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29 精霊魔法

俺は出産の痛みに耐える声を聞きながらステータスを確認していた。


ハルヤ

レベル20→21

力 83→85

防御 56→58

魔力 20→21


そしてどうやらあの鰐男のボスは強敵だったようでレベルが1つ上がっている。

これなら奴がドロップした魔石もポイントに期待できそうだ。

それにその部下の魔石も40個ほど残っている。

それだけあれば10ポイントはあるかもしれない。


ただ俺は今回の事でこのステータスの事が少し分かった気がした。

特にこの防御と言う所だけどここには恐らく肉体強度や体力も含まれていると思う。

そうしないとレベル上昇で以前よりも走れる様になれるはずがない。

それと昨夜、剛力を使って分かったけど、このスキルを使って全力の攻撃が出来るのは数回くらいだ。

それを越すと恐らく体の何処かが壊れてしまうだろう。

ポーションを飲みながらなら戦えそうだけどそれは最後の手段と思っておこう。


しかし、これで次に取るのは防御系のスキルに決まってしまった。

早くレベルを上げてそこを強化しないと全力で戦えなくなってしまう。

そして俺がスキルを確認していると横に座っていたリアムが覗き込んで来た。


「何これ~。」

「これはステータスっていうんだ。」

「僕にも出せるのかな?」

「さあな。良い子にしてたら出せるんじゃないか。」


きっとそれじゃあダメだろうけど子供を大人しくさせておく時のお約束の言葉だ。

横では今も妊婦が頑張っているのであまり五月蠅くして刺激しない方が良いだろう。


「なら僕も試してみたい。どうやったら出せるの。」

「出せる奴は簡単に出せるぞ。出ろーと思いながらステータスって言うんだ。」

「分かった。ステータース。」

「そうじゃなくてステータス。はい、もう一回。」

「ステータス。」

「はい良く出来ましたー!!」


するとステータスが現れ、そこには驚きの数値が書き込まれていた。


リアム

レベル1

力  8

防御 9

魔力 13


コイツはまさかの魔法使いタイプで、すなわち知能が俺よりも高いと言う事になる。

それとも子供だから柔軟な思考を持っているとかだろうか?

