違っていない。
その後、俺達は適正な料金を支払ってから笑い声の木霊する店内から去って行った。




