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286 修学旅行 1日目 ⑧

ここは安倍家の本家が所有する屋敷の1つ。

そこでは安倍 鷹成タカナリは当主が死んだという報告を聞いて笑みを浮かべていた。


「ククク・・・。やっとアイツが死んだか。これでようやく俺の時代が来たと言う事だな。」


そう言って笑い声を漏らすこの男は前当主であるミツヒロの兄である。

術者としては本家の中ではもっとも優れていると言われており、前々当主である父親を上回っていた。

しかし、その為に自尊心の強かった父親から嫌われ、当主の地位は弟であるミツヒロに奪われ今まで冷遇された生活を送っていたのだ。

その父親も家督を指名した後にポックリ死んでしまってこの世には生きていない。

死因は急性心筋梗塞と普段から健康面には気を使っていたにしては信じられない病名だが、それが真実である以上は信じるしかなかった。


「それにしてもアイツはやはり馬鹿だったな。親父が復活させた術で俺が作った禁断の式神を有難く受け取るだけでなく本当に使用するとは。安倍晴明ですら制御を諦めたというのにアレで当主とは片腹痛い。」


タカナリの父親は当主としてどうしても息子に実力で劣るのが許せなかった。

その執念が昔の事故で燃え残った資料から禁断の式神を復活させ、それによって自身の威信とプライドを保とうとしていた。

しかし、その直前に病死してしまい、その研究資料は第一発見者であるタカナリへと渡ってしまった。

それを自分が術を復活させたことにして公表し、今では家の中でも密かな賛同者を増やす事に成功している。

ただし燃え残った資料にはしっかりと式神についての危険性が記されており、タカナリだけはそれを熟知していた。

それでもミツヒロに対してある程度の危険性は教えていたが、それを真面に聞く様な相手でない事も分かっていたのだ。

なのでミツヒロの自業自得と取れる面が十分にある。


すると扉がノックされ外から部下の1人が声を掛けて来た。

タカナリは返事をすると入室して来た男は淡々と報告を始める。


「タカナリ様。2人の死体が届きました。」

「分かった。面倒な手続きはお前に任せる。それと何か持っていなかったか?」

「はい。このような物を息子のカツトが所持しておりました。おそらく情報にあった過去の英雄の登録証をコピーした物かと。」


男は言われるままに届いた2人の死体を調べた時に見つけた組織の登録カードを取り出した。

それをタカナリは受け取ると口元を歪めてニヤリと笑みを浮かべる。

しかし実の兄弟だからかその笑い方は弟であるミツヒロとよく似ていた。


「フフフ、情報を制する者が全てを手に入れるのだ。ミツヒロ達はルリコという娘の真の価値を知らない。アイツが居ればどんな歴史だろうと変える事が出来るのだ。そう俺が最初から当主である歴史にな。」


そしてタカナリは座っていたソファーから立ち上がると天井を向いて高笑いを始めた。

すると笑いが収まってすぐに傍に居る部下へと指示を出し行動を開始させる。


「これから娘を手に入れに行くぞ。」

「畏まりました。しかし、その娘は本部へと現れた過去の英雄の生まれ変わりと言う少年に護られているようですが?」

「フハハハハ!何が過去の英雄だ。そんなモノは時と共に尾鰭が付くものだ。だが、このままではこの登録証が偽物だと言われかねんな。」

「はい。組織に関してはどうとでも出来ます。担当した者が居なくなれば良いのですから。既に深く関わった2人は密かに捕らえて本部の地下へと幽閉してあります。あそこはかつて贄を閉じ込める為に使われていた秘密の場所です。我々が手を下さなくともいずれは死んでしまうでしょう。」