俺は苦し紛れな憶測を立てて久しく感じた事の無かった心の動揺を落ち着かせた。


そうなるとさっきの蛇は歯の無い蛇だと思って気にしてなかったけどもしかすると毒蛇だった可能性もある。

もしそうなら先に歩いていたコイツの両親が噛まれなくて良かった。

毒を受けた時の実験はまだしていないのでポーションの効果があるか分からない。

さらに言えば生まれる前の胎児にまで蘇生薬が適用されるかは試す機会が無かった。

無いに越した事は無いのだけどいつかは試される時が来るだろう。

それが今の様な緊急時でなくて良かったと思える。


そして周囲が明るくなり始めた頃に運転席から声が掛かった。


「ハルヤ、すまないがこっちに来てくれないか。」


俺は何だと思いながら立ち上がるとリアムを窓辺に移動させてから運転席の横へと移動する。

そして声を掛けようとしてまだ名前も聞いていない事に気が付いた。

彼が俺の名を知っていたのはアイコさんとの会話で何度か呼ばれていたからだろう。


「そう言えば名前を聞いてなかったな。」

「ああ、すまない。俺はオリバーで妻がイザベラだ。お礼が遅れてしまったが今回はありがとう。」

「スペースは空いてるんだ。日本では旅は道連れ世は情けって言葉もある。礼なら後ろで頑張ってるあちらにでも言っておけ。」

「ああ、あちらにも言っておくよ。」


そして和やかな雰囲気も終わりオリバーの顔に真剣な表情が浮かぶ。

更に横にある画面を指差すとそこには流れる様に動く後方の映像が映し出されていた。

どうやらこのバスには方向を操作可能なバックカメラが付いている様だ。

普段は駐車などで後ろに誰か居ないかを確認する物なのだろうけど今は俺達が通って来た道路を映し出している。

きっと運転しながら色々と確認していたようだ。

ながら運転なので良い事とは言えないけど道も単純で見通しが良くなってきたので余裕が出始めたのだろう。

そして俺もその映像を確認すると後方から何かが近づいている事が分かる。

見晴らしも良いのでまだ距離は離れているけど人間ではなさそうだ。

道路を大きく越えて砂埃が上がっているのでまるで荒れ地を動物が走っている様に見える。

もうじき俺の索敵の範囲にも入りそうなので敵か味方かはすぐに分かるだろう。

ただし今のこのバスは速度を出していないので追いつかれるのは時間の問題と言える。

そして、その時を待っていると俺のスキルが明確な敵意を感じ取った。


「どうやらあれは魔物みたいだ。」


俺はオリバーにしか聞こえない様な小声で後ろから迫って来ているモノの正体を告げる。

すると彼の表情が強張り握るハンドルに力が籠った。


「ここからダーウィンまでどれ位か分かるか?」

「まだ100キロは離れてる。今の速度だと5時間以上は掛かるぞ。」


しかし問題はそれだけじゃない。

魔物が迫っている事をなるべく早く伝える必要があるし、このままだと俺達が魔物を引連れて現れた様に見えてしまう。

現在の状況なら俺達もろとも攻撃される可能性も捨てきれない。

それに多くの人が死んでいる今となっては、このバスに乗る人数くらいは誤差の範囲だろう。

こちらの速度を速めて後ろの敵を始末するしかなさそうだ。

そうなると遠距離攻撃が必要になるけど、こちらにはスキルの無いレベル1が1人しかいない。

この状況をどうにかするにはリアムを成長させるしかなさそうだ。


「少し速度を上げながら時間を稼いでくれ。」

「分かった。」


すると緩やかに速度が上がって行き少し揺れが酷くなり始める。

俺はアイコさんの所に行って小声で話しかけた。


「状況はどうだ?」

「やっと頭が出たわ。二人目だからかなり順調よ。それよりもあなたが来たって事は何かあったのね。」


流石にここまで生き残って来た奴は鋭いようで日本に居る奴らとは危機感が違う。


「後ろから魔物が近づいてる。速度をあげるのと少し騒がしくなるぞ。」

「その言い方だと速度を上げるだけじゃないみたいね。」

「ああ、奴らは現代兵器で殺す事は出来なくても近寄らせない様に衝撃による牽制は出来る。このまま到着したら俺達ごと攻撃されるかもしれない。」

「それは困ったわね。それで、何か手はあるの?」

「そのつもりだ。だからそちらも慌てず騒がず急いでくれよ。」

「ふふ、無理言うわね。」


俺は立ち上がるとバスの窓を開けて席に座るリアムを脇に抱える。

そしてそのまま窓から体を乗り出すとバスの屋根へとよじ登った。

ここから見ると迫って来ている魔物の数がかなり多い事が分かる。

ザっと見て100以上は居るようでパッと見は犬に近い。


「わ~ディンゴみたい。」

「ディンゴ?」

「知らないの?牧場の動物を食べちゃう悪い奴なんだよ。」


日本で言えば狼みたいな奴だろうか。

まあ、4本足で走ってて見た目が一緒ならあまり変わらない気がする。


「よし。それなら悪い奴を退治するぞ。」


俺は腰に付けていた手榴弾を1つ取るとそれをリアムに手渡した。

幼い子供にこんな物を持たせている所を誰かに見られれば批判が殺到しそうだ。


「これをどうすれば良いの?」

「いいか。俺が合図したらこのピンを抜いて思いっきりアイツ等に投げ付けるんだ。」

「分かった!」


俺はそう言って少し離れると空いている窓からオリバーに指示を出した。


「減速しろ。それと俺が加速と言ったら一気に速度を上げろ。アイコさんは一旦衝撃に備えてくれ。」


俺の指示と同時にバスが減速し魔物の接近が早まる。

そしてアイコさんはイザベラが怪我をしない様に自身の体で庇う様に横の座席にしがみ付いた。


「よし、もう少しだな。」

「もう投げて良い?」

「まだだ。もう少し待て。」

「う~まだ~。」

「良しいいぞ。」

「やった~。エ~イ!」


そして、ピンの抜けた手榴弾が投げ放たれると後方に迫っていた魔物の群れへと転がっていく。

それを見て俺は即座にオリバーへと声を張り上げた。


「加速!」

「分かった。『ブオーーー。』」


バスは一気に速度を増し俺はリアムを抱えて屋根に体を伏せナイフを突き立てる。

そして後方では爆発が起こり魔物の悲鳴が聞こえて来た。


「ステータスを確認しろ。」

「うん。・・・あ、何か選べるようになってるよ。」

「よし。ここを選んで見せてくれ。」


一度リリーでやっているので動きに淀みは無い。

しかし、そこを開いて見ると書かれている事はその時とは大きく違っていた。


「何だこの精霊魔法って?リアムは分かるか?」

「あんまり知らないけど僕は一度だけお話したことがあるよ。でも最後にハイって言ったら凄く痛くて眠っちゃった。」


そこから考えればリアムの言っている精霊とは神の様な存在なのかもしれない。

でも、それを魔法でどうにかするのは人の身に余る行為なのでスキルの精霊には他の意味があるのかもしれない。


「そう言えば近くに住んでたお婆ちゃんが全ての物には精霊が宿ってるから大事にしなさいって言ってたよ。」


なら、もしかすると俺のステータスにある魔法とは体系が違うって事なのだろう。

そうなると土地か国ごとに力を与えている神が違うと言う仮説は正しいのかもしれない。


「よし。どっちみちこれを選ぶしかないんだ。これを取って奴らをやっつけるぞ。」

「お~!」


リアムは子供らしく元気に手を掲げて返事をすると精霊魔法の項目に指を当てた。


「使い方は分かるか?」

「う~ん。何となく。」


魔法は感覚的な所が多いそうなのでまずはそれに従ってもらうしかない。

ただ、これはアケミやユウナの受け売りなので個人差もあるだろう。

そしてリアムは真っ直ぐに前を見ると何もない場所に向かって声を掛けた。


「炎さん、力を貸して。」

『ゴオオーーー。』


すると魔法の様に何もない所から炎が上がりそれは人の形へと変わっていく。

そして完全に形を整えると俺達の前に足を付けた。


「これが精霊魔法か。」

「カッコいいけど・・・小さいね。」


目の前の精霊は大きさにして50センチほど。

それに対してこちらに向かって来ている魔物は2メートル近くある。

魔物は体つきも逞しいのでコイツで何か出来るのか不安になって来る。

しかも俺達の言葉を理解しているのか、いじけてしゃがみ込むとノの字を書き始めてしまった。

これから分かる様に恐らくは何かの存在を召喚して戦わせる魔法なのだろう。

ただコイツを戦わせてどんな事が起こるのかはまだ分からないのでまずは試してみてから考えよう。


「それじゃあ戦ってもらうか。」

「うん。お願いできる。」


すると炎の精霊は自信ありげに立ち上がると頷きを返して来た。

そして何処かの3分ヒーローの様な動きでジャンプするとそのまま飛ぶようにして魔物に向かって行った。


「もしかして風の精霊に力を借りたらお前飛べるんじゃね?」

「え、ホント!?」

「今はダメだけど今度試してみろよ。」

「うん。僕もお空を飛んでみたい。」


そして未来の夢に希望を膨らませて雑談をしていると精霊は魔物に向かって拳で殴りつけた。


『ペシペシ、バシバシ。』

「「・・・」」


しかし、まったくダメージを与えられず魔物を怒らす効果しか無かったみたいだ。

すると精霊はこちらに戻って来ると掻いてもいない汗を拭って息を吐く様な動きを見せた。


「分かってたけどやっぱり駄目か。」

「僕の精霊って弱いのかな?」


すると精霊は再びしゃがみ込んでノの字を書き始めてしまった。

それを見て俺は溜息をつくと車内に向かって声を掛ける。


「オメガちょっと来い。」

「ワン。」


窓辺まで来たオメガを俺は掴み上げると3人?と1匹で車座になって座る。


「オメガ、持ってる魔石を全部出せ。」

「ワン。」


するとそこには昨夜倒した鰐男達の魔石が小山を作る。

そしてその中でもひときわ大きいのがあのボスの魔石で俺が使いたかったけど背に腹は代えられない。


「コイツが弱いのは召喚主であるお前が弱いからかもしれない。これで強化してみろ。」


俺はリアムに魔石による強化方法を教えてポイントを貯めさせていく。

その結果奴らの魔石でポイントを35も貯める事が出来た。

これだけの魔石を吸収させると雑魚ではもうポイントは得られないだろう。

するとそれをどう使うかを考える前に一つの疑問が湧いてくる。


「お前、疲れたりして無いか?」

「最初に少し疲れた感じがしたけど、それからは大丈夫だよ。」


魔法を持続させたり強力にすると比例して体力が消費されるのは既に確認が取れている。

それならリアムの精霊魔法は呼び出す時にしか体力を使われないのかもしれない。

しかしそんな都合の良い事は無いだろうから必ずどこかに俺の気が付いていない何かがあるはずだ。


「ちょっと悪いけどその精霊を攻撃するぞ。」

「いいよ。」


俺はナイフを抜くと精霊に刃先を少しだけ当てる。


「あ、なんか疲れた気がする。」

「そうか。お前とコイツはリンクしてるのか。精霊が受けたダメージがお前に行くのかもしれない。どれくらいの影響が出るのか分からないけど対応の必要がありそうだな。」


俺は再びリアムにステータスを開かせるとあるスキルを取らせる事にした。

俺の仮説が確かなら防御を上げればある程度の余裕が出るはずだ。

ちょうど俺が次に取ろうと思っていたスキルなので作業も滞りなく進む。


「この鉄壁ってスキルを覚えればいいんだね。」

「そうだ。これを覚えれば防御が2倍になるからな。」


本来はこちらを先に取って剛力を後で取るのが正しい順番なのかもしれない。

あの時は仕方なかったとは言っても次からは取る順番も考えて覚えて行こう。

これでリアムのステータスがある程度まともになって来た。


リアム

レベル3

力  8→10

防御 9→13

魔力 13→17


リアムはレベルアップで力が1、防御と魔力が2、上がるみたいだ。

そこに魔石のポイントを足して。


防御 13→23

魔力 17→42


これなら通用するだろう。

それにもともと炎は攻撃力の高い属性だ。

しかも相手は獣タイプで毛むくじゃらなので弱点である可能性もある。

まずはこれで試してみて駄目なら時間はロスするけど俺が仕留めに行くしかない。


そしてステータスを強化すると精霊に変化が現れた。

体が巨大化し俺と似た身長まで大きくなる。

何やら調子に乗ってボディビルダーみたいなポージングをしているけど本当にコイツに任せて大丈夫だろうか。


「それじゃあ行って来い。」

「頑張ってね。」


すると精霊は腰に手を当てて大きく頷くと再び魔物へと向かって行った。

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