「流石だな。ならばその過去の英雄を俺が本当の過去にし、全てを奪えば良いだけだな。」

「その通りです。安倍家の新当主にして我らの主。安倍 タカナリ様。」

「ハハハハハ!良い響きだ!今回の事が片付けばお前には俺の側近を任せるからな。これからも俺の為にだけ働くのだぞ。」

「もちろんでございます。」


男はそう言ってその場で座り頭を床に付く程に深く下げた。

その姿にタカナリは更に機嫌を良くすると壁に掛けてある日本刀を手にして部屋から歩き去っていく。

しかしタカナリは床に額を押し付けている男の表情に気付く事が出来なかった。

男が頭を下げ切ったと同時に苦渋の表情を浮かべていたことに気付いていれば、別の選択肢が生まれていたかもしれない。

しかし、タカナリが呼ぶ声によって男の表情は再び能面の様な無表情に変わると部屋から姿を消して行った。



俺達はバスに乗り込むと自動運転に任せてのんびりと外を流れる町を見ながらドライブを楽しんでいた。

今回は全員がしっかりセーブをして食べていたので旅館で出て来る夕食も食べられるだろう。

するとバスは次第に町の中心から山の方へと移動して行く。


「なあトワコ。俺達の旅館ってこんな所にあったか?」

「おかしいですね。確か駅の近くですから方向が逆のはずです。」


流石に土地勘が無いと言ってもここまでおかしな方向へと進んでいれば気付く事が出来る。

それで不審に思った俺はバスの先頭へ行ってそこにある端末へと声を掛けた。


「向かっている方向が違うぞ。」

『現在はアクセスできません。』

「どう言う事だ?」

『現在はアクセスできません。』


すると俺が問いかけても回答が拒否されてしまった。

これを借りている名義は俺になっているはずなので他の誰がやっても同じだろう。

ただし、この状況に関して考えられる事は2つある。


1つはシステムが壊れて誤作動を起こしている場合だ。

しかし、ここ何年もその様な話は聞いた事が無いのでその可能性は低いだろう。

アズサがあのリボンを外していれば別だけど今もちゃんと髪を後ろで纏めるために身に付けている。


そうなると俺の知識ではもう1つの可能性しか思い当たらない。

それは警察などが犯人を指定の場所へと誘導する時に使用するシステムだ。

車を止めて優先車両を先に通したり、危険な車を回避するのもそれに該当する。

すなわち俺達はそういう事の出来る何者かによって何処かに運ばれているという訳だ。


「どうやら、誰かが俺達をお呼びみたいだな。」

「心当たりはあるの?」

「それが無いんだよな。安倍の本家は片付いているし、この土地でそれ以外となると思い付かない。」

「思い出せないだけでは?」


すると後ろの方でシュリがボソッと痛い所を突いて来る。

確かにその可能性は無い訳では無いけど、今の俺は小学6年生の子供だ。

悪い事はしていないし嫌われていても嫌われる様な事をした記憶はない。

過去に俺の訓練を受けた生徒たちがお礼参りに来たと言うなら可能性は無い訳では無いけど、彼らは既にそれなりに活躍をして安定した暮らしを送っている。

それを捨ててまでこんな事をする必要は無いだろう。


「だからアズサもその金棒を素振りするのは止めてくれ。それにどうやらもう少しで目的地へと到着するみたいだ。」

「あ、本当だね。道に検問が張ってある。それにこの先1キロで特殊災害予想エリアって書いてあったね。」


もしかすると連絡をする暇が無くて俺達のバスを組織が操ってここに連れて来たのかもしれない。

今朝も組織の受付でクスノキさんに何かあれば今まで通りに仕事を請け負うと言ったばかりだ。

ちなみに特殊災害予想エリアとは組織が雇用している未来視などのスキルを持つ者が、その土地で何かが起きると予想した時に発せられる災害警報みたいなものだ。

内容は崖崩れや洪水などの他に魔物や妖などの被害も含まれている。

俺が呼ばれるのは魔物関係だけど今日は魔法もそれなりに使える所を見せたので自然災害の可能性もある。

ただし組織からの連絡が無いので何が理由で呼ばれたかは不明なままだ。


「それにこの辺の住人は全て避難済みみたいだ。でもこの先の寺の周りに結構な数が居るからそこが目的地だろうな。」

「仕方ないからそこで事情を聞いた方が早そうだね。」

「そうだな。さっきから組織に連絡を入れてるんだけど誰も出ないからそれしかなさそうだ。」


そして予想通り少し進んだ先にあるお寺の前でバスが止まると扉が開いた。

その時点でバスも機能を停止させて声を掛けても反応を示さなくなったので、やっぱりここが目的地で間違いなさそうだ。


「は~せっかくの修学旅行が・・・。」

「早く終われば夕飯には間に合うよ。」

「アズサはポジティブだな~。でもどうして寺に上る階段に所狭しと式神が陣取ってるんだ?もしかしてこれで『俺の屍を越えてゆけ』とか言ってるつもりか?」

「邪魔なら倒しても良いと思う。」

「それならやっちゃおうか。」

「早い者勝ちです!」


そしてハルカの声と共にアケミとユウナが式神へと魔法を放った。

それによって式神達は悲鳴すら上げないまま消えていくとその下にあった石階段が姿を現した。


「あれ?式神ってこんなに弱かったっけ?」

「ハルアキさんの式神を基準にしたのですけど。」

「式神の強さは術者に依存する部分が大きいからな。普通の式神なんて紙人形と一緒だよ。」


そして階段に足を着けるとほんの僅かに何かを潜り抜けたような違和感を感じた。

きっと何かの結界に触れたんだろうけど異常は無さそうだ。

しかし階段を上っていると幾つかの灯篭があり、そこに何やら書かれているのを発見した。


「ルリコ。これってお前なら分かるんじゃないか?」

「・・・そうですね。これは迷いの結界ですか。前世で家に張ってあったのと一緒ですね。でもこういうのは外からでは無く内から出て行くモノを閉じ込める為に使うのではないですか?」


確かに、これでは俺達を惑わして疲弊させようとしていると取られてもおかしくない

それとも魔物がこの寺へと攻め込んで来る前提でさっきの式神やこの結界が置かれているのだろうか。

そうなると結界は壊してないけど式神を始末したのは良くなかったかもしれない。

でも式神って言っても紙人形レベルなので俺達が居れば問題ないだろう。


「なら念の為に結界はそのままにしておくか。」

「それなら私の方でもっと強力にしておきましょう。このままだと大量の魔物が押し寄せて来た時に破られてしまいます。」

「そうしておいてくれ。きっと上に居るのは今回の事を説明に来ている人たちだろう。武装はしてるけど強さは大した事が無さそうだ。」

「分かりました。・・・これで大丈夫です。これなら簡単には誰も入って来られないでしょう。」


そして俺達は結界を強化し終えてから寺に続く階段を上って行った。

それにしても普通に見るとかなりの段数があり、既に400を超えていて数えるのが面倒になって来た。


「飛んで行った方が早かったかな。」

「食後の運動だと思えば大丈夫だよ。」

「アズサ姉に食後の運動って意味あるのかな?」

「あれ以上お腹が空くならこの世界は邪神ではなくアズサ姉に食い尽くされて滅亡する気がします。」

「あ~2人とも酷いよ~。こう見えても最近は気を使ってるんだよ!」


しかしあの食べっぷりで気を使っているなら鯨だって魚を食べる量を気にしていそうだ。

それにウエストは細いけど最近は胸の発育が目立つ様になってきた。

それでもユウナの方がサイズでは1歩リードと言ったところか。

ちなみにアケミは・・・ゴホン!ゴホン!


「お兄ちゃん!どうしたのかな!?」

「いえ、アケミはいつまでも変わらずに可愛いなと。『チラ!』」

『ゴン!』

「お兄ちゃんのエッチ!女の子の胸には夢と希望が詰まってるの!」


するとアケミは素早く獄卒の金棒を取り出し容赦なく頭に振り下ろして来た。

それを俺は見事に受けると地面へと頭が突き刺さって埋もれてしまう。

やっぱりどんなに鍛えてもコイツだけは滅茶苦茶痛い。

流石は俺専用のお仕置装備なだけはある。

ただし、せっかく程よい体勢となったので俺は頭を抜いてお約束の一言を口にする事にした。


「あ~死ぬかと思った~!」

「お兄ちゃん!いっぺん死んでみる!」

「いえ、結構です・・・。」


流石に激怒なアケミの前でふざけるのは良くなかったみたいだ。

でも今の言ったセリフもある意味では名台詞なんだけど、そこを言ってしまうと本当に三途の川に送られそうなので我慢しておこう。


俺達はそんな感じにジャレ合いながら階段を上り、寺の門の前へとやって来た。

するとそこには見覚えのある看板が取り付けられており、確かここはミズメの兄を放り込んだ寺だったはずだ。

看板には『大』だけが普通に書かれ、その横には綺麗に整えられているけど少し窪んだ面へと続きの字が書いてある。

なんでもこれはお金が無かったのではなく、神や仏に仕える者同士が愚かな争いによって起こした事を忘れない様にと以前の看板をそのまま残して使ったらしい。


「この寺があそこだったのか。」

「来た事があるの?」

「ああ、邪神を封印する前にな。ここにはポーションみたいな水が湧き出る所があったんだけど江戸時代になって枯れてしまったらしいんだ。まあ、怪我人は寺の僧が治療可能になったから問題は無かったんだけどな。」


普段は空からしか来なかったのと森の中をバスで走っていたから気付かなかった。

それに、ここにはこの寺を建て替える時に尽力した人々の石像が置いてあるはずだ。

俺も完成した時に見に来たけどあの時にここで出会った人たちや女性などもモデルに選ばれていてとても良い出来だった。

400年以上は経過しているけどクオナのおかげで酸性雨や紫外線の被害も無いのでもしかしたら綺麗に残っているかもしれない。


俺はそんな懐かしい思い出を脳裏に浮かべながら門を潜り敷地へと入って行った。

するとそこには腰に刀を差した男が待ち構えて口には笑みを浮かべている。

どうやらこの男が俺達にこの状況を教えてくれるスタッフのようだ。


「それで、そちらが俺達をここに呼んだのか?」

「その通りだ。それで過去の英雄と言うのはお前か?それともそっちか?どちらにしてもゴミの様な男に違いは無いだろう。」


すると背後から強大な怒りの波動が複数立ち上った。

特に日頃からダイチは馬鹿にされる事が無いのでシュリの怒りが最も大きい。

しかし、そんなに感情を高ぶらせるから周囲の精霊が反応して地面が揺れ始めている。

そんなシュリを見てダイチはその手を握って落ち着く様に促すと地面の揺れが収まり周囲に静寂が戻って来た。

あのままではこの山が豪雨と地震と噴火と竜巻に呑まれていたかもしれない。

もしそうなったら後で揶揄うネタにさせてもらおう。


「ちなみに過去の英雄を探しているなら恐らくは俺の事だ。本部へ行った時に受付がそう言っていたからな。」

「そうか。ならば単刀直入に言ってお前には死んでもらうぞ。そして、歴史を変える力を持ったルリコと言う娘は俺が貰い受ける。」

「なに?」


男が目的を言った瞬間に目を細めてその顔を睨みつける。

しかし威圧も込めていない子供の睨みでは動じる様子はなく、薄ら笑いを返されるだけだ。

それにしてもコイツはその情報を何処で手に入れたんだ?

今はルリコがその能力を使った事は無く、両親でさえもその事を知らない。

知っているのは本人とここに居るメンバーだけだ。

でも、ここに居る誰かがその情報を漏らしたとは考えられない。

もっとも可能性の高いワラビもすでに記憶を取り戻しているなら可能性は0と言っても良いだろう。

どうやって今までその強さを隠していたかはまだ分からないけど、打ち明けてからは隠すのを止めたようでレベル相応の力を感じ取れる。

少なくとも俺達の中で仲間の秘密を他人に話す様な者は居ないと言う事だ。


「ハハハ! 驚いているようだな。もしかするとお前の仲間に裏切り者が居るのかもしれんぞ。」

「何を言っているんだ?」

「さあ、仲間を疑え!信頼など弱い者の幻想に過ぎん。そしてお前を裏切った娘たちを俺に差し出すのだ!」


コイツは一体何を言っているのだろうか?

もしかして一人芝居という奴かもしれないけど、もしかして何かを仕掛けられているのか?

ただ残念だけど俺達には誘導系のスキルは通用しないので何がしたいのか全く分からない。


「さあ、お前達も自分を裏切った男を許すな。そして、そいつを殺してこちらへと来い。お前達を理解してやれるのは俺だけだ。お前達が全てを捧げるべき男はここに居るぞ。」


そう言って男は何かのカードを取り出してこちらへと向けた。

するとそれは俺の持っている組織の登録証と同じ物で月のシンボルが描かれている。

他の人のは見た事無いけどやっぱり最近は絵柄を自由に選べるみたいだ。

しかし推測すると奴の能力は暗示系なのかもしれない。

印象の強い物を使って深層心理に働きかけて言う事を聞かせる類の能力だ


「これを見ろ。俺こそが偉大な英雄様だ。そこに居るそいつは偽物だ。」


すると背後で動く気配があり、そいつは死角から忍び寄ると背中へとぶつかって来る。

俺は視線を動かさずにそれを受け止めるとそのまま動かずに次の動きを待った。

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